いらっしゃいませ!
名前変更所
トキトキ都。
何故か私はそこに存在していた。
どうしてかなど覚えていない。
ただ暴れることも許されず、仕方なく違う暇つぶしを考えていた私は、この首都にいる戦士達を弟子にして”ゲーム”をすることにした。
弱い奴らは修業の最中で消え失せる。
それでも構わない。ただの暇つぶしなのだから。
何か一つに執着しているわけでは、ないのだから。
「・・・・・ん?」
そんな刺激の足りない日々が、いつ刺激的になってくれるのだろうかと思っていた頃。
私の目の前を見覚えのない戦士が通り過ぎた。
他の奴らと何の違いもないはずのその戦士が、何故か私は気になった。
「お嬢さん」
「ん?」
気だるそうに振り返った彼女は”魔人族”だ。
謎の力を持つ不思議な種族。
私の弟子にもいるが、彼女は――――やはり、違う。
今まで私が暇つぶしに鍛えてきた戦士たちよりも、数倍強い。
その目、雰囲気、感じる気。
間違いなくこの私をゾクゾクとさせるものがそこにはあった。
「・・・私の弟子にならないか?」
「へっ?」
「お前の持っているその力の全てを、この私が引き出してやろう」
私が引き出せる力があるのかは分からない。
だが欲しかったのだ、彼女が。
弟子として?ゲームの道具として?・・・分からない。
彼女は私の言葉を聞いて、クスッと笑った。
その雰囲気にまた惹かれる。
なんだ・・・何が私を求めさせてるんだ?
「残念、私もう師匠がいるんだ!だから、暇な時にね」
「・・・・っ待て!!」
「っのわ!?あ、あぁあぁあああ・・・!?」
走り去ろうとする彼女の手を掴んだ瞬間。
彼女が悲鳴を上げ、その手からポトリと何かを落とした。
巻物、だ。
しかも邪悪な雰囲気を放っている。
私は無意識にそれを拾い上げようとして、彼女に止められた。
そのたった一秒で、私と彼女の周りの風景が変わる。
「ッ!な、なんだ、これは・・・・!」
「あーあ。試作の巻物だったのに・・・セルが不用意に引っ張るから!!」
「す、すまない・・・・」
優しい表情から一転。
赤い目に睨みつけられ、反射的に謝罪の言葉を口にした。
「それで、ここは?」
「セルゲーム会場」
「何・・・!?」
「歴史の中で修業に良さそうな会場を、巻物に詰めてもらってたんだよねー。ほら、いちいち場所移動するのもだるいでしょ?」
つまりこれは。
「レプリカの会場だよ。うーん、思ったよりいい感じ!センスあるね、セル」
笑う彼女は私をまっすぐ見つめてそう言った。
やはり、何かが違う。
手を伸ばして、無理矢理でも手に入れたい感情が湧き立つ。
強いものに惹かれるのは当然だ。
私が、完璧な人造人間なのだから。
――――ああ、そうか。私はそれで惹かれたのか。
すっかり忘れていた。
この首都につれてこられてから、どうやら平和ボケしてしまっていたようだな。
「お嬢さん、名前はなんというのかな?」
「キウイ」
「そうか。キウイ・・・私は、お前と戦いたい」
「・・・・え、いきなり?」
キョトンとする彼女の足元を狙って拳を振り下ろした。
そうだ、この感覚だ。
久しく忘れていたな。
血が湧き立つようなこの感覚。
ゾクリと快楽に似た何かが背筋を駆け巡って、私は思わず笑みを零した。
私の攻撃を避けたキウイが私を睨みつけている。
それすらも、私を満足に誘う蜜。
「何すんのさ!!やだよ、ただでさえ師匠の修業で疲れて・・・っ!」
「つべこべ言わずに戦うんだな・・・この異空間の中で、死にたくないのなら」
もう一度拳を撃ち出せば、その攻撃は軽々と彼女の手に止められた。
「・・・・最高だ」
思わずもれた言葉。
久しく忘れかけていた戦いの心と残酷な感情が牙を向く。
彼女も戦う気になったのか、少し呆れた表情を浮かべながら拳を構えた。
「ベジータ師匠に怒られちゃうなぁ・・・今から修業なのに」
「ほう、お前の師匠はあのベジータか?この私にボロボロにされた、あいつが、師匠」
「・・・・」
その言葉で彼女の気が変わったのを感じた。
殺気が混ざった強い気。
いいぞ、最高だ。それでこそ戦いだ。
「行くぞ」
「来なよ。師匠を悪くいったんだから・・・ちょっとやってやる」
見えるのは空。
この私が、背中を地面につけている。
「どーだ、思い知ったか?これが師匠の力だ!」
楽しそうに笑う彼女が私を見下ろしながら言った。
私が負けた?
この、まだ未熟そうな戦士にか?
でもなぜか、孫悟飯に負けたあの時のような怒りは湧いてこなかった。
それよりももっと戦いたいと身体が疼く。
もっと彼女の表情が見たいと、何かが支配する。
「んじゃ、私帰るね」
「待て・・・!」
「なにさー。もう動けないからいいでしょ!」
「フッ・・・私は負けたなどと、いっていないぞ・・・・」
「だめだめ、私の勝ち!」
そう言うと彼女は私の手の上にカプセルを置いた。
「じゃ!」
消えた彼女を見て、また笑みが溢れる。
見つけたぞ。
私を満たしてくれる完璧な存在が。
完璧にふさわしい、存在が。
あれから私は彼女を追いかけ続けている。
この感情の本質がどこにあるかなど、理解しないまま。
「キウイ」
「うわ、またきたの?」
「当たり前だ」
戦いを求めているのか。
彼女を、求めているのか。
「・・・・しょうがないな。今日も修業あるから、ちゃっちゃと終わらせるよ」
「終わらせられるか楽しみだな」
「そう言って昨日も負けたくせに!」
「・・・・・・・」
「あ、やだな怒んないで!」
分からない。
分からないが、私は。
「じゃあ、行くよ?」
「あぁ・・・来い」
この時間が最高に好きだということだけは、確かだ。
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