いらっしゃいませ!
名前変更所
「・・・・ごめん。そういうつもりじゃ、なかったんだけど・・・」
痛む背中を我慢しながら目を開けると、涙目で謝るゆえの姿が目に入った。
そうか、俺はあのあとこいつの魔力に撃ち落とされて。
・・・・そのまま、気を失っていたのか。
心配そうに俺のことを見る悟飯を見た後、もう一度ゆえに視線を戻す。
「ぐすっ・・・・」
「・・・なぜだ」
「え?」
「なぜお前が泣いている」
「だって・・・っ!ピッコロが・・・っ」
こいつは馬鹿なのか?
俺はお前に、魂をやるただの餌に過ぎないだろう?
もしくはただの主。
もしかすればお前に危害を加える可能性だってある存在。
なのになんでこいつは、こんな簡単に泣くんだ。
「泣くな。あんなのでは死なん」
「だって・・・・私の・・・!」
「ん?」
「私の魂・・・!食べてないのに消滅されたら!!」
「貴様!!俺の魂の心配かッ!!」
「あだっ!!???」
勢い良くゆえの頭を叩く。
パシッ!といい音が響き、それと共に周りから笑い声が上がった。
「あぐぐ・・・っ!」
「ピッコロ、やめてやれよー。こいつ本当にお前のこと心配して回復してくれてたんだぞ?」
「チッ・・・俺の魂の心配だろうが」
「違うよー。それは照れ隠し、ね?」
「ほう?心のなかは丸見えだが?」
顔を引き攣らせ、彼女の心から見えた”美味しそうな魂”という言葉に青筋を立てる。
「まぁ、負けは負けだ」
「う?」
「・・・さっさと食えば良いだろう」
いさぎよく、俺はその場に座り込んだ。
目を瞑り、魂が食われる瞬間というのを待つ。
悟飯や孫が騒いで止めに入るが、ゆえの気配は確実に俺に近づいていた。
こんな馬鹿なことで死ぬとはな。
情けない話だと自虐気味に笑う。
胡座をかいていた俺の膝にゆえの身体が触れるのを感じ、俺は最後の覚悟を決めた。
・・・・。
・・・・・?
「・・・・?」
数秒間。
触れたぬくもりは離れず、動かず。
気になって目を開ければ、そこにはドアップのゆえの顔があった。
「なっ!?」
女という認識が薄い種族の俺でも、思わず顔を熱くしてしまう。
綺麗な丸い瞳。
悪魔とは思えないほどあどけない表情。
小さな翼。
ゆらゆらと揺れる尻尾。
「・・・な、何をしている」
平然を装って聞けば、少しむすっとした表情のゆえが礼儀正しく正座した。
「・・・・参りました!」
「は?」
「およ?なんだおめぇ、ピッコロのこと食わねぇのか?」
「余計なことをいうなよ悟空!ピッコロが本当に食われたらどーすんだよ!?」
騒がしい外野は無視して、俺は突然「降参」をしたゆえを見つめる。
こればかりは、悟空の言うとおりだ。
なぜ食わない?本当に何なんだこいつは。
「確かに力は勝ってると思うよ。でも魔法を全力で使わないと勝てないなんて、それは勝負になってないよ。実際、組手じゃほとんどダメージを与えられなかった」
「・・・お前にはその経験が無いのだろう?なら、さすがに無理だ」
「そう!!だから私もピッコロ達みたいになりたいって思っちゃった!契約は守るから、一つお願い!」
ゆえはそのまま俺の両肩をがしっと掴み、頭を下げた。
「私を弟子にしてください!!!」
本当に何なんだこいつは。
俺の願いでゴミ箱から出てきて。
その時は殺されるのではないかと思うぐらいの殺気と力を感じたというのに。
突然勝負を仕掛けてきたかと思えば、理由はともあれ勝ったのに負けたという。
極めつけには弟子にしろと言い始め。
「お前、本当に・・・悪魔か?」
気づけばそんな言葉を口にしていた。
尻尾と翼をわざとらしく揺らし、問われたゆえは答える。
「見た目で分かるでしょ?」
「・・・見た目などどうにでもなる」
「もー、あんまり馬鹿にすると魂食べちゃうからね」
「ほう?出来るのか?」
会話に居心地が良くなって、いつもの癖でゆえを煽った。
しまったと思っても、ゆえの表情は変わらず。
ただ尻尾を地面に垂らして、少し寂しそうに頬を膨らませた。
「・・・そ、そんなにイヤ?」
その一言で、一瞬にして周りの空気が変わる。
「いいじゃねぇかピッコロー!こんなに頼んでんだぞ?」
「お前が引き受けないなら俺様が引き受けてやろう。こんな良い相手・・・逃がすものか」
「ちょっとベジータ!怖がらせちゃだめよ!?」
ベジータがにじり寄って来るのを見て、俺は深くため息を吐いた。
確かにベジータの言うとおりだ。
今は弱くても必ず逸材になる。それほどの力が彼女にはある。
あとはこの変な女に、それが出来るかどうか・・・だが。
「フン・・・俺に頼んだからには、泣き言は許さんぞ?」
わざと怖がらせるように言えば、それに返すような笑みとぶつかる。
「いいよ?いじめたりしたらすぐアンタの記憶の一部ばらまいてやるだけだし!」
「何!?貴様・・・ッ!!」
「やだなー、嘘に決まってるじゃん?ね?ちゃんとやるって!」
「まずその記憶を消せ!!!」
「無理だよー!これは契約の前に必ず見るものなんだから」
「なら消し飛ばしてやる・・・!!!!」
立ち上がった俺から逃げたゆえは、近くにいた悟飯の後ろに隠れた。
慌てる悟飯を気にせず睨み合いの間に挟むと、悟飯が半泣きになりながら俺達の腕を押さえる。
「や、やめてくださいよ!」
「だってピッコロが怖いんだもん」
「ピッコロさん!」
「チッ・・・・」
なんてやりにくい奴らだ。
周りの奴らがクスクスと笑っているのが気に食わず、思わず舌打ちしてしまう。
そんな中、悟飯はゆえの方を振り返ると、ゆえに真っ直ぐ手を伸ばした。
気づいたゆえも手を伸ばし、握手を交わす。
「後輩弟子ってことで。よろしく、悟飯!」
「わ、本当に僕のこと分かるんだ?」
「うん。修行が厳しそうだってこともわかるから、そんな生半可な覚悟で頼んだつもりはないけどなー?」
ジトーっと。
わざとらしく俺の方を振り返るゆえに、俺はもう一度舌打ちをした。
「・・・・好きにしろ。泣き言を言えばすぐに埋めてやる」
「やりぃ!!見てなよ、すぐにアンタを越して、今ここにいる皆の目の前でぼっこぼこにしてやるんだから!!」
「くくっ・・・強くなったら俺様とも相手をしろよ」
「オラも!!」
「ベジータと悟空だっけ。もちろん、よろしくね!!」
「お、俺は遠慮しとこうかな・・・・」
戦いの血が疼いてしょうがないといった二人に、ちょっとタジタジのクリリンが呟く。
・・・本当に、なんなんだ。
悪魔なのにこれでいいのか?
悪魔とは残酷に、魂を食い、恐怖に陥れる存在ではないのか?
だがいま心を覗いても、彼女に一切闇を感じない。
それどころか、本当に純粋に俺を信頼している。
悪い気はしない、が。
少しこそばゆい感覚に襲われた俺は、静かにその場を離れた。
数秒後、それに気づいたゆえが、物凄いスピードで追いかけてくるのを感じながら。
それからゆえは、まるで元々俺達の仲間だったかのように皆と仲良くなった。
気づけばベジータとも対等に話せるようになっており
ヤムチャや亀仙人のあしらい方もお手の物。
そして俺も、何ら違和感なくゆえと日々を共にするようになった。
最初は厄介だとしか思っていなかった存在が、ここまでしっくり来るようになるとは。
今でも、信じられない。
だが、信じるしか無い。
どんなにうるさくても、どんなに馬鹿でも。
ゆえが見せる表情は純粋で真っ直ぐで、嘘偽りのない心地よさがある。
その心地よさに心を許し始めているのは、信じたくない真実。
「遅いぞ!!」
「あぐっ!」
「何度言ったら分かる!!目で追うな!!気配、もしくは気を探れ!」
正直、彼女に修行はいらなかった。
必要なのは経験と、戦術。基本の動き。
それ以外は、俺達の誰よりも強い力を持っている。
最初出会った時のあの力。恐怖は、確かなものだった。
「ッつ、ぅ・・・!んのやろ!!1回は殴ってやるっ!!!」
なのに彼女はその力を使うこと無く、俺の修行についてくる。
ゆえはまだ経験が少ないためか、動きを目で追おうとして攻撃を食らっていた。
注意すれば強気な言葉が返ってくるが、再度俺の攻撃が当たって悲鳴が上がる。
「ぐあっは!本当に容赦ないなこのハゲ!!」
「誰がハゲだ!!」
「んぐっ!殴りながら言うな!!この・・・、ぎゃふっ!?」
容赦なく拳を振り下ろせば、まともに食らったゆえが地面に激突した。
馬鹿なことを言うからだ、と。冷たく見下ろす俺を睨みつける殺気。
さすが、俺に正々堂々と悪口を言うだけのことはある。
思わず笑いながら構えた俺を、土煙の中から非難する声。
「この鬼ぃー!」
「降参にはまだ早いぞ」
「えー?休憩はー?」
そう言いながらも、目は諦めていない。
明らかに俺を攻撃するつもりの瞳が、しっかりと俺の構えを捉えている。
「・・・行くぞ!!」
一瞬で間を詰め、少し遅めにゆえの腹部を狙った。
これぐらいなら当たるはずないと思った攻撃は、鈍い音を立てて真正面からヒットする。
「なっ・・・」
「がふっ・・・!」
それでもゆえは倒れず、ふらつきながら体勢を立てなおし、俺に反撃を加えようと足を上げた。
もちろん、その隙さえも許さず右手を振るう。
振った右手から放たれた衝撃が、ゆえとその周りを抉った。
ゆえの動きがさっきよりも鈍い―――さすがに疲れたか?
そう思いゆえの顔をちらりと覗き見れば、ゆえの瞳は俺を捉えることなく閉じられていた。
閉じられ、て?
「お前・・・」
「・・・体力持つ限り、やってやるんだから・・・・」
目を閉じたまま、ゆえは俺がいる方向を向いて立つ。
「諦めが悪いな。もう体力は限界だろう?」
「体力なんて魔法でぱぱっと回復よ!」
「・・・・ならそうしろ」
「やだなー。まだ勝負は終わってないんだよ?この一試合でも、負けるのは気に喰わないんだから」
目を閉じながら笑う傷だらけのゆえが、笑みを浮かべた。
厄介な弟子を持ったものだと思いながら踏み込めば、その音に反応してゆえが拳を構える。
目で追ってしまうのなら、目を開けないようにすればいい。
そんな荒手段を取ってでも俺に勝ちたいと思うゆえの姿勢は、勇ましくもどこか子供っぽく感じた。
「っぐ!!」
「フッ・・・どうした。無様だぞ?」
「わ、私は、目を閉じるって・・・・ハンデおってんだからねッ!!」
ヒュッ!と風を切るような音が耳元で響く。
慌てて身を引けば、頬が微かに熱を持った。
「はぁあぁ!!!」
段々、コツを掴んできたのだろうか。
先ほどまで一方的にやられていた試合が、段々と対等なものへと変化する。
俺の攻撃を徐々に理解し、目を開けていないにも関わらず身体が反応するようになっていた。
大きな息遣い。
血の、香り。
そろそろ本当に限界か?と攻撃の手を緩めた瞬間、ゆえは思いもよらぬスピードで俺の懐に潜り込んだ。
慌てて瞬時にゆえの背後を取るが、背後を取った時には既にゆえはコチラを向いていて。
「・・・!!」
「もらった!!!」
怯む程度の、攻撃。
ガスッと鈍い音がして、俺の懐にゆえの拳がめり込んだ。
「・・・・」
「・・・・」
まぁ、そうだろうな。
魔法での攻撃を主体とする種族だ。
しかも戦いに慣れてない。
想像はしていたが、まさかこれほどとは。
当たったがさほど痛くない腹を気にしつつ、俺は懐に伸ばしたまま固まっているゆえの腕を掴んだ。
「スピードは上がったが力が無さ過ぎるな」
「うぐ・・・でも当てたし」
「震えながら言っても怖くないぞ」
「・・・だって・・・疲れたぁ・・・・」
元気な表情から一変、へにょっと表情が緩む。
「・・・見ていて飽きないやつだな」
思ったことを呟いた俺を、ゆえが不満げに睨み上げた。
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だが?」
「私がおもしろおかしいって言いたいのかね?ん?」
ゆえがひくっと顔を引き攣らせて俺の頬に手を伸ばす。
やらせるか、と。
すぐに反応してゆえの手を引き、空いていたもう片方の手でゆえの頬を引っ張った。
「いひゃいです、あの、のびまひゅ」
「・・・・・」
「ひっひょひゃん」
「・・・・」
・・・・よく伸びるな。
「ひひょにょ・・・・っどらぁ!!!」
「何をする」
「何をする、じゃないよ!遊んどきながら冷静に何をするって返すなよ!」
俺の腕を振りほどいたゆえが、頬を押さえながら涙目で怒鳴る。
本当にコロコロと表情が変わるやつだ。
ヘタすると悟飯よりも落ち着きが無いかもしれん。
そんな彼女にとっては失礼なことを考えていたのがバレたのか、ゆえの表情が鋭くなる。
「失礼なこと考えてるでしょ。あんまり馬鹿にすると・・・」
「”魂を食うぞ”か?」
「むぐ・・・・」
魂を喰らう、恐ろしい悪魔のはずなのに。
「そう言って、一度も俺の魂をくらおうとしたことはないな?」
あれから一週間ほどすぎて。
俺は最初以来、一度もこいつに警戒心を抱いていない。
当たり前だ。
こいつほど、わかりやすいやつは居ないだろう。
「ちょっと、馬鹿にしてんのがモロ分かりな笑顔見えてますよー?」
俺の頬を引っ張ろうとして伸びてきた手を掴み、俺は笑みを深くする。
「元気そうだな?」
その言葉に、一瞬にしてゆえの表情が変わった。
逃げようともがくが、そんな弱い力で俺から抜け出せるわけがない。
「あ、ちょ、たんま!休憩希望でっす!!」
「元気だろう?」
「いやもう傷だらけだなー。痛いなぁー」
「次は気弾を避ける修行にするか。瞬発力は大事だからな」
そう言いながら掴んでいた手を投げ出すと、ゆえは何かを感じ取ったのかすぐさま空を飛んで逃げはじめた。
少しつまらないが、それを追いかけて気弾を高速で打ち込む。
「チッ・・・勘がいいな」
「いまチッて!!舌打ち!舌打ちし・・・っぎゃぁあぁあぁ!!!」
今宵も広い荒野に、ゆえの悲鳴だけが響き渡った。
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