いらっしゃいませ!
名前変更所
ブルマの誕生日パーティが再開されたのは夕日が沈みきった後のことだった。
月明かりが照らす水辺で、私とピッコロは少しだけワインを楽しむ。
私達の横では悟空とベジータが”超サイヤ人ゴッド”のことで何やら揉めていた。
それを見ているブルマの表情が優しげで、思わず私達も表情を緩める。
「おい!!次はこの俺がゴッドになるんだ。その時は協力しろよカカロット」
「わかってるって!!でも無理して強くなってっから、あとでくたびれっぞー?」
そう言いながら頭をかいていた悟空が、あ!と声を上げてニマニマと笑い始めた。
「そういやベジータ、おめぇ、ブルマが殴られた時に”俺のブルマー!”って言ってすんごいサイヤ人になってたなぁ?」
あーあ、からかっちゃってるよ。
悟空の言葉にベジータの表情が赤く染まる。
本人は隠すつもりで顔を背けたようだが、耳まで真っ赤じゃ意味もなかった。
「愛を感じたわよ、ベジータぁ」
「そ、そんなこと言った覚えはないッ!!」
なんて言いつつ。
「だが・・・・あの時は、確実に、貴様を越えたと思うぞ!!」
「あぁ、そうだな!!」
「チッ・・・!」
しっかりブルマへの愛を見せたベジータが、純粋な悟空の返事を聞いて舌打ちした。
それを見て、素直じゃないなぁと笑ってしまう。
するとそれに気づいたベジータが私をキッと睨んで、それからニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
「おいゆえ」
「はいはい?」
「貴様笑っているが、ビルスに無茶無謀に突っ込んでったのはどこのどいつだっただろうなぁ?」
「ッ・・・・」
「ピッコロが殴られた時の貴様の表情、見たことない表情をしてやがったぜ」
「っさいな!!!そ、そりゃ、仲間がやられたら誰だってそうなるでしょ!!」
「ほう?18号達もやられていた時はまだおとなしかったが?」
「そ・・・・っ、それは、旦那さんが、やられたら、そりゃ・・・・」
恥ずかしがったら負けだ。
分かってるのに、言葉は上手く続かない。
後ろでピッコロが笑っているのが聞こえる。
ひ、人事だと思いやがって。
「これからヤバイ奴が出たら、ブルマとピッコロを叩いて貰えばいいな!」
この空気をからかいの言葉で壊した悟空に、ブルマが手を上げる。
「ちょっと!!孫君ッ!!」
「いだっ!!??」
バチーン!!といい音が響いた。
ブルマが一発、悟空の頬にビンタをかましたのだ。
にしても、いい音。
それを目の前で見ていた私は、痛そうすぎて自分の頬を押さえてしまった。
「うっわ、容赦無い・・・」
「・・・・おい悟空。貴様、ベジータとゆえがそうなった時、ここにはいなかったはずだが?」
ピッコロの言葉に皆が顔を見合わせる。
あれ、確かに言われてみれば。
悟空が来たのって、皆がやられて私が本気をだす寸前だったよね?
「お前、瞬間移動で来ていて様子を見てたんだな?」
「なにぃ!?悟空お前、皆がやられてるときに~~!!」
「ひー!!悪かったって!!」
ウーロンが悟空の頭に噛み付く。
ベジータもブルマにビンタをするように命令し、また悟空の頬にビンタが打ち込まれた。
神と対等に戦った戦士が、今ではビンタにボロボロだ。
「あ、そういやよ、ゆえ」
ビンタを受け終わった悟空が頬を押さえながら私を見上げる。
「ん?」
「オラ、おめぇにおねげぇがあるんだ!」
「断る」
一瞬で断った。
あまりの早さに、ブルマとピッコロが驚いた表情を浮かべる。
当たり前だ。
言われなくても、だいたい分かる。
何を言おうとしてるのか。
「ちょ、聞くだけでも聞いてくれよぉ!?」
「やーだ」
「まだ何も言ってないだろ~・・・」
「何言おうとしてるのか分かるからやだ」
戦闘バカの考える事なんて分かるでしょ?
逃げるようにピッコロの背中に隠れれば、ピッコロが呆れたようにため息を吐く。
ピッコロも悟空が何を望んでいるのか分かっているんだろう。
「諦めろ。たとえここで断っても毎日来るぞ、こいつのことだからな」
「もうそれ一種のストーカーだよ」
「分かってんなら話が早い!オラと修行「いやだ」」
「ハッ・・・貴様では修行にならないからだろ。この俺と修行を「断る」」
「・・・・貴様、殺されたいのか・・・?」
胸ぐらを掴んできそうなベジータを、魔法でなんとか押さえ込んだ。
悟空とベジータはそのまま私を放置して、喧嘩しながら私とを取り合おうとしてる。
これが良い意味での取り合いなら、世の中の女性は悲鳴を上げるぐらい嬉しいんだろうけど。
取り合いの理由が”修行”じゃなければ。
しかもその修業が、”天使化”を望んでなければ。
「貴様!!この俺とも修行が出来ないとはどういうことだ!?」
「どういうことも何もないよ。ぜ~~ったい嫌!」
「オラ達じゃ満足できないっちゅうことか?」
「そーじゃない!戦いたくないってだけ!どうせ天使化で戦えって言うんでしょ?」
「そのとおりだ。その状態じゃ満足な修行にはならんだろうが」
「っ・・・・・とう」
「ッ!?」
一瞬で隙を付いてデコピンした。
その勢いに飛ばされ、ベジータが地面にめり込む。
「あーあ、そんなのでそういうこと言っちゃう?出なおしてきてくださーい」
からかうように言えば、ゆっくりと起き上がったベジータが戦闘モードで腕を鳴らした。
あ、これ。
完全に逆効果。
「まずはその状態の貴様を超えればいいってわけか?」
「いや絶対にしません。そうなるから絶対にしません!!!」
「待ってくれよ!オラも参加する!」
「だから修行はしないってばーー!!」
逃げるように離れた私を、追いかけてくる二人。
ピッコロとベジータは呆れた様子で見守るだけだ。
やれやれ、じゃないよ。
助けてよ。
「ちょ、ピッコロ!!助けて!!」
「めんどくさいことに巻き込むな」
「めんど・・・!?自分の妻を見捨てるのかこのやろー!!ブルマ!この戦闘馬鹿旦那どうにかしてよ!?」
「そんなもんよサイヤ人は。あーあ、まったくもう」
「まったくもうじゃないって!!」
バチッ!と電気が弾けるような音がして。
恐る恐る後ろを振り向けば、ベジータと悟空が金色の光に包まれて戦闘モードになっていた。
あぁ、これは。
「に、逃げるが、勝ちっていう言葉があるわけですよ・・・・ねっ!」
「!!待ちやがれ!!」
「待ってくれよーー!!」
持っていたワインを預けてその場から飛び上がった。
もちろん、二人も追いかけるように着いてくる。
「カカロット。先にあいつを捕まえたほうが修行だ、いいな?」
「よっしゃ、やってやるぜ!」
「勝手に勝負すんな!!だーーもう!!」
散々なパーティだ。
としか言えないまま、私はその場から逃げ出した。
「よく振り切ったな」
「魔法で気配を隠すなんて、よ、よゆー、ですね・・・はぁ」
「その割には疲れてるみたいだがな」
「そりゃ疲れるでしょ・・・アイツらの視界から消えるのに苦労するんだってば・・・・」
いつもの我が家、神殿。
なんとか二人を振りきって逃げてきた私は、水を持ったピッコロに迎えられた。
神殿の床にごろんと寝転がる。
暑い身体に冷たい床の感触が心地よい。
「っつかれたー」
「いい修行になったな」
「うわここにも居たよ、修行馬鹿・・・あだっ!?」
突然頭に痛みが走り、咄嗟にピッコロの方を向くがピッコロは涼しい顔をしていた。
は、犯人はアイツしかいないのに・・・!
でももう体力的にくたくたな私は、寝転がったままピッコロを見上げて手を伸ばした。
「・・・・なんだ」
「抱っこ」
「は?」
「部屋まで連れてってよピッコロ~!」
「チッ・・・・」
「およ」
自分で歩け!と蹴られると思ってたけど。
伸ばした手はゆっくりと掴まれ、そのまま抱き上げられた。
お姫様抱っこで優しく。
向かう先は私達の部屋。
「・・・・身体は、大丈夫なのか」
「え?つ、つかれただけだよ?」
突然真剣に聞かれて声が裏返る。
「あんなに天使化していたのは今まで無いだろう」
「あ、そ、そっちね」
「心配させるな」
「ごめん・・・でも、地球が壊されちゃうよりいいでしょ?」
「そうだが・・・俺にとっては同じぐらいお前が大事だ」
さらりと言われた恥ずかしい言葉。
じんわりと顔が熱くなるのを感じて、思わずピッコロの胸元に顔を埋めた。
「フッ・・・どうした?」
「なんでもないです・・・」
「顔を上げろ」
「や、やだよ」
「上げろ」
さっきの甘い言葉とは真逆の命令。
上げたくなかったけど、私は操られるように顔を上げた。
ピッコロの鋭い赤い目に映る、私の顔。
元々赤いから見えにくいはずなのに、それを通してみた私の表情は真っ赤だった。
「真っ赤だな」
「誰かさんのせいです」
「誰のせいだろうな?」
「ピッコロしか居ないでしょうが!!」
「騒ぐな」
「ぶふっ!」
乱暴にベッドに投げ捨てられる。
私はぶつくさ言いながらも魔法で服を寝間着に変え、髪も綺麗に解いた。
ピッコロは私の髪をすごく愛おしそうに見つめる。
ピッコロがそういうのに興味があるとは思えなくて、最初はナメック星人に無い部分だから惹かれるんじゃないかとか冗談言ったりもした。
でも今では、そういうのを思えない。思わせてもらえない。
「・・・・いい香りが残っているな」
パーティ用に付けた整髪剤が残っていたんだろう。
解けた髪先を指に絡めたピッコロが、鼻にそれを近づける。
「ピッコロもいい香り残ってるよ?」
「む?俺はそういうのは何も・・・」
翻弄されてばっかりでムカついたから。
仕返し、した。
ピッコロの言葉が止まる。
当たり前だ。
私が無理やり口付けたんだから。
身長差は舞空術で補って、ね。
「ん・・・・」
固まるピッコロを放置して、唇を離す。
「い、いきなり、何を」
「さっきの仕返しね。あ、顔紫になってますけどー?」
クスクスと。
からかうように笑えば、一気に視界が回った。
背中に感じる、やわらかな感覚。
目の前に感じる――――感じ慣れた重み。
「お、おやすみなさい」
「寝かせると思うか?」
「今日はちょっと疲れちゃったなー?天使化もしたし、うん、疲れた!」
「ならその疲れすら感じさせなくしてやる」
「たんま!!ちょ、ピッコ――――」
こうやって私達の非日常が更けていく。
数時間前の戦いなんて、まるで夢だったかのように。
願わくばもう二度と来ないでほしいと思うのみだ。
まぁどうせそれは、叶わない願いなんだろう。
悟空やベジータが居る限り、また何かが起きそうな気がするのは・・・私だけじゃないはずだ。
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