いらっしゃいませ!
名前変更所
のどかな自然に囲まれた土地。
風がふわりと私を撫で、通り過ぎる。
ゆったりした空間の中で鳴り響くのは、ギィギィという乳母車の音。
ゆらゆらと乳母車が揺れているんだろうと安易に想象出来るそれを、鳴らしているのはピッコロ。
そう、ピッコロだ。
あのピッコロが、買い物に行った悟飯夫婦の代わりにパンちゃんのお守りをしているのだ。
あ、もちろん。私もその付き添い。
「・・・・ちっ」
イライラはしているようだが邪険に扱ったりはしないあたり、ピッコロも丸くなった。
ピッコロは私といても孤独を愛する場面が多い。
修業と夜以外の時間は、私が何をしていても瞑想で1人になってることがある。
時々、寂しがって私の作業の邪魔をしにきたりもするけど。
でもそれはほんと稀。
大体は私が絡み続けて、折れたピッコロが構ってくれるんだよね。
「・・・静かだなぁ・・・」
ピッコロの子守が良いのか、パンちゃんは泣かない。
乳母車を規則的に揺らしているのは、ピッコロの・・・”足”だというのに。
ま、これで丁寧に揺らしてても笑っちゃうけどさ。
木の上で様子を観察しながらクスクスと笑えば、突然バキッ!と音を立てて枝が折れた。
「っ!?うぁああぁああっ!?」
木と地面までの距離はさほどない。
見事なまでに地面に顔面をぶつけた私を、彼が子守を続けながらあざ笑う。
「おい、こんにゃろ・・・・」
「どうした?勝手に落ちてきて」
「いや今明らかに気のようなものに枝を折られたんですけどね・・・?」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないよ!」
「失礼なこと考えてるからだろう。バチが当たったんだ、かわいそうにな」
わざとらしく言うピッコロの言葉に、パンちゃんが少し笑った。
「この餓鬼ですら笑っているが?」
「っさいな!ピッコロが世話してるから性格歪んでんじゃないの!」
「貴様よりはマシだ」
「んだとー?」
言い争ってるけど、小声で。
パンちゃんを泣かせないように配慮した私達は、言い合いながらお互いを睨む。
子守のために花壇に座っているピッコロは立ち上がった私より目線が低い。
ピッコロをこうやって見下せるなんて面白いと思っていたら、また足元に浮遊感を感じた。
枝とかに立ってたわけじゃない。普通に地面に立ってた。
つまり本当に私の身体が浮いているわけで――――。
「こら、赤ちゃんの前で変なワザつか・・・んぎゃっ!」
叩き落とされて言葉が止まった。
また、きゃっきゃとパンちゃんが笑う。
やめて。それで笑っちゃダメ。歪んだ子になっちゃダメ!
「ったぁ・・・」
「フン。馬鹿なやつだ」
「自分の妻の顔面にダメージ与えるなんてひどすぎ・・・」
「お前が余計なことを言うからだ」
「ちぇっ・・・・」
もうおとなしくピッコロの隣に座っておくことにした。
身体を預けるように座れば、ピッコロが少しうっとおしそうに咳払いする。
それでも退かさないんだから、良いってことなんだろう。
笑うパンちゃんの前に玩具を出してあげ、あやす手伝いをする。
「こうやってると、本当に夫婦みたいだね」
夫と、妻と、子供。
想像するのは、家族。
「・・・・そうか?」
「なにさ。チョット前はこういうの憧れてるとか言ってたじゃん」
「お前が産むならそれも悪く無いと思っているだけだ。誰も羨ましいとは言ってない」
「素直じゃな・・・ごふっ!?ちょ、殴るな!!」
「馬鹿、声が・・・!」
しまった、と思った時には遅かった。
大声を上げた私に反応して、パンちゃんの表情が歪む。
あ、やばい、これは。
「うわぁあぁああん!!!」
「あぁあぁ!ご、ごめんねパンちゃん!」
「ちっ・・・貴様、せっかくおとなしくさせておいたというのに・・・!!!」
「ピッコロがおとなしくさせたとかいうと怖いな!っだ!!殴りすぎだっての!!」
子守りに苛立ってるせいか、すぐに暴力が飛んできて私の身体がもたない。
ピッコロに意見することを諦めた私は、乳母車からパンちゃんを抱き上げた。
そのまま一定のリズムでパンちゃんを揺らし、子守唄を歌う。
「うー・・・・」
するとパンちゃんはすぐに泣き止んだ。
なんで手馴れてるかって?
だってこの子守り、初めてじゃないから。
悟飯たちの用がある時、彼は必ず私達に預ける。
もう何回目だろう。
こうやって二人っきりで子守りするのは。
「はいはい、またピッコロおじさんのところに戻ろうねー」
「・・・・誰がおじさんだ」
「喧嘩したらまた泣いちゃうでしょー?」
「ちっ・・・・」
こうして私達はまた静かに子守りに戻った。
私は案外、この子守りの時間が好き。
こうやってのんびりピッコロと出来るんだから。
右肩にピッコロの温もりを感じながらそっと目を閉じる。
「おい、そのまま寝るなよ。2人の子守りはごめんだ」
「んー・・・こうしてるだけ。ちゃんと起きてるから・・・」
「重い」
「もうその罵倒には慣れましたー。ちなみに痩せましたー」
「・・・気や魂が食料のやつが、痩せたり太ったりするのもおかしな話だ」
「うっさいな・・・だってお菓子食べちゃうんだもん・・・」
「フッ・・・冗談だ。しょげるな」
「・・・そうやって意地悪ばっかりする・・・っ」
「お前はそうだから飽きないんだ」
「褒められてるんですかね・・・ま、いいけどさー・・・」
意地悪く笑うピッコロが、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
悟飯達みたいに理想の夫婦じゃないかもしれない。
意地悪ばっかりな旦那さんだし、子供も出来ない。
それでも、私はすごく満足。
ピッコロの傍にいられれば、それで。
「・・・これが終わったら、付き合え」
「え?」
「前つれていってやった泉の場所に行く。・・・水を補給しにな」
「お、いいねっ!また泳いでも良い?」
「溺れても助けんからな」
「溺れませんー!」
孤独を愛する旦那さんと、それ追い回す私。
・・・・これも一つの夫婦の形なのかな?
またピッコロに擦り寄った私は、そっと腰に回された手に幸せを感じて笑った。
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