いらっしゃいませ!
名前変更所
この数年でたくさんのことがあった。
まずピッコロっていう魔族に目覚めさせられて、面白いからちょっと契約してみて。
その面白いが、今では永遠を誓う仲にまで進化しちゃって。
そこから色々あって戦ったりとか、セルとかいうのと地球かけたりとか。
まぁ、はしょると今は凄く平和ですってこと。
平和な・・・はずなんだけどね。
鋭い赤い目が私を捉える。
あ、かっこいい――――
「がはっ!?」
「左だ馬鹿者が!!」
真正面のピッコロを見ていたら、左側に分裂していたもう一人のピッコロにぶん殴られた。
しかも顔面を。なんてひどいやつ。
文句も言えずに神殿の地面に叩きつけられた私を見下す、2人のピッコロ。
呆れ顔の中に怒りを含んでいるその顔は、私を見下しているらしいけど逆効果。
思わず見とれてしまい、近づいてきたピッコロを見て余計な一言を放つ。
「いやぁ、呆れ顔のピッコロもかっこいいなぁ」
「「死ね」」
「っおわ!!!」
精神と時の部屋でもよく言ったこの言葉。
その言葉に殺気立ったピッコロは、2人して一斉に気弾を打ち始めた。
なんだよ。本当のことなのに。
呆れ顔もわりとかっこいいんだよ、ピッコロって。
そんな余計なこと考えてたら、1人に退路を塞がれていた。
慌てて振り返ればそこにもピッコロがいて、ちょっと真剣に考え始める。
「っ・・・」
「やっと真剣になったな?」
「そうでなければ、死ぬぞ?」
「ステキなピッコロに囲まれて幸せなんです」
「「死ね」」
両側から撃たれた魔貫光殺砲を、空中に飛ぶのではなくしゃがんで避けた。
そのまま1人目のピッコロの足を掴み、バランスを崩す。
崩したところで顔面に魔弾をお見舞いしてやろうとするが、それは後ろに居たピッコロに掴まれて阻止された。
ああもう!!2人いるのめんどくさいな!!
「っだーー!!めんどくさい!!1人に戻れよ!!」
「多人数戦の修行だと言ったのが聞こえんかったのか?」
「フン。聞いてなかったんだろうな」
「聞いてたけど、さっ!!」
「ぐっ!?」
肘を引いて、後ろ側のピッコロの腕から抜けだした。
もう一度私を捕まえようとする腕に蹴りを浴びせ、もう1人が伸ばしてきた手も魔弾を当てて弾く。
やっと距離を取れたけど、もちろんピッコロはこれだけじゃ終わらない。
そのことを良く叩き込まれている私は、すぐに体勢を立てなおして空中に飛んだ。
「もー、どうせ2人になるなら両手を取ってデートとかにつれて・・・ってよっ!」
「勝てたら考えてもやらんな」
「うそつけ!この前そう言ってたから勝ったらもう一回とかいってボコボコに仕返ししてきたじゃんか!!」
ピッコロは私の師匠だ。
でも同時に、良い勝負相手でもある。
私には技術が足りなくて。
ピッコロには力が足りない。
私のほうが実力は上らしいから、彼の考えを上回ることができれば勝てるんだけど。
勝てたら勝てたでめんどくさいのだ。ピッコロの、負けず嫌いが。
「っは・・・!」
「息が上がっているぞ」
「わかっ・・・てる・・・!」
「毎回周りばかり見過ぎだ。空中に飛ぶ以上、下も気をつけろッ!!」
「スカート覗くなんてへんた・・・ぶふっ!」
あ、これやばい。
「のわあぁあぁああ・・・・・・ぐへっ」
疲れで身体が動かなかった。
修行中、何度奇声を上げればいいのか。
汗で濡れた髪の毛を払いながら、私は地面に身体を投げた。
もう、無理。動けない。
「ギブアップー」
「ちっ・・・相変わらず体力の無いやつめ」
「分裂して2人分動けるピッコロがきもい」
「・・・・・・・・・・・・」
ぐりぐり。
音も立てずに手を踏まれ、声にならない悲鳴を飲み込む。
「っ~~~~!!す、すみませんでしたぁあぁあ・・・っ」
「あぁ・・・すまない。踏んでいたようだな、見えなかった」
「く、くっそ・・・・」
倒れてる私に手すら差し伸べてくれない。
でも修行さえきちんと終われば優しいから、何も文句は言えなかった。
これはこれで、かっこいいピッコロが見れるし。
またそんなことを考えてたら怒られそうだなぁ。
・・・・なんて考えてたら、急に神殿の端からエンジン音が聞こえてきた。
「んー?」
「・・・誰か来たようだな」
エンジン音ってことは、ブルマかな?
痛みに耐えながらゆっくり身体を起こすと、最後の最後でピッコロが手を引っ張ってくれた。
その手に支えられながら、エンジン音の方を目指す。
見えてきたエアカーに乗っていたのは、予想通りブルマだった。
「やっほー、ブルマ!」
「お前がこんなところにくるとは珍しいな」
「ピッコロにゆえ、久しぶりね!!あら、デンデもいたのね~!!」
「お久しぶりですブルマさん。ピッコロさん達も修行終わったんですか?」
「そうそう、終わり!」
デンデの言葉に食い気味にそう言えば、ピッコロが少し不機嫌そうに私を睨む。
こうなれば私が午後の修行をサボると理解しているからだ。
もちろん私もその視線には慣れてるから、堂々とピッコロの視線を無視する。
そんな私達を見てか、ブルマがニヤニヤと私とピッコロを交互に見た。
「アンタ達も相変わらずお熱いわねぇ~」
「っ・・・・」
「フン・・・・」
「あら、ついに否定すらしなくなったわね。ま、アンタ達だいぶ進ん」
「ああーーー!それで、何か用で来たんじゃないのー!?」
ブルマはわりと何でも言う。
とんでも発言をされる前にブルマの言葉を切った私に、ブルマが笑みを深めながら二枚の紙を差し出した。
丁寧に飾り付けされたピンク色の紙。
折りたたまれたそれは私達に一枚ずつのものらしく、とりあえず受け取って中を開いた。
「招待状?けっこ・・・・結婚式!?」
紙に書かれていたのは結婚式への招待。
名前は見覚えのある、というか、1人は目の前に居るブルマ本人だ。
結婚式。そっか、ついにベジータと。
人造人間と戦ってた頃は子供がいるのに夫婦って感じしなかったけど、あれからベジータも少しずつ柔らかくなってたみたいだし、ちょうどいい機会なのかも。
ちょっと羨ましいな、なんて。
ピッコロがこういうの苦手なのは知ってるから、言わないけど。
「そうそう、明日だからアンタ達もデンデも来てよね!」
「え!?僕もですか・・・!?」
「行ってくるといい。ポポ、留守番する」
「ポポさん・・・・」
「ほら、ポポも言ってるんだからいいでしょ!じゃあ、待ってるわよー!!」
そう言いながらエンジンを掛けてすぐに飛び去っていくブルマは、まるで嵐だ。
残された招待状を見て、思わずにやける。
「何にやけてるんだお前は」
「えー?だってあのベジータが旦那さんだよー?だいぶ変わったなーってさ」
それは誰かさんも、同じだっけ?
笑いながらからかう私を、無表情で殴るピッコロは相変わらず。
でもその耳が赤く染まっているのは誤魔化せない。
また笑ったら殴られそうだったから、話題を変えようとポポに話しかけた。
「ねぇ、ポポ。そろそろおやつの時間じゃない?今日はなーに?」
神殿に暮らすようになってのもう2番目の楽しみ。
一番の楽しみは言わずもがな、ピッコロとの時間。
その次に大切な、おやつの時間。
食料を必要としない私にとって、ポポのおやつは栄養ではなく”楽しみ”
しかもこれがすっごく美味しいのだ。
一度ブルマに持っていったことがあるが、パティシエのケーキと勘違いしてた。
「今日のおやつはアップルパイ。もう少しで、焼ける」
「やったー!!よし、手洗ってこよピッコロ!」
「おいこら・・・引っ張るな。そういう時だけ元気になりやがって・・・!」
呆れるピッコロのマントを引っ張って部屋の中に入る。
目の前に広がる、私とピッコロの広い部屋。
お風呂も洗面所も全部ついてるこの部屋は、締め切ると完全に私達だけの世界になる。
パタンと扉が閉まる音。
同時に私はピッコロの方を振り返り、抱きついた。
「・・・・どうした?」
「お腹すいた」
抱きついても殴られないのは二人きりの時だけ。
ピッコロを味わうようにすりすりしながら抱きついていた私に、ピッコロが囁く。
「あまり煽るな・・・アップルパイとやらを食いそこねることになるぞ」
「あ、それはやだ」
「チッ・・・」
「色気より食い気、だからさ」
「自分で言うな」
「にひひ!それよりもほらー、はやく!!」
私のお腹はアップルパイとかじゃ満たされない。
私の空腹を満たすのは、魂か強い気だけだから。
ピッコロと契約してから私はピッコロの気をご飯にして生きてきた。
魂と同じように気も一人ひとり個性があるんだけど、ピッコロの気は意外と”甘い”
「ほら、食え」
解放された気を見て、更に強く抱きつく。
息を吸い込むように気を吸い取って、自分の身体の中に取り込む。
甘い、とても、はちみつのように。
「んー・・・甘くて美味しい」
「・・・」
「え、何その顔」
「気に味があると言われてもな・・・・」
まぁ、確かにそれもそうか。
ピッコロの気を心ゆくまで味わった私は、ピッコロの前で両手を合わせた。
「ごちそうさまでしたっ」
「・・・・遠慮無く吸い取りやがって・・・・」
ちょっと遠慮無く食べ過ぎたかな?
久しぶりだったからつい食べ過ぎてしまった。
少しふらついてるピッコロに自分の魔力を送りながら支える。
するとピッコロの腕が私の肩に回され、その重さで私は地面に倒れた。
「んぐっ!」
見上げれば色っぽい顔のピッコロ。
え、ちょっと、まって。
今からアップルパイ食べに行くんだけど?
「ストップ!!昼間から盛んな変態ッ!」
「何・・・?お前だけ俺を食っておいて俺には食わせないのか」
「ピッコロの食うと私の食うは違うでしょ!!」
最近のピッコロは毎日こうだ。
二人きりの時に隙さえあれば私を抱こうとする。
嫌じゃないけど疲れるし恥ずかしい。
なんでそんなにしたがるの?って聞いたら、「言葉より行動の方が分かりやすいから」だと。
確かに恋愛を上手く理解できないピッコロにとっては、あの甘い時間が一番の愛を感じるときなんだろうけどさ。
身体が保たないです、まじで。
あの修行中の厳しいピッコロはどこにいるんだ、まったく。
「はいはい、そういうのは夜ッ!!」
「チッ」
「チッじゃない!アップルパイ食べにいくよー!」
「ぬあ!?」
魔法でピッコロを弾き飛ばして、そのままマントを掴みながら引っ張った。
必然的に首が締りピッコロの悲鳴が響くが、気にすること無くポポの部屋まで引きずる。
「よくきた。今できたぞ」
「ありがとー!」
「ゆえさん、あ、あの、ピ、ピッコロさんが・・・・」
「あ、忘れてた」
アップルパイの香りが漂うポポの部屋。
そこでデンデに言われ、ようやくピッコロを離した。
ピッコロが咳き込みながら私を睨む。
「き、貴様・・・っ」
「やだピッコロこわーい!」
「殺す」
「怒んないで、ほら」
「むぐ」
怒鳴るピッコロにアップルパイをあーんしてあげた。
私と暮らすようになって少しずつ食べることもするようになったピッコロは、食べにくそうにもごもごと口を動かす。
「・・・・甘いな」
「そりゃそうでしょ、アップルパイだし。私もいただきまーすっ」
ピッコロの口からフォークを抜き取って、次は自分のアップルパイを切り分けようとして手を止められた。
何すんの?と言う前にピッコロが器用にアップルパイを切り分け、フォークに突き刺す。
そして目の前に差し出されたそれは、明らかに・・・。
「え、えっと、ピッコロさん・・・?」
チラリと視線を外せばポポとデンデが微笑ましそうにこちらを見ている。
流れ出る、冷や汗。
目の前のピッコロは「さぁ、食え」といわんばかりの表情だし。
「あ、あの、それは、あの」
「・・・・なんだ、さっさとしろ」
「・・・・・・」
これがピッコロの厄介なところだ。
ピッコロは恋愛と感じる部分が、理解が浅い。
だから時々平気で人前で凄いことを言い始めたりし始めたりする。
もちろん好きだとか、愛してるだとか。
抱きしめたりする直接的なことは、皆の前だと恥ずかしがるんだけど。
こういうのはまったく恥ずかしがらない。
むしろ何故恥ずかしがる、みたいなレベルで見られるから困る。
「あ、ありがとーう・・・んむ」
視線を感じながら差し出されたアップルパイを口に含んだ。
広がる甘酸っぱい味わいに、恥ずかしさなんて忘れてポポに飛びついた。
「おいしーー!!ポポ、やっぱ天才!!」
「よかった。ポポも嬉しい」
「よっしゃ。全部食べちゃうぞー!デンデもさっさと食べないと取っちゃうからねー?」
「もう!ゆえさんは食べ過ぎですよー!?」
最初は違和感ばりばりだったけど、いつの間にかこの4人の生活にも慣れて。
ふざける私を怒るデンデ。
最終的に私達のおふざけを止めるのはピッコロ。
それを静かに見守るポポ。
ある意味、家族なのかな。
くすぐったいけど悪い気はしない。
ピッコロたぶん、同じなんだろう。
何だかんだ言いながらデンデを凄く気にしてるから。
「ふふっ」
アップルパイを食べながら笑えば、ピッコロが私の頭を撫でた。
4人で一つのテーブルを囲み、ただ平和な時を過ごす。
刺激も何もないはずのこの時間が一番ドキドキして楽しい。
「もう一口いる?」
「いらん。お前が食え」
「あ、もういいですそれはっ!」
「ふむ?」
「あーーー!そういう意味じゃないのにーーー!!私のアップルパイ!!」
「うるさいぞ。一つぐらいでギャアギャア騒ぐな」
「むぐ・・・っ」
「ゆえさん、僕もうお腹いっぱいなので食べていいですよ?」
「デンデはもうちょっと食べなきゃだめ!!」
「ええ!?さっきと言ってることが・・・」
「いいのいいの。こいつが悪いんだからっ・・・!」
困るデンデを放置して、私のアップルパイを食べた犯人を殴る。
もちろんそんな簡単に殴らせてくれるわけもなく、私の拳はピッコロの手の中に収まった。
そのままぐぐっと手を握りこまれ、痛みに悲鳴を上げる。
「いいぃいい潰れるぅううう!!!」
「潰れてもデンデに治してもらえるだろう?」
「恐ろしいこと言うな!!!」
ピッコロのジョークはいつもエグい。
慌てて腕を引き抜きデンデに抱きついた。
「あのひとコワイヨー!」
「ピッコロさん、あんまりゆえさんをからかっちゃだめですよ?」
「あぁ、すまない・・・ついな」
「おいこらマテやお前ら」
デンデは味方だと思ってたのに。
なにその、明らかにピッコロの味方ですって感じの言い方。
むしろデンデさん、その言葉自体が私をからかってると気づいてますかね?
「明らかにそれ私を馬鹿にして・・・」
「そんなことないですよ?ね、ピッコロさん」
「あぁ」
「もうやだこのナメック星人達・・・・」
ピッコロにからかわれ、デンデにもからかわれ。
唯一の味方のポポには冷静に「早く食べろ」と見捨てられ、また1日が過ぎた。
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