いらっしゃいませ!
名前変更所
欲とは厄介なものだと、毎回思う。
強くなりたいという欲。
支配したいという欲。
だが、そんなものはまだ生ぬるい。
人間特有の、この欲からすれば。
「・・・チッ」
元々は知らなかった欲。
それは時折、牙を向いて俺を狂わせる。
熱を帯びる体に、もう一度苛立ちを吐き出した。
「・・・くそ」
神殿には今、魔人ブゥから逃げてきた数人が避難している。
こんな非常事態に普段通りの生活が送れるはずもなく、俺とゆえは別々の部屋になっていた。
仕方ない。
神殿は元々、神とその付き人だけが足を踏み入れる場所だ。
そんなに部屋があるわけじゃない。
分かっていたことだ、だが。
「っ・・・・」
一度欲を覚えた身体は、治まることを知らない。
意識するほどそこは熱を帯びていき、俺から思考を奪っていく。
だからといって、この熱を解放する方法など一つしか知らない。
――――触れたい、アイツに。
吐息が漏れる。
ゆえは今、部屋が少ないからという理由でブルマや18号と共に寝ているだろう。
「・・・・・寝るか」
そんなアイツを呼び出せば、他のやつに何を言われるかわかったものじゃない。
しょうがなく我慢することに決めた俺は、熱を冷ますように冷たいベッドに身体を預けた。
この体は、本当に厄介だな。
今まで無かった欲を平然と植え付け、狂わせやがる。
「・・・・」
目を瞑ると更に熱が気になり始めた。
前にアイツとバラバラに寝た時、アイツが一人で俺の名前を呼びながらしていたのを思い出す。
アイツも、こんな気分で。
こんな熱に襲われて――――。
「ッ」
考えたらいけないことだったと、考えてから後悔した。
熱がさらに質量を増し、息苦しくさせる。
「・・・・」
寝てしまえば良い。
ねろ。
寝てしまえば。
「ピッコロー、起きてる?」
「っ!?」
寝ることに集中していた俺は、扉の前まで来ていたゆえの気配に気付かなかった。
思わず寝ているフリをしてやり過ごそうとしたが、動揺から揺らいだ気は誤魔化せず。
「あ、起きてるんじゃん、入るねー」
「ま・・・待て・・・!」
俺が起きてることを知ったゆえが扉を開けた。
そしてベッドに寝ている俺を見て、笑いながら近づいてくる。
「寂しくてきちゃった!」
「帰れ」
「うそうそ。いやさ、明日のことでちょっと聞きたいことがあって」
「っ・・・・!」
ベッドが軋む音。
ゆえが俺のベッドに、腰掛けた音だ。
俺は咄嗟に熱がバレないよう、布団を深く被った。
それに違和感を感じたのか、ゆえが話しながら首を傾げる。
「でね・・・・って、大丈夫?なんかぼーっとしてない?」
「大丈夫だ。続けろ」
「・・・・うそだー。疲れてるんでしょ」
「っ!触るな・・・!」
強めに言ったつもりだったがゆえは言うことを聞かず。
ベッドを軋ませながら俺の上にまたがり、おでことおでこを軽くぶつけた。
俺の顔にかかる、黒く綺麗な髪。
鼻をくすぐるゆえの香り。
石鹸の、香り。
「ッ・・・・!!」
くそ、他の奴らがいなければメチャクチャにしてやるのに。
そう思いながら歯を食いしばった俺に、ゆえが妖しい笑みを浮かべた。
「ピッコロ」
「・・・なんだ」
「これ・・・どーしたの?」
「ッ!!!」
布団の上からするり、と。
俺の熱が主張する部分をゆえがなぞった。
それだけで、理性が揺らぐのを感じる。
「っ・・・くそ。やめろ、ゆえ。お前はブルマたちと同じ部屋だろうが。すぐに戻らないと何を言われるか・・・・」
「でも苦しいでしょ?」
「このぐらい・・・大丈夫だ」
「へぇー?」
・・・・少し、ゆえが楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
いつもの仕返しのつもりか?
だがここで大声を出せば、コイツの思う壺だ。
俺はただ静かに息を吐き、もう一度、今度は殺気を出すぐらいの勢いで命令した。
「離れろ、ゆえ。さっさと戻・・・・っぐ!」
言葉が途切れる。
原因はもちろん、コイツだ。
「何しやがる・・・!」
「ほら、静かにして?寝れるようにしてあげるから」
「っ・・・やめ・・・!」
布団を剥いで、俺の道着をそのまま脱がせるゆえ。
外気に晒されたその熱に、俺はゆえを止めることが出来なかった。
なぜなら、その先を少し望んでいたからだ。
彼女が笑いながら俺の熱を咥えるその姿が、更に俺から思考を奪っていく。
「んっ・・・」
「っく、ぁ・・・!!」
ねっとりとした感触。
ためらわず俺を愛そうとする、彼女の苦しげな表情。
思考回路など、崩れるのが当たり前だろう。
こんな欲に慣れてない俺は――――特に、な。
そう言い訳して、俺は彼女の頭を軽く押さえ付けた。
ゆえは苦しげにしながらも、嬉しそうに笑う。
「っん、ぅ」
何故お前は、こんなにも俺を狂わせるんだ?
頭が、おかしくなりそうだ。
気持よくて。
満たされる、感覚。
「っは、ゆえ、もう・・・・」
限界が近くなり、俺はゆえに口を離すよう促した。
「・・・っん、なに?」
「もう、いい。後は・・・」
「っんん」
「っ!!ぁ、ゆえっ・・・お前・・・っ!!」
油断していた俺の熱をもう一度咥え、強く刺激を与える。
そんなゆえの行動に俺は我慢の限界を越えて欲望を全て吐き出してしまった。
苦しそうにそれを含むゆえと、目が合う。
毎回吐きだせと言うのに、アイツはそれを飲み込むんだ。
「っぷは・・・満足したね?」
「ゆえ、お前な・・・!」
「いつぞやのお返し。んじゃ、私は・・・・」
余裕たっぷりに帰ろうとするゆえの姿を見て、俺は違和感に気づいた。
「待て」
「っぬお!?」
ベッドから降りたゆえを引き止め、もう一度自分の身体の上に乗せる。
その時だった。
確かに香ったのだ。
アイツの、欲望の香りが。
俺は思わず口元に笑みを浮かべた。
笑みに気づいたゆえが身体を離そうとするが、許すわけがない。
「いい匂いが、するぞ?」
「ッ・・・・」
俺がやられっぱなしなわけがないだろう?
あぁ、それとも。
こうされたくて・・・来たのか?
「っや、やめ・・・!」
「本当なら楽しみたいところだが・・・お前の同室のやつらにうるさく言われるのも困るしな。俺も早くお前の熱を解放してやる」
「い、いい!いらない!」
「おい、大声を出すな。いいのか?隣には・・・ヤムチャ達がいるぞ」
「ッ・・・・!!!」
俺の言葉にゆえが息を呑む。
そして魔法で防音の術をかけようとする素振りを見せた彼女を、熱の源を探ることで邪魔した。
「っぁ、ピッコロ、待って、防音を・・・!」
「させると思うか?」
「・・・!?な、なんで・・・!」
「お前が声を我慢すれば良い話だろう?」
くちゃり。
イヤラシい音が部屋に響く。
下着だけを魔術で消して直接そこを触れば、大量の蜜が俺の指を汚した。
俺の身体の上で、必死に声を抑えようと震えるゆえが愛おしい。
「んっ、ぁ・・・!」
「どうした?いつもより感じてるのか?」
「ちが・・・」
「ならこれはなんだろうな?」
声は出せないから、必然的に耳元で囁く形になる。
それがゆえにとっては更に地獄なのだと、俺は知っていた。
耳元で話すたび、俺の指を締め付けるそこ。
声だけで感じてくれる彼女の姿が、支配欲を満たす。
「時間がないからな・・・いくぞ?」
「え・・・!?っ―――――!!!!」
まだ俺の意地悪が続くと思っていたのだろう。
早急に熱を突き立てた俺に、ゆえは驚きながら涙を流した。
「っ・・・!!ぁ、だめ、おねが・・・っ!魔法、だけでも・・・っ」
「・・・だめだ」
「や、ぁ・・・っふ、ぁ!」
正面から抱きあうように繋がる体勢。
上に乗っている彼女は、いつもより感じる場所に当たるのか声を抑えきれない様子だった。
それがまた、俺を煽るとも知らずに。
「ふ、ほら・・・!」
「っぁ!だめ、は・・・ぁぁっ・・・!」
「声が大きくなってきてるぞ・・・?」
「っ・・・んん、んっ、ぁ・・・!!」
容赦なく揺さぶる。
奥を、何度も何度も突き立てる。
ここまで夢中になるとは思わなかったんだ。
俺の上で乱れる、大人な表情をした彼女が・・・そっと俺を見る。
「ぁ、ピッコロ、好き、好きっ・・・・」
求める彼女を、壊れるんじゃないかというほど愛して。
「ピッコロ、こうしたかった・・・・の?」
「っ・・・正直に、言ったらどうだ?」
「っぁ、ひぁ・・・!」
「お前も、こうしたかったんだろう・・・!」
「あ、ピッコロも、の、くせに・・・っ」
「ふっ・・・・当たり前だろうが。いつだってこうやってお前を・・・支配していたい」
お前に欲情したように。
お前も俺に、欲情したんだろう?
こんな時なのに欲に溺れる俺の中の神は、嘲笑っているんだろうか。
だが、それでも。
俺は堕ちても彼女を求める。
欲しいんだお前が。
どんな時でも。
「ぁ、や、ぁぁあぁ・・・!」
結局俺が満足するまで彼女は俺の上で乱れ続けた。
この後どうなるかなんて、考える頭など消し飛ばして。
「ハゲ」
「・・・・」
「バカ」
「・・・・・・・」
「このバカ」
朝日が差し込む俺の部屋で、彼女が可愛らしく俺に暴言を吐く。
昨日の大人な彼女はどこへやら。
俺を睨むゆえは、拗ねた子供のような顔をしていた。
「・・・・すまん」
「どうすんのさ、ブルマたちになんて説明するのさ・・・っ」
「・・・・・・適当に」
「このやろ・・・・」
拗ねるゆえを抱きしめながら。
たまにはこういう刺激もいいかもしれないと、まったく反省せずに隠れて笑った。
歪んだ欲望が。
蝕む熱が。
お前を愛している証拠なんだ。
だから―――――許してくれ、ゆえ。
「ばぁか」
何度目になるか分からない罵倒を聞いた俺は、静かに目を閉じた。
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