いらっしゃいませ!
名前変更所
呼び出された瞬間、この人は違うって思った。
今までの欲望に塗れた人間とは違って、純粋に何か―――運命で、呼び出されたんだと。
証拠に彼は私に何も望まなかった。
魂を取られることに怯えたわけじゃない。
ただ本当に、私に何も望まなかったのだ。
だからこそ。
私は純粋に、惹かれた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・・」
「何を休んでいる。・・・俺は殺しにいってるということを忘れるなよ!!」
戦いが好きなのは本当。
守護天使として力を振るってきた毎日があったから、下界の戦い方も学んでみたいと思ってた。
まぁ、まさかこんなにハードな修業だとは思ってなかったけど。
意外と楽しいものだと、私は目の前に迫るピッコロの拳を受け流した。
「くっ・・・!」
「しっかり構えろ!!!ふらつけば隙が出るぞ!!」
「っ・・・分かってるっつの!!」
そう言いながらもピッコロの攻撃をモロに食らい、私はその場に座り込んだ。
反撃のためにその体勢のまま拳を構えれば、ピッコロが私から距離を離す。
「終わりだ。・・・明日はもっとキツイ修業になる。死なないようにさっさと休むんだな」
いつもそうだ。
ピッコロは修業が終わったらすぐどこかに行こうとする。
一応、私と契約してるんだけど?
その気になれば魂だって食べちゃえるんだけど?
って・・・そんなこと考えてる間にいなくなってるし。
妙に避けられてるような気がした私は、苛ついてピッコロを追いかけることにした。
これがピッコロと仲良くなろう大作戦、開始の瞬間である。
修業を初めて一週間目。
今日からピッコロを修業が終わってからも追いかけることにした。
「・・・・なんで着いてくる」
「だって契約者だし」
「俺が逃げるとでも思ってるのか?」
「違う違う!お話したくて!」
「無駄話をする暇はない。消えろ」
「いやですー」
滝の傍で瞑想するピッコロをチラリと見上げた。
ピッコロは眉間にシワを寄せたまま、完全に私を追いだそうとしている。
そうはさせないんだから。
どれだけ無視されたって、決めたことはやるのが私。
「ピッコロー」
「・・・・」
「ねぇねぇ、ピッコロって技とかどうやって考えてるの?魔貫光殺砲だっけ、あれ凄いよね」
「・・・・・・・・・・」
私達には技なんてものはない。
基本魔法で武器を出したり相手を操ったりするから、そういう技を考えるっていうのが新鮮で聞いてみたのだけれど。
予想通り、返事は返ってこない。
うーん。
褒めても駄目なタイプか・・・なら。
「瞑想って何するの?」
「・・・・」
「集中?気の制御とか?」
「・・・・・・」
あ、少しだけ答えようか悩んだな。
気が揺らいだのを感じて、見えないようにニヤける。
どうやら、完全に聞いてないわけではないようだ。
ならばやることは一つ。
質問攻め。
「明日はどんな修業?」
「・・・・・」
「ピッコロせんせーってば」
「・・・・・・・」
バシュッ!!
・・・と、鋭い音が私の耳元を通り過ぎた。
恐る恐る後ろを振り返れば、足元の数ミリ横に焦げ付いた後が見える。
あ、あの人、撃ちましたよあの人。
人に向かって殺人的な攻撃を撃ち――――。
「ひひゃ!?」
変な叫び声が出た。
そんなことよりも先に私の身体が勝手に反応し、目の前に飛んできた何かを弾き飛ばす。
「ほう、思ったよりは良い反応だな」
「・・・・・」
ごくり、と。
唾を飲んだ。
今、私が無意識に弾かなきゃ、たぶん首が飛んでいた。
そのレベルで後ろの木々が吹き飛んだのを感じながら、笑みを浮かべているピッコロに食って掛かる。
「なにすんだー!死んだらどうする!!」
「別に俺は困らん」
「困るでしょ?可愛い妹弟子が死んじゃうんだよ?可愛い悟飯が泣いちゃうよ?」
「知った事か」
「なんだよ悟飯にはデレデレのくせしてこのツンデ・・・・」
次は気弾なんてやさしいものじゃなくて。
目の前に迫るピッコロの伸びた手を目の前に見た私は、悲鳴を上げながらその場を逃げることになった。
一日目、完全敗北。
あれから3日後。
ああ、もう。
ピッコロのやつ、全然話をしてくれない。
修業の時はしっかり見てくれてる感じがあって嬉しいんだけど。
「ピッコロー」
「チッ」
「うわ、舌打ち」
ま、最近無視されなくなったのは良いところかな?
舌打ちはされるけど、瞑想しながらも私に少しだけ意識を向けてくれるようになった。
反応っていっても舌打ちとか攻撃とかだから、喜んでいいのか・・・。
「ねーねー、たまにはお話しよーよー」
「うるさい」
「いいじゃん!!ピッコロたーん!」
「気色悪い、殺すぞ」
「きゃーこわーい!」
はいきた。
このタイミングで攻撃が飛んでくるのはこの数日で学んでいる。
だからすぐに防壁を貼り、目の前から飛んでくる気弾を吹き飛ばした。
また小さな舌打ちが聞こえたけど気にしない気にしない。
「・・・・・」
しばらく静かにしてピッコロの見学をしていると、ピッコロが徐ろに水筒のようなものを取り出した。
きゅっと音を立ててキャップを開けるが、その中身が出てくることは無い。
もしかして、空っぽになっちゃったのかな?
少し苛立ったような表情を浮かべるピッコロを見て、ふわりと飛んで近づく。
「ピッコロ、水だけで生きれるんでしょ?不思議だよねー」
「お前も似たようなものだろうが」
「私はエネルギー貰ってますから!・・・あ、それ貸して?」
「っ!おい、何を・・・!」
ピッコロが修業場の湖の水があまり好きじゃないことは知ってる。
前に飲もうとして、少し嫌そうにしてたの覚えてたんだよね。
奪った水筒に手をかざし、ピッコロが飲んだ水の中で一番記憶に染み付いてるのを魔法で再現して水筒に注ぐ。
その様子を興味深そうに見ているピッコロが、ちょっと可愛かった。
「はい!」
「・・・・変なもの入れてないだろうな」
「入れてないですっ!ま、飲んでみてよ。たぶんピッコロが前に飲んだ、えーっと・・・ツルマイツブリ山?の溶け水だよ」
「お前・・・本当に俺の記憶を見てるんだな」
「うわ、そんな嫌そうな顔しないでよ!しょうがないじゃん、契約の条件なんだから」
契約する際に主の記憶を見るのは絶対のルール。
私を呼び出した時点で、契約者となるピッコロの記憶は見てきた。
だからなのかもしれない。
こんなにも、ピッコロが気になるのは。
「おいしい?」
「・・・・本当に、あの時の水の味だ」
「でしょ!」
魔族として名乗っている彼は、どこにも悪なんて持ってなかったから。
確かにちょっと意地悪だったり、歪んでたりする部分はあるけど。
ごくごくと喉を鳴らして水を飲むピッコロをニヤけながら観察した。
それに気づいたピッコロが、全て飲み干した後で舌打ちする。
「見世物じゃないんだ・・・あっちに行ってろ」
「えー?美味しかったよ!ぐらい言ってくれてもいいんだよ、ピッコロた・・・ぶ!?」
ガッ!と鈍い音が響き、私の視界がぐるぐると回った。
方向性を失った私はそのまま下に落ち――――冷たい水の中に沈む。
「ぶわはっ!?ちょ、何すんのいきなり!!!」
「締りのないツラしやがって。俺といるときは常に気を張れ!!いつ貴様を殺すかも分からんぞ!!」
「やだよ!!なんでそんな私ピッコロのこと信頼し・・・ごぼぼぼ」
頭を足で沈められ、言葉ごと水の中に吸い込まれていった。
4日目、大敗北。
一週間以上経てば、お互いのやりとりにも慣れてきた。
罵り合いでも、攻撃でも、まるで当たり前の会話のように流れていく。
慣れてくるとピッコロの不器用な優しさが分かるようになってきたのも大きい。
「ピッコロー」
「・・・飽きもせずお前は・・・」
「はい、お水」
「あぁ・・・」
水も受け取ってくれるようになった。
私を追い払っても意味ないって分かったんだろう。
最近では飛んでくるのは攻撃と罵りだけで、本気で追い返そうとはしなくなった。
それだけでも幸せだと思うのは、まるで乙女だ。
悪魔がこんな、1人の契約者に夢中になるなんて・・・さ。
「ピッコロ」
「・・・なんだ」
「寒い」
「は?・・・おい!?」
星が輝く夜。
冬の夜は寒く、普通の人間と変わらない体の私は寒さに負けてピッコロに抱きついた。
振り払おうとする手が伸びてきて、引き剥がされるのを覚悟する。
でもそれはいつまでたっても私を掴むこと無く――――そっと目を開ければ、ピッコロはただ空を見上げていた。
「ピッコロ?」
「なんだ」
「・・・振り払わないの?」
「振り払っていいならするが?」
「寒いです死んじゃう」
温もりを求めてピッコロの腰に手を回し、胸元に顔を埋める。
それでも、怒られなかった。
聞こえるのは吐息と鼓動だけ。
あれ、こんなに温もりって心地よかったっけ。
ピッコロの香りがする。
なんか、変な気分。
ドキドキしちゃう。
「・・・・っ」
ただ興味があるだけだと、そう思っていた。
いつもの契約者とは違うって、それだけだったはずなのに。
この気になる、は。
なんの”気になる”なんだろ?
下界の人間として?
それとも、何か別な感情の意味で?
「・・・・おい」
声を掛けられたけど、顔を上げれなかった。
今の私、きっと顔が赤い。
「・・・ちっ。寝やがったか。ったく・・・」
そう言いながらピッコロは風から守るように私をマントで包んだ。
「馬鹿みたいに俺様にひっつきやがって・・・・」
え。
口調はいつもどおりなのに、なんで。
――――撫でられてる。
ふわりと優しい手つきで、髪の毛が掻き分けられていくのを感じる。
「正真正銘の馬鹿、か・・・いや、物好きか?」
何気酷いことも言われてるような。
「チッ・・・この俺がこんな奴に・・・・」
「・・・・」
「・・・なんだってんだ・・・・」
苛立つような、少し苦しげな声。
目を開けて様子を見ようかと思ったけど、ピッコロの手が気持ちよすぎて意識を落とした。
「おやすみ」
眠りゆく意識の中で、優しげな声で何か聞こえたような気がした。
「・・・ん?あれ?」
目が覚めたそこは何もない岩場。
盛大に投げ捨てられるような形で寝ていた私は、頭を押さえながら起き上がった。
「・・・・夢?」
おかしいな、私、確かにピッコロの膝の上で寝てたはずなのに。
不思議に思って周りを見回すと、真上から彼の気を感じた。
慌てて見上げれば、いつもどおりの彼が私を睨みつけている。
「遅い」
「へ」
「今何時だと思ってやがる・・・!!!」
私達の修業はいつも朝に始まる。
でも今は。
太陽が真上にいます。
これは完全に昼ですね、はい。
「・・・・おひる、です」
「分かったならさっさと起きろ。寝坊した分たっぷり痛めつけてやる」
「おっそろしー・・・ん?」
結局あれは夢だったのかと。
悲しくなりながら起き上がった私の足元に、ぱさりと何かが落ちた。
「・・・・これ」
マントだ。
白いマントが、少しだけ汚れてる。
これ、昨日ピッコロが・・・。
じゃあやっぱり、夢じゃなかったんだ。
「へへ・・・」
ピッコロにばれないようにニヤけた私は、そのマントをそのまま自分の肩に掛けた。
ついでに服も、ピッコロと同じお揃いの道着にしてみる。
「ほう・・・・」
「どう?似合う?」
「今日の修業で生きてたら教えてやる」
「ッ!うわぁああああっ!?」
容赦無い気弾。
またいつもどおりに戻った彼を見ながら、私は改めて思った。
「右がガラ空きだ!!」
「っ・・・はい!」
「返事はいいが反応出来てないぞ。殺されたいのか?」
「がふっ!?やだー、ピッコロに殺されるならそれも・・・あ、やめ・・・!」
「魔貫光殺砲!!」
やっぱり彼との出会いは、運命だったような気がする―――って。
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