いらっしゃいませ!
名前変更所
しんどい。
身体が鉛のように重たく感じる。
何も、したくない。
「ピッコロ・・・」
あれから1週間が経った。
何も進展はない。
ただ、中途半端な束縛を受けて、ここにいるだけの生活。
疲れる。
虚しさに包まれて泣きたくなる。
「たった1週間なのにこれか・・・私、干からびそう」
ピッコロに会いたい。
触れたい。
声が聞きたい。
怒鳴り声でもなんでも良いから。
「末期、だわ」
離れて気づく。
私がピッコロにどれだけ依存していたか、に。
声が聞けないだけで眠れなくなった。
この1週間、満足に寝てない。
心が落ち着くことがなくて。
私の心を満たすのは、たったひとつの”写真”
「・・・・・」
イタズラで撮ったピッコロの写真。
いつもこっそりと隠し持っていたそれは、今では私の心の拠り所になっていた。
「っはー!!だめだめ!!」
凹むのは1日数十分って決めたばっかりじゃないか。
落ち込んでたら、出来るものも出来なくなる。
それにティアラは私の脳を操ってるんだ。
私が弱れば更に効力を増す可能性がある・・・それだけは避けないと。
ピッコロが言ってたんだ。
お前の無駄な明るさが、笑顔が、好きだって。
だから。
「こんな落ち込んでたら、怒られちゃう」
パシッ!と顔を叩いて起き上がる。
写真を大事に服の中にしまって、私は部屋の扉を開けた。
相変わらず騒がしい宇宙船だ。
廊下に出ると誰かしらの足音やしゃべり声が聞こえてくる。
「・・・・」
ここ1週間で何人かとは話をした。
そこで手に入れた情報は、ほんのすこし。
一つ目はここが宇宙のどこかであるってこと。
まぁ、それは見ればわかるんだけど。
もう一つが重要なんだ。
「・・・さっすが、”フリーザ”軍」
そう。
ここは、フリーザ軍の宇宙船。
私の主は言うまでもなく―――――フリーザのことだろう。
「よぉ、ゆえ。相変わらず暇そうだな」
「っさい。邪魔すんな」
「おいおい、隣の部屋のやつに冷たいなお前は」
「敵だってこと忘れないでくれる?髪の毛抜くよ」
「イラついてんなぁ・・・・」
「敵の本拠地で苛つかない奴がいる!?」
情報収集中に敵と仲良くなったのは不幸か幸運か。
気兼ねなく喋りかけてくる兵士に苛立ちをぶつけながら歩く。
「今日はどこに行くんだ?」
「行ったことない場所。こっから一番遠い施設ってどこ?」
「トレーニングルームかな。東の通路だ」
「そんなところあったの!?」
「あ?あ、あぁ・・・」
兵士からトレーニングルームの存在を知った私は、深いため息を吐いた。
この宇宙船、くっそ広いんだ。
結構回ったつもりだったのに、まだ見逃しがあったなんて。
でも、かなりいい情報だ。
トレーニングルームなら身体を動かせるし、今より落ち込まなくて済みそう。
「いやー、さいっこーの情報だよ!ありがとね!」
「なら礼ぐらい置いてってくれよなぁ?」
「へぇ?何か欲しいの?」
「そうだなぁ・・・女らしく、誠意をもって・・・」
「あ、そういうド変態タイプだったの」
「お・・・・お前な・・・・」
容赦無い私の言葉に兵士の顔がヒクッと引きつった。
冷たい?
でもこのぐらいの対応が当たり前だ。
元より、敵だし。
部屋が近いから話すだけで、名前も知らないし。
「残念だけど、私のぜーんぶダーリンのものなのぉー!」
わざとらしく甘い声を出すと、兵士の表情が冷たくなった。
「気持ち悪ッ」
「少しはオブラートに包めよ!」
「・・・・無理だった」
「もういい!ったく、はい。これお礼ね」
「お・・・・へへっ、サンキュー」
魔法でお金になりそうなものを出し、投げ渡す。
兵士はそれをニヤけながら受け取った。
どんな関係であれ、ここでの人間関係も大事だ。
あの兵士みたいに私を”金”として利用していても、別に良い。
ほんの少しでも仲良くなって情報を出せればそれで私の勝ち。
加えて情を植え付けることが出来れば、それは私が魔法で出すお金の何倍もの価値がある。
「敵地で生き残るには、汚さも大事ってね・・・・」
どうやらあの兵士の言ったことは嘘では無いらしい。
いつもは見ない東側の通路の奥へ進むと、厳重な扉がある道を見つけた。
「おじゃましまーす」
厳重なわりにはすんなりと開く扉。
扉の奥に見えたのは、いくつにも並ぶ――――また扉。
なるほど。
ここから先が全部トレーニング部屋って感じの区域なのか。
「ほー、さすが。最新式って感じのトレーニングルームだね」
一番手前の部屋でトレーニングしてる兵士を見つけて、思わずそう漏らした。
これ、ベジータに見せたら喜ぶかも。
そのぐらいトレーニングルームのレベルは高く、修行する本人が設定したレベルに合わせて重力や相手の数、相手のタイプを決めれるようになっていた。
「相手ったって機械だけど・・・こんなへんてこなティアラ作れるわけだし、それなりの技術力だよね~」
忌々しいティアラをいじりながら呟く。
さぁ、ここまで来たんだ。
私もトレーニングしていこう。
「・・・・・どうすんのこれ」
扉の前についた、よくわからないコントローラ。
これでトレーニングモードを選択したりするんだと思うけど・・・よく分からない。
「よろしければ、教えて差し上げましょうか?」
「え?」
しばらく扉の前で格闘していた私に、聞きなれない声が掛かった。
驚いて振り返れば、その声よりも更に驚くものが目に入って息が止まる。
「ッ―――――!!」
「・・・どうしたんです?」
「ど、どうしたんです?って良く冷静に聞くな・・・・」
ヨロヨロとその場から離れてソイツを睨んだ。
私と同じように伸びる尻尾。
明らかに人間ではないその表情。
他の兵士とは明らかに違う、気。
「・・・・おや、お気に召しませんでしたか」
「丁寧な悪人装うのは誰かさんとソックリで嫌いだわ・・・”フリーザ”」
「やはりご存知でしたか。”ゆえ”」
「うわ白々しい。知らないわけないでしょこのトカゲ野郎・・・」
「・・・・・・」
私の口調にフリーザの表情がヒクッと引きつった。
見ないふりして視線を逸らせば、呆れたようなため息が耳に響く。
ピッコロの記憶でしか見たことのない完全な悪人、それがフリーザだ。
死んだはずの彼がここにいて、こうして私を捕らえてる。
「んで?こんな可愛い悪魔を閉じ込めて、何のつもり?」
「自分で言えるほど可愛らしいと思ってるんです?」
「・・・・む、むかつくな・・・」
「悪魔が可愛らしいなんて、おかしな話でしょう?あの、悪魔が」
「アンタがどの悪魔を言ってんのか知らないけど、私は可愛い悪魔なんです。それをこんなことして、タダで済むと思ってる?」
フリーザが何故生き返ったかなんて、だいたい想象が付くことだった。
地球のドラゴンボール。
それでソルベあたりがフリーザを生き返らせたんだろう。
そして目的も大体想像がつく。
記憶を見ただけでもわかるほどプライドの高い悪の帝王が、生き返って何もしないわけがないんだ。
「そう怒らないでくださいよ。どうせ帰れないんですからねぇ、貴方は」
「ほんと、くっだらない悪趣味なコレのおかげでね」
「帰りたいとは思いませんか?」
「・・・・・」
喧嘩腰のまま話すつもりだったのに、いきなり気になることを言われて思わず止まった。
真っ直ぐな反応をしすぎて、フリーザに笑われる。
な、なにさ。
帰りたいって思って何が悪いよ?
「正直な反応で実にいいですね・・・分かりやすい」
「馬鹿にしてる?」
「えぇ」
「・・・首ぶっ飛ばすのぐらい簡単だけど?やんの?」
「でしょうねぇ、ですが・・・・今のあなたにはこれがあることをお忘れなく」
「ッ・・・・!!」
フリーザの手がティアラに伸びると、何故か身体に力が入らなくなった。
くっそ、どんな仕組みしてやがるんだこれ。
悪人のくせして変な技術ばっかり持っちゃって。
「貴方が私に従うなら、これ以上の危害を加えるつもりはありませんよ。帰りたいんでしょう?」
「・・・・私に、どうしろと」
「おや、物分かりが良くて助かりますね。簡単ですよ、私のトレーニング相手になってください」
「は?」
「私が目指すのは孫悟空への復讐・・・そのためには力が必要なんですよ。貴方が協力してくれれば私はいづれ地球に進軍します。その時に貴方は帰れば良い」
えーっと?
進軍する力を付けてくれれば、進軍するついでにお前を返してやるぞってことかな?
なにそれ。
しょうがないとはいえ、フリーザに協力しなきゃいけないってこと?
「嫌なら別に構いませんよ。結局目指す場所は同じです。ただトレーニングに時間が掛かって、貴方がここに囚われてる時間も長くなるでしょうねぇ・・・・」
「・・・てか、なんで私なの・・・・」
「それはソルベにきいて下さい。ソルベが私の役に立つと言って貴方を捕らえてたんですから。正直、そこに関しては私は何も命令してません」
「あんのやろう・・・絶対ぶん殴る・・・・!!」
自由になったらやりたいこと、決定だ。
帰るよりも先にソルベをぶん殴る。
こんなことに巻き込んだのも、全部アイツが悪いんだから。
許しちゃいけない。
絶対に。
「それで、どうするんです?」
「”YES”か”はい”かどっちにするって聞かれてる気分なんですけど」
「おやおや、私にはきちんと選択肢を与えてあげてますが」
「はいとっても嬉しいです」
「・・・・」
「答えはイエスですフリーザさ・ま。ちゃっちゃとアンタが強くなって満足して地球に行ってくれればいいんでしょ?任せてよ」
「そういうことです。物分かりがよくて助かりますよ」
協力するのは嫌だけど、どちらにせよ行き着く先は同じそうなので従うことにした。
フリーザは本気だろう。
本物の悪人って感じだし。
だから本当に私が従わなくてもトレーニングして、悟空のところに行くはず。
なら、少しでも早く満足してもらって、地球に行ってもらうしか無い。
変えられない運命なら、少しでもその運命に関わってやろう。
「んじゃ、よろしく」
「言っておきますが、死ぬようならそれまでです。放置しますからね」
「・・・・・いい度胸じゃん」
「では早速付き合っていただきましょうか」
フリーザに促され、私はトレーニング室の重たい扉を開けた。
あれから何週間経っただろうか。
毎日ピッコロの事を思いながらも、段々この生活にも慣れてきた。
目の前には悪人のフリーザ。
そしてある程度は自由に過ごせるこの宇宙船。
わりと美味しい食堂のご飯。
でも消えない、虚しさ。
「今頃ピッコロなにしてんだろうなー・・・」
心配してるかな。
それとも怒ってるかな。
む、むしろ静かになって清々したとか言ってたり・・・。
「うう・・・・」
考えていくとどんどん凹む。
そんなことを考えていると、目の前に大きな気弾が迫ってきていた。
片手でそれを弾き、考えから目の前の戦いへと頭を戻す。
何をしてても浮かんでしまうピッコロのことに、自分自身でも苦笑が漏れた。
「集中したほうがいいよ。・・・・僕を馬鹿にしてるように見える」
「やだな。そんなことできないよ、恐れ多くて」
「・・・・・」
「っだ!!ったいな!!」
無言でビームを飛ばされて、かすめた頬に激痛が走る。
戦い好きな人って沸点低い人多すぎ。
・・・・私も人のこと言えないけど。
「まじめにする気になった?」
「ばりばりなった。今の一発倍返しさせてもらうわ。乙女の顔は高いんだからね?」
「・・・・ふっ。早く来なよ」
「っそら!!」
そしてまた始まる修行。
修行という名の、殺し合いに近い勝負。
私はフリーザを殺すつもりで戦ってる。
だって殺せれば、ソルベ達に大打撃を与えれるから。
でもまぁ、そう上手く行かないのがこの状態。
「フリーザってさ」
最終形態のフリーザは、鋭い瞳をギロリと私に向ける。
まるで無駄話するなと言わんばかりの。
いや、実際そう言いたいんだろう。
「なんで尻尾使わないの?」
「何?」
「使えるもんは全部使う。勝負の基本っしょ?」
「ッ!ぐっ・・・!」
そう言いながら振り返りざまに尻尾でフリーザの腕を掴んで壁に叩きつけた。
「っち・・・」
「おわっ!?」
「調子に乗るなよ」
「うひゃー、怖い!」
正直。
ふざけてられるのも今のうちだろうなと、思う。
戦ってて分かる。
フリーザの驚異的な成長スピードが。
いつかティアラなんて無くても、私は押さえこまれてしまうだろう。
悟空以上の、天才かな。
「よしフリーザさん、休憩しよう!」
「・・・・そんなものはないよ」
「嘘でしょ・・・どんな体力してんだよ・・・」
戦っても落ちてこないスピード。
攻撃力。
小さな身体からは考えられないほどの、重たさ。
「君の体力がないだけだろ」
「分かった。そういうことでいいから休憩お願いします」
「断る」
「・・・・あ、あと、10分で」
「・・・・・・・」
「わかったよー、じゃあ、10分後に1分だけ休憩!!水飲みたいの!」
「・・・仕方ないね」
捕らわれの身になってから、数ヶ月。
何だかんだで敵のど真ん中で図太く生きてます。
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