いらっしゃいませ!
名前変更所
俺の上に乗ったゆえの感覚。
伝わった、暖かさ。
近づいた顔に真っ赤な口唇。
―――――思わず、理性を失いかけた。
「チッ・・・・」
厄介な感情だと、シャワーを浴びながら舌打ちする。
恋愛という感情の次に生まれたこの”欲”に、俺は惑わされているのだ。
ナメック星人にはありえなかったもの。
ゆえと関係を結んでから少し経って、俺の身体に変化をもたらした。
「・・・・・っ」
疼く、それ。
鏡に映る、俺達には必要ないモノ。
鏡に映る俺の姿は、俺なのに俺ではなくなっていた。
ゆえに、男らしくなったと言われた時はドキッとした。
まさに俺の身体に変化があった時だったからだ。
この変化があってからというもの、口づけだけでは満足できなくなりそうな自分が居る。
抱きしめて眠っていても、同じ。
目の前に居るゆえを、食らってしまいたいと牙を向きそうになる。
「この、俺が・・・・っ」
こんな、どうしようもない欲に蝕まれるなど。
狂わされてしまいそうになるなど、いつ考えただろうか。
少し冷たいシャワーを浴びているというのに、俺の熱は収まらない。
「・・・・ゆえ」
知識はある。
人間同士がどうやって愛を深めているのか、ぐらいは。
ただそれを、俺自身がしていいのかは・・・・分からない。
ゆえも俺には性別が無いと思っているしな。
本当に、厄介だ。
どれだけ瞑想しても、この疼きだけはどうしても収まらない。
これが、欲。
愛するモノを壊したいと、鳴かせたいと、自分のものだけにしたいと――――。
「ピッコロー!!」
「!!!!!?????」
今までこんなに驚いたことがあっただろうか、というぐらいに俺は驚いた。
突然シャワー室のカーテンが開かれ、もちろんそこには胸と腰だけにタオルを巻いたゆえの姿がある。
「な、なにしてやがる!!!」
「え?何って一緒に入・・・・・」
ちらり。
ゆえの視線が俺の腰元に移動したのを見て、俺は咄嗟に動くことが出来なかった。
何も出来ないまま、ただシャワーが流れる音だけが響く。
俺もゆえも、固まる。
「え・・・・?」
最初に言葉を発したのはゆえだった。
俺とそれを交互に見つめ、もう一度。
「え????」
嫌というよりは完全に驚いているようだった。
それはそうだろう。俺だって意味が分からないのだから。
どうしてこんな身体になったのか、何がキッカケでこうなったのか。
何一つ、分かっていない。
気持ち悪いと思われるかもしれない。
今までは無かった”男の象徴”があって、しかもそれは異型の色をしていて。
俺はゆえが何を言うかが、柄になく怖かった。
――――だが。
「え、ピッコロ・・・それ、どうしたの?生やしたの?つけたの?」
「んなわけあるか!!!」
「あだっ!?」
発せられた言葉に俺は拳を振り下ろした。
ガインッ!と良い音が響き、ゆえがしゃがみ込む。
「き、貴様はもう少しまともなことが言えんのか・・・・!!!!」
俺が今どれだけ悩んだと思っている、とは言わないが、まったくいつも通りの反応に俺はため息を吐くことしか出来なかった。
「え、ま、まともって・・・・?いやだって別にその体でも違和感ないしなぁ」
「気持ち悪いとは思わんのか」
「思うわけ無いじゃん。いやでも、恥ずかしいから隠してよね!!」
起き上がったゆえが、少し恥ずかしそうに俺の腰にタオルを巻きつける。
その表情に、収まりかけていた欲が疼くのを感じて息を呑んだ。
こいつは平気でそういうことを言う。
脳天気なのか馬鹿なのか。こういう所に俺は惹かれた部分もあるから文句は言わない。
・・・・ただ、今のこの状況は危険だ。
目の前の白い肌。
俺が殴ったせいで、涙目になっているその瞳。
「っ・・・!離れろ」
「へ?なんで?背中流すよ?」
「少しぐらい察しろ、馬鹿が」
「もー、なんでもかんでも馬鹿馬鹿って言うなよ!」
馬鹿以外の何がある?
男という欲を持っている身体と、今目の前で知ったはずだろう?
なのに何故、そんな無防備でいる。
まるで襲ってくださいと、言っているようなものだ。
「・・・?ピッコロ?」
首を傾げるゆえの肩を掴み、少し強引に口付けた。
抵抗するように後ろに下がるゆえを、そのまま壁に押さえつける。
止まらない。
こんな欲を、どうやって制御すればいいのか。
魔族としての支配欲。
そして、独占欲。
疼く。
壊したいほどに、疼く。
「っは・・・・!」
「これ以上は嫌だろう?・・・離れるんだ、ゆえ」
言い聞かせるように優しく言えば、ゆえが真っ赤になりながら俺の腕を掴んだ。
「・・・・よ」
「・・・何?」
「ピッコロになら、いい、よ?」
あんな行為はただの生殖行為にすぎないと思っていた。
知識だけの、状態では。
だがいざ自分がそれを目の前にすると、愛さずにはいられなくて。
人間達の愛の行為というものが何なのかを本能的に感じる。
「・・・・俺は、知識しか、ない。お前を傷つける可能性だってある」
「私だって同じだよ?その・・・初めて、だし」
この感情もまた愛の一つなのか?
分からない。分からないまま、もう一度口付ける。
「・・・・後悔するなよ」
「わ、ピッコロってば震えてる。緊張してるの?」
「お前もな」
「む・・・・」
この時間が何よりも好きだと思う俺は、どうなってしまっているんだ。
戦いが好きだった俺が。
魔族だった、俺が。
こんな女一人に。
いや、こんな女にだからこそ。
「ピッコロ、大好きだよ」
崩される。
今日のベッドはいつもと違う。
ただ抱き合ってるだけの時間から、今日は進む。
ゆえはこの行為が初めてだという。
俺はその意味を知った時、喜びに打ち震えた。
やはり魔族の血が疼くんだろう。
目の前の女をどれだけ独占したいか。どれだけ自分のものにしたいか。
どれだけ、自分に夢中にさせたいか。
ドロドロとした欲望。
バスローブ一枚のゆえは、俺に抱きしめられながらにっこりと笑った。
「・・・は、恥ずかしいな」
その表情ですら、今の俺には危険だ。
誰にでも見せる笑顔。
誰にでも聞かせる、その明るい声。
――――だが、今から起こることは、今日の夜に起こることは、全て俺だけのモノ。
「あまり煽るな。・・・壊したくなる」
明るい声が羞恥に震えるのを聞きたい。
いつも元気なゆえが、弱々しく俺に縋るのを見たい。
暴力で相手を支配するのではなく、俺が与える快楽で。
支配、したい。
「ピッコロ、魔族みたいな目してるよ」
「何を今更。今からお前を食うんだ・・・・当たり前だろうが」
「ピッコロが言うと、本当に食べられそうで怖いなぁ」
クスクスと笑うゆえの頬に手を伸ばす。
もう片方の手は腰に回して、ぐいっと自分に密着させた。
「・・・あったかい」
「お前もな」
「いいかおり」
「・・・俺がか?」
「うん」
香り、か。
気にしたことなかったと思いつつ、ゆえの首筋に顔を埋める。
ひゃ!と小さな悲鳴。
ああ、愛おしい。
「お前もいい匂いがするな」
「シャンプーじゃない?私ピッコロと違って髪の毛あるから・・・ひっ!?」
いつもなら殴るが、今日は違う。
罰だとばかりに首筋に舌を這わせれば、ゆえの身体がびくびくと震えた。
ぎゅっと俺のバスローブを掴む姿が俺を煽る。
耳の良い俺には筒抜けなその吐息も。
「っあ、だめ、くすぐったい・・・!」
「くすぐったい?本当か?」
「へ・・・?」
「くすぐったい、だけか・・・?」
耳元に口唇を近づけ、吐息を吹きこむように問いかける。
それだけで甘い声が漏れるのを聞いて、優越感を覚えた。
「や、なんか・・・おかしく、なりそう」
「感じやすいんだな」
「ちがうよ!ピ、ピッコロだからじゃない?ほら・・・やっぱりドキドキするし」
「良い答えだ」
にやける口元で耳を舐める。
「こら・・・っ!」
「どうした?」
「く、くすぐったいっ!!」
くすぐったいんじゃない。
俺がそのことを、教えてやる。
「違う」
低く、囁いた。
「それは”感じてる”んだ」
「ッ・・・!う、うるさい」
「なんだ?分かってたのか?」
「うーるーさーいー!!」
顔を真っ赤にして逃げようとする姿はただ俺を煽るだけ。
試しにそっと心の中を覗けば、俺のことだけでいっぱいだった。
そして、覗いたことを後悔するまで、後数秒。
触れるたび、心の中が変わっていく。
それは餓鬼のような彼女らしい心の中。
”どうしよ、ピッコロかっこいい・・・!!
大丈夫かな・・・私、あんまり、可愛くないのに。
身体もナイスバディなわけじゃないしなぁ・・・。
ああ、どうしよ、ほんと・・・緊張する・・・っ”
「ククッ・・・・」
「む?」
「お前は、本当に・・・・馬鹿だな?」
心を読まれたと知ったのだろう。
顔を真っ赤にして怒り、俺の頬を引っ張ろうと手を伸ばしてくる。
その手を取って。
我慢できないとばかりに、その身体を自分の下に組み敷いた。
ふわりと舞う黒髪。
力を込めたらいとも簡単に壊れてしまいそうな、肌。
綺麗じゃない?可愛くない?
そんなこと、どうだっていい。
俺にとってはこの目の前にある姿が一番欲しくて。
――――たまらない。
「ピッコロ・・・」
「余計なことを考えるな。俺だけを、考えろ」
「いや常に考えてますよ?うん」
最近こいつの弱点がわかった気がする。
俺から何も言わなければ、ずっと一人で突っ走って恥ずかしいことを平気で言う奴だが。
俺から言うと、顔を真っ赤にして少し冷たい態度を取ろうとする。
「こっちを向け」
逸らされたままの瞳に自分を映したくて、”命令”した。
俺の命令口調にぴくっと身体を揺らしたゆえが、恥ずかしそうに俺の方を向く。
「ゆえ・・・もう、いいか?」
理性の我慢を越えた俺は、ゆえに尋ねた。
これで嫌だと言われても俺はきっと、もう後戻りは出来ない。
もちろん、嫌だと言われるとは思っていないがな。
「・・・うん」
承諾の言葉。
少し震えるゆえの身体を抱きしめながら、俺達は静かにベッドに身を預けた。
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