いらっしゃいませ!
名前変更所
目の前が赤色に染まった。
俺はセルに殺されかけていて。
その間に、誰かが入ってきて。
目の前が、鮮血に。
「ゆえ・・・・?」
俺の口から出たのは、ただその一言だけだった。
信じたくなかったからだ。目の前の出来事を。
ゆえの腹部に、ぽっかりと開いた穴の、存在を。
「・・・あはは」
ふらりと倒れこんだゆえの身体を、慌てて抱きかかえる。
抱きかかえた俺の腕に、べったりとついた血は、人間のものと同じく生ぬるかった。
ゆえは悪魔だ。
だが、あっけない。
そうだ。悪魔といえどただの人なのだ。
段々と下がっていく魔力を感じながら、俺はゆえの身体を抱きしめる。
「ゆえ!!」
身体が震えるのを感じた。
ゆえのではない。俺の身体が。
俺の腕の中にいるゆえは、びくともしない。
ただ、笑っているだけ。
「何故だ・・・!!何故庇った!!!」
「えー?だって・・・ピッコロが死ぬのなんて・・・見たくないじゃん?」
これだけの傷を負っていながらも、いつも通りの笑顔でゆえが笑う。
「私、ピッコロが・・・自分よりも大事なんだよ」
その言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。
ああ、俺は・・・気づいていたんだ。
ゆえの存在が、どれだけ俺の中で大きな存在か。
そして今その存在が消えようとしている。
消えるまで認めようとしないなんて、俺はなんて――――馬鹿なんだ。
気づいていた。
でも認めようとしていなかった。
ゆえの存在がとても大きなものだと。
それは悟飯に抱いたのとは違う、本来の俺達にはない感情があるのだと。
「ゆえ、頼む、死ぬな・・・!!」
傷を塞ぐように手を置いても、血は流れ出る。
血と同じように、魔力も流れ出て行く。
「ゆえ・・・!!」
「やーだー・・・ピッコロ、が、ないて・・・るー」
言われて顔に触れてみれば、俺の頬に生暖かい感触を感じた。
泣いている。
この、俺が?
「ねぇ、言い逃げになるかもしれないけど、さ」
その瞳に俺だけを映してほしいと思ったことがあった。
でもそれは、ただこいつが強くなるのを見たいだけだと、そう思っていた。
弟子としての、情に近いものだと。
だけど違った。
俺は神と融合することで、その感情の本当の意味を知った。
独占欲。
嫉妬心。
――――愛おしさ。
「私・・・ピッコロのことが」
俺は、お前のことが。
「好きなんだ」
好きなんだ。
「な、に・・・?」
心の声と重なったゆえの言葉に目を見開く。
弱々しく動いた尻尾が、俺の頬にちょんと触れた。
「ピッコロが大好きー」
「・・・・ゆえ・・・俺は・・・」
「知って・・・る。恋愛、とか・・・しないんだっけ・・・雄雌もないんで、しょ?でも、それで、も、いいんだ・・・」
だから、言えなかったんだと。
涙を浮かべたゆえが、静かに笑う。
「ふられるのが、怖かった・・・んだ、うん。でも、言えたから・・・いい、かな」
「言い逃げする気か・・・ッ!!!」
「ひきょー、でしょ?悪魔・・・だか・・・ら・・・がはっ」
痛みに耐えるように目を瞑ったゆえが、血を吐き出した。
俺の目の前で行われてる戦いなど、もう見えていない。
ただ死にそうなゆえを抱えて、震えることしか出来ない。
「俺には恋愛など・・・理解できない」
理解できない、だけだ。
俺だからか理解できないのか。
それとも、この感情を理解できるものなど、いないのか。
それは分からない。
でも、分かりたくない、わけではない。
「・・・しって、るよ。こんな、時まで・・・残酷、なんだから・・・」
「違う。理解できないが、分かりたいとは思う。お前を・・・もっと、知りたい」
知りたい。
触れたい。
お前を俺だけのものにしたい。
「俺はお前が欲しい」
俺の言葉に、ゆえが目を見開く。
「お前が俺だけを見ていればいいと何度も思った。お前がベジータや孫と話しているだけでイライラした。お前がそばにいるだけで・・・俺は、何故か、満たされていた」
その存在が、消えるなんて。
俺にとってはありえない。
理解したくないことなんだ。
「やだ、なー。それ、が、愛だよー。両思い?だった、の?うれ・・・しい・・・・」
「ゆえ・・・!?ゆえ・・・!頼む、頼むから、死ぬな・・・」
俺にこんな、分からない感情を植えつけたまま。
消えるなんて――――許せるはずが無い・・・!
「ゆえ・・・・?」
強く抱きしめても、ゆえからの反応が返ってこなくなった。
慌てて顔を覗きこめば、血の気の引いたゆえの顔が力なく俺の腕に寄せられる。
息はギリギリしている。
だがもう、これでは。
「ピッコロ!」
そんな時だった。
声が聞こえた方向を見上げると、そこには天津飯を抱えた孫が浮かんでいる。
伸ばされた手。
何をするか理解した俺は、孫の方向に手を伸ばした。
形態の少し変わったセルが、俺達の方向に走ってくるのが見える。
それと同時に俺の手が孫の手を掴み、一気に風景が変わった。
ここは。
「神殿・・・・」
助かったのか、俺は。
いや、俺だけが助かっても。
「孫!!千豆はないのか!?ゆえが、ゆえに・・・!!!」
「そう慌てるなってピッコロ!今悟飯が持ってきて・・・ほら」
「ピッコロさーーん!!無事だったんですね!」
「悟飯、早く千豆をよこせ!!」
「ッ・・・は、はい!!」
嬉しそうな悟飯の表情も、今の俺には目にはいらない。
ただ千豆を奪い取るようにして一つ貰い、それをゆえの口にねじ込んだ。
だが、動かない。
飲み込もうとも、噛もうともしない。
「ゆえ・・・・頼む、食べてくれ・・・」
「ゆえさん・・・!?ゆえさん!!血、血が・・・!!」
流れ出た血はどれほどのものか。
俺の服が真っ赤に染まっていることも気にせず、俺は静かに息を吐いた。
食べないのなら、飲み込まないのなら。
「・・・・悟飯」
「はい?」
「孫達のところへ行ってろ」
「・・・・は、はい・・・?」
食べさせるしか、ない。
「・・・・ゆえ」
口の中に入ったままの千豆を取り出し、自分の口に含む。
そしてそれを噛み砕き、そのままゆえに口付けた。
こうしたいと思ったことは別に無かった。
俺には人間のいう、そういう欲求は無いはずだ。
だが一度口付けた俺は、一気に何かが駆け上がってくるのを感じて口づけを深めた。
千豆を喉元まで押し込み、条件反射でごくんと喉が動いたのを確認しても、止まらない。
舌を、口唇を、感じていたいと思う。
ずっとずっと、このまま。
――――なんて厄介な感情なんだ、これは。
「ん、んん、んんんーーーー!!!!」
「ぐあっ!?」
しばらく口づけを味わっていると、突然腹部に衝撃が走った。
慌てて口唇を離した俺に、元通りの姿になったゆえが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「な、なにしてんだこの変態ナメック星人!!!」
「な・・・変態だと!?貴様が食わんから食べさせてやったんだろうが!!」
「食べさせるだけならそれだけでいいでしょーが!!あ、あんなに長くする必要ある!?・・・ピ、ピッコロのばーか!!」
この感じだ。
怒鳴られた俺は言い返すのを止め、ゆえをもう一度強く抱き寄せた。
温もりが、ある。
ゆえの声が俺の名前を呼ぶ。
幸せだと、感じる。
俺らしくない感情だと分かっていながらも、理解できない感情でも、一度知ってしまったものを止めることは出来なかった。
「好きだ」
ゆえの耳元でそう囁やけば、ゆえが嬉しそうに笑う。
「私、も」
「だが恋愛というものを理解できるわけではない・・・それに性別があるわけでもない。迷惑を掛けるだろう。・・・それでも、構わないのか?」
「もちろん」
即答、だった。
愛しさがこみ上げ、本能的にゆえの耳元に口付ける。
「こ、こら、ちょっと、は・・・恥ずかしいから!!」
「・・・そうか。したいと思ったから、したのだが」
「ッ・・・・!!!ピッコロってば案外厄介だね・・・そ、そういうの平気で言うなんて・・・」
いつもは明るく子供のような表情を浮かべるゆえが、顔を真っ赤にしてうろたえているのに愛おしさを感じた。
「その表情は俺だけに見せろ」と囁き、静かに身体を離す。
そして精神と時の部屋から出てきたらしいベジータ達を、横目で見送った。
戦いの最中だというのに、呑気なものだと怒られるかもしれない。
この俺が、こんな時に・・・・な。
だがセルとの戦いで見せつけられた戦闘力の差に、苛立っていないといえば嘘になる。
俺はその場から立ち上がると、セルを倒しにいったベジータ達を神殿から見下ろした。
すさまじい戦いだった。
ベジータの力は、既にセルを弄ぶことが出来るまでに成長していて。
俺の無力さを、思い知らされた。
苛立ちのあまり、戦いを見学しながら拳を握りしめる。
なんて奴らなんだ。戦闘民族サイヤ人とは。
「・・・・なんて、奴らだ」
湧き上がる悔しさは、ただ戦闘力の差だけに感じるものではなかった。
俺は今のままではゆえを守ることすら出来ないと。
そのことに対する苛立ちも、俺の拳を震わせる。
「・・・・」
隣のゆえを見れば、俺と同じように悔しそうな表情を浮かべていた。
珍しい、な。
ゆえは強くなることを望んでいても、戦闘力の差に苛立ちを覚えるような奴ではなかった。
もしかすれば、俺と同じなのかもしれない。
大事だと思った人すら守れない自分の無力さに、自分自身に、苛立ちを覚えているのだろう。
・・・だが、守るのは俺だ。お前は守られてれば良い。
「俺達も、悟空たちが終わった後に修行するか?」
「精神と時の部屋とかいうところ?」
「あぁ。・・・俺はこのままでは、諦めきれんからな」
セルを倒すためじゃなく、ただ強くなるためだけに。
下界を見つめていたゆえは、俺の言葉にゆっくりと顔を上げる。
「このままじゃ、悟飯に越されちゃうしなー。頑張らなきゃ」
「悟飯にライバル意識か?」
「ライバル意識・・・うーん。悟飯かわいいじゃん?守ってあげたいんだよね、できれば」
ニマァと笑うゆえに、少しイラッとした。
別に可愛いと言われたいわけではないが、他の男のことを褒めるのは気に食わない。
「お前は俺に守られてれば良いだろう」
その言葉に少し嬉しそうな表情を浮かべたゆえだったが、すぐに表情を元に戻した。
べーっと舌を出し、尻尾を振る。
少し、顔が赤い。それを可愛らしいと思った俺に掛けられた生意気な言葉。
「やーだ」
・・・こ、こいつ。
「やだとはなんだ!」
「対等がいいのよ。じゃないと、修行相手にならないっしょー?」
「・・・む」
そんなことを気にしているのか。
こういう時に何と言えばいいのか分からない俺は、ぽんっとゆえの頭に手を置いた。
そのまま、わしゃわしゃと乱暴に撫でる。
髪を乱されたゆえは怒りながら俺の手を払い、それから急に「あ!」と声を上げた。
「ねぇねぇピッコロー」
「・・・なんだ?」
「新しい服ちょうだい。ほら、破けちゃってるし」
下界の戦闘を気にしながら見たゆえの服は、貫かれた部分が破けていて腹部が丸見えになっている。
俺の胴着とお揃いの上着に、紫色のチェックのスカート。
ボロボロになったそれはある意味、肌が見えすぎていて。
「・・・・ほら」
俺は何も文句を言うこと無く魔術で服を出した。
自分で出せと言うところだが、それよりも先に肌を隠す方を優先する。
いつも通りの服装になったゆえは、嬉しそうにマントを揺らした。
そしてまた、下界に視線を戻す。
下界の戦いはまだ続いていた。
ベジータが圧倒するだけの戦いになると思っていたが、どこか不穏な空気を漂わせ始めていた。
完全体の話をするセルに、動きを止めるベジータ。
そしてベジータの、悪い癖が出始める。
「あーあ・・・・」
隣に居たゆえがため息を吐いた。
あろうことか、完全体を促し始めたベジータ。
それを止めようと動くトランクス。
・・・・駄目だ。
クリリンが18号を庇っているが、それもすぐ崩される。
思わずゴクリと喉を鳴らしたその瞬間、18号が取り込まれ、セルの気が変わった。
最悪の結果。
「・・・ベジータの野郎・・・・」
後ろで天津飯が憎々しげに呟く。
下界の様子は見えていないが、彼にも分かるのだろう。
膨れ上がったセルの気、が。
それはすさまじいものだ。
ありえないほどの、力。
次元を越えてしまっている。
「ひょー、あれが完全体かぁ・・・」
隣のゆえは、緊張感なく下界のセルを見ていた。
何故か怯えた様子は、ない。
「修行して強くなって、アレ倒せるようになんなきゃねー。まぁ、悟空たちがやってくれそうだけど・・・」
「・・・・お前はベジータになんとも思わないのか!」
呑気な発言をするゆえに、天津飯が苛立ったように怒鳴り声を上げた。
怒りたい気持ちは山々だが、ゆえに怒鳴るのはお門違いだ。
天津飯に注意しようと振り返った俺を、ゆえは笑って止める。
「しょーがないよ。なっちゃったもんはなっちゃったし」
「お、お前・・・」
「なっちゃったら次だよ次!!・・・絶対にセルを倒す。それだけ」
真剣な表情になったゆえを、天津飯はそれ以上怒鳴ろうとしなかった。
「・・・・あ、ベジータ達来そう」
「ほんとか!?」
ゆえの言葉とほぼ同時に、ベジータ達が神殿に姿を現す。
その姿は先程の戦いが嘘ではないということを証明するほど、ボロボロだった。
あれほどの力を持った奴らでも敵わない完全体セル・・・。
正直これから俺が修行しても、勝てる見込みはないだろう。
分かっていても強さを求めたくなるのは、本能か。
俺達は悟空たちが出てくるのを待ち、完全体セルへの対処法を考えることにした。
「俺は・・・強くなる」
倒すためだけではなく。
お前を、守るために。
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