いらっしゃいませ!
名前変更所
銃声が響いた場所は、サタンとブゥが住処にしている場所だった。
慌てて下界に注目した私達の目の前で、サタンがゆっくりと倒れていく。
ブゥは・・・近くにいない。
誰が撃ったのかと周りを探れば、悪そうな顔をした奴が銃を持ったままその場から逃げ出すのが目に入った。
「あいつが、サタンを・・・!」
「!ブゥが戻ってきたぞ」
戻ってきたブゥが、サタンを見て苦しみだす。
苦しみながらもサタンの回復を優先したブゥは、起き上がったサタンに向かって叫んだ。
――――逃げろ、と。
嫌な予感を感じた。
その尋常じゃない苦しみ方にも、ブゥの言い方にも。
ブゥはサタンと出会って本当にサタンを信頼していた。
そんな彼が何者かに撃たれ、それを見たブゥが苦しみだし、サタンに逃げるように促したのだ。
嫌な予感を、感じないわけがない。
・・・・しかも。
「・・・やばい」
「どうした?」
「ブゥの、魂が・・・濁ってきた」
「何?」
ブゥの魂が、急激に濁っていく。
それは私が背負っている悪のように汚く、残酷で。
恐ろしいほど狂気に満ちているモノ。
「あ、れは・・・」
私達は目を見開いた。
「なっ・・・どうなってやがる・・・?」
「ブゥが、2つに分かれた・・・?」
苦しみだしたブゥから出てきた、変なガリガリのブゥ。
血色の悪いそいつは魂を見なくても邪悪なものだと理解できた。
そして、元々のブゥとガリガリのブゥが対峙を始める。
元々のブゥを見る限りだと、良い心と悪い心が分裂したって感じだろうか。
「なんだ・・・元々は同じ人間だった者同士が戦おうとしているぞ」
「・・・元々のブゥの方は善の心だけが残ったブゥ、出てきたガリガリのほうが悪いブゥって感じかな」
「昔の神と俺のように、善悪で別れたということか?」
「そーいうこと!」
「なら、あの善の方が悪に勝てば・・・」
ピッコロの言葉を聞きながらもう一度ブゥに目を移す。
確かに二人ともブゥであることは間違いない。
でも、これは。
「・・・・善の方の力がほとんど悪に取られてる。たぶん・・・勝てない」
私の言葉と同時に、二人のブゥが戦いを始めた。
明らかに前とは違う動きを見せる善ブゥにピッコロが息を呑む。
私の言葉を、理解してしまったのだろう。
悪ブゥに善ブゥが、弄ばれているこの光景。
理解したくなくても出来てしまう、絶望の兆し。
「・・・!!」
数分対峙した後、悪ブゥのビームが善ブゥの身体を捉えた。
ビームに捕まった善ブゥの身体は見る見るうちにクッキーへと変化し、それを容赦なく悪ブゥが食らう。
そしてまた、形態を変化させた。
善ブゥと悪ブゥが混ざったかのような姿。
ピンク色をしているけれども、最初の可愛らしさなんてどこにもなく。
「あれは・・・・」
「ピッコロ、希望は潰えたよ・・・」
「何・・・?」
「あの状態じゃ、前みたいな優しさは残ってない。魂も、濁ったままだ」
「っ・・・くそ・・・!」
「そんな・・・・」
「ただ、会話は出来るレベルっぽいのは・・・幸いかも」
感じる力は、正直善ブゥの時よりも強い。
私は心の中で悟空を恨んだ。
だからいったじゃないか。
その判断、後悔する時が来るかもってさ。
「修業、急いだ方がいいかもね」
「あぁ・・・伝えにいこう」
「僕も行きます!」
デンデとピッコロを連れて、今見た光景を皆に伝えに行くことにした。
「今のままでは修業が間に合わんかもな」
「精神と時の部屋は?」
「・・・・そうか。それならまだ修業も・・・!」
少し見えた希望。
でもそれはまた一瞬にして砕かれた。
後ろに感じた、殺気。
異様な、気。
いち早く気づいた私は、ピッコロよりも先に後ろを向いた。
それに続いてピッコロも後ろを振り向く。
「あ・・・・」
「しまった、今のブゥは気を・・・!」
そう、そこにいたのはブゥだった。
あの可愛らしい姿をなくした、恐ろしい姿のブゥ。
「にひひ・・・・」
ニタァと笑ったブゥは、私達を見下ろしていた。
段々とブゥの姿に気づく皆に、とりあえず今の状況を説明するようデンデを向かわせる。
それからピッコロと顔を合わせ、頷いた。
デンデは皆と一緒に下がっててもらおう。
ここで出るのは私とピッコロだけでいい。
最悪、希望の戦士たちとデンデが守れれば、それで。
酷いと思われるかもしれないけど、最善の方法なのだ。
「・・・・何しにきた」
ドラゴンボールと、地球を守るためには。
「俺と戦うヤツ、出せ」
「・・・・・・っ」
強い奴と戦うのが好きなのは、前のブゥから変わってないようだ。
確実に違うのはもはや待つ気がないということ。
「・・・もう少し、待ってくれないか?」
なんとか時間を稼ごうと頼むピッコロに、ブゥが目を細める。
いつ手を出してくるか分からない。
そっと警戒を強めて魔力を強める。
「待つの嫌だ!さっさと戦うやつよこせ!!」
「・・・・!」
ピッコロがチラリと私の方を見た。
それからゆっくり、後ろで私達の様子を見ている皆に目を移す。
――――無理だ。
今のブゥには、ゴテンクスじゃ勝てない。
せめてもう少し修業できれば。
せめて、数分。
数時間。
精神と時の部屋なら、不可能を可能にする。
「・・・・そう、慌てる必要も、ないだろう?」
ピッコロが急に、落ち着いた声で言った。
不思議に思って見上げれば、今まで以上に苦しそうな表情のピッコロが目に入る。
「・・・・?」
「まだ地球の奴らは生きている。そいつらを殺してからでもいいだろう?」
「っ!」
「ピ、ピッコロ・・・!」
後ろから上がる、動揺の声。
でもどこかでピッコロの気持ちを分かっているんだろう。
誰一人として非難の声を上げようとはしなかった。
血が滲むほど力がこもっている拳に、手を重ねる。
この発言をして、辛いのは地球人達だけじゃない・・・ピッコロも、だ。
「・・・・・・」
ピッコロの言葉に、ブゥが少し考えこむ。
そしてニタァと悪い笑みを浮かべ、神殿の隅っこまで移動し始めた。
降りて殺しに行くのか?と思ったけど、降りる気配はない。
ただ神殿の縁を、観察するようにゆっくり歩いているだけだ。
「何、してるの・・・?」
「お前たちは出てくるな・・・出来るだけ引っ込んでろ」
顔を出してきたビーデルを、ピッコロが冷たく制す。
冷たい言い方だったかもしれないが、その判断は正しい。
あのブゥは何をしでかすか・・・まったく分からないから。
「・・・・・」
「お前も、出来る限り・・・俺の傍を離れるな」
「・・・・うん」
無意識に手を繋いだまま。
静かに、ブゥの動きを見守る。
「・・・・・」
不気味だ。
不気味なぐらい、笑みを浮かべて、ただ歩くだけ。
神殿の縁を。
まるで下界の人間をあざ笑うかのように。
・・・?
――――まるで・・・?
「・・・・まさ、か」
「ゆえ?」
「っ・・・・!」
「なんだ!?」
あることに気づいた私がブゥに近づこうとした瞬間、ブゥから巨大な気が放たれた。
それは天高く花火のように打ち上がり、やがて爆発して地に落ちる。
そう、地に。
”下界”に。
「っ・・・・なんて、ことを・・・」
「パパ・・・ママ・・・!!」
ブゥのしたことに気づいた皆が悲鳴を上げる。
慌てて下界の様子を探れば、凄い勢いで魂が消えていくのを感じた。
ブゥはここから下界の様子を見て、人間たちを全部・・・・殺しにかかったんだ。
「すまん・・・俺は・・・っ」
必死に下界を探って見つけれたのは、たった2つの魂。
サタンと犬の魂だけ。
あの二人のことは、今のブゥになっても覚えているのだろう。
「ピッコロ、落ち込んでる暇はないよ・・・どうにかして、ここを切り抜けなきゃ」
「・・・・あ、あぁ・・・」
頭を抱えるピッコロの手を再度掴んだ。
今へこたれてる暇はないんだと、元気を分けるために。
「殺したぞ?」
「っ・・・・」
ニタリ。
笑みを浮かべたブゥが、私達に近づいてくる。
「待ってくれ、せめて、1時間だけでも!」
「1時間?それはどのぐらいだ?」
「・・・・・」
ブゥの質問に、ピッコロが魔術で砂時計を出した。
巨大な砂時計が私達とブゥの間に置かれる。
「・・・この砂時計が落ちきるまでだ」
「・・・・・・・・」
砂時計が落ちるのをじーっと見つめるブゥ。
どこか子供らしい動作ではあるが。
今のブゥの心の中にあるのは、きっと。
戦いに対する執着心、だけ。
「いやだ!!待ちたくない!!」
「ッ・・・」
私の予想通り、まったく待つ気を見せないブゥが大声を上げた。
そのままピッコロに歩み寄ろうとするのを見て、私が前に出る。
「!・・・お前、俺と戦ったやつ」
「久しぶり?」
「お前との戦い、楽しかったぞ。もう一度戦え!!」
「一時間待ってくれるならいいけど?」
「・・・あんなに待つのか?待つのは嫌だ!!!!」
「何よ!!1時間ぐらい待ちなさいよ、頼んでるじゃない!!」
しびれを切らしたビーデルが、神殿の奥から飛び出してきてそう叫んだ。
私に伸びかけていたブゥの手が遠ざかり、代わりにビーデルの方へと伸ばされる。
「ひっ・・・!」
「ま、待ってブゥ!!」
戦うしかないの?
でも正直、今のブゥに勝てるかどうかなんて・・・。
「待て!待つんだ!あいつは、ミスターサタンの娘だぞ!!その娘が、待てと言っているんだ!」
考え込んでいた私の耳に、機転を利かしたピッコロの言葉が響いた。
ピッコロも気づいていたんだろう。
下界で唯一生き残っている、犬とサタンの存在に。
「・・・サタンの娘?・・・確かに、匂い似てる」
ブゥから放たれていた殺気が、一瞬にして消えた。
そして静かに砂時計の傍に座り込む。
「・・・・」
「ブゥ・・・?」
「・・・・・・」
そのまま目を閉じたのを見ると、どうやら待ってくれるようだ。
「よ、よかった・・・・」
思わず、全身の力が抜けてふらつく。
すかさずピッコロが私を抱き上げ、皆が避難している神殿の奥へと連れて行ってくれた。
「どうするんだよ、ピッコロ・・・」
「精神と時の部屋で修業だ」
訪ねてきたクリリンに迷わず返した答え。
1時間。
精神と時の部屋でなら、その時間でも大きな修業が出来る。
ピッコロの作戦と彼らの成長に、希望を賭けるしか無い。
「トランクス、悟天」
「ピッコロさん・・・」
「お前たちは今すぐ精神と時の部屋に・・・・」
「ダメです、チチさん!!!」
「!?」
ピッコロの言葉が途中で途切れた。
途切れさせたのは、後ろから聞こえたビーデルの声。
「お母さん・・・!?」
悟天がピッコロの脇を抜け、声のした方に走る。
私達も慌てて悟天を追いかけた。
そして追いついた先に見たのは、チチがブゥに対して平手打ちしている光景。
「チチ・・・!」
「オラの悟飯ちゃんを返すだ!!」
「・・・・・・・」
それは、母親としての愛情だった。
無謀だとか。
軽率だとか。
そんな言葉じゃ、片付けられないほどの。
強い、心。
私には抱けないかもしれない、感情。
助けに行こうと伸ばしかけていた手の先で、チチがブゥに卵に変えられて潰される。
「チチ・・・・っ!!!」
「ッ・・・・!!!!!!!」
「悟天!!ゆえ!!抑えるんだッ!!」
その光景を見た私と悟天が思わず飛び出そうとして止められた。
ピッコロの冷静な判断に、なんとか頭を冷やして留まる。
悟天も涙を浮かべながらトランクスの方を向き、我慢に拳を震わせた。
目の前でお母さんが殺されたのに。
我慢しろだなんて、酷いって・・・解ってるけど、今は。
「悟天、その怒りを力に変えろ。精神と時の部屋ならまだ十分に修業出来る」
「悟天・・・」
「・・・・トランクス君、行こう」
悟天は私達の方を振り返らなかった。
振り返らず、いつもより低い声でトランクスを呼んで精神と時の部屋に向かっていく。
ごめんね。
こんな、辛い。
「ゆえ」
「・・・・・」
「何度も言うが、悲しんでる暇は無いぞ。どちらにせよ、行動しなければこのまま終わりだ」
「分かってる、よ」
「あいつらの悲しみも、辛さも、全てが終わってから分かってやれ」
「・・・・うん」
頼もしいピッコロの胸に顔を埋めて。
私も覚悟を、再び決めた。
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