いらっしゃいませ!
名前変更所
全てが元通りになっていた。
神殿も。
悟飯やトランクス達も、皆。
そしてゆえも生きている。
幸せとしか、言い様がない。
「ピッコロさん!!」
神殿にたどり着くと、それぞれが思い思いの奴に飛び込んできた。
ブルマとトランクスはベジータに。
悟天とチチは悟空に。
18号とクリリンは互いに腰を抱き合って。
そして悟飯は、俺に。
「ピッコロさん・・・良かった・・・!」
「すまなかったな」
子供のように抱きつく悟飯をそっと撫でる。
この俺がこんな幸せに喜ぶとは、誰が考えただろうか。
刺激を欲しがり、戦いを好み。
魔族として孤独に生きることを好んでいた俺が。
――――いや、それは今でも変わっていない。
一人が好きなことは、変わってない。
ただ、違うのは。
「・・・終わったんだな」
「はい。良かったです、本当に・・・!」
こいつらがいてこその、孤独なのだと。
この幸せがあってこその・・・一人なのだと。
そう感じるようになってしまった、俺の甘さ。
甘さ?いや、感化されっちまったのか。
ベジータのように。
「ベジータ、よかった・・・!」
「パパー!!」
「っ・・・・チッ」
舌打ちこそしているが、ブルマとトランクスに抱きつかれているベジータは嬉しそうだ。
俺もああやってまた、ゆえを抱きしめてやれるんだな。
そう思うと、熱い感情が胸を突き上げる。
「ピッコロ」
しばらく周りを眺めていた俺に、18号が声を掛けてきた。
なんだ?と首を傾げれば、震える手で手首を掴まれる。
突然のことに俺はただ黙った。
先を促そうとしても、話す気配は無い。
「18号・・・」
「・・・・」
そんな18号を支えるようにクリリンが抱き寄せた。
俺達の周りだけが、静かな空気に包まれる。
「・・・・ピッコロ」
もう一度名前を呼ばれた。
何も言わず、ただ18号を見つめる。
18号はそんな俺の視線に気づくと、涙を浮かべながら頭を下げた。
突然のことに、俺の思考は置いて行かれる。
「ピッコロ、悪かった・・・!!」
「っな、なんだ・・・!?」
「私のせいで、ゆえが、ゆえが・・・っ!!」
あぁ、そうか。
こいつらは知らないんだ。
ゆえが生きていることを。
厄介なことになったと頭をかけば、反応の薄い俺を見てクリリンが首を傾げた。
「ピッコロ?」
「ん?・・・いや、18号。頭を上げろ。ゆえは死んでない」
「・・・・え・・・?嘘だ・・・!!」
こんなに取り乱した18号は初めて見るかもしれない。
それぐらいに18号は力強く俺の肩を掴み、身体を揺らした。
「ゆえは私を庇ったせいで!!身体を吹き飛ばされて・・・ッ!!あんな状態で、生きてるはずが・・・っ!」
言いながら18号が崩れ落ちる。
慌ててクリリンが抱き寄せるが、18号は力なく座ったままだった。
・・・ったく、アイツめ。
めんどくさいことさせやがって。
そうだ。悟空とベジータが見てるじゃないか。
アイツらに証言させれば18号もさすがに信じて―――――。
「っ!?」
ガウンッ!!
「な、なんだ?」
「フッ・・・やっぱりおかしな技術だな」
降り注いだゴミ箱。
18号と俺の傍に落ちたそれを見て、ベジータがそう吐き捨てる。
俺達はその中から出てくる人物をただ見守った。
「ふー。到着!」
あの時神殿にいてゆえが死んだと思っていた奴らの顔が・・・固まっていく。
特に18号は声も出ないぐらいに驚いていた。
涙をボロボロこぼし、俺達の方に近づいてくるゆえをただ見つめている。
「ゆえ!?」
「ゆえさん・・・!!生きて、生きてたんですね・・・っ!?」
「ゆえねーちゃーーん!!!!」
「おぶふっ!?」
女とは思えない声を出してゆえが倒れこんだ。
トランクスや悟天、悟飯に18号と。
たくさんの奴らに一気に抱きつかれ、もみくちゃにされている。
誰も止めようとはしない。
止める必要も、ない。
微笑ましそうに、その光景を見つめるだけ。
「アンタ、どうやって生きてたんだい・・・?あの状態で生きてるなんて・・・」
「うん?あー、あれは死んだと思ったよ。でも大丈夫だった!」
ケラケラと笑うゆえは、生命の危機を感じていた奴とは思えない。
未だに18号は信じられないという顔をしている。
18号は見たのだろう。
自分を庇うために傷ついたゆえの姿を。
一体どんな傷つき方をしたかはしらないが、ゆえのことだ。
どうせ無茶したんだろうと、想像してため息を吐く。
「・・・・よかった」
「はーい!!辛気臭いのはそこまで!これからパーティしましょ?」
「・・・・い、いきなり?」
「あら、文句ある?」
「ありません」
18号の呟きをかき消すブルマの提案。
いつもなら「つまらん」と一蹴りする者もいるだろうに、誰も文句を言わなかった。
誰もが溺れているのだろう。
この、幸せに。
パーティといってもそれは小さいもので。
悟空の家に女性陣が料理を持ち寄って話すだけだった。
だが、何故かいつもより会話が弾む。
そして時間が経つにつれ、悲惨な光景が広がり始めた。
「ちょっとヤムチャ。飲み過ぎよ?」
「いいじゃねぇかよー」
「おいブルマ。・・・さっさと来い」
「はいはい」
既に酔っ払ったヤムチャ達。
少し嫉妬しているのか、ブルマを呼び寄せるベジータ。
こうやって観察するように周りを見ると、色んなものが見えてくるような気がした。
俺達も、周りにはあんなふうに幸せに映っているんだろうか。
そもそも俺は、アイツを幸せにしてやれているんだろうか。
腕を組んで深く考えこむ。
「ピッコロさん?」
「・・・・悟飯か」
「考え事ですか?」
目を閉じてでも分かる悟飯の気と、ふわりと香る酒の匂い。
「お前、飲んだのか」
「少しだけですよ」
「フン・・・少しだけでその顔なら、酒は止めておいた方がいいな」
「うわ、酷いなぁ・・・」
悟空たちから少し離れた木の根元。
悟飯も俺と同じように木に背を預け、ぐちゃぐちゃになりかけている宴会の様子を見つめた。
「何を考えてたんですか?」
どこに持っていたのか、悟飯が俺に水を差し出しながら聞いてくる。
特に何も考えていない・・・と言おうとしたがこの雰囲気のせいだろうか。
俺は口を閉ざすのを止め、考えていたことを悟飯に話した。
「お前たちのように・・・ゆえを幸せにしてやれてるのかと、思っていただけだ」
「・・・ピッコロさん」
悟飯にもビーデルという大切な人が居る。
優しさと強さを持ったサイヤ人。
それが、悟飯だ。
きっと悟飯ならビーデルを幸せにしてやれる。
俺はそう思いながら悟飯の頭を撫でた。
「お前なら、ビーデルを幸せにしてやれるだろうな」
「ピッコロさんもゆえさんを幸せにしてますよ?」
「・・・・あぁ」
「ベジータさんから全部聞きました。ゆえさんのことも、ブゥとの戦いのことも。だから言えるんです。ゆえさんはピッコロさんしか見えてませんよ」
からかうように笑われる。
そしてふと、悟飯の視線が遠くに移った。
俺もそれを追いかける。
追いかけた視線の先には酔っ払ったヤムチャたちに絡まれているゆえがいて、お世辞にも可愛いとは言えない怒鳴り声が聞こえてきた。
「ちょ、こら!!うざ絡みすんなっ!!!」
「いいだろゆえちゃーん!!な?俺達にもその天使の姿見せてくれよー」
「老人は先が短いんじゃ、それぐらいええじゃろ?」
「何が先が短いだ。アンタまだばりばり生きるでしょ!!」
「ねーちゃん俺も見たい!!」
「僕も僕もー!」
「っ・・・・」
どうやら天使になれるという話を聞き、皆でゆえを囲んでいるらしい。
トランクス達なら分かるが、大の大人達が囲んでいるのを見ると苦笑が洩れる。
悟飯も呆れ顔で笑っていた。
でもどこか、楽しそうだ。
「ったく、あいつらは・・・」
「僕も見たいので混ざってきますね!」
「なっ!?ご、悟飯・・・!」
「ゆえさーん!僕も見せてくださいよー!」
アイツ、完全に酔っ払ってやがるな。
酔っぱらいに何を言っても無駄なことは知っている。
だからこそ俺はゆえが心配になり、少しだけゆえを囲む集団のほうに近づいた。
正直、今でも夢のようなのだ。
アイツが天使の姿に戻れるということが。
俺の手の中に、無事に戻ってきてくれたということが。
――――そしてあの姿をもう一度見たいと、心のどこかで思っていた。
「なー、ゆえちゃん、いいだろ!」
「っ~~~~しつこいなぁ・・・!!」
だから止めなかったのかもしれない。
ただ囲まれるゆえを見つめ、その場に立っていた。
「ゆえねーちゃんっ」
「・・・くっ。分かった分かった。子供の笑顔に負けてやろーじゃないか」
しつこさに折れたらしい。
ため息を吐きながら皆から少し離れたゆえが、真剣な表情で魔力の解放を始める。
雰囲気は、悟空たちが超サイヤ人になるときのような感じだ。
だがそれは徐々に感じたことのないものに変わっていき・・・・やがて分からなくなる。
文字通り分からなくなるのだ。
彼女の魔力も、気配も。
まるでこの世の存在ではないかのような。
「っ・・・・」
少し痛そうに表情を歪めて。
それから彼女は天使になった。
腰まで真っ直ぐ伸びる青く綺麗な髪。
天使というのを主張する、大きく白い翼。
全てを見据えるような瞳。
どこか人間離れした雰囲気。
誰もが呼吸をするのを忘れ、その姿に見惚れているのが分かる。
「ふぃー。これで満足?」
「す、げぇ・・・さすがにこれは、馬鹿にできねぇな・・・・」
「何?また笑うつもりだったわけ??うん???」
「いだだだだだあぁああ!!??」
余計なことを口にしたヤムチャが魔法で頬を引っ張られた。
その間にぼけーっと見惚れていた奴らが目を覚まし始め、ゆえを更に囲む。
「ねえちゃんすげー!!かっこいい!!この羽根本物!?」
「うん?そうだよー」
「うわー!!ふさふさしてるっ!!」
「あ、ちょ、こら、あんまりやりすぎると抜けちゃう!」
「相変わらずふざけたヤローだな」
「ベジータに言われたくありませんーっ」
なんだろうか、この感情は。
天使の姿をもう一度見ることが出来たのは嬉しかった。
しかし、それ以上に。
もやもやが心を支配する。
「フッ・・・随分と毒されたようだな、俺も」
その感情に気づいた時、俺はそれを受け入れて自傷気味に笑った。
独占欲、だ。
彼女のあの天使の姿は、まだほとんど人の目に触れていない。
あの姿を、俺だけのものにしたいと思ったのだ。
「ねーちゃん綺麗」
「褒めても何も出ないよ?」
「嘘ついてないよな、悟天」
「うん!」
「僕もそう思いますよ。ね、ビーデルさん」
「う、うん・・・なんか・・・すごく、次元が違う人みたい」
「やだなー・・・照れちゃうー!」
そう言って大げさに顔を隠したゆえの手を、無意識に掴んでいた。
誰もが俺の行動に目を向ける。
そして何人かは俺の思考を見抜き、ニヤニヤし始めた。
っくそ。
気に食わないが、この手を離したくも無かった。
「ピッコロ?」
俺の気も知らないで。
油断しきった顔しやがって。
「帰るぞ」
「へっ!?」
「あー、ピッコロずるいぞ!独り占めする気だろー!!」
酔っ払ったヤムチャにそう言われ、皆の視線が再び集まる。
それに対して俺は否定せず、ゆえを姫抱きにして宙に浮いた。
「そうだったらなんだ?こいつは俺様のものだ。・・・・じゃあな」
普段なら絶対にしないであろう発言と行動。
きっと俺は、酔っていたんだ。
平和とは、幸せとは、こうも簡単に人を狂わせるんだな。
俺は自嘲気味に笑いながら、文句を言い続けるゆえを神殿に運んだ。
先ほどとは打って変わって静かだ。
何の音もしない。
見えるのは綺麗な星空。
感じるのは澄んだ空気。
「もー、まだパーティやってたのにー」
「いいだろうが別に。あんなのまたブルマがいつでもやるだろう」
「何さ、なんか・・・ちょっと怒ってる?」
揺れる青髪。
見慣れない姿のままのゆえが、俺に手を伸ばしてくる。
もっと、もっと近づけ。
俺はゆえを引き寄せるためにわざと不機嫌なふりをし続けた。
「ピッコロー?」
頬に触れる手。
触れられてから気づく。
ゆえの身長がいつもより少し高いことに。
俺の顔を覗きこむその顔が、近い。
俺はバレないよう心の中で笑うと、近づいてきたその顔を逃がすまいと掴んだ。
「っわ!?」
「くくっ・・・・引っかかったな」
「こ、こら!離してよー!!」
「誰が離すか」
いつもより腰を曲げなくても届く。
唇に、口付ける。
最初はただ触れるだけ。
徐々に深く口付けていき、ゆえの熱を貪る。
「っ・・・ん、ぅ」
「はっ・・・・」
唇の感触も、違う。
違っても問題ない。
俺だけが知ればいいんだ。
これからその姿のお前さえも、全て。
俺だけが、味わうんだ。
「ピッコロ・・・?」
「なんだ?」
「・・・良かった、またこうやって・・・皆で話したり、ピッコロと触れたり出来て」
ゆえが俺に抱きつく。
俺はそれを受け止め、腰に手を回した。
「ゆえ・・・・」
「ピッコロ」
「これからも永遠に俺の傍に居ろ」
「・・・命令?」
「あぁ」
「命令じゃしょうがないなー」
クスクスと笑うゆえは嬉しそうだ。
そんな反応が、俺を煽っていると知るべきだと言っているだろう?
分からせるために一度腰を離し、再び口付けた。
逃げようとする舌を絡め、震えだす身体を支えてやる。
「っは、ぁ・・・!がっつきすぎ!!」
「否定はせん」
「へ・・・?」
あぁ、俺の目に気づいたか?
今にもお前を食おうとしてる目に。
俺を真正面からみたゆえが、動揺したように白い翼を揺らす。
「あ、え、えっと、その・・・?」
「なんだ?」
「い・・・いや、マジな目をしてらっしゃいます・・・よ?」
「それがどうした」
「っ・・・手加減するなら、してもいいよ」
いつもなら全力で逃げようとするゆえからの誘い。
煽られた俺は、理性など吹き飛ばしてゆえを抱きかかえた。
向かうは俺達の部屋。
久しぶりに入る、夫婦の部屋だ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ?」
「元に戻るからさ」
「・・・・ダメだ」
「へっ!?おうふっ!?」
ばふっ!と音を立ててベッドに倒れ込むゆえ。
その上に覆いかぶされば、ゆえが顔を真っ赤にして俺を殴った。
「・・・なんだいきなり」
「なんだいきなりじゃなーい!い、いやだよ、ちゃんと悪魔に戻るから!」
「そのままでいい。・・・辛いなら戻っても構わんが」
「な・・・なんで、この姿がいいのさ・・・?」
いつもと違う姿は恥ずかしいのか、ゆえの目が俺を見ようとしない。
何故?
その質問は愚問だな。
「お前の全てを愛したいからだ。・・・いや、違うか」
それでは綺麗すぎるか?
本音は。
「お前の全てを、俺で汚したいだけだ」
その白い翼を。
綺麗な瞳を。
透き通る肌を。
全て、俺のものに。
「そこはもっとロマンチックに愛を語ってよねー」
「愛など俺が語れると思うか?代わりに行動で示してやる」
「・・・・天使を犯すなんて、大罪だけど?」
「ハッ。この俺がそんなものに怯えるとでも?」
「あーあー分かりました。好きにしてよ、大魔王さま」
軽口を叩きながらも、俺の腰に回される手。
「ククッ・・・・やはり最高だ、お前は」
「そっくりそのまま、返して・・・あげる」
溶けるような口付けを交わして。
俺はただ獣のように彼女を求めた。
永遠に彼女を、俺のものにするために。
その白い翼を、天使としての彼女すら。
俺のものにしてやろうと、ただ。
「愛してる、ゆえ・・・」
夜に、溺れた。
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