いらっしゃいませ!
名前変更所
「ね、フリーザ。地球の地獄ってどんなとこ?」
からかうように尋ねる彼女に、私は殺気立った。
私が死ぬ前に軍を率いてた”最高司令官”
実力も、その度胸も、私が認めたモノ。
そんな彼女が、私を復活させた部下の仲間に入っていたのは嬉しい誤算だった。
あぁ、でも―――今のこの状況はよろしくない。
「フリーザちょっと痩せた?やっぱり地獄だと力奪われちゃうんだねー」
私の怒りに触れるワードにしか触れない彼女。
苛立ちに任せてプリンを睨めば、プリンは詫びれもなく私に笑みを向けた。
以前は素晴らしいと思っていた彼女の度胸が、今はただただうっとおしい。
わざと尻尾を振り回して床を叩けば、笑いながら私に近づいてきた。
「そんなに怒らないでよ!ずーっと待たせるから、ちょっと意地悪しただけじゃん」
「・・・・あなた達がよみがえらせるのが遅すぎるんでしょう」
「そこら辺はソルベにいってよねー。私は脳筋担当なの。ちゃんと星の支配数は増やしてたんだから!」
うっとおしいが、戦闘力的にも頭脳的にも、使えるのはプリンの方でしょう。
一瞬こいつを殺してしまおうかと思っていた考えを引っ込め、私はプリンに近づいた。
「それはご苦労様でした。・・・一つ、お聞きしたいのですが」
「うん?」
「なぜ貴方が軍を率いていないのですか」
「え?」
「・・・正直、ソルベより貴方のほうが軍を率いるのには向いていますよ。力の意味でも」
キョトンとした顔。
久しぶりに見ますね、貴方のその顔は。
私の前でも表情豊かに笑ったり怒ったりするのは、貴方だけでした。
思えば、ずっと貴方のことを・・・考えていたような気もしますね。
復讐心の片隅で、ずっと。
その思いが何なのかは、分からない。
「いやぁ、私、元々この軍にも入る気なかったんだよねー」
「・・・・ほう?」
「あ、復活させたくなかったわけじゃないよ?ただ」
すっと、彼女の表情が変わった。
いつも笑顔を見せ続ける彼女の表情が、淋しげに歪む。
「フリーザに率いられなきゃ、意味ないからさ・・・ま、復活させるって聞いて入ったんだけど!」
ただの部下のはずなのに。
プリンの表情は、何故か私を落ち着かせる。
そして前よりも強く訴えかける復讐心。
必ずあのサイヤ人共を殺せと。
「せっかく生き返ったのに、また戦うの?」
彼女を見ていると色々な感情が湧いてくる。
でも私は、止まれない。
決まっているでしょう、復讐することなんて。
私がソレ以外に何をするというのです?
ただまたフリーザ軍として仕事をしろと?
あのサイヤ人どもに怯えながら?
――――ふざけるな。
「・・・当たり前でしょう。貴方は何を言ってるんです?怖気づいたのなら私が殺して差し上げますよ、そんな部下はいりません」
その瞬間、彼女が何故か少し笑った。
「またフリーザが死んだら・・・その時は死ぬ前に私も殺してよ。もうフリーザがいない世界なんてまっぴらだからさ」
貴方が何を考えてるのか、私にはわかりませんよ。
忠誠心?
違う。
じゃあなんですか?友情?
そんな、薄っぺらいものじゃない。
彼女が私に抱いている感情が、分からない。
ただ分かるのは、私もきっと同じ感情を抱いているだろうということだけ。
「奇遇ですね」
素早くプリンの目の前に近づき、笑みを浮かべる。
指先に気を集中させてバチバチと鳴らせば、プリンは怯えることなく私をまっすぐ見つめた。
「私もそう思ってました。まぁ、ありえませんが・・・もし私が死ぬ時があったら、その時は貴方にも地獄に付き合ってもらいますよ」
あんな人形よりかは、貴方を見ているほうがマシです。
「アイアイサ!」
馬鹿にするように言ったのに、プリンは笑ったまま。
普通なら苛立つはずなんですけどね。どうしてでしょう?
上がる口端。
気づけば私も、笑みを浮かべていた。
「・・・一つ、聞いていいですか?」
「うん?」
「貴方が持っているのは忠誠心ですか?それとも、恐怖心?」
「えー?もー、これだけアピールしてるのに、まだその段階なのー?」
「・・・・・」
分からないの?
そう言って跪く彼女の姿は、何故か綺麗だった。
私を見上げる目が、私を貫くように光る。
「愛、ですよ」
ああ、なんてくだらない。
愛ですって?
そんなくだらないことを、この私に?
昔ならそう言えたはずの言葉を、私は言うことが出来なかった。
目の前に映る光。
花畑。お人形たちのパレード。
そうか、私はまたここに。
こんな地獄に、戻ってきたのか。
「ッ・・・!!!」
苛立ちが身体を支配する。
でも何も出来ない。
ここでは無力なのだ。
ミノムシのように吊るされて、何も出来ない。
「・・・・」
私は結局プリンの心を理解できないままだった。
彼女の忠誠心が、愛だとして。
本当だったとして。
彼女は私をおいてきた。
道連れにしてやると、冗談だとしても言ったのに。
こんなことなら本当に道連れにしてやるんだった。
お人形たちのパレードを見るより、彼女のうるさい話を聞いていたほうがマシだ。
「それは心外だねー」
「・・・・!?」
頭上から聞こえた声に、吊るされた身体を揺らす。
なんとか上を向けば、そこには今考えていた彼女の姿があった。
「なぜ、貴方が・・・・」
「なぜって、地獄に来いって言ったのはフリーザじゃん?」
「・・・・だからといって本当についてくる馬鹿がいますか」
おバカさんですね。
本当に本当の、おバカさんです。
貴方のような馬鹿は初めて見ました。
苛立ちを忘れて笑う私を、プリンが見つめる。
「愛ってこういうことなんですよ、フリーザさ・ま!時間はたっぷりあるし、私がここでお人形のパレードより良いこと教えてあげちゃいます!」
―――どっちも、ごめんですが。
「ならば貴方に任務を与えましょう。この地獄を、私にとっての天国に変えて見せてくださいよ。出来なかった場合、殺しますよ」
挑発的な言葉に、彼女は笑った。
「お安いご用です、フリーザ様」
私にとってはどちらも嫌ですが。
お人形よりははるかにマシでしょうね。
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