いらっしゃいませ!
名前変更所
大体の部下の名前は覚えている。
ソルベとかいう人のことも、一応は。
でもそれ以外はほとんど見慣れない部下ばかりで。
まぁ、私がいなくなって上手くいかなくなった・・・といったところでしょうが。
誰もが私の復活を喜んでいました。
悪い気分はしませんが、それよりも。
今の私には、足りないものがある。
「・・・・少し席を外しますよ」
昔のフリーザ軍が使っていた宇宙船とさほど変わらない造り。
ならば彼女はあそこにいるだろうと、私はひたすら廊下を飛んだ。
段々と見えてくる小さな扉。
そこは昔、私専用の部屋だった場所。
何も疑うこと無く認証キーに自分の指を当てる。
機械は規則的な音を立てて認証すると、ピッという短い合図と共に扉を開けた。
「・・・・これは驚きました」
「んあ?」
気だるい声がガラクタの中から聞こえる。
開いた部屋の中には新型のスカウターや戦闘服が散らばっており、その部屋の持ち主が技術者であることを教える。
部屋の片隅には、昔私が使っていたと思われる机もあった。
あんなに汚くして―――一体どうなってるんですかね、本当に。
「キウイ」
「はいはい、何?」
目の前で機械をいじり続ける彼女は私の方を見ようとすらしない。
昔からこんな人でしたよ、この人は。
呆れながら床を尻尾で叩けば、びくっと震えてようやく私の方を見た。
「んああ、いきなり何さ!?床壊れちゃったじゃんかよ!」
「貴方、私を見て何か言うことは?」
「久しぶり。遅かったねフリーザ」
「・・・・」
驚きもしない。
ただ当たり前のように挨拶をして、また作業に戻る彼女。
苛つきよりも呆れが先行してため息が出た。
昔から私の苛立ちなんて気にするような性格じゃありませんでしたが、数十年でここまで駄目な方向に成長しているとは。
まぁ、適当な彼女なりの忠誠心なんでしょう。
”私が必ずよみがえると思っていた”という――――ね。
「あ、これ最新スカウターね。いらなかったら置いといて」
私の方に軽々と投げられたそれは、昔使っていたスカウターとは軽さも形状も変わっていた。
どうやら私が吹き飛ばしたあのタゴマとかいうのが使っていたのが最新式だったらしい。
元々片目で使用するものだったのを、なぜ両目にしたのか・・・いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「あ、それとこれが戦闘服ね。フリーザに合わせた最高級品だよ。他の誰にも支給してない最高研究作なんだから」
自慢気に言う彼女の前で、またバシンと尻尾で床を抉った。
びくっと震えて見せる彼女は”怖がって”はいない。
ただ驚いただけ、といった感じだろう。
「・・・・私がそんなことのためにここに来たと思いますか?」
「へ?じゃあ何さ?」
「トレーニングしますよ。適任者は貴方しかいません。訓練場みたいなものも作ってるんでしょう?」
「え?あ、うん。あるけど・・・なんで私がトレーニングに?あ、フリーザ向けの訓練場カスタマイズか」
「違います」
相変わらず狙ってるのか分からないボケをかます彼女を、今度こそ尻尾で殴った。
ベチン!という心地よい音と共に、モロに食らった彼女の身体が吹き飛ぶ。
「へぶっ!!」
わりと本気で吹き飛ばしたつもりだったのだが。
「ったいなー・・・!!何すんのさ!!!」
キウイはちょっとコケたようなレベルで痛がりながら顔を上げた。
むすっとしているその表情は、私が覚えている時の表情と変わらない。
「・・・調整など頼んでいません。私の側近なのですから言われなくてもわかりなさい」
「無茶いうなー。何、私に相手しろってこと?嫌だよー、フリーザ絶対容赦ないもん」
「私がそんなヤワな人間を側近にすると思いますか?」
「私は戦うの好きじゃないですー」
私が貴方を側近にした理由は、その技術力だけじゃありません。
私を見ても平然としているその度胸。
どんな時も変わらない態度。
強気な口調、分析力、馬鹿さ加減。
そしてその内に秘めている戦闘力。
全て含めて気に入ったからなのですよ。
「つべこべ言わずに来なさい」
「えぇええぇえ・・・・」
「・・・この場で殺されたいんですか」
「あぁもう分かったよ。いきますいきますー」
本当にこの人は、私に仕えているという自覚があるのか分かりませんね。
それでも何故か彼女は手放せないんですよ。
どんな無礼なことを言われても、どんな態度を取られても。
ある意味、本当の信頼でしょうか。
彼女なら私の本当の意志を汲み取ってくれると。
彼女の私に見せない忠誠心は、何よりも深いと。
その証拠に、彼女はああ言いながらもきちんと戦闘準備を始めていましたから。
「フリーザってば、トレーニングしてどうするの?」
「決まっているでしょう?・・・復習ですよ」
「・・・あのサイヤ人達に?」
「えぇ」
「そっか」
いつもどおりの偽りの無い態度。
それが少しだけ揺らいだのを、私は横目に見ていた。
訓練場までの短い道のりを歩く彼女は、どこか違う。
「・・・・強くなるなら、私が怯えるぐらいにはなってよねー」
「貴方が私に怯えたことなんてありましたか?」
「あるある。最初のころは怖かったよ!」
「それであれなら、貴方の怯えるは人とちょっと違うようですね」
「やだなー。あのぐらい強くて、絶対的な威圧感を持つフリーザが好きなんだから、怯えるのは喜びなんだよ?泣いて震えると思いましたー?」
「本当に・・・貴方はいい性格をしてますよ」
「でしょ?じゃないとフリーザの側近なんて務まりませんから」
”またあの自信を取り戻して、全てを跪かせてよ”
笑いながら振り返った彼女は、狂っているように綺麗だった。
いや、実際に狂っているんでしょうね。
なんたってこの私に、恐怖を望んでいるんですよ?
普通なら今までの部下同様、怯えてながらも渋々従う・・・そういうものでしょう。
「貴方はどうやったら本当に怯えるんでしょうね」
「え、怯えて欲しいの?」
「見てみたいじゃないですか。貴方のその脳天気な表情が歪む時を」
訓練場の中で睨み合いながらそういえば、彼女は笑った。
「悪趣味なんだから」
それは貴方もでしょう?
血だらけの彼女が訓練室の床に横たわる。
自分の更なる力に歓喜を感じながら、同時に彼女が私にひれ伏していることに快楽を感じた。
こんなちっぽけな支配には興味がないつもりだったのですがね。
興味があるのは宇宙一の支配者という力だけ。
たった1人を支配出来たとしても、私には何も関係ない。
そう思っていたのに。
今私は側近の、一番信頼する彼女を、ひれ伏せさせて喜んでいる。
「生きてますか?」
「殺す気でやったくせに確認ですか・・・・」
「おやおや、アレを食らって生きてるとは・・・さすが、とでも言っておきましょうか」
褒めながら倒れている彼女を尻尾で起こした。
血を拭う彼女の表情は、それでも恐怖には歪んでいない。
どうしてこうも、私は彼女に執着するんでしょう。
歪んだ何かが私を支配してるのは間違いないんですけどね。
愛などというものではない。
信頼と。
彼女の歪んだ忠誠心のせいか。
「・・・・貴方はなぜ、私に仕えるのですか」
貴方だけですよ。
私にずっと忠誠を捧げているのは。
見えているんです。
ソルベという奴も、他の奴らも。
ただ私という存在の下で、名を覇せたいだけ。
上手くいかなくて私を生き返らせただけ。
でも彼女は違う。
はっきりと、私だけを見ている。
「答えなさい」
「うーん、フリーザだからかな」
「・・・・答えになってませんよ」
「んー・・・じゃあ、強い人が好きだから!」
「一時期は貴方のほうが強かったでしょう」
「ええ・・・・・」
「貴方は・・・呆れました。理由すらなく私に仕えているのですか・・・・」
「むしろ理由が必要?」
「・・・・・」
その返しに、私は止まった。
貴方は本当に馬鹿ですね。
理由もなしに私に?
極悪人の私に、ですか?
「貴方は私が優しいと勘違いしてるんじゃありませんか?」
実際、彼女には本気で殺しにかかったことはない。
だから勘違いしているのではないかと。
そう思った私は寝転がる彼女を蹴り上げ、浮いた身体を尻尾で締め上げた。
「私は貴方でも、いらないと判断したら殺しますよ?」
「がっ・・・・」
「私がそういう存在だと・・・貴方は忘れているだけなんじゃありませんか?」
私の問いに、彼女はそれでも笑いながら答える。
「忘れて、ないけど・・・・げほっ・・・!フリーザに仕えるのが楽しんだから、いいじゃんかそれで・・・・」
「・・・・・」
「いらないなら、別に・・・殺してもいいけど・・・・?」
まるで、その忠誠心は毒のようだ。
極悪人の私を、もっと狂わせる。
ああ、違いますね。
貴方も狂っているんだ。
私と同じように。
「がはっ!」
「なら、貴方も私と共に来なさい。最後まで・・・」
「地獄までお供しますよ」
「・・・・それはわざとですか」
「わざとです。私を傷めつけたから仕返し」
「・・・・・・・・・・」
「あ、ちょ、首締まっ・・・・!!」
貴方のような馬鹿を部下に持てて、最高ですよ。
その忠誠心を私に見せたことを後悔しなさい。
貴方と共に、この宇宙全てを支配する存在になってみせますから。
その時は何がほしいですか?
・・・貴方の答えは聞かなくても分かりますが、ね。
「え、じゃあフリーザの第一側近で」
予想通りの答えで満足ですよ。
「ほっほっほ・・・なら、そうなれるようにこれから先も努めなさい」
きっと貴方を超える部下など、存在しないでしょうけど。
認めるのが癪だった私は冷たく言い放ち、今度こそ横たわるキウイを抱き起こした。
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