いらっしゃいませ!
名前変更所
悟空とベジータはフリーザを見ても驚かなかった。
フリーザも、悟空たちを見ても驚かなかった。
異様な空気の中、ベジータがゆえを見て舌打ちする。
「厄介なことになってやがるな・・・」
悟空と睨み合うのはもちろんフリーザ。
そしてベジータと睨み合うのは、ゆえ。
フリーザと悟空は俺たちを置いてすぐさま戦いを始めてしまった。
復讐を果たしたかった彼にとって、この戦いこそが望んだもの。
正直今の雑魚兵との戦いは、本当にただの遊びだろう。
空中に浮かび上がった悟空とフリーザが拳をぶつけあう音が響く。
それを見つめながら、ベジータがゆっくりとゆえに近づいた。
「おい」
「うん?」
「貴様なんだその悪趣味な飾りは」
「悪趣味?」
「それのことだ」
「あ、これ?これ貰ったの、フリーザ様に」
「・・・お前・・・ピッコロの言ってることは本当だったのか」
「ん?」
戦うことを命令されていないからか。
ゆえはベジータに話しかけられても、平然と会話をしていた。
貴重な情報だと、俺はその様子を悟飯と共に見つめる。
「普通にお話は出来るみたいですね」
「そうだな・・・あのティアラは寄生してるといっていたが・・・見た感じでは、操るのではなく”記憶を書き換えられている”というほうが正しいように思えるな」
「そうですね。操られているなら、僕達に常に敵意を向けてもおかしくはないと思います」
冷静に判断する。
取り乱さないよう、必死に。
心の中を覗かれたらこの動揺がバレただろう。
本当はこんな冷静な判断など投げ捨てて、人の目すら気にせず、彼女を抱きしめに行きたい。
それで殺されても――――いいと思えるほどに。
俺は狂ってる。
アイツも狂っている。
俺達はお互いがいなければ可笑しくなる程に。
その、はずだ。
「その変なやつを外せ」
「ハズレないんだもん、これ」
「あ?・・・・はっ、そうか。外されたら困るからそういう風に教えこまれてるんだな」
ベジータがニヤリと笑ってゆえの腕を押さえ込んだ。
「なっ!痛ッ・・・!なにすんの!!」
「黙ってろ。その似合わないやつを外してやる」
あの野郎、乱暴しやがって。
そう思いつつ、ティアラに手を伸ばしたベジータを見守るしかなかった。
「っ・・・・!!あぁあああああ!!!!」
「ッ・・・な、なんだ・・・・チッ。どうなってやがる!」
ティアラを引っ張った手の中にあるのは、赤。
ベジータの白い手袋が、真っ赤に染まっていた。
原因は元よりあのティアラ。
俺達の方から見えたティアラは、ベジータの力によって少しだけ頭から浮いていたが・・・。
「ッ・・・・!」
そのティアラはにゅるにゅると動いていた。
動いて、触手のようなものをゆえの頭に伸ばしていく。
そしてまたぴったりと頭にくっついた。
「・・・・最悪な趣味だな」
寄生。
寄生虫。
ソルベの例えに、納得する自分が居た。
「おい」
「・・・・なんだ?」
痛がるゆえを置いて、ベジータが俺に近づく。
「あいつの頭のアレはなんだ」
「俺も詳しくは知らん。だが、あいつらが言うには”寄生虫”みたいな”機械”だと」
「ほう、機械か・・・なら俺達よりもブルマだな」
「・・・・!」
ベジータの言葉にハッとした。
そうだ。
アイツを支配しているのは、アイツらの技術だ。
つまり術ではなく、機械。
機械といえば、ブルマの分野。
「ブルマ!」
「っな、なによ?」
少し警戒したようなブルマの声を無視し、俺はブルマのところまで下がった。
「ブルマ。脳に寄生する機械を知っているか?」
「な、なによそれ。知らないわよそんなの」
「そうか・・・」
「もしかして、ゆえちゃんの頭にあるやつがそれなの?」
「・・・・あぁ」
「なるほどねぇ。ふふ、でもこの天才ブルマ様に出来ないことは無いわよ?とりあえず状態を見る必要があるから、ゆえちゃんを安全に診察出来る状態にしなさい。アンタ達の仕事よ!」
ブルマは得意気に笑って俺の背中を押す。
思わぬ希望に俺も笑みを零した。
それならもう、俺達がやることは一つ。
アイツをどうにか気絶させ、ブルマに引き渡すだけだ。
「フリーザ様、がんばれー!!」
悟空とフリーザの戦いを、楽しそうに応援するゆえの声が響く。
ブルマから離れた俺は今の話を悟飯達に伝えた。
ベジータは悟空たちの方へ行ってしまったが・・・戦いに夢中の今のゆえなら、俺達だけでも気絶まで持っていけるかもしれない。
「なるほど、ブルマさんなら確かに出来るかもしれませんね・・・・」
「行けるか?悟飯」
「はい。気絶させればいいんですよね?」
今のゆえを見たところ、”戦意”はないようだ。
フリーザの命令は”戦え”ではなく、”戻れ”だったからだろう。
悔しいが、完全にフリーザに従っている。
しかし今は好都合。
下手にこちらが敵意を出さなければ、先ほどのベジータのように近づくことは簡単だ。
「あれ、さっきのお兄さんたち」
俺達に気づいたゆえが、敵意なしの表情を向けてくる。
「よかったね、フリーザ様がとめてくれて」
「フン・・・別に止められなくても、負けはしなかった」
「へぇ・・・?」
挑発的な笑みを浮かべられても、俺は引かない。
悟飯が俺の傍でゆえの隙を伺っている。
先ほどのような失敗は許されない。
今度こそ。
「おい」
「なに?」
「お前、いつからフリーザの手下になった」
「え?いつって・・・」
もし俺の考えが正しいなら。
もしあのティアラが、”操る”のではなく、彼女に寄生して記憶を”書き換えて”いるのなら。
必ず生まれるはずだ。
矛盾が。
「半年前ぐらいだよ」
「それまでは何をしてたんだ?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「答えろ」
「な、なに・・・それまでって・・・えっと・・・・」
ゆえが考え始める中、後ろでは激しい気のぶつかり合いが続いている。
いつもなら食い入るように見つめる戦いも、今は興味など無い。
興味があるのは、俺の目の前で頭を悩ませるゆえだけ。
「えっ、と・・・」
「どうした」
「・・・・ッ。つ・・・頭、痛い・・・」
「・・・ピッコロさん」
「・・・・」
矛盾部分を思い出そうとしたのだろう。
頭を抱え始めたゆえを見て、俺はそっとゆえから離れた。
そして入れ替わるように悟飯がゆえに近づく。
右手に、全力の気を込めてゆえに手を伸ばす。
――――そして。
「ごめんなさい、ゆえさん・・・っ!」
「ッ・・・・!」
轟音。
悟飯は先ほどの攻撃より数倍強い攻撃をゆえの頭に叩き込んだ。
なのにゆえはゆっくりと砂煙の中立ち上がる。
頭から血を流して、俺達を睨んだ。
「また、その不意打ち・・・?」
冷たい目が俺達を捉える。
「さっきから乙女の顔狙ってくれて・・・戻れとは言われたけど、”戦うな”とも命令されてないし、殺してもいいんだけど?」
イラついた様子のゆえが一歩踏み込み、近くにいた悟飯の腹部に拳を突き立てた。
ぐっ!と短いうめき声が響き、悟飯がその場に崩れ落ちる。
見た感じそんな重たい攻撃ではなかったが、少し平和ボケしたようだな。
「おい悟飯、お前さすがに・・・・」
怠け過ぎだろう。
そう言おうとした俺の目の前に、ゆえが飛び出してきた。
慌てて距離を置くが、間に合わない。
咄嗟の判断で防御すれば、右腕に触れた拳に痺れを覚えた。
「ッ・・・!!」
なんて、重たい攻撃だ。
こんな攻撃、ゆえが出来たか?
「あーあ避けちゃった。何避けてんのさ?私の頭の分、しっかり食らってよね・・・!!」
「くっ・・・・!やめろ、ゆえ!!お前が戦う相手が俺じゃないだろう!!」
「アンタ以外に誰がいるんだよ!!」
悟飯を救出しながらゆえの攻撃を受け流す。
「悟飯、立て」
「けほっ・・・・すみません、ピッコロさん」
「良い。次は俺が・・・・」
「おい」
「ん?・・・がはっ!」
俺がやる、と言いかけたその時。
ゆえの後ろにいつの間にかベジータが現れ、ゆえの腹部を容赦なく殴った。
さすがのゆえも、突然のことに足をふらつかせる。
そこに容赦なく気弾を撃ちこむベジータは、さすがというべきか。
「っく・・・!何してくれんだ!!」
「てめぇが気持ち悪い野郎に様付してやがるから、目を覚まさせてやろうと思ったんだ。感謝しやがれ」
「あぐっ!!」
「ベ、ベジータさん!さすがにやりすぎで・・・!」
「良い」
「ピッコロさん・・・・」
「あれで、良い。あのぐらいしなければ、アイツは・・・気絶もしない」
ベジータの容赦無い攻撃に悟飯が止めようとするが、逆に俺はそれを止めた。
今のゆえに、甘さなど必要ない。
アイツが目覚めて俺達の名前を呼ぶまで――――どんな手でも使おう。
容赦無い攻撃にさすがのゆえもふらつく。
反撃しようと拳を構えるが、軽々とベジータに受け止められていた。
「っ・・・!」
「フン。貴様もその状態じゃ、こんなものか」
「な・・・あ、ぎっ・・・!」
痛々しい声が響いて。
ベジータの蹴りが、ゆえの首筋に叩きこまれた。
ゆっくりと地面に吸い込まれていく身体。
俺は慌ててゆえの元へ駆け寄り、その身体を抱きとめた。
「・・・すまない、ベジータ」
「そんな気色悪いコイツを見てられないからだ。寒気がするぜ」
心底気持ち悪そうにゆえを見た後、ベジータはまた悟空たちのところへと戻っていく。
俺は腕の中にあるゆえの温もりに強い安心感を覚えた。
まだ何も解決していないのに、ただ、この温もりが嬉しく感じる。
「ピッコロ、そいついつ暴れだすか分からないんだから、ちゃんと保護しといてよ?」
「ルシフェル・・・あぁ、分かった」
遠くから声を掛けてくれたルシフェルに従い、俺はゆえの手足を魔術で縛った。
とりあえず、手に入れることは出来た。
あとはフリーザと悟空の戦いが終わるのを待って、こいつを、目覚めさせるだけだ。
待ってろ、ゆえ。
「目覚めさせてやる」
お前は俺のものだということを、再び刻みつけてやる。
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