いらっしゃいませ!
名前変更所
「ピッコロ、ワザ撃つ時に左側がお留守になるの、ちょっと目立つかも」
「む・・・・」
「ほら、魔貫光殺砲とかちょっと力を練るでしょ?その時に少し左空いてる」
「なるほどな」
俺の目の前で指導しているのは、青髪のショートヘアに白い翼を持った女。
どこかで聞いた特徴だろう?
そう、俺の目の前にいるのはルシフェル――――ゆえの、天使の姿だ。
「あと咄嗟の防御が・・・・」
といっても本物なようで、本物じゃない。
サリエル様がくれた人形に宿っていた、ゆえの過去の魂だ。
なんでも、暇な時に戦う相手がほしいと、ゆえが天界に内緒で自分の分身を閉じ込めた人形を作ったらしい。
魔力や気を込めれば分身が出てくるという単純な仕組みの人形だ。
何百年も前の話だというのに、アイツらしい行動に笑みが零れる。
そして俺の目の前で修行の相手をしてくれている過去のゆえも、今のゆえとほとんど変わらない。
変わっているのは俺が伸ばさせた髪が無いことぐらいだろうか。
「ちょっとー!人が真剣に教えてんのに何ニヤけてんだ!」
「フッ・・・本当にお前は変わらないと思っただけだ」
「それもう何度目だよ。ったく、おじいちゃんはこうだから困・・・いだだだだ!!」
口の悪さも、相変わらずだ。
「そういうところも変わらないな?」
「わ、笑いながら人の耳を引っ張るな!!過去の魂といえど、アンタの嫁だぞ嫁!」
「いつも通りだ」
「未来の私はなんて奴と結婚してんだ・・・・」
そう言いながらも俺の前で笑うゆえは、やはりそのままだ。
俺はいつの間にか過去のゆえを心の拠り所にしていた。
アイツはよく分からない連中に攫われて、苦しんでいるかもしれないというのに。
「だから修行してんでしょーよ!早く強くなって私を助けてよ」
「フン。なら休憩はナシだ」
「え」
「文句はないだろう?・・・・いくぞ!!」
「あ、こら人の話を聞っ・・・・」
容赦なく殴りかかったつもりだったが、ゆえの姿はもうそこになかった。
上を見上げる暇もなく、降り注ぐ魔弾の雨。
「ッ・・・!」
「休憩させてくんないなら、アンタを気絶させてでも休憩するまでよ!」
「ハッ!出来るものならやってみやがれ」
「未来の旦那様だからって手加減しません・・・よっ!!」
再び激しい戦闘音が辺りに響き始める。
でも何も遠慮することはない。
相手は天使だ。
そしてここは荒野。
「ぶわっ!?あーあー、地面穴ぼこだらけになっちゃうよ」
「なら避けるのをやめたらどうだ?」
「やめちゃったらピッコロの気弾の練習にならないじゃん!ま、それでもいいなら・・・っ」
俺の言葉に一瞬ゆえの表情が鋭くなる。
それを目にした時にはもう遅く、俺の撃った気弾が全て弾き返されて戻ってきた。
慌てて全て弾き返すが、同時にゆえの姿を見失う。
アイツは天使だ。
神と同じで気配を感じることが出来ない。
「チッ・・・どこに・・・」
「ピッコロも神様と融合してるんだし、少しは神の気配を探れるんじゃない?」
「ッ・・・・!」
このゆえも、悪魔の時と同じように俺の記憶を見せてある。
俺のことを全て知っているゆえは、本当にいつものゆえと変わらない。
あどけない表情で笑って。
触れる手は白く、細く。
覗く瞳は青く。
「はい、ピッコロの負け」
「・・・・あぁ」
俺を押し倒し、上に伸し掛かるゆえを見て俺は諦めた。
修行はしたい。
だがどうしても、この触れ合いを味わっていたくなる時があるのだ。
1日にほんの数分。
目を閉じて、ゆえの魔力と空気を感じる。
「まーた未来の私を妄想ですか」
「・・・・すまない」
いけないことだとは分かっている。
同一人物だとしても、目の前にいる彼女は過去のゆえで。
俺が愛した人物と同じなようで――――違う。
それを、自分の虚しさを埋めるために使うのは、最悪だ。
だが。
「ま、全然いいんだけどね」
「・・・・・ゆえ」
「だって、私もピッコロのこと好きだもん。いやー、悔しいけど、未来の私がアンタを旦那さんにしたの、分かる」
許してくれる彼女に、甘えてしまう。
いつからこんな弱くなったんだ、俺は。
思いだせ、魔族としての俺を。
孤独が好きだった、俺を。
「戻れたら、苦労はないか・・・・」
目を瞑ったままの俺を撫でる、優しい手。
「無理して戻る必要もないでしょ?」
「・・・・どうだろうな」
魔族としての自分。
いつまでもそれを崩されているのも、少し気に食わない気もする。
無駄なプライドだと、きっとゆえは笑うだろうが。
「・・・・暗くなってきたな」
「ほんと、なんでこんなところに住んでるの。いくら魔法や魔術があるからって、不便そうなのに・・・・」
「俺の、ワガママだ」
「あ、そうなんだ?でもま、星が綺麗だから良いけど」
「フッ・・・お前は本当に変わらないな。ここに連れてきた時、未来のお前もそう言っていた」
”え、ここで暮らすの?”
”・・・だから言っただろう。いやなら神殿に・・・”
”まー、星綺麗だからいっか”
”そんな・・・ことでいいのか?”
”ピッコロと一緒ってのが大事なんですー”
”・・・・そうか”
「あーでもやっぱり、未来の私がアンタと結婚したの分かるなー」
「何故だ」
「かっこいいでしょ?んでもって頼りになるでしょ?不器用だけど分かりやすいしー」
「・・・・・・・・・・・・」
「あはは!めっちゃ不機嫌な顔してる!!」
最初の二つはまだしも、不器用なのに分かりやすいというのは褒められてるように感じない。
「馬鹿にしてやがるのか?」
「お、怒んないで!ほら、水飲も?」
俺の身体から退いたゆえが、魔法で水を取り出した。
投げつけられたそれを受け取った俺は、無言で水を喉に通す。
夜の荒野は静かで風が気持ちいい。
最近は、この静けさを味わう暇はあまり無いからな。
味わえない原因はもちろん、こいつのうるささのせいだが。
「今うるさいって思いました?」
「あぁ」
「否定しろよ!」
うるさくて、馬鹿で。
なのに飽きない。
いや、だからこそ飽きないのか?
「失礼なこと考えてる暇あるならこっちきて星見ようよ」
上からの声。
見上げると、ゆえが白い翼を羽ばたかせて空高く舞い上がっていた。
「綺麗だねーほんと!私のところには星なんてないから、羨ましいよ」
俺はこのゆえから、過去の――――こいつにとっては日常の話を聞いた。
天界には空というものがなく、星は見えないらしい。
雰囲気としては北の界王が居る場所に似ているらしく、空気が澄んでいるんだと。
そしてあるのは水だけ。
空気中に濃厚な魔力が漂い、天使や神以外は歩けないぐらいなのだという。
「ほら!早く!!」
「・・・あぁ」
そしてその世界で、ゆえは孤立気味だったという。
天使は普通自分の生まれた状態を誇りに思い、成長や人間らしい感情をあまり抱かないらしい。
つまり感情が薄いのだと。
それを聞くだけでゆえが異端だということが分かる。
「異端で悪かったなー」
「フン」
「ねね、あの星なーに?」
「ん?あれは・・・」
こうしてる間にも、アイツは苦しんでいるかもしれないのに。
俺はまた今日もこうして、過去のアイツに心を委ねて1日を過ごす。
罪悪感と、葛藤に苛まれながら。
そしてまた、同じような朝を迎える。
「おはよ!」
「今日は早いな」
「すぐにでも修行したいってオーラを感じ取って起きたあげたわけですよ、感謝して?」
「ありがたいな」
「うわ、棒読み・・・」
俺がこうしてる間にも。
アイツはどんな苦しみを受けているのか、どういう状態に置かれているのか。
不安で仕方がなくなる。
だから俺は、強くならなければならないのだ。
「いいこと教えてあげよっか、ピッコロ」
そんな不安げな俺を見てか、ゆえが笑いながら俺の顔を覗きこんできた。
「なんだ?」
「私はゆえの魂の一部なのは知ってるよね?」
「あぁ」
「つまり私が生きてるってことは、ゆえも生きてる。私が戦えるってことは、ゆえもある程度の力は残ってる・・・ってこと!」
「連携してるということか」
「そそ。だから今は・・・頑張ろ?」
この俺がこんなところでウジウジしててどうする。
きっとこの姿を見られれば笑われるだろうな。
気を引き締めろ。
俺は元魔族であり、神でもある、”ピッコロ”だ。
俺がやることは決まってる。
強くなり、アイツを取り返すんだ。
「そうそう!ピッコロにしか出来ないんだから、頑張ってよね!」
「フッ・・・もちろんだ」
笑い合いながら、俺達はいつもの修行場所へと向かった。
あぁ、そうだ。
昔のようにただ強さを求めればいいんだ俺は。
そしてその先に訪れるであろう日に、アイツを、取り戻せれば。
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