いらっしゃいませ!
名前変更所
悟空とフリーザの戦いは、まさに神の領域のものだった。
戦いを見に――――ではないようだが、いつの間にかビルスやウィスまで加わって二人の戦いを見ていた。
フリーザも、悟空も。
俺には追いつけない場所へと行ってしまった。
もうあまり考えないつもりだったが、目の前で見ると悔しさが沸いた。
俺も元は強さを求めた者。
目の前で強くなっていく奴らを見て、血が疼かないわけがない。
「ゆえ・・・・」
腕の中のゆえを抱く。
ベジータに付けられた痛々しい傷跡をそっとなぞり、誰もが戦いに夢中になっている間に口付けた。
ルシフェルが言っていた。
眠れる姫とやらは、王子様のキスで目覚めるのだと。
その話が、昔から好きだっただと。
「なら目覚めろ・・・・」
ならば、話とやらの通りに、なりやがれ。
「う・・・」
「!!」
何度か口付けていると、腕の中のゆえが声を洩らした。
慌てて顔を覗き込むが目は開いていない。
ただ、声を洩らしただけのようだ。
「期待しすぎ!」
「・・・・悪かったな」
「うわ、冗談冗談!そんなに思われてるなんて、ほんと嬉しいな~」
皆から少し離れた所にいる俺を気遣ってか、ルシフェルが静かに近づいてきて笑った。
綺麗な青髪が揺れる。
その後ろでは、青色と金色がぶつかり合っていた。
神の領域に達したサイヤ人の力の、青。
復讐の名のもとにその力と対等の力を得た、復讐の金色。
どちらも、恐ろしいという表現が似合う。
「・・・・・」
俺には、俺達には。
とりあえずこの戦いが終わるのを待つしか。
「ピッコロ!!」
「なっ・・・・?」
もう一度ゆえに視線を映した瞬間、俺はすごい力で後ろに引き寄せられた。
犯人はルシフェルしかいないだろう。
そう思い、振り返って怒鳴ろうとした俺は、目の前の光景に言葉を詰まらせた。
「なんだ、これは」
見渡す限り、黒。
俺達は戦いを見てたはずじゃないのか?
この一瞬で。
何故。
何故、目の前が宇宙になった?
「あーあ、ド派手にやっちゃって」
ルシフェルの視線の先には、ウィスに守られた悟飯達がいた。
粉々に飛び散った隕石のようなものを見て、嘆き悲しんでいる。
まさか。
「まさか地球ごとぶっ飛ばすなんて、やるね~」
「・・・・」
俺が覚えているのは、戦いの中で追い詰められたフリーザだけだった。
アイツ、悔し紛れに最後に地球ごと巻き込みやがったのか・・・!!
「トランクス・・・っベジータぁ・・・・!」
ウィスの傍でブルマが泣き崩れている。
それを見てようやく地球が吹き飛んだことを実感した俺は、拳を地面に叩きつけた。
俺は本当に見ているだけだった。
ただ見て、何も出来ず、この結末を嘆くだけ。
ゆえに対しても何も出来なかった。
俺はなんて。
なんて、無力なんだ。
「そう思うなら、何があっても私を手放さないで?」
ルシフェルが俺の頭上で笑う。
「私ずっと、ピッコロの傍に居たいよ」
「・・・・ゆえ」
「操られてようが、頭書き換えられてようが、一緒に居たい・・・っておもってるし・・・私はピッコロのものでしょ?」
「・・・・・」
「ってか今回のは私本体のドジのせいもあるんだからさ?落ち込むよりも、目覚めさせてぶん殴ってよ!」
笑顔に、惹かれた。
あぁ、本当に。
何も変わってないんだな?お前は。
お前のそういうところに惹かれたんだろう。
俺の持っていないものを持っている、真逆の存在であるお前に。
そしてこんな俺すらを惑わせる馬鹿さに・・・惹かれたんだ。
「ぜんっぜん褒められてるように感じないんだけど、まぁ、良しとしよっか」
不満気なルシフェルがウィスの方に視線を移す。
するとウィスが俺達の視線に気づき、杖を掲げながら振り返った。
「さぁ、では、戻りましょうか?」
「は・・・・?」
”戻りましょう?”
その言葉の意味を理解するのに、時間は掛からなかった。
何故なら俺の目の前で、それを理解するしかないことが起きたからだ。
”戻っている”
まるで映像を戻すかのように、俺達の目の前が。
地球が元通りになっていく。
崩れたパズルを戻すように自然な動きで。
「何が、どうなって・・・・」
気づけば、今まで見ていた戦いの光景が目の前に戻ってきていた。
フリーザの目の前で青に染まるベジータ。
悟空と同じになったそれを見て、フリーザが唇を噛む。
見た、光景だ。
本当に戻って――――?
「ッ!!」
「っ!?ゆえ!?」
「離せこの変態ッ!!」
「くっ!待て!!」
目の前の光景に呆けていた俺は、腕の中のゆえが抜けだしたことに反応出来なかった。
手足を縛っていたはずの魔術は簡単に外され、抜けだしたゆえが向かう先はソルベのところ。
確かこの後は、ベジータがフリーザの攻撃を弾いて。
それが、ソルベのところに。
「ゆえっ!!戻れッ!!」
俺の言葉も虚しく、ゆえはソルベの目の前に飛び込んだ。
その直後、フリーザが悔し紛れの気弾をベジータに放った。
だがその攻撃はベジータによって簡単に弾き飛ばされ、ソルベの方向へと飛ぶ。
ゆえはそれをチラリと見ると、片手を突き出して魔力を放出した。
ソルベを庇うつもりなのだろうが・・・悪魔のゆえには、無理がある。
「ッぐ・・・・!」
「ゆえ・・・お前・・・・」
「いつまでそこにいんのよ!?さっさと逃げてよ空気読んで!?」
「あ、あぁ、すまない・・・!」
ゆえ本人も、その攻撃を受け止めきれないことは分かっていたらしい。
怒鳴りながらソルベをその場から逃し、自分もなんとか脱出する。
しかし、その攻撃を受け止めた左腕は、見るも無残な状態になっていた。
「つ・・・っ」
戦闘能力が下がったと考えれば、こちらにとっては好都合かもしれない。
あのソルベというやつが生きていたところで、アイツだけなら俺でも殺せる。
一番厄介なのはゆえが機械に蝕まれたまま勝手な行動を取ってしまうことだ。
俺の手以外で傷つく姿は見たくなかったが、そうも言ってられない。
「チャンスだな」
ふらふらと腕を押さえながらソルベの方に逃げていくゆえを、俺は追いかけた。
後ろの戦いなど正直――――どうでも良くなっていた。
もう結果は見えているからな。
勝つのは、あのサイヤ人共だ。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
「大丈夫か?」
「アンタのせいで大丈夫じゃないよ・・・」
「宇宙船に戻れば治療出来るのがいくつかあるが・・・・」
「戻れると思ってんの・・・?」
精度の良い耳が、あいつらの馬鹿騒ぎする声を捉える。
俺は気配と気を出来る限り殺しながら、その声が聞こえる方向へと飛んだ。
「戻ったらあの青髪の奴らとかにやられるだけだと思うけど?」
「そうだが・・・あれがないと戻れんぞ」
「なんか役立つもの持ってきてないの?」
「少しなら、緊急用のものを・・・」
ガサゴソと何かを漁るような音が聞こえる。
緊急用のものとやらを漁っているのだろう。
このまま逃げられるわけにはいかないとスピードを上げるか迷うが、これ以上スピードを上げれば気づかれる可能性も高い。
ぐっと堪え、ただただ飛ぶ。
「・・・・なにそれ」
「何って、緊急用の機材だ」
「武器も回復も何もないじゃん・・・ほんと、戦うこと考えてないね?」
「武器ならこれが・・・・」
「その光線銃、相当油断した相手じゃないと無理だよ?ソルベ使えな!」
「何!?」
「私もこんな状態なのに、あいつらに勝てると思・・・っ」
言葉が、途切れた。
理由は明確だ。
言い争う彼女らの前に、俺が現れたからだ。
全てが止まる。
ゆえの視線が俺を捕らえて、ゆっくり逸れる。
「・・・ソルベ、下がってて」
「お前・・・」
そう言ってゆえが前に出てきた。
ソルベを庇うように、負傷した左腕を上げる。
「片腕でも、アンタには勝てますよお兄さん」
「フッ・・・挑発してるつもりか?逃がさんぞ!!」
「ッ・・・・!ソルベ!さっさと逃げろ馬鹿!!」
挑発に乗ることはせず、俺は速攻ソルベを狙った。
だがゆえもそこまで馬鹿じゃない。
俺が挑発に乗らないことを分かっていたかのように、ゆえも俺の方に飛び出してきた。
ソルベに打つはずだった攻撃が、ゆえの左腕に直撃する。
ぐ!と小さなうめき声が上がり思わず動揺した。
「ちっ・・・」
「っ・・・・おーお、逃げ足だけは早いね、ほんと」
「お前を仲間とは思っていないからだろうな」
「よくわかってるじゃん。アイツは仲間なんかじゃない。あんな役立たず、いらないし」
ソルベの姿はもう無い。
そしてそれを逃がしておきながら、容赦無い罵声を浴びせるゆえはさすがというべきか。
「フッ・・・お前は逃げなくてよかったのか?」
「まさか私に勝つつもり?」
「あぁ」
「勝てると思ってる?」
「あぁ」
「・・・・その根拠、どこにあんの?」
少し苛立った表情のゆえに大して、俺は自信たっぷりに言い放った。
「お前の師匠だからだ」
この俺しか、お前の師匠はいない。
そしてこの俺にしか、お前の契約者は出来ないだろう。
「師匠?何、言って・・・」
「行くぞ、構えろ」
過去のお前にも言われたんだ。
放すなと。
俺はお前を手放さない、絶対に。
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