いらっしゃいませ!
名前変更所
目を瞑った先で空気が変わったのを感じた。
目を開ければ、そこには見覚えのある奴らの顔がある。
そして、見覚えのある人達の、死体も。
「おいベジータ。お前だけ楽しみすぎじゃねぇのかぁ?」
「フンッ」
今死んでるメンバーは歴史通りのようだが、もうベジータも戦う気になっているようだった。
生きているのはピッコロと悟飯と、クリリン。
悟空は――――まだか。
ベジータ達は私に気づくこと無くピッコロ達と対峙している。
えっと、どうすればいいんだ?
歴史通りにするためには、私がベジータを止めてればいいのかな?
「・・・見た感じ、ナッパは操られてないみたいだしね・・・」
幸運なことに、邪悪な気を放っているのはベジータだけだった。
これならナッパと他の三人が戦ってくれれば、一応歴史通りに物事が運ぶはず。
「ナッパ。お前はあの餓鬼共とでもやってろ。俺はこのマトモそうなナメック星人の野郎と戦う」
「チッ・・・ずりぃなぁ」
「くっ・・・・」
「はいはいはいストーップ!」
「「!?」」
叫びと同時に私は走りだした。
驚く皆をよそに、その隙をついてベジータだけを蹴り飛ばす。
あ、よく飛んだ。
バァン!と空気が弾けるような音が響き、ベジータは岩場に突っ込んでいった。
「やりすぎたか」
「・・・ハッ。やっぱり現れたか」
「あれ、予想済み?」
「なんとなくな」
「皆はそっちのハゲ頭よろしく。私はあいつと戦っとくから」
この言葉にも、ピッコロは何も言わない。
文句とか疑問とかぶつけられると思ったのに。
一応信用されたってことかな?
ピッコロが私の言葉通りに三人で戦い始めたのを見て、思わず微笑む。
もちろん、後ろから怒り心頭のベジータが迫ってきているのは、ちゃんと気づいている。
「貴様ァ・・・・!!」
「おーおー。いつもより目つき悪いベジータさん怖い!」
「・・・!何故、俺の名前を・・・」
ベジータの質問なんて聞いてるはずもなく、私は深く考え込んだ。
ベジータを相手にするのはいいけど、どこまでやっていいんだろ?
あまりやりすぎると悟空との戦いでズレが起きるかもしれないし・・・。
でも今のままじゃ、確実に悟空が倒される。
なんたってあの気。邪悪な気。
とりあえず、あれを解除させるぐらいに殴っとけばいいかな。
そう心の中で結論を出して再び現実に意識を戻した私を、ベジータの拳が襲った。
「うおおおお!?」
目の前に映るベジータの顔はマジだ。
打ち出される拳は気が集中されていて、威力がある。
さすがはベジータ。この時代から相当強い。
でも驚かない。
だって、私の時代にいるベジータはもっと怖いから。
「よっと・・・!」
「ちょこまか避けやがって・・・!逃げ足だけは早いようだな!!」
「逃げ足だけか、試してみる!?」
「っ!!」
逃げながら方向転換した私は、一気にベジータの前に飛び込んだ。
防御の構えを取るベジータの側面を抜けて、背後から回し蹴りを放つ。
ベジータは一瞬の反応の遅れを取りつつ、その蹴りを右手で掴んだ。
足を掴まれた私はバランスを崩すが、そのままベジータの顔面に手を持って行って魔力を込める。
「チッ・・・!」
「のわっ!」
危険を察知したベジータが悔しそうに私の足を放り投げた。
放り投げられた私は慌てて受け身を取り、地面に片膝をつく。
うーん。思ったよりやる。
操られてるのもあるだろうけど、やっぱりベジータのセンスはピカイチだ。
「私が近接苦手なのもあるだろうけど・・・ね」
ベジータの邪悪な気を取りたい。
だけど、そのために魔法なんか使えば、さすがのベジータでもかなりのダメージを負う。
だからぶん殴って目覚めさせたいんだけど・・・中々難しい。
「来ないのなら・・・こっちから行ってやるぜ!!」
「ッと!?」
右から打ち出された真っ直ぐな拳を左手で捌く。
素早い攻撃を最小限の動きで捌きながら、段々と攻撃のパターンが分かってきた私は反撃を開始した。
攻撃の隙に小さくダメージを与える。
カウンターで一撃。
相打ちで一撃。
「っぐ・・・!!」
さすがにこの頃じゃ実力差は大きい。
ただ防御で弾くだけでも、ベジータの体力は確実に削れている。
それと同様に邪悪な気も段々と薄れていた。
久しぶりに神経張ることの連続で私も疲れてきたけど、もう少しだ。
「来なよベジータ」
「・・・なめるな!!!!」
わざと煽って相手の体力の消費を増やす。
さぁ、もっともっと。
早くなる攻撃の手を一つ残らず捌いて、気を消費させる。
失敗は許されない。
だから反撃はしない。
あくまでも、ベジータを倒すのは悟空――――そう、歴史は、変えてはいけない。
「あ・・・」
「もう鬼ごっこはおしまいだぜ、クズ野郎」
一瞬の動揺が命取りになった。
この先に待ち受けているピッコロの死を考えてしまった私は、その隙をベジータに取られた。
左手で頭を掴まれ、右手は腹部に。
重たい攻撃に思わず息が詰まる。
「がはっ」
そのまま腹部に気弾を打ち込まれ、私は遠くに吹き飛んだ。
吹き飛んだ先に映った悟飯の泣きそうな顔。
泣き虫だった、懐かしい悟飯。
「え・・?」
てかこれ、やばいんじゃ?
周りをよく見てなかったけど、見覚えのある構成だ。
悟飯が震えて泣いていて。
目の前には、気を高めて構えるナッパの姿。
「死ね・・・!!」
「あ・・ああ・・・」
あれ、これ。
私が一番見たくない、ところ。
・・・いやだ。
でもこれ、避けていいの?
ピッコロの姿が、全然見えない。
歴史はどうなってる?
避けて、もし悟飯が死んだら?
「っ・・・くそ!」
私は仕方なく咄嗟の判断で防御を構えた。
もしこれで歴史が変わってしまったら、最悪時の界王神にもう一度飛ばしてもらうしか無い。
でもしょうがない。
ここで悟飯が死んだら、大きく歴史が変わってしまう。
この瞬間には近くにいるはずのピッコロも見えない。
庇うしか、ない。
「ッ・・・」
目の前に閃光が走る。
さすがに死なないと思うけど、ある程度の痛みを覚悟して目を閉じた。
その瞬間、突き飛ばされる感覚。
「え・・・?」
思わず、目を開いた。
そして見たくないものを、間近で見てしまった。
私を突き飛ばしたのは、紛れも無いピッコロ。
そのピッコロは歴史通り悟飯を庇い、ナッパの攻撃を全身で受け止めた。
「・・・・どう、して」
歴史通り、だけど。
攻撃を受けたピッコロのは、本来の歴史より痛々しかった。
理由は分かってる。
私を突き飛ばすために、体勢が崩れたからだ。
「ピッコロ!!!」
慌ててピッコロに駆け寄る。
回復すれば助かる。ああでも、それは、出来ない。
出来ないんだ。
「ピッコロ・・・っ」
「なんで、お前まで・・・泣くんだ・・・最後、まで、変な・・・奴だな・・・」
手が震えてた。
未来ではきちんと存在してるって分かってるのに、怖くてしょうがなかった。
息が詰まる。
正常に息が出来てるのかも分からなくなる。
冷たくなっていくその姿が、あまりにも恐ろしくて。
「フッ・・・お前に、会えるのが・・・楽しみ・・・・・だな」
「ッ・・・・」
こんなにも、怖いんだ。
人が居なくなるのって。大切な人が消えてしまうのって。
震える身体をピッコロの身体に押さえつけて、私はその場で泣き崩れた。
私やっぱり、強くならなきゃ。
セルがいなくなったからなんて、関係ないんだ。
失いたくない。
誰も、ピッコロも。
「・・・・ピッコロ、私、未来のピッコロに言うよ・・・」
失ってからでは遅い。
そのことを、見せつけられたような気がした。
今まで私が悩んでたことに対して、強く。
帰ったら伝えよう。
彼に、私の本当の気持ちを。
永遠に居たいって、覚悟を。
子供も作れないし普通の人間じゃないけど、それでも許されるならって。
「・・・・」
「残念だったなァ?」
楽しそうなベジータの声が後ろから掛かる。
でもそれと同時に私の役目が終わったことを知った。
ベジータの気が、正史通りに戻っている。
私は振り返り際に涙を拭った。
楽しそうなベジータの顔を真正面から覗き込み、笑う。
「悪役なベジータもかっこよかったよ。・・・またね」
「なっ・・・」
後ろ手に持っていた巻物に魔力を注ぎ込んで。
私はその歴史から――――消えた。
疲労、の一言。
戻った私は疲労感から座り込み、ピッコロのベッドに向かってずるずる這いつくばって移動した。
デンデは、いない。
さすがに遅くなったから、寝てしまったんだろうか。
「ピッコロ・・・」
ピッコロの方を見れば、ピッコロの気が正常に戻っていた。
巻物が光輝き、上空に吸い込まれていく。
これで、これでピッコロは。
「ん・・・」
「ピッコロ!」
触れられる。
気の乱れも無くなってる。
嬉しくなって思わず抱きついた。
むぐ!?と苦しそうな声が聞こえてきたけど、お構いなしに力を込める。
「ゆえ・・・・」
少し乾いた声。
顔を上げた先に映るピッコロは、あの時よりも大人っぽい。
「フッ・・・やっと会えたな」
「・・・・覚えて、るんだ」
「当たり前だろう。あんな激しい主張すれば誰だって覚える」
「で、ですよねー」
歴史に関わっても消されると思ってたら、違うんだ?
色々やっちゃったなーと冷や汗をかいた私を、ピッコロが強く抱きしめてきた。
・・・温かい。
なんだか凄く久しぶりに感じる。
こっちの時代じゃ、まだあのままの夜なのに。
「よかった・・・ピッコロ・・・」
「ったく、お前はどこでも無茶しやがる・・・」
「にひひ」
「・・・・ゆえ」
「・・・ん」
名前を呼ばれて顔を上げる。
降ってきた口づけは優しくて、心地良い。
一度口唇を離した私は、ピッコロに抱きついたまま囁いた。
「ね、ピッコロ・・・伝えたいことが出来たの。外、出ない?」
珍しく真面目な感じ。
恥ずかしくなってピッコロの顔が見れなかった。
そんな私を見てか、ピッコロが笑いながら私を抱きかかえる。
そのまま扉を乱暴に開け放ち、月明かりに照らされる神殿の外に出た。
「すごいなー。あんなに色々あったのに、ここはまだ夜かぁ・・・」
「あぁ・・・」
ほんの数時間の間に、数日を体験した感じなんだろうか。
未だに疲労感が残る身体でピッコロの首に手を回し、覚悟を決めた。
さぁ、言おう。
迷う必要なんてない。
私の気持ちはきっと、変わらない。
相手を思うことは大事だけど。
ワガママ通せずに失ってしまったら、それが一番怖いことなんだと知ったから。
「ねぇ、私ね、ピッコロが色々なこと知っていって、色々なことしてくれるの嬉しかったんだ」
デートってのをしてくれるようになって。
記念日に小洒落たプレゼントまでくれて。
言葉での表現はまだぎこちないけど、ソレ以外はほとんど普通の恋愛。
「でもそれと同時に怖かったんだ・・・その、ピッコロが私じゃ物足りなくなるんじゃって。私じゃ・・・ピッコロにふさわしくないんじゃないかって」
ピッコロはとても素敵だ。
ピッコロが知らないだけ。
その魅力はたくさんある。
だから怖かった。
だから、言えなかった。
「私、元々人間じゃないから・・・身体は女でも、子供を産んだりとかも・・・出来ないし」
「・・・・」
「もしそういうのを望んだらって・・・」
思わず口唇を噛みしめる。
怖くて、ピッコロの顔は見れなかった。
目を瞑ったまま、首に回した手を強める。
「だけど、もう、我慢出来ないや。ワガママでも、何でもいい。聞いて欲しいの、私、ピッコロと・・・」
「そこまでだ」
一番大事なところを、ピッコロの指に止められた。
口唇を這う指が優しくなぞって、離れていく。
「そこから先は、俺が言う」
――――え?
「俺も同じだった。お前は普通の人間としても生きていける。・・・俺のようなやつと、永遠を誓わせていいのかと、ずっと・・・考えていた」
ピッコロの手が私から離れた。
地面についた私の足元に、ピッコロが跪く。
異様な、光景だった。
同時にすごくドキドキした。
月明かりに照らされて、真っ赤な目が私を見上げている。
その瞳は優しいのに私を食べてしまいそうで。
「だがお前が過去に来た時・・・お前の言葉で、俺は自分の気持ちを押し通すことを決めた。お前がどんな俺でも、俺を望んでくれていると・・・知ったからだ」
ふわり。
私の手を優しく取って、その手のひらに魔術で何かを出した。
小さな、箱。
その箱をそっと開けながらピッコロが言う。
「ゆえ・・・俺と結婚してくれ。俺は永遠に、ゆえを、俺のものにしたい・・・」
箱から覗いた小さな宝石の乗った指輪。
紫色に光る宝石が、滲んでいく。
あ、どうしよう、止まらない。
せっかくの指輪が全然見えない。
「・・・何故、泣く?」
戸惑ったようにピッコロが私の手を強く握った。
「うれしいから」
「嬉しいのに泣くのか」
「・・・うん」
「そうか。・・・また教えてくれ、その感情も。俺の傍で」
「・・・・・うん」
何を言われても涙が止まらない。
嬉しくて、嬉しすぎて。
死んでしまいそうなほど、幸せ。
立ち上がったピッコロが私の腰を抱き寄せる。
2人で見た星空は、滲んでて何も見えなかった。
「・・・早速、明日はブルマのところだな」
「へ?なんで?」
ようやく涙が乾いた頃、そう呟いたピッコロに首を傾げる。
ピッコロは苦笑しながら私の方を向き、私の目元を優しく拭った。
「ブルマに言われたんだ。・・・プロポーズする覚悟が出来て成功したら、式を3日で準備してやるから言えと」
「・・・・ブルマらしいね・・・もしかして、ブルマの式で捕まってたのって、それ?」
「あぁ、それだ」
ブルマの結婚式でピッコロがブルマに捕まってたのを思い出す。
ただ酔っ払ったブルマに捕まってただけだと思ってたけど・・・そういうことだったんだ。
式、かぁ。
嬉しすぎてまた泣きそうになれば、両手で顔を挟まれた。
「泣くな」
「だ、だって・・・」
「言い訳は聞かん・・・お前は、笑っていろ」
そう言って塞がれた口唇は、とても温かい。
感じる幸せに零れた涙は私の頬を伝って、やがて分からなくなった。
もう、分かるのは温かい口唇だけ。
溶けるように、味わうように、私達はお互いの口唇を重ねあった。
きっとこれからも、私達は変わらない。
「これからもよろしく、ダーリン!!」
「やり直せ」
ほら、ね。
PR
この記事にコメントする
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)