いらっしゃいませ!
名前変更所
「・・・なぁ、桐生」
「あ?」
「視線、感じるんだけど・・・・」
最近、ずっとだ。
桐生と手を組むようになってから、私が苦手なタイプの視線をずっと感じる。
もちろん、その正体が誰かもわかっているのだが・・・・。
こうもしつこいと、うざいというか。
情報屋っていう仕事をしてる以上、誰かに見られ続けるのは気に食わないというか。
「・・・・・」
「いつまでアイツ、ついて来るつもりなんだよ?」
視線を感じさせる、あいつ。
狂犬と噂―――――いや実際に狂犬の、あの人。
誰もいない路地裏に差し掛かった時、その人は姿を現す。
ふと近づいてくる気配を強く感じた私は、とっさに桐生から距離をおいた。
「桐生ちゃぁ~~~ん!!」
「チッ・・・・!」
そう、彼、真島の兄さん。
兄さんが狙ってるのは桐生だけ・・・のはずなんだけど。
最近は私の方にもくるからちょっと困ってる。
まぁそんなことを伝えても、兄さんが引いてくれるとは思わないけどな。
何を考えてるかさっぱりだし・・・。
変に機嫌を損ねれば、本気の喧嘩モードで襲われかねないだろうし。
「どうしたんや?あけちゃんもはよう参加しぃ!」
「いやなんで私まで喧嘩しなきゃいけねーんだよ・・・!桐生とやってろ!」
「そないなこというのは許さへんで?あけちゃん、よぉ!」
「どわっ!?」
目の前に打ち付けられた拳に変な声が出た。
な、なんて攻撃だよ。
壁がちょっと割れたぞ、おい。
どうしてこうも私の周りには人外みたいなやつが多いんだ?
そんなことを考えながら、2回めの攻撃をするりと避ける。
「さすがやな~あけちゃんは!それでこそ俺の女や!」
「いやまてよ!兄さんの女になった記憶ねぇんだけど!?」
「何言うてるんや?ずっと前からそうだったやろうが!」
「むちゃくちゃだなおい!!っうあぁああ!?あぶなっ!あぶないっ!」
避けたところに風を切る音が響いて冷や汗が出た。
見なくても分かる。
耳ギリギリのところをドスが通り過ぎたんだ。
「き、きれたらどうするんだよ!」
「あけちゃんなら避けれるやろ」
「ほら、さっさと桐生のとこ行ってくれ。暇そうにしてるから、な?」
私が指差した方向にいる桐生は、兄さんの獲物からハズレて少し暇そうにしていた。
言われた桐生は物凄く嫌そうな顔をしたが、私が獲物になるよりはマシだろ?
でも、兄さんの鋭い瞳は私を捉えたまま。
いや・・・私じゃないんだって。
頼むから後ろを見てくれよ。
「う、うしろ、見てくれない?」
「んあ?そんなもん見えるわけないやろ!」
「意味わかんねーよ!?お前の狙いは向こうだろ!!」
「何言っとるんや?」
「へ?・・・・っ!」
動きが、見えなかった。
一瞬。
私だってこの世界のベテランだ、素人じゃない。
その私が、目で何も追えなかった。
気づけば兄さんが目の前に居て、私の首元に、手が伸びている。
「にいさ・・・・!?」
「やっぱ・・ええ女やのぉ・・・」
「わー!兄さん近いッ!!近いからっ!!!」
ぐいぐいと近づけられる顔。
どちらかといえば私が引っ張られて兄さんのほうに寄っているのだが。
ただ、兄さん相手に私の力で逃げれるわけもなく。
そろそろキスできるんじゃないかって位置まで顔が近づいた瞬間、ぐいっと強い力で兄さんが私から引き剥がされた。
「そこまでだ、兄さん」
「あん?なんや桐生チャン。今まで興味なさげやったくせに」
「・・・・あけが怖がってるだろ」
「んなわけないやろ!あけちゃんやで?俺ごとき、怖くないやろ・・・なぁ?」
「ここまで近いと怖いから!ったく、私も女なんだ、そこら辺は遠慮してくれよな」
冗談めいてそう言えば、兄さんはふと真顔になって私の方を見る。
「当たり前やないか、だからしとるんやで?」
「はっ・・・・?」
「さっさと俺の女になれ言うとるやろが・・・なぁ?」
「兄さん」
兄さんが近づこうとするのを止める桐生のおかげで、私はその場から離れられた。
もちろん、止められた兄さんはすごく不機嫌そうだけど。
私には関係ないことだ。というか、本当に冗談はやめて欲しい。
狂犬。
兄さんを表す言葉にふさわしいその名は、私みたいな女を隣におけるほどのものじゃない。
もっとこう、綺麗で、素敵な女性を侍らせて・・・。
いやむしろ。
女に興味なく、戦闘だけに狂い生きるそんな。
「あけ!!」
「うえっ!?」
「何ぼーっとしてやがる、来い!!」
「な、なにそんな怒って・・・!?」
兄さんのことを考えてぼけっとしてたら、桐生に怒られて引っ張られた。
視界が桐生のスーツで染まる。
まるで守られるような形になった私は、桐生の背中からひょこっと顔を出した。
兄さんがニヤニヤしながら桐生を見ている。
それと比べ、桐生の表情はどこか――――めんどくさそうだ。
「なんや桐生ちゃん、そういうことやったんか?」
「・・・・なんのことだ」
「とぼけんなや。バレバレやで、桐生ちゃん」
「チッ・・・行くぞ、あけ」
「お?あ、う、うん」
本気で苛ついてるって感じじゃないけど。
更に苛立ちを増した桐生が私の手を取って歩き出した。
だがそれを、兄さんが黙って見逃すわけもなく。
「逃がすわけないやろ・・・桐生ちゃーん!!」
後ろから兄さんが全力で追いかけてきた。
どうする?と桐生の方を向けば、少し立ち止まった桐生がいきなり私の腰に手を回して。
「よっと・・・」
「へ?」
姫抱きに、した。
「首に手を回せ。落ちるぞ」
「え、いやいやまって。私走れ・・・」
「お前の足じゃ追いつかれる」
「確かにお前は人間の速度じゃねぇけどな!?早過ぎるだろ!!」
走りだした桐生を見て文句を言う気も失せるのを感じる。
目の前を通り過ぎていくネオン街が、ここを神室町だということを忘れさせそうになった。
後ろで追いかけてくる真島の兄さんが少しずつ離れていく。
見えなくなったら、それで、最後。
賑やかな街が急に静かになったような気がした。
走り続ける桐生のスピードが少しずつ落ちてきて、最終的に歩きに近いスピードまで落ちた。
なのに、おろしてくれない。
「お、おい、桐生」
私の言葉を無視して裏路地に入っていく。
そしてやっと下ろしたかと思うと、いきなり私を壁側に追い詰めて顔の横に手をついた。
「なっ・・・んだよ、桐生?」
「少し、油断しすぎなんじゃねぇのか?」
いつになく真剣な声のトーンに、うまく反論できなくなる。
な、なんで怒られてるんだっけ?
何に怒られてるんだ?
分からないでいると、さっきの兄さんみたいにキスできるぐらい顔を近づけられた。
「っ~~~~!」
「ここまで男の接近を許すのは、あんまり褒められたことじゃねぇなぁ・・・」
「そ、それは・・・お前が、いきなり・・・!」
「ならなんだ?さっきの兄さんにも許しただろうが・・・言い訳か?」
本気で、怒ってる。
いつもより激しい口調。
真っ直ぐな瞳が私を突き刺す勢いで見てる。
思わずごくりと喉がなった。
これが桐生の気迫。
「この俺のことも、信用しすぎないことだな」
「っ・・・なんで・・・そんなこと、言うんだよ」
やっと、うまく言い返せた。
恐れを見せぬよう、まっすぐ目を見つめる。
「俺にこうやって襲われて・・・押さえこまれて食われそうになっても・・・抵抗できねぇだろ?」
”それは、兄さんに対しても、同じだ”
そう囁いたかと思うと、思いっきり唇を塞がれた。
桐生の、唇で。
キスなんかしたこと無い。
ほとんど。
パニックに陥った私は抵抗出来ずにその場に座り込んだ。
唇が離れても、熱い。
焼けるように、熱い。
「な、なに、なにして・・・・」
「俺以外に、そんな隙見せるなよ」
「な・・・に、言ってんだ・・・」
「俺以外にされるなよ」
「桐生、よ、酔ってる?」
「・・・なんだ?もう1回されたいのか?」
「ち、ちがう!!分かった、分かったよ!!」
理不尽な展開に私はとりあえず頷く。
それに満足した桐生が私に手を伸ばし、キザに笑った。
「分かったなら俺の傍を離れるな」
「う、うん・・・」
「でも油断するなよ?・・・いつ”誰に”狙われてるか、わからねぇんだからな」
その”誰に”は、きっと。
(希望をいだいてしまったような気がして、私はただ、流されないよう目を瞑った)
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