いらっしゃいませ!
名前変更所
もうだいぶ長いよこの生活。
いつまで続ければいいんだよ、ほんと。
苛立ちながらも、選択肢が無いため私はフリーザの元で生活を続けていた。
とはいえ、もうだいぶあれから時間が経って、フリーザの力もかなり上がってきている。
正直最近は本気で戦っても負けることもあるぐらいだ。
だからこそ、もう少しで決戦の時が来る。
そう思った私は、どうしてもやりたいことを実行することにした。
「ね、フリーザ」
決戦の時、私はどうなるかわからない。
最近ティアラの力も強まってきていて、時々、無意識にフリーザやソルベに頭を下げることをするようになった。
じわじわと、寄生主の脳や精神を操るタイプの器具だったらしい。
私が、私である内に。
やらなきゃいけないことがある。
伝えたい、人が・・・・ことが、ある。
「なんです?」
「最近、トレーニングに刺激が足りないと思わない?」
「ほう?といいますと?」
「賭け、しない?」
この言葉自体が、賭けだ。
聞いてもらえなきゃ、聞こうと思ってもらえなきゃ全てが終わる。
私はフリーザの反応を窺いながら言葉を続けた。
「そう、私が勝ったら、10分だけでもいい。余計な事言わないから、一人だけ、会話させて」
「・・・・一人?」
「私、ダーリンがいるのダーリン。・・・・話したいの」
「それで?私が勝ったらどうするんです?」
「・・・・そ、そこはフリーザの好きに?」
だって、負けることなんて考えてない。
話せなきゃ私はそれまで。
そのぐらい、私はもう限界だった。
脳が蝕まれていくことよりも。
精神が壊れていくことよりも。
ピッコロの声が、姿が、見えないのが――――辛い。
「まぁ、いいでしょう。たまにはそういうのも面白いですね」
「あれ・・・意外と話分かるじゃん」
「ですが私は悪人なのでね」
肌を掠める気が一段と強くなった。
あれ、なんか。
本気?
「その希望すら叩き潰して差し上げましょう」
「そう言われると・・・絶対勝ってやるしかないね・・・・!!」
「ってことで、私の勝ち」
「っ・・・・」
正直、自分が信じられないほどだった。
いつも以上に動きやすくなった身体。
自分の中に眠っていた、本気の力。
「やっぱ愛の力は偉大ね、うん」
「そんな力、どこに隠していたんです・・・・」
「言ってるじゃん、愛の力だって」
「へどが出そうな。そんなもの、私が信じるとでも?」
「ま、勝ちは勝ちですー!」
「・・・・・まぁ、いいでしょう。すぐにソルベを向かわせます。貴方の部屋で10分、約束通り一人とだけ通信を認めましょう」
フリーザは私の言葉に、心底気持ち悪そうな表情を浮かべてそう吐き捨てた。
本当に根っからの悪人なんだな。
愛とか平和とかの単語にものすごく嫌そうな顔をするんだ、フリーザは。
ま、私にはそんなこと関係ない。
約束は約束だ。
それが守られるなら、なんだって良い。
「んじゃ、またあしたねフリーザ」
「明日はこうはいきませんよ・・・」
フリーザの捨てセリフも耳に入らない。
トレーニング室の扉を蹴り破る勢いで飛び出した私は、すぐさま自分の部屋に戻った。
会えるわけじゃないのに、死ぬほど心臓がバクバクしてる。
声が聞ける。やっと、彼の反応が見える。
同時にすごく怖かった。
1ヶ月以上も連絡なしなんて・・・したことなかったから。
忘れられてないか、とか。
勘違いされてないか・・・とか。
「ソルベ遅い!!」
「ったく・・・なんてワガママなやつだ」
「フリーザは約束守ったんだから、当たり前でしょ!!ほら早く!」
「チッ・・・・約束通り、10分だからな」
部屋に入ってきたソルベを急かし、ティアラの束縛を緩めてもらった。
といっても、やっぱりティアラに手を伸ばせば、身体がピンと張って外すことを許さない。
そう上手くはいかない、か。
諦めた私は今許されることをすることにした。
心のなかで強く念じる。
彼の名前を、呼ぶ。
「ピッコロ、ピッコロ・・・気づいて、ピッコロ・・・・」
魔力を込めて話しかけると、すぐに反応が返ってきた。
《ゆえ・・・なのか・・・?!おい!!返事をしろっ!!》
「ピッコロ・・・私だよ、ゆえだよ・・・・」
《貴様・・・!!一体今まで・・・っ!!どれだけ俺が・・・・ッ》
ピッコロの声は、言葉にならなかった。
こんなに泣きそうな声を聞いたのは、何時ぶりだろう。
むしろ、ピッコロの声を聞くのが何時ぶりなんだろうって感じなんだっけ。
自然と、涙が流れる。
「ピッコロ・・・寂しかった、ピッコロ・・・・っ」
愛しい彼の声。
これだけで今までの虚しさが嘘のように満たされていく。
《今、どこにいるんだ?どうなってるんだ、お前は》
「捕まってて、どこかも、わからない」
《チッ・・・・サリエル様の言ったとおりか・・・》
「え、サリエル・・・?」
《サリエル様がお前が捕まったことを俺に教えてくれたんだ。そして今はお前の分身と修行している》
「ぶ、分身?」
話に頭がついていけず、聞き返すことだけをしてしまう。
そんな私に気づいたのか、ピッコロがゆっくり説明を始めた。
《サリエル様がお前が捕まったことを俺に教えてくれたんだ。そしてお前を取り返すには力が必要だと・・・お前の、戦闘用の人形を俺に》
「戦闘用・・・あー・・・」
記憶の片隅に残ってる、熊の人形。
私が暇な時に戦う相手がほしいと、自分の魂の一部を詰め込んだ熊の人形があったはず。
それをサリエルが。
感謝しなきゃいけないところなんだろうけど、分身の私が何か余計なこと言ってないか気になってしまうのも本音で。
「・・・そう、だったんだ」
あえて、何も言わないことにした。
「ピッコロ」
《・・・・なんだ》
「わ、私が、いなくても、無理しちゃ、だめだよ」
《泣くな、馬鹿が。・・・・俺は、お前を必ず取り戻す。それまで・・・もう少し、待っててくれ》
「お前は馬鹿みたいに笑ってるほうが似合う」
《・・・・うん》
不器用なピッコロの、精一杯の慰め。
心が大きく満たされていくのを感じた。
「ねぇ、ピッコロ」
《ん?》
「大好き」
《あぁ、俺もだ》
「だから、もし、私が・・・ピッコロの前に行った時、私が、私じゃなくなってたら・・・ぶん殴って叩き起こして」
《ゆえ、お前・・・・》
「お願い」
《フッ・・・あぁ、任せろ。馬鹿弟子の目は、俺が覚まさせてやる》
いつも通りのピッコロだ。
すごく、安心する。
ピッコロも私のことを気遣って、取り乱さないよう冷静を装ってくれてるんだろう。
いや、もしかしたら本当に冷静なのかもしれない。
あのピッコロのことだから、前を向いて、先のことを考えてるのかもしれない。
「ピッコロ・・・・」
《ゆえ》
「・・・・もっと、呼んで」
《ゆえ、ゆえ・・・早く、お前に・・・》
だからピッコロのためにも。
この先の、ためにも。
「ピッコロ、私、絶対ピッコロの所に戻るから」
《・・・・当たり前だ》
「うん!だから、待ってて」
出来る限り笑って。
不安にさせないよう、残りの少ない時間でたくさん話した。
ピッコロの力って凄いんだなぁって、改めて思う。
だってあんなに不安で苦しかったのに―――今はそれが嘘みたいに無いんだもん。
離れてまた強く大切さを知った。
もちろん望んでないものだから、良かったとは思わないけど。
「じゃあ、そろそろ・・・時間だから」
まるで遠距離恋愛。
《・・・・おい》
「うん?」
《あまり余計なことをするな。じっとしておけ。お前はただでさえ口が悪いんだ》
「ひど・・・分かってますよーっだ」
《・・・・必ず、また、戻れ。約束だ》
「うん」
念力を切って。
げんなりとした表情で私を待ってくれていたソルベに向き直る。
うーん。
ま、これでとりあえず1日は元気出るかな。
「いやー、くっそつまんなそうな顔で待っててくれてありがとね?」
「相変わらず口が悪いな・・・・戻すぞ」
「っ・・・・はいはい。んじゃ、乙女の部屋からはさっさと出てってくださいっ」
「・・・・・」
部屋からソルベを追い出した後、私はもう一度だけティアラに触れた。
普通に触れることは出来る。
でも外そうと思った瞬間、身体が動かない。
はー、ほんと、厄介だ。
好きでこんなことになったわけじゃないのに。
・・・・でも。
”お前は馬鹿みたいに笑ってるほうが似合う”
「ふふっ」
あのピッコロの言葉は、私に力をくれた。
ピッコロらしい不器用な褒め方。
あの言葉だけで私は自然と口元に笑みを浮かべていた。
「ピッコロ・・・・」
何があっても必ず、私はピッコロの元に帰るよ。
約束。
「おはよ、えーっと・・・・誰だっけ」
「相変わらずだなお前。敵の基地だってのに無駄に元気な野郎だぜ」
「褒められたら照れちゃう」
「褒めてねーよ」
あれからウジウジするのを止めた。
ピッコロに言われたから。
そりゃ、大好きな人に笑ってるほうがいいなんて言われたら、いつまでも凹んでるわけにはいかないでしょ?
「今日はどこ行くんだ?またトレーニングか?」
「とりあえず食堂」
「お前な・・・・」
「一緒行く?」
「お前何時だと思ってるんだ今」
「え、11時」
「昼前だろ。昼飯まで待てよ」
「待てないから行くんじゃん!んじゃ、私は食べてくるね~!」
私は私なりに、生き延びていくと決めた。
目的はただひとつ。
またピッコロに会うため。
ピッコロの元に、帰るため。
「待っててよね、ピッコロ・・・・」
絶対に負けないよ。
私はまた笑顔で、ピッコロに会うから。
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