いらっしゃいませ!
名前変更所
「早く平和よ戻ってこーい!」
そう言いながら荒野に寝そべる私は、完全に気配と魔力を消していた。
何故こんなところにいるのか。
それは主に戦闘馬鹿――――悟空とベジータのせいである。
あの二人はビルスと会ってから、ウィスにも修行を求めるようになった。
どんどん上を目指す二人が求めるのは、更に強い修行相手。
もちろんその標的が、天使化出来る私にも向くわけで。
二人がウィスのところに行って修行してる間は良いのだが、戻ってくると私は神殿から逃げてコソコソしなきゃいけなくなるのだ。
「ピッコロも意地悪だし、私に平和をおくれよ・・・・」
むすっとしながら荒野の岩陰にごろごろと転がる。
修行をつけろと隙あらば追いかけてくる二人。
それを自分の修行にもなるから見せろと、庇う様子もなくむしろ突き出そうとするピッコロ。
修行は嫌いじゃないけど、ヘトヘトに死ぬほど疲れるやつは嫌いだ。
それをするんだよ、あの三人は絶対に。
「ふぁ・・・う」
大きな欠伸が青空に吸い込まれていく。
青空以外は何もない荒野だけど、今の私にとっては幸せな場所だ。
誰にも邪魔されず。
岩陰に隠れてのんびりお昼寝出来るんだから。
「夕方ぐらいに帰れば大丈夫かな」
逃げすぎても怒られるから、ちゃんとピッコロの所に帰る時間は意識する。
魔法で目覚ましをセットした私は、そのまま微睡みに吸い込まれていった。
そう、これが私の日課。
変わること無いって、ずっと思ってた。
「・・・・は?」
こんなことになるまでは。
目が覚めた私から出たその声は、無機質な空間に吸い込まれていった。
えーっと?
私、荒野でお昼寝してたはずなんだけど。
「なに、ここ」
目の前に広がっているのは無機質な壁だった。
私が座っているのも、無機質なタイル。
質感的にはベジータが修行している重力室に似てる。
でも、ベジータや悟空の気配は一切感じない。
ならここは一体?
「お、おかしいな、私、幻覚見ちゃってたりする?」
目を瞬かせて。
ぐすりと部屋を見回した私は、窓から見えた光景に顔を引きつらせた。
窓から見えるのは綺麗な星。
そしてただ広がる黒。
―――――そう、宇宙。
「あ、夢、かな」
そう思うしか無い光景だろう。
だって荒野でお昼寝して起きたら宇宙にいました、なんて。
冗談でも許されるレベルじゃない。
「・・・・」
思わず無言になる。
そして静かに魔法で鏡を取り出した。
こういう時は慌てず騒がず、まず自分を確認することが大事。
大きな鏡の前に立って自分を確認した私は、いつもと変わらない姿にほっと胸を撫で下ろした。
あれ、でも。
「あれ、こんなの着けてたっけ」
鏡をしまう直前。
黒髪の中に何かが映ったのに気付き、私は髪の毛をかき上げた。
そこに現れたのは綺麗なティアラ。
額に食い込むように着けられたそれは、私のでは無い。
「うーん、着けられた・・・・とか?私より良い趣味してるね、私を攫った奴は」
私がこんなところに居る時点で、攫われてるのは確定だろう。
そして私が寝る前には着いてなかったティアラ・・・攫った奴の、趣味ってことだ。
こんな気持ち悪いの、もちろん外す。
勢いに任せてティアラに手を伸ばした私は、ティアラを外そうとした瞬間に身体がピシッと金縛りに合うかのように固まるのを感じた。
「っ・・・・?」
何度試してみても、同じだ。
他の行動には違和感ないのに、ティアラを外そうとすると身体が拒否反応のようなものを起こす。
「・・・・」
脳を直接操られてるような、変な感じ。
「目が覚めたか」
ティアラと格闘している私の後ろから、聞き覚えのない声が掛かった。
後ろを振り返れば、明らかに地球人ではない誰かが居る。
「・・・あれ、誘拐犯のお出まし?」
手に魔力を溜めながら振り返った。
全体的に丸みを帯びた青色の生物は、そんな私を見ても笑ったまま。
見た感じ”悪人です”って感じの顔。
脅すために一度攻撃してやろうと思ったけど、私の身体はまたも動かなくなった。
「っ・・・・・く」
「気づいたか?今のお前には”制御”が掛かっている。俺達に危害を加えることや、そのティアラを外すことなどの行動は全て”出来ない”」
「教えてくれてどうもありがとうございまーす。でも自己紹介からしてくれない?」
ティアラの謎について喋ってくれた男に、笑いながらそう告げる。
内心、冷や汗が吹き出していた。
いやだってこれ、本気で攫われたよね?私。
しかも行動制限が掛けられちゃってて、私の力が上手く使えない。
どうしよう。か、帰れるのかな?
なんて思いつつ、表では冷静を装った。
「ソルベだ」
「・・・・それで、私を攫って、こんな悪趣味なもの着けて・・・・何が目的?」
どうせ私のことは知ってるんだろう。
自分自身の自己紹介を外し、そのまま聞きたかったことを聞く。
ソルベは扉の前に立ったまま、私と距離を置いて話し始める。
「お前には”主”の役に立ってもらう、それだけだ。それ以外は自由にしていい」
「・・・・”主”?」
「あぁ。すぐに会わせてやるからな、おとなしくしておくがいい」
ソルベの主が誰を示しているかは知らない。
帰っていくソルベの背中に魔弾を撃ち込もうとしたが、やはり身体がいうことを効かなくなって、手を下ろすしか無くなった。
扉が閉まる。
無機質な部屋に一人ぼっち。
虚しさと動揺が、一気に押し寄せる。
「・・・・どう・・・しよう」
なんで。
ただ荒野で寝てただけなのに。
こんなめんどくさいことに巻き込まれて。
挙句の果て、自由まで奪われて。
「ピッコロ・・・・」
強く念じてみても、念力すら通じない。
遠いから?
それともこのティアラのせい?
分からない。
「・・・・・」
座り込んだ私の身体が、震えていた。
攫われたことによる恐怖じゃない。
自由が効かなくなったことによる、戸惑いじゃない。
ただひとつ、私を震わせているのは。
”ピッコロと、会えないかもしれないこと”だ。
「ピッコロ・・・・っ」
自分自身がどうなろうと。
最終的に怖いのは、ピッコロと会えなくなることだ。
私はただ静かにピッコロの名前をつぶやき続けた。
誰も来ない部屋の中で、ずっと、ずっと。
しばらくして。
このまま落ち込んでても意味が無いと、私は部屋の扉を開けた。
「うわ、ほんとに鍵掛かってない」
自由にして良いとは確かに言ってたけどさ。
ここまで自由にするなんて、ティアラの技術に凄い自信があるようだ。
・・・・まぁ、否定は出来ないんだけど。
「・・・・はぁ」
結局あの後、どれだけ試してもティアラは外せなかった。
外そうとしたり壊そうとしたりすれば、自分の身体が自分のものじゃなくなる感覚に襲われて、何も出来なくなる。
宇宙船の破壊も同じだった。
窓に穴開けて壊してやろうかと思ったのに、出来なかった。
「むかつくなぁ」
拘束されてないのに拘束されてる感じ。
身体的な拘束ではなく、精神的な――――いや、脳の束縛というべきなのか。
正直、自分の身体が気持ち悪い。
「とりあえず、じっとしてるのは性に合わないし・・・」
気を取り直した私は、開けた扉から廊下に出た。
廊下も部屋と同じ無機質な部屋だった。
重力室と同じような光景がずっと続いている。
「よーし。情報収集してやりますかっ」
やられたらやり返す。
悪魔としての本性をむき出しにして、私は廊下を静かに歩き出した。
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