いらっしゃいませ!
名前変更所
セルゲームまであと1日。
デンデという希望が出来ても、その日という悪夢を相殺することなど出来ない。
下界を覗けば、悟空と悟飯は相変わらずのんびりしていた。
でも残り1日だからこそ、こういう時間が必要なのかもしれない。
チチの嬉しそうな笑顔を見て、思わず私も笑う。
トランクスはベジータと修行していた。
何だかんだ言いながら、トランクスに心を許し始めているベジータにほっとする。
サイヤ人といえど人間の一人。
残酷さだけを持った人じゃないということが、良く分かった。
「ふぁう・・・皆さん自由ですなぁ・・・・」
「お前もな」
「おはよー!」
起きてきたピッコロに欠伸と挨拶をする。
「朝っぱらからだらしない奴だ」
「誰のせいですかね・・・」
「誰のせいだろうな?」
「ぐっ・・・!」
寝不足なのは目の前の彼のせいなんだけど。
文句が言えないような笑みを浮かべられて、勝つことを諦めた。
下界を覗くのを止め、いつもピッコロが瞑想している定位置で座禅を組む。
そんな私を見たピッコロが、意外そうな声を上げた。
「お前から瞑想とは・・・珍しいな」
「ん、ちょっとでも身体に負担かけずに修行しとこっかなーって」
「良い判断だが。本当に今日は無理をするな・・・明日に、備えろ」
真剣なピッコロの表情にゴクリと喉を鳴らす。
ああ、本当に明日なんだなって。
人事のように考えてたのが、急に現実味を増した。
緊張?恐怖?・・・分からない。
心臓が強く脈打つ。
怖いという気持ちが一番かもしれない。
「・・・」
「そんな顔を・・・するな」
「ピッコロ」
「なんだ?」
「・・・とう!!」
「ぐあっ!?」
座禅を崩し、一気にピッコロに飛び移る。
ピッコロに抱っこしてもらう状態になった私は、何とか私を受け止めたピッコロに笑みを浮かべた。
「き、貴様いきなり何を・・・!」
「抱きつきたくなったからつい」
「お前の”つい”は、毎回人を殺す勢いだろうが!!」
「そ、そんなことナイヨー」
説得力の無い言葉。
それにすら笑って、自然と口付ける。
ただ、触れるだけの口付け。
決して深いものにはならない。
確かめるように触れ合う。そっと優しく。
「にひひ」
恥ずかしさを紛らわすために笑う。
もちろんそれはピッコロにバレていて、軽く頭を叩かれた。
これが戦いの前なんて嘘みたいじゃない?
まるで夢みたいだって、いつも思ってしまう。
「ゆえ」
「んうー?」
「絶対に無茶をするなよ。俺の許可無く死ぬことは許さん」
人造人間と出会う前にも言われた。
俺の許可無く死ぬことは許さない、って。
あの頃からピッコロのことは好きだった。
恋愛としてかは分からないけど、失うことが怖くて、ただひたすらに戦うことを選んだ。
正直、死ぬことは怖くなかった。
今もきっと同じ。
でも前とは違う。それは死ぬことが怖くなったこと。
「死なないよ?」
こんなにも幸せな日々から消えたくない。
ずっと、ピッコロと一緒にいたい。
「ピッコロから離れたくないもん。あ、ピッコロも死んじゃダメだよ?死んだら追いかけるよ?」
「おいさらっと恐ろしいことを言うなお前は」
「一人とか無理だから!!もう無理だから!!」
ピッコロの肩を掴んでがしがしと揺らす。
嫌だ。
どっちが欠けてもこの幸せは消えてしまうんだから。
「分かった!!分かったから揺らすな!!」
ガクガク揺らされていたピッコロが、私の腕を取って止めた。
そのまま、また静かにキスをする。
二人きりの時だけに許される甘い時間。
見つめ合えばキスをして。時間があれば抱き合って。
口から出る言葉は罵り合いでも、行動は真逆。
「少し重くなったか?」
「うっせ・・・なってるわけないでしょ。なってても筋肉ですー」
「フン。最近ずっとポポのお菓子食べてただろうが」
「そ、そんなので太る身体じゃないし!」
「そうか?」
「あ、こら!お腹つまむな!!!」
回された腕。
触れ合う口唇。
段々と深くなっていく口づけに、手をピッコロの首に回す。
「っ・・・ん」
お腹をつまんでいた手が腰に回った。
支えるのではなく、私にぞわぞわとした感覚を覚えさせるその手の動き。
身体が、無意識に震える。
教えこまれた感覚が蘇って、さすがに危険だとピッコロの胸を叩いた。
「なんだ?」
「はぁっ・・・く、くるしい!馬鹿!!」
「あんな表情してるお前が悪い」
「もー・・・」
瞑想しようにも、ピッコロが手を離してくれない。
私も離してなんて言うつもりはなくて、ただ静かにその場で抱きあう形になった。
「瞑想はいいのか?」
「したいけど、ピッコロこうしてるのがいいなー」
「ふむ・・・・なら」
「おわっ!?」
急にピッコロがふわりと浮き上がり、座禅を組んだ。
抱きかかえられる形で捕まっていた私は、組まれた座禅の上に座らされる。
後ろからお腹に回される手。
後ろにいるピッコロの顔が見えなくて、ドキドキして、もちろん瞑想なんて出来ない。
「ピッコロ?」
「・・・・」
ドキドキしてる私をよそに、ピッコロは瞑想を初めてしまったようだ。
声を掛けてもまったく反応しない。
悔しくなった私も、集中するために目を閉じた。
そのまま気を集中させる。
じんわりと身体が熱くなっていく感覚。
気が、身体に集中してきている証拠だ。
それと同時にピッコロの吐息が耳元を掠め、集中力が途切れた。
「う・・・」
私の動揺にすらまったく無反応のピッコロ。
ちょっと肘で小突いてみても、反応しない。
・・・む、むかつく!!
ドキドキしてるのは私だけってか!?
余裕ですってか!あーそうですか。ならこっちにも考えがあるってもんだ!
一人で勝手に怒りだした私に気づくわけもなく、瞑想を続けるピッコロに声を掛けた。
「ピッコロ」
甘く、囁く。
ただ囁いたって私に色気がないことは知ってる。
だからちょっとだけ、ズルをした。
自分の声に”誘惑の魔法”をかけて、囁いたのだ。
この魔法は、声を聞いた人を魅了する・・・ちょっとした精神操作の魔法。
声に反応してか、ぴくりとピッコロの身体が揺れる。
「ねぇ、ピッコロ」
もう一度。
この力は、精神力が強い人にはあまり影響が出ない。
ピッコロもその類だと思うけど・・・少しは、ね?
そう思いながらもう一度口を開こうとした私を、ピッコロが力強く殴った。
「あぐっ!!??」
「貴様、ふざけた魔法を俺に使うな!!」
「あれれー?どうしたの?瞑想中でしょー??集中しなきゃだめでしょー??」
「・・・・・・・・・・」
ぶちっ、と。何かが切れるような音が聞こえたような気がする。
あ、やりすぎたかな?なんて思った時には、もう手遅れの段階。
勢い良く頭を掴まれ、固定された。
真っ直ぐ前を向くことしかできなくなった私は、首に掛かる力に悲鳴を上げる。
「あだだだ痛い!!痛いーー!!」
「・・・だったら集中しろ」
「へっ!?」
「瞑想するんだろう?さっさとしやがれ」
右手は私のお腹に。左手は私の頭をがっしり掴んで。
妙な抱え込まれ方をしたまま、私は仕方なく目を瞑った。
目を瞑った瞬間何かされるんじゃないかと思ってたけど、そういうわけでもなく。
ただ背中に、ピッコロの温もりを感じ――――。
「ひっ!?」
「・・・なんだ?」
「い、いや・・・・」
「集中しろ。俺に注意したんだ、達人のような集中力を見せてくれるんだろうなぁ?」
「・・・・は、はい」
何もないのに悲鳴を上げたりはしない。
今のは確実に、ピッコロの舌が私の首筋を舐めた。
ぞくりと走った感覚に悲鳴を上げただけ、それなのに。
「・・・・っ」
また、だ。
ピッコロは声も吐息も漏らさず、ただ静かに私の首筋に舌を這わせていた。
逃げようにも、私を押さえこむようにしている手がそれを許さない。
「・・・・・・ぁ」
「おい、気が乱れてるぞ」
「無茶言・・・っう、な!!!」
反撃で肘をぐっと引く。
でもそれは読まれていたようで、あっけなくピッコロの手によって止められた。
一応、頭を押さえつける手は無くなったから楽だけど。
この状況がマズイことには変わりない。
「ピ、ピッコロさん!」
潔く降参したほうがいいと感じた私は、裏返りそうになる声でピッコロを呼んだ。
「なんだ」
「ギブ!謝るから!!ギブアップ!!」
「うるさい・・・黙れ」
「ひぃいいあぁあああ!!???」
「・・・もう少し色気のある声は出せんのか・・・・」
色気なんてものはない。
当たり前だ。いきなり耳元を舐められたら誰だってそんな。
「ほんと、許してください・・・!!!」
「聞こえんな?」
こんの大魔王。
やっぱりこいつに勝とうとするのが間違いだったんだ。
衝動的に仕返したくなって、動いちゃうけど、それが上手くいったことなんて一度もない。
ああ、でもこうすれば構ってくれるから、ちょっと得なのかも?
そんな下らないことを考えていれば、耳元でピッコロが笑う。
「それを口に出したらどうだ?」
「・・・・っ!心を読むなー!!!」
「くくっ・・・」
うん、悔しいけどこれが日常だ。
いつも通りの時間が、ごく普通に流れてる。
今更特別なことしようとすると、縁起悪いしね。
とっくに瞑想どころじゃなくなっていた私は、ピッコロの腕から抜けだしてふわりと舞空術でその場に浮いた。
「ね、やっぱり組み手しよ!」
「お前・・・」
「いつも通りが一番、だよ。あ、でも、無理しない程度にね!」
「フン・・・それはお前への言葉だろう?戦いの前に千豆を減らしてくれるなよ」
「え、いや、それはピッコロが手加減すれば良」
言い終わる前にピッコロが動くのを見て、慌てて身を翻す。
元々私の居た場所のブロックは粉々に砕け散り、サーッと血の気が引いていくのを感じた。
「ピ、ピッコロ、あの・・・・」
「いつも通りがいいんだろう?」
意味が違いますピッコロ様。
そう言う暇もなく、”まさにいつも通り”の攻撃が目の前を通りすぎるのを、私は悲鳴を上げながら見送った。
いつも通り組み手して、いつも通り一緒にお風呂入って。
ベッドの上で髪の毛を乾かしていた私は、タオル一枚のピッコロに魔法を掛けた。
ピッコロの身体に巻きつけられるバスローブ。
私も自分自身に魔法を掛け、タオルからパジャマへと服を変えた。
「まだ濡れてるぞ」
「あれ」
「貸せ」
ピッコロが乱暴に私からタオルを引ったくる。
そしてハゲるんじゃないかって勢いでガシガシと拭き始めた。
「そ、それ髪の毛抜けちゃう!」
「・・・そうか?なら、このぐらいか」
「あ・・・それだといい感じ」
文句を言われるかと思ったけど、ピッコロはすんなりと私の注文通りに力を変えた。
痛気持ちいい感じの拭き方。
心地よくて目を瞑る。
「んぅぅー」
「ほら、乾いたぞ」
「結んで?」
「・・・ったく」
また、文句は言われない。
ピッコロは手に持っていたタオルを消すと、代わりに小さなシュシュを取り出した。
てっきり魔術で結ぶのかと思いきや、私の髪を丁寧にまとめていくピッコロの指。
くすぐったさと嬉しさで、自然とニヤけてしまう。
「むふふ」
「気持ち悪い悪い方するな」
「嘘でも可愛いと言ってください・・・・」
「可愛い」
「うわっ!!ありえないぐらい棒読み!!」
周りから見ればくだらない会話かもしれない。
ふざけあってるだけのこの会話でも、私達にとっては愛情表現の一つ。
結び終わったのかピッコロの手が離れ、私の肩に置かれる。
お礼を言おうと顔を上げた先にピッコロの顔があって、吸い込まれるようにキスをした。
「ん・・・・」
そのまま、倒される。
柔らかいベッドの感触に、私は抵抗しようとは思わなかった。
いつもなら抵抗するけど。
今日は、する気にならなかった。
口には出さない。
顔にも、出さない。
「・・・ふっ」
「・・・・は・・・どうした?今日は大人しいな?」
「っ・・・かわいい、でしょ?」
きっと、分かってるから。
思いたくないけど、もしかしたら今日が最後かもしれない。
そうどこかで思う不安が、羞恥を消して理性の壁を崩す。
「え、何その微妙な顔」
「めでたい頭だと思ってな・・・」
「怒るよ?」
「フッ・・・怒ったらどうすればいいんだ?」
「んー?これで許してあげよう」
ピッコロのバスローブを掴み、引き寄せた。
少し肌蹴た胸元にドキドキしつつ、口付ける。
私達の愛情表現は、このくだらない会話と、何も言わない口付け。
「安いもんだな」
「何言ってんの、ピッコロのキスだよ?高いでしょ。高額だよ!」
「なら、いくらでもくれてやる」
「むぐ・・・・ピッコロってやっぱ厄介なタイプだよね・・・」
ピッコロの言葉に顔が熱くなるのを感じた。
ツンケンはしてる。
何を言っても意地悪で返されるし、容赦無い暴力だって。
でも、それ以外はヘタするとどんな人よりも甘い。
独占欲。嫉妬。
そしてそれからくる、口付けや夜の時間。言葉。
魔族特有の彼の不器用さのソレは。
ある意味、危険。
「お前も同じだ」
「うん?」
「お前も俺を煽っているということをきちんと理解するんだな」
「お世辞いったってなんにもでないよー?」
照れ隠しでクスクスと笑う。
そんな私の口唇を、ピッコロの指がゆっくりとなぞった。
「なら教えてやる」
チラリとピッコロの口から牙が覗く。
「まずこの口唇だな・・・」
「んっ!?」
「そしてその声」
「は、ま、まって・・・」
「あぁ・・・そうだ。この尻尾も可愛いな?」
そう言うと、ピッコロが私の尻尾を掴んだ。
突然走った痛みと刺激に、思わず腰が跳ねる。
弱点なわけではないが、尻尾は鍛えにくいから刺激に弱い。
集中的に指を這わされたせいで、私はあっという間に力を奪われた。
「っ・・・・!」
「くくっ・・・まだ足りないか?」
「も、いいです・・・てか別に欲しいなんて言ってないです・・・っ!」
「どうやらまだ足りんらしい」
「や、違・・・!」
必死の抵抗も虚しく、結局行き着く先は同じ結果。
手をベッドに縫い付けられた私は、トドメの一言に黙るしかなかった。
「大人しく食われてろ」
別に嫌じゃないけどさ。
たまには意地悪じゃなくて、普通にしてくれればいいのにと、心の中で文句を言った。
きっと聞こえてるんだろうなって。
聞こえててもきっと同じなんだろうけど、ね。
なんたって大魔王様だから。
こうやって最後の平和な日も、過ぎていく。
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