いらっしゃいませ!
名前変更所
昨日の夜散々二人に付き合わされた私は、次の日の朝、ピッコロのご機嫌取りに大忙しだった。
二人はあれから強くなった状態――――超サイヤ人の状態でのフュージョンを成功させた。
だからご褒美の意味でも、私は二人のワガママに応えただけなのだが。
「ピッコロってばー。子供相手に大人げないぞ?」
「・・・・あのマセガキ」
「頬にキスしたぐらいじゃんかー」
「・・・・・・・」
下界を見下ろすピッコロは不機嫌オーラ全開だ。
私も一緒に下界を観察したいけど、そのオーラが痛すぎて何も出来ない。
冷静で、大人で、渋いイメージのピッコロはどこにいったんだか。
しょうがなくピッコロの傍に近づき、寄り添うように身体を預けた。
「・・・・・」
「ピッコロー。そんな顔して下界見てたら下界の人逃げちゃうよー?」
「お前のせいだな」
「もー、機嫌治してよ」
「治して欲しいか?」
さっきと打って変わって意地悪く笑ったピッコロに、してやられたと気づく。
慌てて逃げようとしても遅くて。
皆が見てるんじゃないかと気にする私に、ピッコロが容赦なく顔を近づける。
「どうした?」
「ちょ、ね、見てるかもしれないからっ・・・!」
「大丈夫だ、あいつらは呑気に遊んでやがるからな」
「っこら・・・!!」
「機嫌を治して欲しいんだろう?」
ニンマリと楽しそうに笑うピッコロ。
最近修業や下界の観察でピリピリしてたから、ピッコロの雰囲気が柔らかいのに気づいて嬉しく感じてしまった。
私は毒されてるのかもしれない。
この意地悪な旦那に。
「頬にキスしたぐらい、か」
「・・・・っ」
嫌な、予感。
思わず顔を引き攣らせた私に、ピッコロが囁く。
「したぐらい、なら・・・出来るよな?」
ぴくり。
再び、顔が引きつる。
こいつ何言ってんだ。
皆それぞれ遊んでるとはいえ、ここが見えないわけじゃない。
っていうか、普通に見える。
神殿自体はそこまで広くないから、誰かが私達の様子に気づけばすぐ注目を浴びてしまうはずだ。
「なら気づかれる前にさっさとするんだな」
「・・・悪魔め」
「悪魔はお前だろうが」
「そういう意味の悪魔じゃないやい」
「騒げば気づかれるぞ?」
「っだーもう、分かったよ!!」
下界の様子は相変わらずのまま。
暴れまわるブゥに、逃げまわる人間たち。
今はどうしようもないこの光景を、見守り続けているピッコロも辛いだろう。
だから・・・今回は、特別。
見られたとしても、旦那を労る妻だ。
恥ずかしがることなんて無い。
「よ、よし・・・!」
「言い聞かせてるわりには顔が赤いぞ」
「あ・・・悪魔め・・・っ!」
もう一度罵倒してから、素早くピッコロの頬に口付ける。
ピッコロはそんな私を見て満足そうに笑った後、そっと視線を皆の方へと向けた。
「え・・・・?」
まさか、と。
本日二回目の大きな嫌な予感を感じて視線をずらせば、トランプをしていたはずの皆が慌てて私から目を逸らすのをが見えた。
これは、完全に。
ピッコロは気づいててさせたということか!!
「ピッコロぉおおおお!!」
「くくっ・・・どうした?何をそんなに怒ってる」
「何をそんなに?じゃないだろ!皆が見てるの知っててやらせたな!?」
「いや?お前がグズグズしなければ見られなかったぞ?」
「っ~~~~!!!」
ピッコロは耳が良いから、途中で皆が気づいたのも聞こえてたはずだ。
なのにこんな。
この、サディスト野郎。
「もういいっ」
どうせ何を言っても、やっても、彼に勝てないのは理解してる。
だから私は拗ねたフリをしてピッコロに背を向けた。
そのまま、また下界の観察に戻る。
「・・・・」
「・・・・・・」
和やかな空気なんて一瞬。
下界の様子を見た私達は、さっきの雰囲気なんて夢だったかのように黙り込んだ。
「・・・・・っ」
ブゥの気まぐれでお菓子に変えられていく人々を、守ることすら出来ない。
私達にできるのは、希望の戦士を戦えるまで育て上げること。
見てるだけというこの状態が、何よりも苦しい。
「・・・・ピッコロ」
「・・・俺達は、俺達にできることをするだけだ。惑わされるな、ゆえ」
「・・・・・・うん」
ピッコロの大きな手が、私の頭を撫でる。
きっとピッコロは私より辛いはずだ。
神と融合したピッコロには、地球の人々を守りたいという気持ちが強く宿ってるから。
なのに、私が弱ってどうするんだ。
「ピッコロ、私は大丈夫だよ!」
「・・・・そうか」
こういう時こそ、私がピッコロを元気付けなきゃって、労らなきゃって。
さっき考えてたばっかりじゃん。
「ピッコロ、私が見てるから少し休んで」
「いや、俺は・・・」
「ほらほら、こっち!」
「お、おい・・・!」
皆にイチャイチャシーンを見られた私は、もう吹っ切れていた。
苦しげな表情で下界を見ていたピッコロを引き寄せ、自分の膝を枕に寝かせる。
そして代わりに私が下界を覗きこんだ。
「俺は平気だ、だから・・・・」
「たった1日2日でも、疲れるでしょ?たまには彼女じゃなくて妻らしいことさせてよ」
「・・・なんだそれは」
「とにかく私に任せろってこと!」
渋々私の膝に頭を置いたピッコロ。
その目を手で覆って、何も見えないようにする。
「二人も頑張ってるけど、ピッコロも頑張ってるんだし、休んで」
「だが・・・・」
「はいはい、下界の観察は私におまかせあれー」
手を外そうとするピッコロを少し強めに押さえこんで。
修業を続ける二人と、それを見守るブルマ達を見てから下界を覗きこんだ。
誰もが支えるべき人を支えて頑張ってるんだから。
私だって旦那を支えるのは、当たり前ってこと!
「・・・・・」
「次は南の都か・・・まったく、ブゥってば容赦なく暴れて・・・」
「・・・・・・・」
「ん?」
しばらくすると、ピッコロから可愛い寝息が聞こえてきた。
それに気づいた私は、耳の良いピッコロが少しでも長く寝れるように防音壁を出す。
ピッコロは元々寝る種族じゃない。
夜がない場所に済む種族だからってのもあるけど、眠る必要はない種族だ。
そんな彼が、たったこの数秒で寝てしまうのだから・・・やっぱり疲れてたんだろう。
「ちょーっと?あの子達が頑張ってんのにアンタ達は何してんのよ?」
眠ったピッコロを撫でてたら、後ろから不満そうなブルマが声を掛けてきた。
「・・・・ってあら?イチャイチャしてるからちょっかい出そうと思ったのに、寝てるじゃない」
「下界の様子ずっと見てたからね、デンデも疲れてると思うけど・・・ピッコロも疲れてたんだろうなぁ・・・」
「ふぅん・・・ピッコロもゆえの前だと型なしねぇ?」
「ほんとほんと、元大魔王が聞いて呆れるぜ」
「何言ってんだよヤムチャ、ピッコロは別にそんな悪いやつじゃなかっただろ」
クスクスと笑うブルマの後ろから、ヤムチャとクリリンがニヤニヤしながら顔を出してくる。
防壁魔法使っといて、ほんと良かった。
色んな意味で平和じゃなくなるところだったよ。
「ずりぃよなー、ゆえちゃんみたいな可愛い奥さん貰っちゃってよー!」
「アンタまだそんなこと言ってんの?そんなこと言ってるからふられんのよ」
「ぐっ・・・や、やめろよブルマ・・・・傷つくぞ・・・・」
ブルマの鋭い言葉にヤムチャが肩を落とす。
どうやらヤムチャの女好きは変わっていないらしい。
「大体!俺じゃなくてもゆえちゃんぐらい可愛ければ誰だって狙うだろ!?なぁ、クリリン!」
「うえっ!?お、俺!?」
話を振られたクリリンは、ちょっと後ろにいた18号を見て頭をかいた。
無表情でこちらを見ている18号だが、その手はマーロンをしっかりと抱きしめている。
興味なさそうに見てるけど、クリリンの答えが気になるんだろうな。
心配しなくてもクリリンは――――
「ゆえは可愛いと思うけど、その、俺は・・・18号が一番だからさ」
「っ・・・・・」
クリリンの言葉を聞いた18号が、照れくさそうに背を向けた。
ますますヤムチャの表情が曇っていく。
そんなヤムチャにブルマがトドメをさすように笑った。
「ま、アンタも頑張んなさいよ」
「っちくしょー・・・・なぁゆえ、ピッコロなんて止めて俺に・・・・」
冗談めいた言い方。
普段通り私が怒って終わる・・・という流れだったはずのこの会話が一瞬で冷たくなったのは、私の膝で寝ていたピッコロが起きたせいだった。
「・・・・・」
「・・・・・」
ヤムチャとピッコロの、無言の見つめ合い。
そして無言の圧力に負けたヤムチャが可哀想なほどボロボロになりながら頭を下げた。
「すみませんでした・・・・・」
どんまい、ヤムチャ。
日が暮れ始めた頃。
下界のブゥがサタンと出会い、少しずつ感情が変わっていくのを見て私はそれに釘付けになった。
殺すことを遊びのように楽しんでいたブゥが、サタンと連れてきた犬に心を開いている。
それどころか、サタンや犬と一緒に遊んだりしようとしていた。
「・・・・」
「こうやってみると、本当に子供だな」
ピッコロの言うとおりだ。
ここだけを見れば、ブゥはただの子供。
自分に懐いた犬に心を開き、犬のためにミルクを用意しようとしたり。
サタンのために自分の家のような場所に部屋を作ってあげたり。
「あいつ、ただの馬鹿だと思っていたが・・・・」
私達はずっとここから見ていた。
サタンがブゥを倒すために、なんの役にも立たない小道具を詰めてブゥに近づいたところを。
最初は馬鹿だと思っていた。
敵うはずないと。
見ればすぐ分かるじゃないか、と。
でもサタンは最後まで逃げず、ブゥと対話することを選んだ。
そんなサタンにブゥが心を開いたのが今の状態。
「・・・・もしかすると、戦わなくてもいいかも・・・しれないな」
希望、だった。
戦わなくて済むのなら、それが一番だから。
「トランクスや悟天が、危険な目に合わないまま・・・終わるのなら、それがいいね」
「あぁ・・・」
「早く平和になるといいなぁ・・・・」
「ふっ・・・・」
私の言葉を聞いて、何故かピッコロが笑う。
むっとして睨みあげれば、優しげな笑みが映った。
「俺達が平和なんて口にするとは、可笑しな話だな・・・・と思っただけだ」
不謹慎だけど、それもそうか。
私達は魔のつく生き物同士。
「こんな地球が危機に陥る刺激は困る」
「まぁな」
「私はー、心も身体もあったまるような、トキメキ溢れる刺激なら大歓迎ですぅ」
ふざけて甘ったるい声を出した私を、ピッコロが冷たい目で見下しながら言った。
「そうだな。それぐらいなら俺が修業で味あわせてやる」
「あ、それはいいや」
「・・・・・・おい」
いやだって。
ピッコロの刺激って基本、ロクなのじゃないんだもん。
超寒い雪山まで修業に連れていかれるとか。
そんなのが想象出来ます、はい。
「失礼なやつだ」
「事実ですしー!」
「ならお前の言う刺激に付き合ってやってもいい。お前の言う刺激はなんだ?ん?」
「うっ・・・そ、そう返されると・・・・」
冗談に真面目に突っ込まれると困る。
まぁこの場合、私が困るのを分かってて言ってるんだろうけど。
「そのとおりだ」
「ぐっ・・・・この・・・・」
「ピッコロさん、ゆえさん。大丈夫ですか?」
「あ、デンデ」
むかついて殴りかかろうとしていた私に、デンデの声が掛かった。
デンデの手には、ポポが作ったであろうお菓子とお茶が握られている。
相変わらずポポの料理は見た目からして美味しそうだ。
「少し休憩してください。朝からずっと二人で見てるでしょう?僕が交代しますよ」
ありがたい申し出だが、私達は首を横に振る。
「大丈夫、まだいけるよ!!ね?」
「あぁ。・・・・デンデ、お前はまだ休んでおけ」
「で、でも・・・!」
「お前のその力はあいつらの役に立つ。それにお前は地球の神なんだ・・・無茶をするな」
「・・・・はい」
「お菓子もーらいっ!」
しょんぼりするデンデから、空気を読まずにお菓子を奪いとった。
今日のお菓子はドーナッツ。
いただきます!と、すぐかぶりついた私にピッコロがため息を吐く。
「ゆえさんってエネルギーは必要としないのに、よく食べますよね」
デンデが嬉しそうに笑った。
可愛い笑顔に癒やされながらドーナッツを頬張る私に、ピッコロの厭味ったらしい言葉が刺さる。
「食い意地だけは立派だな」
「っさいな!ピッコロもデンデみたいに純粋に私を褒めれないの?」
「褒めてるのか・・・?」
「え?え、えぇ・・・」
「ふむ・・・」
しばらく考える素振りを見せた後。
私の方を見たピッコロが、無表情で口を開いた。
「食べるお前はいつにも増して輝いているぞ」
「言葉選びが悪意に満ち溢れてるんだけど気のせい?」
「どうだろうな?」
「っこいつ!!!」
「あぁ!危ないですよふたりともー!!」
流れで組手を始める私達と、止めようとするデンデ。
どことなく平和な空気が流れ始めた神殿を、一瞬で変えたのは冷たい銃声だった。
「いまのは・・・」
「・・・・なんだ?」
他の人たちは気づいてない。
気づいたのは、私達だけ。
私達は空気が止まったかのようにふざけるのを止め、下界を覗きこんだ。
私達にだけ聞こえた音。
つまりそれは、下界から聞こえた音。
響いた銃声の場所を探れば、そこには今まで私達が見ていたブゥとサタンがいる場所が広がっていた。
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