いらっしゃいませ!
名前変更所
あれから数日経った。
セルが開くといった武道大会の時間が、刻一刻と近づいてくる。
ベジータは部屋から出た後すぐにどこかへ行ってしまった。
そのため、神殿に残っているのはトランクスと私達だけとなっている。
「よっと!」
「あぐっ!?」
・・・ということで、必然的に修行相手はピッコロかトランクスになるわけだが。
ピッコロと戦うと相変わらずやられるんだけど、トランクスだと案外いけるだよね。
私の気弾を食らって神殿に転がったトランクスを見下ろし、ちらりとピッコロの方を見る。
そこには、瞑想しながら「調子に乗るな」と言いたげな目を向けている姿があった。
前にも言われた。トランクスに勝てる理由、それは。
――――二人共、戦術が浅いからだと。
「まだまだ・・・!!」
「うぐっ・・・!」
一気に距離を詰められ、トランクスの拳が目の前に迫る。
慌てて身を引けば、考えたとおりに追撃をしようと構えるトランクス。
本当だ。
私達の戦いは、真っ直ぐすぎる。
ただ目の前に来たものを追い、防御し、追撃しようと必死に動くだけ。
もしピッコロなら、今の攻撃を真っ直ぐ撃ちはしなかっただろう。
「ハァッ!!」
「たぁあぁ・・・!!!!」
「のわっ!?」
真っ直ぐ突っ込んできたトランクスに対し、素早く回りこんで気弾を放った。
一撃目は彼の足に。バランスを崩したところで背中にもう一撃。
また、呻きと共にトランクスが地面にぶつかった。
それを見たピッコロが突然立ち上がり、トランクスに何やら話し始める。
「ピッコロー?どうしたの?加わる?」
「馬鹿言うな。俺には俺の修行がある・・・・だが」
ニヤリ、と。
嫌な予感を感じる笑みに、背中がゾクリと震えた。
こいつ・・・・何か企んでる。
おそらくはトランクスに何か吹き込んだんだと思うけど。
「やれ、トランクス」
「・・・・はい!」
「うわー、私だけのけもの感」
口を尖らせつつ、気を上げたトランクスに身構える。
次はどうくる?真っ直ぐ?
それとも、回りこみか?
考えこんでいた私に襲いかかったのは、下からの気弾。
気弾から攻撃に入るパターンは今までのトランクスにはなかった。
ピッコロの、入れ知恵だね。
「よっと・・・!」
避けるか防御か、もしくは跳ね返すか。
短い思考の中で浮かんだのは、一番隙の少ない”防御”の選択。
飛んできた複数の気弾を魔法の壁で防御する。
壁が壊れる気配はないが、煙で視界が悪くなった。
「ッ・・・分かってるんだからね!!」
こういう時ほど、隙をつきやすいと教えたのはピッコロだ。
背後に気配を感じて素早く構え直した私は、そのまま背後に現れたトランクスに魔力を纏った一撃をお見舞いした。
・・・はずだった。
「へっ?」
背後に感じた気配は偽物ではない。
確実に、捉えたはず。
でも感触は無い。
同時に走る、重たい衝撃。
「ぐあっ!!!?」
たった一撃。されど一撃。
あまりにも重たい攻撃に私はそのまま神殿のタイルにめり込んだ。
すぐに復活して上を見上げれば、ちょっと嬉しそうな表情を浮かべるトランクスの姿。
気配と姿だけ背後に忍ばせて本体はそのまま・・・残像拳、かな?
「ったいな・・・してやられたわ」
「無様だな」
助けようともせず、地面にめり込む私を見下すピッコロ。
「アンタが余計なこと教えるからでしょ」
「余計なこと?俺はお前の弱点の一つを教えただけだ。戦闘での、癖をな」
「む・・・・お師匠様、私にも戦術のヒントを・・・」
「甘えるな。お前は今のトランクスと戦って自分の弱点を考えろ!!」
「あ、待って!!まだ痛・・・あぁああぁあ!?」
首根っこを掴まれ、トランクスのほうに投げられた。
痛みに震える身体を何とか抑え、気弾を放つ。
気弾を放ちながら一気に距離を詰め、蹴る。
どんなに素早い動きでも、単純なその動きはトランクスに軽々と避けられた。
もちろん、予測済みだ。
避けられてすぐ、気配を感じた場所にもう一度気弾を放つ。
「っ・・・・!」
「もらった!!」
「うそ・・・っぐ!」
放った気弾は、避けた先に居たトランクスに当たることなく消えた。
通り抜けていった気弾を横目に見ながら、反撃の一撃を入れられる。
避けれるはずなのに、避けれなかった。
確実に当たるはずだったのに、当てられなかった。
なんで?どうして?
考える暇も与えられず、私はまた地面に転がった。
「・・・・くっそ・・・!!!」
「悪いけど、今日は勝たせてもらう!!」
「いぃいいい!?」
一瞬で目の前に現れたトランクスと、見覚えのある構え。
慌てて防御をしても、遅い。
「魔閃光ッ!!!!」
「~~~~~~っ!!!」
目の前で走る衝撃。
身体中を襲った痛みに、身体が言うことを効かなくなった。
そういえば、未来では悟飯が師匠なんだっけ。
あの技、出が早いからガードしきれないんだよね・・・やられた。
「・・・・無様だな」
「二度言わなくていいっ!!」
私を見下げるピッコロが、手を伸ばす。
抱き上げてくれるのかな?なんて思っていた私を、容赦なく乱暴に片腕だけ引っ張って立ち上がらせた。
腕に千切れるような痛みが走り、思わず悲鳴を上げる。
「あぁああぁいたいいいっ!!」
「うるさい。さっさと立って戦え」
「え、ちょっとまって・・・・私もう・・・」
「弱点を見つけるまで、お前にギブアップは許されんぞ」
「あの・・・・」
「なんだ?」
「・・・・・・・」
厳しいピッコロはピッコロらしい、けど。
何故こんなにも苛立つように厳しいのか、なんとなく想像がついた私はニヤリと笑った。
それを言えばもっと厳しくなることが目に見えていたはずなのに。
私はその見えていた地雷を、踏んでしまったのだ。
「もしかして、昨日からずっとトランクスと修行してるから嫉妬ぉー?」
一瞬だった。
腹部にありえないほどの痛みを感じ、息すらも出来なくなる。
前に倒れかけた私の身体を、ピッコロが優しく支えた。
そして耳元で囁かれる。
大魔王のような甘く低く恐ろしい声で。
「分かってるならさっさと勝って終わらせるんだな・・・?長引けば長引くほど、夜が楽しみになるだけだが」
ピッコロと一年も戦ってたから、新鮮な気持ちで戦いたいと思ってピッコロとの修行を断ってた。
そしてずっとトランクスと戦っていた。
だけども。だけども!!
言い訳を口にしようとした私に、ピッコロは容赦無い。
「言い訳はきかんぞ!!さっさとやれ!!」
「ひぃー!!待ってよ・・・・!」
こうなったピッコロは止められないことを、あの部屋の一年間で深く味わったから知ってる。
ピッコロとの修行中にベジータとかのことを話したら、こうなったっけ。
ほんと・・・嫉妬深いんだからさ。
言ったら「魔族だから当たり前だろう?」って開き直られたけど。
「ったく・・・!!トランクス!!さっさと勝たせてー!!」
「嫌だね」
「ちょっとトランクス、私には態度悪くない!?」
「いいじゃないか。未来でもそうだったんだし」
「・・・未来の私も同じような感じだったの?」
「うん・・・今の方がちょっと子供っぽいかな」
話をしながら拳を打ち合う。
手が痺れるほどの威力で戦っても、トランクスには勝てない。
力は五分五分でも、単純なパンチやキックの威力は私のほうが弱いから。
仕方なく距離を置いた私は、トランクスに向かって気弾を放った。
「っ・・・!」
トランクスに真っ直ぐ放つ気弾と、避けることを予測しての気弾と。
いくつにも別れた気弾を放った私を見て、トランクスは何故か笑った。
漂う、嫌な予感。
彼が狙ってるのは私の弱点。それを見つけなきゃ勝てない。
でも弱点って、何?
攻撃のパターン?回避のパターン?それとも。
「隙あり!」
「・・・!?」
まただ。
また、放った気弾は、トランクスに当たること無く消えた。
それと同時に詰められる距離。
これはさっきと同じだ。さっきも予測して攻撃した場所に当たらなかった。
攻撃した瞬間にわずかに隙が生まれるのは分かってる。
それはどんな攻撃でも生まれてしまうものだ。
「ぐ、ぅっ・・・」
「俺だっていつまでも、女の子に負けてられないさ」
「一応年上なんだから・・・年上を敬いなさいよね・・・」
トランクスの攻撃を食らいながら考える。
さっきと同じ過ちを繰り返した自分の動きを。
ピッコロは自分で気づけって言ってた。
ああいう厳しいこと言ってるけど、ピッコロの師匠基質はかなりのもの。
厳しいことを言うだけじゃない。必ず言葉に意味がある・・・と思う。
私に何か気づいて欲しいんだ。
「とりゃ!」
「ハァッ!!」
「っつ・・・!顔狙うなんてサイテー!」
「!?ご、ごめん・・・」
「なんちゃって!!隙ありっ!」
「その手には引っかからないからな!」
「のうう!?」
何度も、何度も。
同じパターンを繰り返して、やられて、やっと気づいた。
私は攻撃の後、相手に当たるかを確認してから次の行動に移ってる。
でもトランクスの動きは違う。
攻撃したら、すぐに意識を別な方へ。
目だけでしか攻撃した場所を追ってない。
意識は常に私の魔力を探ってるんだ。
「なるほどね・・・さぁてと」
気づいたら簡単だった。
トランクスに攻撃を放ち、その攻撃の行く末を見届けることなく気を探り続ける。
「喰らえ・・・!」
「残念。もうその手は通用しないよ?」
「なっ・・・」
攻撃を放った瞬間に、一瞬で移動した彼の気を、私は探り続けて見つけた。
足元に移動したトランクスの気に向かって、迎え撃つように魔力を溜める。
そして。
「さっきの分、たーっぷりとお返ししてやるわ。魔閃光ッ!!!!」
「うわああぁあああ!!???」
私の真正面に食らわせた魔閃光よりも、倍以上の威力で魔閃光を放った。
トランクスの身体が勢い良く神殿に叩きつけられ、意識とともに沈んだ。
土埃が収まった頃に降りれば、普通の髪に戻ってるトランクスの姿がある。
私の姿を見ても反応しない。
・・・まさか。
「あちゃー、やりすぎちゃった?」
ケラケラと笑いながらトランクスの横に座ると、ピッコロが瞑想を止めて私の隣に座った。
「ん?ピッコ・・・」
突然の口づけ。
触れるだけではなく深まっていく口づけに、声を上げぬよう耐える。
当たり前だ。こんなところで声を出してしまったら。
たとえ気絶してるといえど、トランクスが起きてしまうかもしれない。
「ん・・・っ」
「どうした?いつもみたいに声は漏らさないのか?」
「もー・・・・」
「勝つのが遅いんだ。だが、やっと気づけたな?」
「褒めてくれるなら、意地悪じゃなくてご褒美ください」
そう言って、次は触れるだけのキスを私からした。
「・・・・いただき」
「これで、いいのか?」
「うん、満足。さてと・・・嫉妬深い誰かさんのせいで寝かされっぱなしの彼を起こしてあげなきゃねー」
「お前が悪いんだろうが。昨日から俺を放ったらかしにしやがって・・・」
精神と時の部屋と、外は違う。
外にはトランクスとポポが常にいるし、二人きりの時間が上手くもてないのはしょうがないことだった。
特にピッコロは、人がいるとさっきみたいにツンケンするし。
精神と時の部屋の中では常にべったりと過ごしてきた私達。
物足りないのは―――――私も同じこと。
トランクスを回復しつつ、左手をピッコロの首に回す。
そしてバレないように小声で、囁いた。
「夜・・・ピッコロに、ずっと付き合うから・・・ね?」
「当たり前だ」
「・・・・少しは・・・ありがたがってくれない?」
「当たり前のことに、どうありがたさを持てと?」
・・・・こいつ!!!!
相変わらずな魔族ぶりに、苦笑を浮かべながらトランクスを回復し続けた。
トランクスが起きた瞬間にまたツンケンし始めるピッコロに苛立つまで、あと数秒。
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公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
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