いらっしゃいませ!
名前変更所
フュージョン。
それはいわゆる、融合。
似た力、体型の者同士が融合し、その力をプラスさせることで強力な戦士の生み出す技。
ここだけ聞けば、ものすごくカッコイイ技なのだが。
目の前で行われているフュージョンのためのポーズとやらが・・・あまりにもダサすぎて、私は少し離れた場所で顔を引き攣らせていた。
「なんだぁ?ダンスのレッスンでもしてんのかぁ?」
隅っこで様子を見ていたクリリンも、私と似たような表情を浮かべている。
いやだって、誰もがそう思うだろう。
”フュージョン”と叫びながら、奇妙なポーズを取る修業をしてるのだから。
でも悟空の表情は至って真面目だ。
あの悟空が、こんなヘンテコな嘘吐くとも思えないし。
「・・・本当にこれがフュージョン・・・?」
「あぁ、そうだ」
「・・・・・・」
トランクスと悟空の疑問にも、ばっちり頷いてるし。
私も悟空のことを信じてフュージョンのポーズをきちんと覚えることにした。
悟空が帰ったあとは、私とピッコロで教えなくちゃいけないからね。
「ねぇ」
「ん?」
「やってみせてよ!!」
「ん?あぁ・・・よし、ピッコロ!やってみっか!」
「っ・・・・」
フュージョンポーズをもう一度見せろと言ってきた悟天に、悟空が笑顔で頷いた。
もちろん相手役に選ばれたピッコロは引きつった表情で固まる。
ちらりと私に視線が飛んできたけど、気づかないふりして無視した。
渋々フュージョンの立ち位置に並ぶピッコロが、ちょっと可愛い。
「よし、よーく見とけよー!」
「・・・・・・・」
うわ、めっちゃ不機嫌顔。
「フュー」
「ジョン」
「「は!」」
指をピンと伸ばして。
お互いに対照になるようにして取るヘンテコなポーズ。
トランクスと悟天はそのポーズを微妙な表情で見ていた。
たぶんダサイって思ってる。
私も思ったから。
「もうわかったな?そんじゃ早速、タイミングをあわせる練習すっぞ!」
悟空がここに居られる時間は限られてる。
だからか、少し飛ばし気味に修業が再開された。
大丈夫、トランクスと悟天だもん。
ふたりとも凄く仲良しだし、息もピッタリ合うと思う。
「あんがとな、ピッコロ」
「・・・・・チッ」
意外と協力的だったのに、悟空にお礼を言われたピッコロは何故か舌打ちした。
良く見れば耳が真っ赤だ。
そして不機嫌そうにしながらも2人の修業をちゃんと傍で見てる。
ほんと、不器用だなぁ。
ま、あれは誰でも恥ずかしいとは思うけど。
何だかんだでやるまで文句言わないピッコロは素敵な師匠だ。
昔は暴力と罵倒がメインの師匠だったのに。
「ぶふっ」
そう思うとおかしくて、思わず吹き出してしまった。
同時にピッコロがぴくっと耳を動かして私の方を振り返る。
・・・・あれ。
なんか、やばい予感。
助けを求めるようにクリリンの方を見れば、知らないふりしてそそくさと逃げられた。
あ、待って、クリリ――――。
「暇そうだな?」
「・・・あ、いえ、そんなことは・・・・」
肩を掴まれ後ろから声をかけられる。
この感じ、1時間ぐらい前に味わったばっかりなんですが。
「あいつらが修業してるんだ。俺達も修業しないとな?」
「い、いや、ここは新しい戦士たちに任せて・・・」
「久しぶりに瞑想でもするか。さっさとしろ」
「え、ま、待っ・・・・」
「さっさとしろ」
威圧感。
「・・・はい」
負けた私は、トランクスと悟天が気だるそうにフュージョンポーズを練習してる隣に座った。
・・・・このまま、瞑想しているフリをして寝よう。
「寝るなよ?」
「はい」
どうやら、そう簡単にはいかないようだ。
結局私はそのまま数時間、悟天とトランクス達の隣で瞑想させられた。
悟空が帰るまで続いたそれは、後々クリリン達の笑いのネタにされていたことを私は知らない。
「フュー」
「ジョン」
「「はっ!!」」
だいぶ2人の息が合ってきたのを横目で見つつ、私は魔法で時計を出した。
ドタバタだった1日。
もうすぐ、日が暮れる。
悟空はあの後、数時間後に時間が切れて帰ってしまった。
本来ならこの時間までいられたはずなんだけど。
やっぱりもう少し早めに止めておけば良かったかな。
あの超サイヤ人3ってのは、思った以上に消耗が激しいらしい。
「おい、トランクス、悟天。終わりだ、残りはまた明日に・・・・」
日が暮れるからと、修業の終わりを知らせに来たピッコロ。
その声を聞いた2人はピッコロの言葉をぶった切ってはしゃぎだした。
「やったー!!トランクス君、お腹すいたね!ご飯食べに行こう!」
「きっとかーちゃんが作ってくれてるぜ!いこう!!」
「・・・・お、お前ら・・・・」
文句を言おうにも、彼らの姿はもう無い。
きっとブルマたちにご飯をねだりに行ったんだろう。
あの2人の修業が終わったってことは。
私の瞑想も終わりの時間だ。
「ふーー!!疲れた!!」
意外と疲れるんだよ?
一定感覚で浮き続けて集中するってのはさ。
やっと解放された私は魔力で浮くのを止め、両足を地につけた。
それに気づいたピッコロが、呆れ顔を私の方に向ける。
そして静かに片腕を広げた。
「・・・・」
「ん」
広げられた腕にゆっくりと飛び込む。
「・・・んー、ピッコロの香り」
「変態だな」
「ひど・・・」
月明かりが差し込み、今までうるさかった部屋を神秘的に照らした。
外はまだうるさい。
皆が食事をしてるんだろう。
とても賑やかだ。
でも、私達が残されたこの空間は、とても静か。
「・・・・勝てそうか?あいつらは」
実際戦った私にだから聞くんだろう。
嘘を吐く必要なんかない。
彼らはやれる。
悟空が全てを託した戦士なんだから。
「うん、大丈夫。彼らは私よりも強くなる」
「そうか・・・」
「だから私達は、あの子達の修業手伝ってあげようね!」
「・・・・・お前では、魔人ブゥは厳しいのか?」
「・・・え?」
「あの時の戦いでお前はどう感じた?もし厳しいと感じたのなら、お前はもう二度と・・・ブゥと戦うな」
ピッコロの私を抱き寄せる腕が、少しだけこわばった。
分かってる。
ピッコロだって怖いんだって。
もし逆の立場ならきっと私だって同じように感じたはず。
なのに私は戦ったんだ。
酷いのは――――私だ。
「どうだろ、真面目には戦えなかったから分からないけど・・・・」
ピッコロの腕にするりと自分の腕を絡ませる。
そして何も言わず、顔を上げて目を閉じた。
「もう、戦わないよ。だからピッコロも・・・戦わないで」
「・・・・あぁ」
口づけを待つ行為。
でも待ち望んだ感触は来ない。
あぁ、こういう時の彼の表情は見なくても分かる。
きっと私からしろって、そう意地悪く笑ってるんだ。
「・・・どうした?」
「・・・・っ」
ほら。
目を開けたらそこに見える、意地悪い彼の笑み。
鋭い赤い目。
ちらりと覗く白い牙。
「・・・っ、意地悪」
「主に約束を誓わせるんだ。お前からするのが当たり前だろう?」
「うわ、こういう時だけそんな・・・・」
「いいからさっさとしろ。どうするんだ?餓鬼共が戻ってきたら・・・」
戻ってこないのは知ってる。
だってここは、修業に最適な場所。
皆が普段暮らすような部屋からは少し離れた場所。
分かってるから、こそ。
周りの様子を少し気にした後、私はふわりと地面から足を離した。
「・・・・目、閉じてよ」
「断る」
「・・・・・っ」
「ククッ・・・どうした?さっさとしろ」
いつもより意地悪なピッコロ。
理由は、分かってる。
怒ってるんだ。
私が無茶したこと、戦いの場にでたこと。
こういう意地悪のほうが、殴られるよりお仕置きになるって知ってるから。
「そのとおりだ」
心を読んだピッコロが目の前でニヤリと笑った。
思わず顔を引こうとした私を、キスする寸前の位置で乱暴に掴む。
「逃がさんぞ」
「・・・・っ」
「観念しろ」
「わ、わかったよ・・・・っ」
ピッコロが目を瞑ってくれないのなら、私が瞑れば良いんだ。
そっと目を閉じて、そのまま唇を合わせる。
ピッコロの息遣いが私の頬にかかるのを感じた。
同時に温かい感触が唇に当たる。
ピッコロの香り。
ピッコロの、唇。
「ん・・・っ」
ここまでくると、逃げるなんて考えは消えてしまう。
唇と鼻から伝わってくる彼の香りに全てが酔わされて。
ピッコロ特有の肌の感触に溺れる。
心地いい。
触れ合うことがこんなに落ち着くなんて、嘘みたいに。
「・・・・俺もだ」
離れた唇が優しく告げる。
ピッコロの唇が震える感触が、私の唇に伝わってくるぐらい近い。
だから、また。
吸い込まれる。
唇に、そっと。
「んっ・・・・!」
「っ・・・・ふ」
私の長い髪が揺れる。
ちょっと引っ張られたような気がして目を開けると、ピッコロと目が合った。
赤くて、細い目。
たまらなくなってしがみつけば、ピッコロが笑って唇を離す。
「ピッコロ・・・!」
「フッ・・・物欲しそうな顔をするな」
「し、してないわ!!」
「っ!?お、お前ッ・・・!」
「わッ!?」
動揺してピッコロを突き飛ばしてしまい、慌てたピッコロが私を掴んだまま倒れこんだ。
後ろに倒れこんだピッコロ。
掴まれた私。
必然的に私がのしかかる体勢になって恥ずかしい。
急いで離れようとするが、何故かピッコロが私の手を掴んでそれを制した。
「ピッコロ?」
「・・・・ククッ」
「・・・?」
薄暗い部屋の中で見える、悪どい笑み。
一体何を考えて――――って。
「っ!そこにいるのは誰!!」
落ち着いた意識の中で感じた気配。
慌てて感じた方を見れば、小さな影が2つ、小さな足音を立てて離れていった。
つ、つまりこれは。
これは。
わざと、見せつけることをしたと、そういう。
「ピッコロ!!アンタ知ってて・・・!!」
「ククッ・・・・完全にあいつらは勘違いしただろうな?お前が俺を襲っていると」
「~~~~~~ッ!!!!」
むかついて、のしかかったまま殴りかかる。
でもそれは無駄なこと。
殴りかかった手はピッコロの手にすぐ取られ、強く引き寄せられた。
「っ・・・・!」
「しばらくこういうことは出来なくなるだろう・・・だから、今の内に・・・」
「・・・・・・・・・」
噛みしめるように囁かれた言葉。
ずるいって言うことも出来なかった。
ずるいよ。
私だって同じこと、思ってたのに。
こういう時だけ。
いつも何も言わないくせに、こういう時だけ・・・正直に、素直に言うんだから。
「じゃあ、今日は奥の部屋でのんびりしよ」
誘うように手を伸ばす。
その手を取ったピッコロは、指先に軽く口付けてふわりと身体を浮かせた。
平和な日々は続かない。
明日にはまた誰かが、死ぬかもしれないんだ。
だから数秒、数分でも傍に。
「大好き、ピッコロ」
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