Erdbeere ~苺~ ★13.大切なものは失ってから気づく 忍者ブログ
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2015年02月23日 (Mon)
13話/甘/シリアス/※ピッコロ視点

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目の前が赤色に染まった。

俺はセルに殺されかけていて。
その間に、誰かが入ってきて。


目の前が、鮮血に。


ゆえ・・・・?」


俺の口から出たのは、ただその一言だけだった。
信じたくなかったからだ。目の前の出来事を。

ゆえの腹部に、ぽっかりと開いた穴の、存在を。


「・・・あはは」


ふらりと倒れこんだゆえの身体を、慌てて抱きかかえる。
抱きかかえた俺の腕に、べったりとついた血は、人間のものと同じく生ぬるかった。


ゆえは悪魔だ。

だが、あっけない。


そうだ。悪魔といえどただの人なのだ。
段々と下がっていく魔力を感じながら、俺はゆえの身体を抱きしめる。


ゆえ!!」


身体が震えるのを感じた。
ゆえのではない。俺の身体が。

俺の腕の中にいるゆえは、びくともしない。

ただ、笑っているだけ。


「何故だ・・・!!何故庇った!!!」
「えー?だって・・・ピッコロが死ぬのなんて・・・見たくないじゃん?」


これだけの傷を負っていながらも、いつも通りの笑顔でゆえが笑う。


「私、ピッコロが・・・自分よりも大事なんだよ」


その言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。

ああ、俺は・・・気づいていたんだ。
ゆえの存在が、どれだけ俺の中で大きな存在か。


そして今その存在が消えようとしている。

消えるまで認めようとしないなんて、俺はなんて――――馬鹿なんだ。


気づいていた。
でも認めようとしていなかった。


ゆえの存在がとても大きなものだと。

それは悟飯に抱いたのとは違う、本来の俺達にはない感情があるのだと。


ゆえ、頼む、死ぬな・・・!!」


傷を塞ぐように手を置いても、血は流れ出る。
血と同じように、魔力も流れ出て行く。


ゆえ・・・!!」
「やーだー・・・ピッコロ、が、ないて・・・るー」


言われて顔に触れてみれば、俺の頬に生暖かい感触を感じた。

泣いている。
この、俺が?


「ねぇ、言い逃げになるかもしれないけど、さ」


その瞳に俺だけを映してほしいと思ったことがあった。
でもそれは、ただこいつが強くなるのを見たいだけだと、そう思っていた。

弟子としての、情に近いものだと。


だけど違った。
俺は神と融合することで、その感情の本当の意味を知った。


独占欲。

嫉妬心。


――――愛おしさ。


「私・・・ピッコロのことが」


俺は、お前のことが。


「好きなんだ」


好きなんだ。


「な、に・・・?」


心の声と重なったゆえの言葉に目を見開く。
弱々しく動いた尻尾が、俺の頬にちょんと触れた。


「ピッコロが大好きー」
「・・・・ゆえ・・・俺は・・・」
「知って・・・る。恋愛、とか・・・しないんだっけ・・・雄雌もないんで、しょ?でも、それで、も、いいんだ・・・」


だから、言えなかったんだと。

涙を浮かべたゆえが、静かに笑う。


「ふられるのが、怖かった・・・んだ、うん。でも、言えたから・・・いい、かな」
「言い逃げする気か・・・ッ!!!」
「ひきょー、でしょ?悪魔・・・だか・・・ら・・・がはっ」


痛みに耐えるように目を瞑ったゆえが、血を吐き出した。

俺の目の前で行われてる戦いなど、もう見えていない。
ただ死にそうなゆえを抱えて、震えることしか出来ない。


「俺には恋愛など・・・理解できない」


理解できない、だけだ。

俺だからか理解できないのか。
それとも、この感情を理解できるものなど、いないのか。

それは分からない。


でも、分かりたくない、わけではない。


「・・・しって、るよ。こんな、時まで・・・残酷、なんだから・・・」
「違う。理解できないが、分かりたいとは思う。お前を・・・もっと、知りたい」


知りたい。
触れたい。

お前を俺だけのものにしたい。


「俺はお前が欲しい」


俺の言葉に、ゆえが目を見開く。


「お前が俺だけを見ていればいいと何度も思った。お前がベジータや孫と話しているだけでイライラした。お前がそばにいるだけで・・・俺は、何故か、満たされていた」


その存在が、消えるなんて。
俺にとってはありえない。

理解したくないことなんだ。


「やだ、なー。それ、が、愛だよー。両思い?だった、の?うれ・・・しい・・・・」
ゆえ・・・!?ゆえ・・・!頼む、頼むから、死ぬな・・・」


俺にこんな、分からない感情を植えつけたまま。

消えるなんて――――許せるはずが無い・・・!


ゆえ・・・・?」


強く抱きしめても、ゆえからの反応が返ってこなくなった。
慌てて顔を覗きこめば、血の気の引いたゆえの顔が力なく俺の腕に寄せられる。

息はギリギリしている。
だがもう、これでは。


「ピッコロ!」


そんな時だった。
声が聞こえた方向を見上げると、そこには天津飯を抱えた孫が浮かんでいる。


伸ばされた手。

何をするか理解した俺は、孫の方向に手を伸ばした。

形態の少し変わったセルが、俺達の方向に走ってくるのが見える。
それと同時に俺の手が孫の手を掴み、一気に風景が変わった。


ここは。


「神殿・・・・」


助かったのか、俺は。
いや、俺だけが助かっても。


「孫!!千豆はないのか!?ゆえが、ゆえに・・・!!!」
「そう慌てるなってピッコロ!今悟飯が持ってきて・・・ほら」
「ピッコロさーーん!!無事だったんですね!」
「悟飯、早く千豆をよこせ!!」
「ッ・・・は、はい!!」


嬉しそうな悟飯の表情も、今の俺には目にはいらない。
ただ千豆を奪い取るようにして一つ貰い、それをゆえの口にねじ込んだ。

だが、動かない。

飲み込もうとも、噛もうともしない。


ゆえ・・・・頼む、食べてくれ・・・」
ゆえさん・・・!?ゆえさん!!血、血が・・・!!」


流れ出た血はどれほどのものか。
俺の服が真っ赤に染まっていることも気にせず、俺は静かに息を吐いた。

食べないのなら、飲み込まないのなら。


「・・・・悟飯」
「はい?」
「孫達のところへ行ってろ」
「・・・・は、はい・・・?」


食べさせるしか、ない。


「・・・・ゆえ


口の中に入ったままの千豆を取り出し、自分の口に含む。
そしてそれを噛み砕き、そのままゆえに口付けた。


こうしたいと思ったことは別に無かった。

俺には人間のいう、そういう欲求は無いはずだ。


だが一度口付けた俺は、一気に何かが駆け上がってくるのを感じて口づけを深めた。
千豆を喉元まで押し込み、条件反射でごくんと喉が動いたのを確認しても、止まらない。

舌を、口唇を、感じていたいと思う。

ずっとずっと、このまま。


――――なんて厄介な感情なんだ、これは。


「ん、んん、んんんーーーー!!!!」
「ぐあっ!?」


しばらく口づけを味わっていると、突然腹部に衝撃が走った。
慌てて口唇を離した俺に、元通りの姿になったゆえが顔を真っ赤にして怒鳴る。


「な、なにしてんだこの変態ナメック星人!!!」
「な・・・変態だと!?貴様が食わんから食べさせてやったんだろうが!!」
「食べさせるだけならそれだけでいいでしょーが!!あ、あんなに長くする必要ある!?・・・ピ、ピッコロのばーか!!」


この感じだ。
怒鳴られた俺は言い返すのを止め、ゆえをもう一度強く抱き寄せた。


温もりが、ある。

ゆえの声が俺の名前を呼ぶ。


幸せだと、感じる。
俺らしくない感情だと分かっていながらも、理解できない感情でも、一度知ってしまったものを止めることは出来なかった。


「好きだ」


ゆえの耳元でそう囁やけば、ゆえが嬉しそうに笑う。


「私、も」
「だが恋愛というものを理解できるわけではない・・・それに性別があるわけでもない。迷惑を掛けるだろう。・・・それでも、構わないのか?」
「もちろん」


即答、だった。
愛しさがこみ上げ、本能的にゆえの耳元に口付ける。


「こ、こら、ちょっと、は・・・恥ずかしいから!!」
「・・・そうか。したいと思ったから、したのだが」
「ッ・・・・!!!ピッコロってば案外厄介だね・・・そ、そういうの平気で言うなんて・・・」


いつもは明るく子供のような表情を浮かべるゆえが、顔を真っ赤にしてうろたえているのに愛おしさを感じた。


「その表情は俺だけに見せろ」と囁き、静かに身体を離す。
そして精神と時の部屋から出てきたらしいベジータ達を、横目で見送った。


戦いの最中だというのに、呑気なものだと怒られるかもしれない。

この俺が、こんな時に・・・・な。


だがセルとの戦いで見せつけられた戦闘力の差に、苛立っていないといえば嘘になる。
俺はその場から立ち上がると、セルを倒しにいったベジータ達を神殿から見下ろした。

































すさまじい戦いだった。
ベジータの力は、既にセルを弄ぶことが出来るまでに成長していて。

俺の無力さを、思い知らされた。

苛立ちのあまり、戦いを見学しながら拳を握りしめる。
なんて奴らなんだ。戦闘民族サイヤ人とは。


「・・・・なんて、奴らだ」


湧き上がる悔しさは、ただ戦闘力の差だけに感じるものではなかった。
俺は今のままではゆえを守ることすら出来ないと。

そのことに対する苛立ちも、俺の拳を震わせる。


「・・・・」


隣のゆえを見れば、俺と同じように悔しそうな表情を浮かべていた。


珍しい、な。
ゆえは強くなることを望んでいても、戦闘力の差に苛立ちを覚えるような奴ではなかった。

もしかすれば、俺と同じなのかもしれない。
大事だと思った人すら守れない自分の無力さに、自分自身に、苛立ちを覚えているのだろう。


・・・だが、守るのは俺だ。お前は守られてれば良い。


「俺達も、悟空たちが終わった後に修行するか?」
「精神と時の部屋とかいうところ?」
「あぁ。・・・俺はこのままでは、諦めきれんからな」


セルを倒すためじゃなく、ただ強くなるためだけに。
下界を見つめていたゆえは、俺の言葉にゆっくりと顔を上げる。


「このままじゃ、悟飯に越されちゃうしなー。頑張らなきゃ」
「悟飯にライバル意識か?」
「ライバル意識・・・うーん。悟飯かわいいじゃん?守ってあげたいんだよね、できれば」


ニマァと笑うゆえに、少しイラッとした。

別に可愛いと言われたいわけではないが、他の男のことを褒めるのは気に食わない。


「お前は俺に守られてれば良いだろう」


その言葉に少し嬉しそうな表情を浮かべたゆえだったが、すぐに表情を元に戻した。
べーっと舌を出し、尻尾を振る。

少し、顔が赤い。それを可愛らしいと思った俺に掛けられた生意気な言葉。


「やーだ」


・・・こ、こいつ。


「やだとはなんだ!」
「対等がいいのよ。じゃないと、修行相手にならないっしょー?」
「・・・む」


そんなことを気にしているのか。
こういう時に何と言えばいいのか分からない俺は、ぽんっとゆえの頭に手を置いた。

そのまま、わしゃわしゃと乱暴に撫でる。

髪を乱されたゆえは怒りながら俺の手を払い、それから急に「あ!」と声を上げた。


「ねぇねぇピッコロー」
「・・・なんだ?」
「新しい服ちょうだい。ほら、破けちゃってるし」


下界の戦闘を気にしながら見たゆえの服は、貫かれた部分が破けていて腹部が丸見えになっている。

俺の胴着とお揃いの上着に、紫色のチェックのスカート。
ボロボロになったそれはある意味、肌が見えすぎていて。


「・・・・ほら」


俺は何も文句を言うこと無く魔術で服を出した。
自分で出せと言うところだが、それよりも先に肌を隠す方を優先する。

いつも通りの服装になったゆえは、嬉しそうにマントを揺らした。
そしてまた、下界に視線を戻す。


下界の戦いはまだ続いていた。

ベジータが圧倒するだけの戦いになると思っていたが、どこか不穏な空気を漂わせ始めていた。


完全体の話をするセルに、動きを止めるベジータ。
そしてベジータの、悪い癖が出始める。


「あーあ・・・・」


隣に居たゆえがため息を吐いた。

あろうことか、完全体を促し始めたベジータ。
それを止めようと動くトランクス。


・・・・駄目だ。


クリリンが18号を庇っているが、それもすぐ崩される。
思わずゴクリと喉を鳴らしたその瞬間、18号が取り込まれ、セルの気が変わった。


最悪の結果。


「・・・ベジータの野郎・・・・」


後ろで天津飯が憎々しげに呟く。
下界の様子は見えていないが、彼にも分かるのだろう。

膨れ上がったセルの気、が。


それはすさまじいものだ。
ありえないほどの、力。


次元を越えてしまっている。


「ひょー、あれが完全体かぁ・・・」


隣のゆえは、緊張感なく下界のセルを見ていた。
何故か怯えた様子は、ない。


「修行して強くなって、アレ倒せるようになんなきゃねー。まぁ、悟空たちがやってくれそうだけど・・・」
「・・・・お前はベジータになんとも思わないのか!」


呑気な発言をするゆえに、天津飯が苛立ったように怒鳴り声を上げた。
怒りたい気持ちは山々だが、ゆえに怒鳴るのはお門違いだ。

天津飯に注意しようと振り返った俺を、ゆえは笑って止める。


「しょーがないよ。なっちゃったもんはなっちゃったし」
「お、お前・・・」
「なっちゃったら次だよ次!!・・・絶対にセルを倒す。それだけ」


真剣な表情になったゆえを、天津飯はそれ以上怒鳴ろうとしなかった。


「・・・・あ、ベジータ達来そう」
「ほんとか!?」


ゆえの言葉とほぼ同時に、ベジータ達が神殿に姿を現す。
その姿は先程の戦いが嘘ではないということを証明するほど、ボロボロだった。


あれほどの力を持った奴らでも敵わない完全体セル・・・。

正直これから俺が修行しても、勝てる見込みはないだろう。


分かっていても強さを求めたくなるのは、本能か。
俺達は悟空たちが出てくるのを待ち、完全体セルへの対処法を考えることにした。


「俺は・・・強くなる」


倒すためだけではなく。

お前を、守るために。
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(龍如/オール・海賊/剣豪)