いらっしゃいませ!
名前変更所
「おい」
「んー?」
日差しがきつい神殿の外。
魔法でパラソルと氷水を出し、日陰で涼しんでいた私は、そのだらしない姿のままピッコロの方を見る。
ピッコロは暑さなんて関係ないって表情でいつも通りの胴着を着ていた。
え、まさか修行?
暑さで精神がやられかけている私は、警戒気味に次の言葉を待った。
「どーしたの、ピッコロ」
「・・・・いや・・・」
修行、じゃないみたい。
修行だったらこの数秒間で私をパラソルの影から引きずり出して連れてったはず。
どこか言いにくそうにするピッコロを見て、とりあえず魔法で2つ目のパラソルを出した。
その中にピッコロを誘導すれば、ピッコロの視線が私に移る。
「な、なにさ?」
あのピッコロが何かを言いにくそうにすることなんてあんまりない。
珍しい光景にただ無言でその先を待つ。
「・・・・」
「・・・・・お前は」
「うん?」
ピッコロの優しげな表情が目に入った。
「”新婚旅行”とやらに、行きたいと思うか?」
「ぶふっ!?」
「っ!なんだ、いきなり吹き出すな!」
「い、いやだってびっくりし・・・え、新婚旅行?」
飲んでいたジュースを思わず吹き出した私は、口を拭きながら聞き直す。
新婚旅行って言ったよね、今。
な、なんでいきなり?
まずその単語をピッコロが知ってるってのが驚きだった。
そしてそれを、私に尋ねてくるっていうのも。
「だ・・・誰に聞いたの?」
「デンデだ」
「あ、また意外なところ・・・」
てっきりブルマあたりだと思ってた私は、出てきた名前に驚いた。
なるほど。
にしても、なんでデンデがそんなこと。
「最近、地球の人間の文化の本を読んだらしい」
ピッコロの言葉に、改めて”神様”の大変さを感じた。
一応私も神様の近くにいたけど、固定の地域を担当してたわけじゃない。
固定の地域を担当する神様はそういうのを学ばなきゃいけないのか。
勉強熱心なデンデに関心しつつ、私は魔法でピッコロに水を渡した。
「とりあえず座って飲みなよ?」
「あぁ・・・」
「その新婚旅行ってのは、どういうものだってデンデに聞いたの?」
「結婚した夫婦が必ずする旅行だと・・・」
「な、なるほど。でも別に必ずじゃないよ?ピッコロがそういうのあんまり好きそうじゃないし、私達って旅行なんかしなくても行きたい場所ひとっ飛びだし・・・」
正直、気にしたことなかったのだ。
そういう風習が地球にあるってのは知ってたけど、ピッコロはそういうの好きじゃないと思ってたから。
「・・・・でもピッコロ、そういうの好きじゃないでしょ?」
今まで散々私とのデートを断って修行するぐらいの人だ。
旅行が好きとは、思えない。
「好きじゃないな」
そして気を使うこと無くばっさり言われて肩を落とす。
「なら別にいいよ・・・今までしてなかったんだし!」
「だが・・・」
「そんなに行きたい場所もないよ、私」
「そうなのか?」
「え、な、なんでそんな悲しそうなの・・・」
ピッコロがこういう話題で食い下がらないのは殆ど無い。
さすがに違和感を感じた私は、数秒間で頭をフル回転させた。
新婚旅行なんて、そんな時期じゃない。
だって私達結婚してもう・・・2桁いってるわけだし。
となると、ピッコロがしたいのは新婚旅行じゃなくて。
ふと思いついた考えに、私は魔法で浮かべた時計を見る。
「(そういえば・・・)」
そろそろ、私の誕生日だっけ。
なるほど。
そういうことか。
「ピッコロ、やっぱ行きたい場所あります!」
「・・・?どこだ?」
ぶっきらぼうに答えるピッコロの口元が、少し緩んだのを見た。
「ピッコロが生まれた場所」
「は?」
「あ、ナメック星じゃないよ?ピッコロが卵から生まれた場所と、悟飯と修行してた場所に行きたいなー!!」
「・・・・なんでそんな所に行きたいんだ」
「私が知らないピッコロがいるじゃん、そこには」
私が記憶だけでしか見たことのないピッコロ。
そのピッコロが居た場所、生まれた場所。
私の言葉を聞いたピッコロが、意外そうな表情で頭を撫でた。
「珍しい言葉だな、お前にしては」
「え、そうかな?私かなーーり独占欲強いけど!」
「お前はあまりそういうのを表に出さないからな・・・」
「ピッコロは出しすぎなんですー」
「フッ・・・本当にそんなところでいいんだな?」
くしゃくしゃっとしてから頭から手が離れる。
気にせず私はパラソルや椅子を魔法で片付け、すぐさま旅行の準備を始めた。
といっても、ほとんどのものを現地で出せるからいらないんだけど。
これだけは持って行こうと、魔法で部屋からカプセル箱を呼び出した。
「ナイスキャッチー」
飛んできたホイポイカプセルの箱を片手で受け取る。
ピッコロはその箱を見て、不思議そうに首を傾げた。
「お前、カプセルなんかいるのか?」
「旅行なんだから、少しは雰囲気味わいたいでしょ?これ、ブルマから結婚式で貰った旅行用カプセルなんだー!中身入り!」
「・・・・本当に大丈夫なんだろうな、それは」
「え・・・・な、中身は、ちゃんと確認してないけど・・・・」
ぐっと握りしめたカプセル箱を一度開く。
そこには赤や青のラベルがついたカプセルが5個ぐらい並んでいた。
”もし二人で遠出とかする時があったら使ってね”って言われて渡されたカプセル。
変なものは入ってないと思い、たい。
「ま、だ、大丈夫!」
「そうか。なら、行くか?」
「・・・うん!」
伸ばされた手を取って。
私達の、”新婚旅行”が始まった。
生い茂った森の中。
すぐ傍には荒野が広がるそこは、ピッコロの生まれた場所。
記憶の中で見た光景が、今、目の前にある。
水はあまり美味しくなさそうだったけど、空気は綺麗だった。
ピッコロの隣を歩きながら、ゆっくりと深く息を吸う。
「んー、意外とのんびりしてる場所なんだね」
「・・・そんなにここに居たわけじゃないからな、あんまり覚えていない」
「そっか~」
小さいころのピッコロを見てみたかった。
記憶上では見てるけど、でもそれはあくまでピッコロの”記憶”
小さい頃もあったみたいだから、それを見たかったなぁ。
だってこのピッコロの小さいころだよ?
絶対カワイイよ。というかレア・・・
「っぶふ!?」
余計なこと考えてたら前を歩くピッコロの背中に顔をぶつけた。
い、いつの間に前に。
なんて言う暇もなく、ものすごい顔で睨まれる。
「余計なことを考えるな」
「ったいなー。すーぐ暴力に走るんだからそうやって・・・」
顔面を押さえながらピッコロを手を掴んだ。
掴まれたピッコロは文句も言わず、私の手を握り返して歩を進める。
「・・・こんな風になっていたのか」
「ココらへんは覚えないの?」
「すぐに別のところへ行ったからな。ここの水はあまり美味しくない」
「だと思った」
目に入る水は、透明感はあるもののさほど美味しそうには見えない。
最初はそんなの分からなかったんだけど。
ピッコロと居る内に、水の美味しさってのが少しだけ分かってきた。
「フッ・・・まだ見て回るのか?」
川の周りをキョロキョロしながら歩く私を見て、ピッコロが笑いながら尋ねた。
「うん、もう少しだけ!」
私はそう言ってピッコロから手を離す。
この場所、この風景。
この音の感じ。
間違いなく、ピッコロが一番最初に落ちた場所に近いところだ。
私はそこをじっくり観察する。
「(ここが、ピッコロの生まれた場所・・・・)」
さすがに卵の殻とかは、ないか。
あったら欲しかったんだけどな。
「あるわけないだろうが」
「えー?」
「大体、あったらどうするつもりだ」
心を読んだピッコロが、またもや凄い顔で私を見下ろした。
小鳥のさえずりが強い風に乗って私達の耳をくすぐる。
「んー、保存・・・かな?」
「おいまて」
「え?」
「保存だと?お前、俺が生まれた卵を保存してどうするつもりだ・・・!!」
「た・・・宝物にします」
「やめろ、気持ち悪い」
「酷い!」
「気持ち悪だろうがどう考えても」
「ひっどいなー・・・もういいです」
拗ねて前を歩き出せば、ピッコロがクツクツと笑いながら喉を鳴らす。
からかわれたと気づいても、私はピッコロの方を向いてやらなかった。
そうすればピッコロが頭を撫でてゴキゲンを取ろうとするのを知っているから。
ぽん、と。優しく乗せられた手に、自分の手を重ねる。
「拗ねるな」
「反省してるなら早く次の場所連れてって」
「慌てなくても、旅行なんだろう?」
「だってもう見終わっちゃったじゃん!」
「ったく・・・仕方ないな」
重ねた手を掴まれて。
ぐんっと身体が上昇する感覚に、私は目を閉じた。
旅行2カ所目。
ピッコロに抱きかかえられて連れて来られた場所は、そう。
「懐かしいな」
ピッコロと悟飯が1年修行した、孤島。
「ここが・・・そうなんだ」
正直、私が一番嫉妬してるのは悟飯だった。
もちろんそれは女としての嫉妬じゃない。
”弟子”としての、嫉妬。
私は大事にされてるだろう、彼に、誰よりも。
でも満たされないことがある。
悟飯とピッコロの間にある絆は、私とピッコロの間にあるそれとは違う。
「最初はどこらへんで修行してたの?」
「あぁ、最初はここの・・・・」
別にそれを壊したいわけじゃない。
それを超える何かを、得たいわけじゃない。
ただ、嫉妬と同時に感謝してるんだ。
今のピッコロを作ったのは、まだ魔族に染まっていた彼に接した悟飯なのだと。
分かってる。
だからこその、嫉妬。
「(私って、ほんと・・・意外っていうより、かなり嫉妬深かったんだなぁ)」
ピッコロの案内を聞きながら、ぼんやりとそんなことを考えた。
近づけば近づくほど飽きると思ってたのに。
今でもまだ、深く強くピッコロがほしいと思ってしまう。
愛にこだわらず、全部欲しい。
信頼も師弟としての絆も。
欲張り。
「っわ、これ、傷跡残してるんじゃないんですかー?」
わざとらしく地面の傷に反応してみせる。
下が森になっている崖の上には、昔のピッコロ達が残したであろう傷跡が残っていた。
崩れた地面。
不自然に砕け散った岩の数々。
確実に、彼らが犯人だ。
「・・・どうせ誰も住んでないんだ」
「ごまかした!まぁ、確かに動物の気配もあんまり感じないね。恐竜ぐらい?」
途中、恐竜の骨とかあったのを思い出した。
あれももしかして、彼らの犠牲者かな?
彼らっていうか、悟飯だろう。
「んにしても、こんなところで修行してたあの子が、今ではあんな強くなっちゃうなんてね」
私が倒れた後セルを倒したのは彼だ。
そして魔人ブゥを一時的に押したのも、彼。
私の言葉に、隣に立ったピッコロがゆっくりと頷いた。
その表情はとても柔らかくて――――何故か悔しくなる。
「欲張り、だなぁ」
「ん?」
「なんでもなーい!」
誤魔化すように笑いながら伸びをした。
傷跡残る崖の上から、お世辞にも綺麗とは言えない森を見下ろす。
そういえばここ、私も見た記憶に残ってる。
確かピッコロと悟飯が実践練習をしてた場所だ。
この崖から舞空術を使えない悟飯がピッコロの攻撃で突き落とされて・・・。
必死に登ろうとしてた悟飯の姿が記憶に浮かぶ。
「・・・・」
これ以上何を望んでいるんだろう、私は。
まだ足りないと叫ぶ心は、さすが悪魔というべきか。
強欲、なんだ。
私はそれを振り払うため、魔法で自分の服をピッコロと同じ胴着に変えた。
「よっし!ピッコロ!」
「何だ?」
「修行、お願いしますっ」
少しでも自分を満たすため。
邪な考えを、消し去るため。
「修行だと?ここでか?」
「いいじゃん。第二号の弟子の私にも、ここで修行してよ!」
彼の記憶に、少しでも干渉するため。
私が味わえなかった部分を、味わうために。
拳を構えた私を見て本気だと知ったピッコロが、キッと表情を切り替えた。
師匠としての彼の鋭い目が私を睨む。
「手加減はせんぞ、いいな」
「もちろん!・・・お願いします!」
声と同時に始まる戦闘。
いつも使う魔法や舞空術は封印して。
出来るだけ記憶の中の彼になりきって戦う。
撃ちだされた拳を右手で受け止め、反撃で足払いを掛けてみる。
もちろん、通用しない。
全部今更って感じで分かってるけど、それでも。
一つ一つの攻撃を丁寧に受け止めていく。
「お前にしては珍しい・・・戦い方だなっ!」
「っぅ、わ!?」
後ろに崖があることを忘れていた私は、受け止めた拳に押されてバランスを崩して落ちかけた。
ギリギリのところで踏ん張る私をあざ笑う彼の笑み。
ああ、きっと悟飯もああいう笑みにいじめられたんだろう。
羨ましいよりも、かわいそうっていうのが正直な気持ち。
「悪いけど、こんなんでやられるほど・・・・私は弱くないっ!」
「俺もお前をそんな弱いやつに鍛えたつもりはないぞ!!」
初心に戻ったようだった。
舞空術も魔法も使わない戦い。
最近は本気で強くなることだけを考えてたから、全力で戦うことが多かったし。
新鮮な感じに、思わず笑みが零れる。
飛んできた気弾を器用に避けたところで、目の前に飛び込んできたピッコロに反応が遅れた。
「っ・・・!!!」
「動きを制限すると途端に戦術が少なくなるのは・・・お前の悪いところだ」
「あ、ちょ!?それはまず・・・・っ」
ガクンッと身体が落ちる。
文字通り、落ちてます、うん。
攻撃を隙を取られて崖の下に落とされた私は、静かに受け身を取って衝撃を和らげた。
上を見上げれば、お師匠様が楽しそうに私を見下ろしてる。
「のやろ~。落とすなんて酷いぞ!」
「攻撃に集中しすぎて足元がお留守なのが悪い」
「ったく」
おしりに着いた埃を払う。
そして崖の上をもう一度見上げた。
さて、と。
舞空術は使いたくないし、ここは一気に駆け上がるしかないか。
そう思って崖に手を掛けた瞬間。
「っい!?」
ピシュッ!と鋭い音を立てて私の手元が崩れ落ちた。
慌てて手を退かし、その場から離れる。
「どうした?」
犯人はもちろんお師匠様だ。
崖の上で、私を見下ろしながら手を突き出してる。
確実に狙い撃つ気満々ですね。
そう思いながら崖に手をかけると、予想通りその場所を狙って飛んでくる気弾。
「手が飛んだらどうすんの!!」
叫びながら必死に色んな場所へ飛び移り、なんとか上を目指す。
「さっさと上がって来い!!お前の力でな!!」
「邪魔するやつがかっこつけて言うな!!」
「このぐらい避けて上がれないでどうする?」
「楽しむなーーー!!」
登ったら絶対一発ぶん殴ってやるんだから。
それだけを目標に何とかよじ登り、ピッコロの真上に飛び上がる。
「っしゃー!!登り切ったぞ!!覚悟・・・・うあぁあああ!?」
勢いで飛び上がっていた私の腹部に、一撃の大きな気弾が撃ち込まれた。
さすが容赦無い。
また崖の下に逆戻りした私は、また同じことを繰り返すはめになった。
「ちょっと調子に乗っただけじゃんか!!ケチ!!鬼!」
「さっさと上がってこい」
「んのやろ~~~~!!!!」
結局、そんなことの繰り返しで私達の修行は夜まで続いた。
少しだけ、心が満たされた。
悟飯と同じ場所で、修行が出来たからなんていう・・・単純な理由で。
夕日が落ちてきた。
辺りが暗闇に包まれて、誰も住んでいない孤島は真っ暗闇に包まれる。
でも何の光も無いから星が綺麗だった。
私は星を見上げながら、広い荒野の中心で足を止める。
「どうするんだ?これから」
「こういう時にカプセルですよ、うん」
旅行カプセルセット、と言われてたものをポケットから取り出した。
大体の案内は受けてる。
赤色のラベルが生活用具系で、一つだけ入ってる緑のラベルがカプセルハウスだったかな。
「これだ」
緑のラベルを見つけた私は、それを取り出してカプセルを開放した。
ポン!と大きな音と共に、何も無かった土地に大きな家が立つ。
「ほう」
「カプセルハウスだ!!かなり最新式のだよこれ・・・!」
「よく知ってるな」
「うん、少しだけブルマの仕事手伝ったときとかに見せてもらったんだ!!早く入ろ!!」
いつもとは違う部屋。
それだけで少しテンションが上がってしまうのは、まだ子供なのだろうか。
部屋に入った私達は、ガラに無く息を呑んだ。
どこの高級ホテルだってレベルの豪華な部屋が、目の前に広がっていたのだ。
「すご・・・・」
天蓋付きのダブルベッド。
薄暗い部屋を照らすプラネタリウムのような照明。
奥に続く大きな廊下。
無駄なものが無い代わりに、統一感のある。
「よし、お風呂いこ!!」
「お、おい!?引っ張るな・・・!!」
奥に続く廊下を、ピッコロを引っ張りながら走った。
目の前にある大きなすりガラスの扉を開ければ、広がったのはこれまた大きなバスルーム。
全面大理石なんじゃないかっていうぐらいピカピカの床と壁。
ぼこぼこと泡が立っているお風呂は、どうやらジャグジーというものが付いているようだ。
「ピッコロ!ほら、入ろう?」
「な・・・・」
「・・・・っい、いいじゃん、たまには」
付き合い始めは一緒に入っていたが、実はあまりお風呂は一緒に入らない。
何故かって?
だって明るいでしょ?
ピッコロはあまり気にしてないようだが、私は気にするのだ。
明るい場所で、自分の裸を見られるのは。
でもこんなお風呂、一緒に入る機会はもうほとんどない。
私の誘いを聞いたピッコロは、少し嬉しそうに笑って魔術で服を消した。
「ッ・・・・」
慌てて、目を逸らす。
そして自分も魔法で服を消し、同時にバスタオルを出して身体に巻いた。
「邪魔だろう、それは」
「う、うるさいな。洗うときは外すよっ」
頭からシャワーをかぶって。
私は恥ずかしさを誤魔化すために、そのまま湯船に沈んだ。
ジャグジーの心地よい感覚が、疲れた身体をほぐしていく。
身体を洗っているピッコロの方をチラリと見れば、あまり明るい場所では見ないたくましい身体が目に入った。
「っ・・・・」
見ては、いけないと思うんだけど。
目は自然とそれを追ってしまう。
人間とは違う肌の色。
模様。
それすらも綺麗だと、私は素直にそう思った。
たくましい筋肉質な身体が、ドキリとさせる。
身体が熱いのは、お湯のせいだろうか?
それとも。
「どうした?顔が赤いぞ」
「気のせい」
「フッ・・・そうか」
あの体がいつも私を抱きしめてくれる。
あの強い腕が、いつも私を守ってくれる。
そう思うとニヤけちゃうのは、まだまだ私も乙女のようだ。
「ふふ」
「なんだ、いきなり笑いやがって」
「心底気持ち悪そうに見ないでよ・・・」
「いるまでそうしてるつもりだ?」
「へ?」
「早く来い」
ピッコロの前に小さな椅子が置かれる。
そしてそこをポンポンと叩いているのを見る限り、そこに座れということなのだろうが。
「え、い、いいよ、自分で洗う」
座るということは、まぁ、そういうことだろう。
明るい場所で身体を見られるのは、たとえ毎日身体を見られる関係だとしても恥ずかしい。
私は思いっきり首を横に振って拒否したが、ピッコロは私を誘導するように見続けている。
「ゆえ」
「う、い、いいから・・・・」
「ゆえ、来い」
従う必要のない命令。
なのに身体はそれに従うのだ。
ふらふらと立ち上がってピッコロの前に置かれた椅子に座る。
それを見たピッコロが満足そうに笑い、私の背中に石鹸を付けた。
「痛くないか?」
「ん、だいじょーぶ!!」
ま、たまにはこういうのも悪くないのかもしれない。
せっかくのピッコロの優しさを受けて、ピッコロに身体を預ける。
「へへー、心地良い」
「そうか・・・お前の背中は小さいな」
「ピッコロに比べたら大体の人が小さいと思うよ?」
「それもそうだな」
暖かいお湯が私の背中を流した。
同時に立ち上がろうとした私は、何故かピッコロに腕を掴まれてまた座らされる。
「え、な、なに!?」
「まだ終わってないだろう?」
「どういう・・・・ちょっと!!セクハラだーーーっ!!!」
迷いなく前に回ってきた手。
大暴れしても、後ろから抱きかかえられて動けない。
魔法でふっ飛ばしてやろうかと思ったが、このハウスが貰い物だったことを思い出して止めた。
「っ~~!!前は自分で洗うからっ!!」
「別に良いだろう?」
「良くないです!!」
「おとなしくしてろ」
「うぐ・・・・」
回ってきた手が、私の身体に泡をつけていく。
腰から徐々に上へ滑っていく手がくすぐったい。
い、いや、これはただ洗ってもらってるだけだから。
目を瞑ってただそう思うことにしたが、手がわざとらしく胸の先端を撫でた時に身体が跳ねた。
「っぁ」
思わず出てしまう声。
やっぱり逃げようともがくが、ピッコロの手はその動きを続ける。
泡のせいだろうか、いつもより鋭い快感が身体を襲った。
このままじゃ、というかもう・・・身体がいうことを効かない。
「は、ぅ・・・」
「なんでここで修行したかったんだ?それもその、独占欲ってやつか・・・・?」
「んっ!そうだよ・・・」
「いつも俺ばかりがそういう感情をむき出しにしていると思ったからな・・・お前のそういうのは貴重だろう?」
「そ、そうかな・・・ん」
「だが、何の独占欲だ?まさか悟飯に嫉妬したわけではあるまい」
「っ・・・その、まさかだったら、どうすんのさ?」
4本の指がいやらしく私を追い詰める。
こういうことしながら、聞いてくるのズルイ。
「何に嫉妬するんだ?お前と悟飯とは、違うだろう」
「ん、ぁ・・・」
だからこそ、なのだ。
彼には、彼とピッコロの間にしかない絆がある。
別にそれを壊したいとか、奪いたいとかそんなことは思わない。
ただそれが出来た過程を、私も味わいたいなって思っただけで。
嫉妬と呼ぶものなのかも分からない。
「可愛い独占欲だなぁ?」
からかうような声に、ちょっとむっとする。
「か、可愛いかどうかは分からないよ?私だって悪魔だからね、ばりっばり独占欲あるんだから!油断してると食べちゃうよ?」
ガオー!とオオカミが食べるマネをしてみせた。
もちろん、ピッコロはただ笑うだけ。
「ククッ・・・俺からすれば可愛いな。俺が思ってる独占欲や嫉妬はもっとドロドロとした汚い感情だ」
「っは・・・!も、ちょっと、触んなバカっ・・・」
「俺はお前が昔契約した奴らを全員殺してやりたいぐらいだ」
「過去の契約者は、みんな、死んでるけどね・・・っ?」
「俺が知らないお前と、契約していたことが気に喰わないんだ・・・分かるだろう?」
「も、ゃ・・・」
喋ってる間も止まらない手は、隙をついて下に滑り込んだ。
いやらしい水音が嫌でも私の耳に響く。
恥ずかしくて、死んでしまいそうだ。
「なんだかんだ言いながら濡れてるな・・・?」
「ね、やだ、ピッコロ・・・!」
「こんな状態なのにか?」
「違う・・・の、その・・・・」
ピッコロの手を軽く掴む。
ゆるゆると私の泉の周りを撫でる手が、どんどん思考を奪っていく。
「ここじゃ、やだ・・・」
「何でだ?」
「明るいから・・・・」
「そんなの今更だろうが・・・・」
「んんっ!!や、やだ、お願っ・・・・」
「そう言われるとますます止めたくなくなるな?」
意地悪な手が私の中に一本入っていった。
中の壁を優しくこするように動くそれは、私の身体を知り尽くした動き。
逆らえない。
霞む視界の中、改めて前を見た私は、湯気の中から見えた”それ”に抵抗を強めた。
「あ、こらピッコロ!!ほんと、ベッドでしよ・・・!?」
「それが逆に俺を煽ってるってことを知るんだな・・・」
「やだ・・・っ!」
「ククッ・・・今日はやたら抵抗するな?そんなに明るいのが恥ずかしいのか。それとも・・・」
ピッコロの手が私の足を掴み、広げる。
そのまま片方の足をピッコロの足に、もう片方の足を手で固定された。
そしてピッコロの空いた手が、私の頭を掴んで正面を向かせる。
ーーーーまさか。
「この鏡が、気になるのか?」
このやろう、分かってて・・・!
文句を言おうにも、与えられた羞恥に何も言えなくなる。
鏡に映る、乱れた私の姿。
後ろから覗きこむように私をいじめている彼は、意地悪な笑みを浮かべていた。
「っは、ぁ・・・!!」
「気持ちよさそうだな?」
「やだ・・・!ね、ピッコロ・・・っ」
「駄目だ」
「あぁあぁ・・・っ!ひ、ぅっ」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
快楽と。
羞恥で。
「ひぁ、あ、ね、だめ・・・っ」
「おとなしく感じてろ」
「んっ・・・!あぁあ、や、ぁぁ・・・」
この愛を受けれるのは私だけなのだと思うと、それでまた快楽が増す。
お風呂の暑さと、自分の暑さで視界がぐらぐらしてきた。
「ピッコロ・・・な、なんか、くらくらするっ・・・・」
「・・・・チッ。のぼせてきたか・・・」
残念そうなピッコロの声と同時に、2本目の指が私の中に入ってくる。
てっきり止めてもらえると思っていた私は、その衝撃にびくっと身体をしならせた。
「あぁあっ!」
「一回いけ」
「やだ、ぁ、見ないで・・・っ」
「無理な相談だな?ほら、お前もちゃんと前を向いておけよ・・・」
無理やり前を向かされて。
中に埋められた指の動きが、私を追い詰めていく。
迫り来る何か。
どうでもよくなっていく感覚。
「あ、や、だめ、いっちゃ・・・ひゃぁあっ・・・・!!!」
強い快楽が私の身体を包み、次には強い脱力感が私を襲った。
「はぁっ・・・・はぁっ・・・!」
「のぼせる前に上がるぞ」
「誰のせいで、のぼせかけたと思ってんの・・・!!」
そう言いながらも、私はピッコロの首に手を回す。
「つれてってー」
「・・・・重い」
「んー、ピッコロ冷たくて気持ちいい~」
「ったく・・・」
文句を言いながらもピッコロは私を魔術で乾かしてベッドに運んでってくれた。
もちろん、それだけじゃ済まないのは分かってる。
私をベッドに下ろすのと同時に覆いかぶさってくるピッコロの身体。
電気がつけられたままの明るい部屋で、ピッコロの身体がくっきりと私の目に映る。
「かっこいいんだからむかつく・・・」
「何だそれは・・・」
「なんでもないですっ」
子供のように拗ねる私を、ピッコロの手が優しく撫でた。
「こっちを向け」
「・・・・ん」
向いた瞬間に貪るような口付けが降ってくる。
息すらさせてもらえない口付け。
逃げようとしてもピッコロの長い舌が私の舌を追いかける。
吸われるだけでも身体が震えた。
ピッコロに触れられる場所が全部熱い。
「っは・・・」
「・・・・今度は、お前が・・・してくれないか?」
ピッコロからそう言ってくるのはわりと珍しい。
私はピッコロが促すまま、彼の欲望の方に頭を向けて彼の上にまたがった。
必然的に私の恥ずかしい場所がピッコロの目の前に晒されることになる。
でももう、ここまで熱に犯されていたら。
身体は勝手に動いてしまう。
好きな人に求められれば、従ってしまう。
「んっぅ・・・」
「っは・・・!」
熱をゆっくりと口の中に咥える。
ピッコロはいつもこれをする時、私を心配する。
人とは違う異型のそれを、何故そんなに愛せるのかと。
関係ないのだ、そんなこと。
「んんっ」
愛して。
「もう、いい。さっさとこっちを向け」
「なんだ・・・余裕、ないじゃん」
「お前もな」
乱れて。
「あぁっ・・・!!!」
「くっ・・・・」
私だけの時間。
それでも足りない。
もっと欲しい。
「ぁ、もっと、ピッコロ・・・っ」
「っは・・・どうした、やけに・・・煽るな・・・?」
「ピッコロ・・・っ!大好き、大好きぃ・・・」
愛を吐き出す行為。
彼にとっては、私が言葉で愛を伝えるのと同じこと。
打ち付けられる腰が。
与えられる快感が。
全て、彼の、不器用な愛。
「ぁっ・・・ピッコロ、ずっと、永遠に、私は・・・」
好きだ。
大好きだ。
その全てが欲しいぐらいに。
人間とは違うその体も。
鋭い爪も。
赤い瞳も。
魔族としての運命も全て。
「全部、好き・・・・っ」
きっと彼は私の心を読んでるだろう。
何も言わず、ただ快楽に溺れた。
だから私もただ快楽に溺れて、心の中で呟いた。
愛と、お礼を。
「”生まれて幸せだよ、ピッコロが・・・いるから”」
旅行2日目。
私達は景色が綺麗なことで有名な南の島に来ていた。
ここを経由して、神殿に帰るのだ。
「っはー!海ほとんど透明じゃん!綺麗ーー!!」
「凄いな・・・」
「あれだけ透明度高いと飲めそうだよね」
「しょっぱいだけだ」
「分かってます!!」
暑い日差しから守ってくれるピッコロのマント。
それを掴みながら、南の島をゆっくり一周する。
「・・・ありがとう、ピッコロ」
ピッコロの方は向かないでお礼を言った。
ちょっと、照れくさかったから。
「私、ずっと・・・ピッコロの傍にいるね」
「・・・あぁ」
「どっこまででもついていくからねっ」
「・・・・望むところだ。俺がどこへいこうと、お前はついてこい」
それ。
「ずる、い」
顔が赤くなってるの、見られてないかな?
なんて思ってると、彼は意地悪だから。
「丸見えだ」
そう言って私の顔を掴んで、口付けた。
あぁ、もう。
毎日が誕生日ならいいのに。
そう思えるほど、幸せな旅行を過ごした。
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