いらっしゃいませ!
名前変更所
過去のピッコロに会える。
そのことで舞い上がっていた罰だろうか。
私は今、まったく見知らぬ土地にぽいっと放り投げられていた。
「・・・・・ここ、どこですかね・・・・」
ピッコロの記憶を見たからといって、全てを覚えてるわけじゃない。
ましてや地球の地理に詳しいわけでもない。
生い茂る木々。
記憶を思い出しても中々一致しない大きな森の光景に首をひねる。
「んんー・・・・」
巻物を通じてここに落ちたんだから、ピッコロもここの近くにいるはずなんだけど。
大きく息を吸って一旦落ち着いた私は、目を閉じて周りの気に集中した。
周りから感じる魂の色。
動物たちの中に違う輝きがないか、探す。
「・・・見つけた」
瞑想をしているのだろうか?
かなり小さく抑えこまれた気に、見覚えのある霊の輝きを見つけた。
わりとすぐ近くだ。
私はそこを目指すために翼を広げ、森の中を飛んだ。
・・・にしても、昔のピッコロってこんなところで修行してたんだ。
なんていうか、昔も今も変わらないんだなって感じる。
生い茂る木々や近くに聞こえる水の音は、今のピッコロの修行場所と同じ空気。
「お、みつけ・・・」
ちょっと開けた場所でピッコロの姿を見つける。
瞑想しているだろうと踏んで静かに歩み寄った私は、目の前に飛び散った液体に目を見開いた。
紫色の。
これは、血。
ゆっくりと視線をずらせば、見たこともない恐竜とその下に横たわるピッコロの姿。
こいつだ。操られた恐竜。普通の恐竜じゃありえない凶暴な気。
巻物に映ってた怪しい正体。
気が弱まってたのは瞑想じゃなく、死にかけてたから・・・!!
どんどん弱まっていく気に思わず飛び出せば、ピッコロの心臓を狙おうとしていた爪が私の背中にがっちりと食い込んだ。
「あぐっ・・・!」
「・・・っな・・・き、貴様、だれだ・・・!?」
正直、このレベルの攻撃、痛みしか感じない。
でも今のピッコロじゃこれすらも生命を奪う攻撃になるだろう。
いやー、ピッコロの若かりし頃かぁ。
感じる戦闘力は今のピッコロの足元にも及ばない。
ピッコロも成長してきたんだねって、分かる。
「おい!女!!」
「はい!!」
「なに俺を見てやがる!!貴様今自分がどんな状況か理解しているのか!?」
「あ、そうだった」
背中に刺さった恐竜の爪。
私はそれを魔法で抜くと、そのまま恐竜に手を翳した。
この恐竜は正しい歴史でもピッコロに殺される運命。
本当は生かしてあげたいけど、それでまた歴史が変わったらあれだから。
「ごめんね」と謝ってから魔力を一気に上げ、恐竜に向かって強力な魔弾を放った。
肉が焼ける香り。
ぽかんと私を見つめるピッコロに向き直り、誰もいなくなった空間を見せた。
「はい、もう大丈夫だよ!」
にっこりと笑った私にピッコロの鋭い視線が刺さる。
あ、すごく魔族ってかんじ。
「貴様、何者だ!何故いきなり出てきて庇った・・・!!」
「えー?私、ピッコロの将来のお嫁さんだから?なんちゃって!」
「殺されたいのか?真面目に答えろ」
「真面目です」
「殺す」
この会話の感じも、変わらない。
ちょっと普段より冗談通じない感じがあるぐらいかな。
そんなことを思ってたら、ピッコロから鋭い気弾が放たれた。
気づいていた私はそれを軽く避ける。
「んじゃあ、ピッコロを守る正義のヒーローってことで」
「何がじゃあだ!!ふざけてるのか貴様・・・?俺が誰だか分かっているのにその態度とはいい度胸だな」
「ピッコロだからこの態度なんだよ!あぁもう、ピッコロってばいつでもかっこいいなぁ!」
「な、なんだ貴様・・・っ!!!」
完全にドン引きレベルでピッコロが狼狽え始めた。
珍しい光景だなって眺めておきたかったけど、これ以上干渉すると逆に歴史を歪める可能性がある。
私はピッコロに近づき、自分の傷を治すついでにピッコロの傷も全部治してあげた。
それにしても恐ろしい術だ。
ただの恐竜が、操られただけでピッコロを殺してしまうほどになるなんて。
時空を歪めてる正体―――。
それを探るのは私の仕事じゃないにしても、さっさと見つけてもらわないと。
「お、おい貴様ッ!!俺様を無視とはいい度胸だな!」
「がはっ!?」
考え込んでいた私の額に鋭い衝撃が走った。
痛みの方向にはもちろんピッコロの姿。
仮にも助けてやったというのになんだこの態度。
「いったいな!!こっちは怪我してんだから労ってよね!!」
「貴様が俺の質問に答えるなら考えてやってもいい」
「いいよいいよ?何が聞きたいの?」
「貴様、何者だ?」
「だからいってるじゃん、ピッコロの未来の、かわいい、お・よ・め・さ・・・・」
顔の右側を凄い勢いで何かが通過した。
直後、私の後ろ側で通過したであろう気弾が爆発する音が響く。
思わずヒクッと顔が引き攣った。
全力を出されても死ぬレベルにはならないとはいえ、容赦が無さ過ぎて怖い。
「真面目に答えろ・・・!!本気で殺すぞ!!」
「あーはいはい。じゃあもう労らなくていいから!帰る。じゃーね」
「な・・・っ!?」
過去に干渉しすぎるのは悪いって分かってるのについついピッコロと戯れちゃう。
そんな自分自身にため息を吐きながら、持ってきた巻物を手に持って魔力を込めた。
帰る方法は簡単。
来た巻物に魔力を込めて発動させるだけ。
それだけで帰れる。
他にもまだ巻物が残ってるから、急がないと。
って・・・・。
「っ!」
巻物の術が発動する寸前、私は腕の違和感に気づいて術を止めた。
術の光が収まってからそこに見えた、私の腕に絡みつくピッコロの腕。
危なかった。
このまま発動させてたら、ピッコロごと未来に持って行くところだった。
「こ、こら、離しなさい」
「ハッ・・・何故俺を知っているのかも話さない。正体を聞いてもはぐらかす・・・そんな怪しい奴を俺が離すと思うか?ふざけるのもいい加減にしろ!!!」
「ッ!?」
ぐいっと腕を引かれ、バランスを崩してしまう。
慌てて起き上がろうとしたところをピッコロに乗られて動けなくなった。
重たいわけじゃない。
ただ、いつもの冗談とは違って本気の殺気に戸惑っただけ。
「どうした?怖くなったか?」
「・・・・・」
上に乗って私の首に手を掛けるピッコロはそう言いながら笑った。
覗く牙。
鋭い瞳。
いつもと似ているようで違う。
それは本当の、魔族。
「はっ・・・・」
首が絞められて苦しくなる。
殺すつもりはない締め方。それなのに赤い目は本気で。
ああ、やばい、これは。
「かっ・・・」
「くくっ・・・怖なら泣き叫べ。他の奴らのようにな」
「かっ・・・こいい・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、やめ、まじで死んじゃっ・・・!」
正直な感想を呟いたら本気で殺されかけた。
息ができなくなったため、しょうがなくピッコロを突き飛ばす。
突き飛ばされたピッコロは、さすがピッコロって感じだった。
素早く体勢を立てなおしてもう一度私に掴みかかるんだもん。
「っく」
「貴様・・・!!この俺を見て、この俺を知っておきながら、何故・・・怯えない!!」
「え、怯えて欲しいの?」
「っ・・・・」
ピッコロの瞳が揺らぐ。
あまり触れちゃいけないところだったと気付き、笑ってごまかした。
「なんてねー!冗談冗談!」
「・・・貴様」
「まぁほらそんな怒らないで?すぐわかるから、ね?」
「何がっ・・・・」
ピッコロの腕の力が強まった瞬間、こっそり準備していた魔法を発動させる。
漂う甘い香り。
一瞬にしてその香りはピッコロの意識を奪い、私の腕の中にその身を預けさせた。
今のピッコロと変わらないけど今よりもちょっと乱暴かな?
あと、少し子供っぽい。
顔つきも言動も。
「・・・・あえて良かったよ、ピッコロ」
聞こえてないことを知っていながらも、私はお礼を言ってから巻物を手にとった。
早く帰って、今のピッコロを救うために。
<ちょっと、過去に干渉しすぎよ?まぁ、アンタ達の関係なら問題ないでしょうけど>
「帰ってきてすぐ説教は疲れちゃうよ時の界王神」
<まったく・・・何が疲れてるよ。ほら、さっさと次行きなさい!でも連続は今回までよ。疲れやすいからちゃんと休憩も・・・>
「イエッサー!」
<最後まで聞きなさいよ・・・>
元の時間軸に戻ってきた私は、消えかけたピッコロの頬にキスを落とした。
それから、今自分が行ってきた巻物を見つめる。
巻物に記されている時間は私が干渉したことで元通りになった。
ちょっと違うのは、私とピッコロの出会いが少し早まっただけ。
ま、最悪時の界王神が消してくれるでしょ。過去の私の存在を。
「さぁて、次は・・・・」
禍々しい巻物はあと3つ。
戻った巻物は時の界王神が回収するらしいからそこら辺に放り投げておく。
新しく手にとった巻物は、私の記憶の中にも強く焼き付いている時間軸だった。
悟空とピッコロが協力してラディッツを倒す時間。
ある意味、ピッコロの運命を強く変えた出来事。
本来ならピッコロが悟空を犠牲にしてラディッツを悟空ごと倒す。
でも今の巻物が作り出している歴史は、ラディッツに謎の術がかかり、羽交い締めにした悟空を引き剥がして悟空だけを犠牲にしてしまうというものだった。
ピッコロが放った魔貫光殺砲は、引き剥がされた悟空だけに当たって。
その後、ピッコロも、悟飯も、謎の術によって凶悪化したラディッツに殺された。
「・・・ったく、どんだけ殺したいんだよピッコロを」
この場合、正しくラディッツを倒させて、悟空以外の犠牲者を出さなければ良いみたいだ。
急に複雑化した歴史修正に頭を抱えたくなったが、気を取り直して向かうことにした。
さ、次は、ピッコロどんな反応してくれるかなー!!
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