いらっしゃいませ!
名前変更所
フリーザを倒した後、孫が戻ってきて、未来から来た少年から”人造人間”の話を聞いた。
彼の未来では、俺は死んでしまっているらしい。
だが少年はその未来を阻止するため、俺達に色々なヒントを与えてくれた。
その中に、何故か俺だけに与えられた”助言”があった。
「神龍に頼んで、”俺の力になる最強の者を与えよ”と願え、か」
「なんでピッコロさん指名なんでしょうか?」
「さぁな・・・まだ俺にも分からない力があるということか?」
カプセルコーポレーションの庭に並べられた、7つのドラゴンボール。
少年から教えられた願いを叶えるため、ブルマに頼んで集めてもらったものだ。
見学者はブルマ、ベジータ、孫、悟飯、クリリン。
皆が見守る中、ごくりと唾を飲んで手をかざした。
「いでよ、神龍」
いつ見ても慣れない光景だ。
空が暗闇に満ち、一筋の光がドラゴンボールから放たれる。
何度も見ているだろうに、皆もぽかんと神龍を見上げていた。
願いを一つだけ叶えてやろう、と。優雅に現れた神に俺は願う。
「”俺の力になる最強の者を与えよ”」
「・・・・たやすいことだ」
一字一句、間違わずに言った。
―――――間違ってなど、いなかったはずだ。
「願いは叶えた、さらばだ!」
皆が呆然とする中、俺はその神龍が呼び出したものを見つめる。
何度も言う。俺は間違えてなどいないはずだ。
あの男が言った通りのことを、願った。
なのに、なんだこれは?
「え、何この汚いの?」
「・・・・ゴミ箱、だな」
ブルマの言葉に、まっとうな言葉を返す。
そう、俺の目の前に置かれていた最強のモノ・・・それはゴミ箱だった。
確かに今までは無かったものだ。
だからこれが呼び出されたものには違いない。
だが、何故。
ゴミを被った、汚らしい、缶状のゴミ箱なのだ?
「神龍め・・・俺様を侮辱する気か・・・!?」
馬鹿にされたと思い込み、拳を震わせた俺にクリリンが首を振る。
「まてよピッコロ。よく見てみろよ・・・気に近い、変な力を感じる」
「気に近い?」
妙な言い回しに違和感を覚えつつ、俺はそのゴミ箱に意識を集中させた。
じっくりと見てみれば、確かにクリリンの言うとおり、何か不思議な力を感じる。
「・・・何か封じられているということか?」
再び、回りに緊張感が走った。
このガラクタにそんな大層なものが封じられているとは思えないが・・・。
仮にも、神龍が召喚していったもの。
願いを叶えたのだから、この中にはそれなりのものがあるはずだ。
期待と、不安。
それらを同時に抱えながら、俺はゴミ箱のフタを静かに開いた。
<<うあー!!いきなり眩しいーーー!!>>
「!!!????」
ゴミ箱から、何かが勢い良く飛び出してくる。
その力は身体が震え上がってしまうほど強く、俺は思わず汗を垂らした。
今まで興味ないとばかりに見ていたベジータも、目を見開いてゴミ箱を見つめる。
ゴミ箱の中から飛び出してきたそれは、異常な力で俺たちを抑えこみつつ、ニヤリと笑った。
「ふぁー。おはよ!アンタが契約者?」
「け、契約者・・・?」
「うん。あれ、悪魔知らないの?何かを代償に、色んな力を与えちゃうやつのこと」
”悪魔”
聞いたことが正しいのであれば、殺しであろうと何であろうと願いを叶えるまで力になってくれる”召喚族”のことだ。
だが悪魔の契約は、代償が必要になる。
大体の代償はその人の魂。つまりは命。
軽い願いなら、寿命などでも済むらしいが。
「お前が、その・・・悪魔なのか・・・?」
「そーだけど?」
小悪魔の翼がパタパタと揺れる。
尻尾もついているが、その少女としか思えない出で立ちはどうも話を信じるに値しない。
それに。
「俺は契約する気は無いぞ。お前なんぞに魂はやらん」
「・・・・へ?」
「そうよね、たとえ力になっても魂食われちゃったら意味ないわよねぇ」
俺の言葉にブルマが頷く。
当たり前だ。
俺の魂は俺の・・・・
「でも、呼び出したじゃん?呼び出した時点で契約は完了だよ、ピッコロ」
悪魔の黒髪が、揺れた。
そのたった一瞬で、俺は目の前に大きな釜の切っ先を突きつけられていた。
誰もが目で追うことのできなかったスピード。
俺と同じように、皆もワンテンポ遅れて反応する。
「なっ・・・・」
「契約違反は死。願いも叶えず死ぬなんて、かわいそーに」
ただの、少女。
――――違う。
「あれ、どうしたの?もしかして動けないの?」
悪魔、だ。
誰もがその少女の力に押され、息をするのがやっとの状態だった。
笑う表情。掲げた大きな鎌。黒い翼。
まさに、悪魔。
ああ、馬鹿だったんだ。俺があんなよくわからないガキのことを信じるから。
らしくないと、そういうことだったんだな。
悔し紛れに唇を噛めば、紫色の血が流れ出るのが少女の瞳越しに見えた。
「・・・・」
「・・・・」
「ううーん。・・・・なんかごめん」
「は?」
少女は俺の表情を見るやいなや、何故か謝って切っ先を引く。
その行動が理解できなかった俺は、黙って少女を睨みつけた。
「いやさ、一応私を呼んだからには・・・わけありでしょ?」
「・・・・まぁ、そうだが」
「こういうの、願い聞いてからでもいいからさ。いつだって魂は食べれるし!」
少女は可愛らしい自然な笑顔で、恐ろしいことを言ってのける。
「で、願いは?」
悪魔に願うこと、それは。
力・・・だろうか。それとも敵を”殺す”ことをだろうか。
言い方に悩んでいると、孫がニコニコしながら少女に手を差し出した。
「オラたちと一緒に戦ってほしいんだ!」
「ちょ、ちょっとお父さん・・・!?」
いきなりの行動に、さすがの悟飯も孫を止めにかかる。
当たり前だ。目の前に居るのは悪魔、だ。
誰もが知っている悪魔なら、気に食わないことを言うだけで魂を食べられてしまう。
恐る恐る少女の方を見ると、何故か楽しそうな笑顔を浮かべていた。
先ほどのような殺気立った笑顔ではなく、歳相応の表情。
「一緒にって、何と?」
「なんかすんごい敵が現れるっちゅう話しでよ」
「・・・カカロット、人造人間だ」
「そうそう、んで、それを一緒に倒して欲しいんだ!あと修行もしてほしいな!」
「僕も僕もー!」
最初は孫を止めていた悟飯も、少女の笑顔に安心したのか身を乗り出す。
すると少女は深く頷き、俺の方を振り返った。
「いいよ、別に」
「!?」
「でもその願いを叶えたあとは、代償をもらうよ?」
「・・・魂か?」
「うーん。本当は魂が良いんだけど、嫌なら別なものでもいいよ?」
「は?」
嫌なら別な物って。
何を言ってるんだ、こいつは。
嫌でもなんでも、代償は代償だろう。
持って行かなくて、どうするつもりだ?
「アンタ達面白そうだし、今までの希望を叶えたいだけの馬鹿な人間とも違う。面白そうだから魂はやめてあげるよ」
「何を企んでいる・・・・」
警戒心を持ったままそういえば、少女は笑顔を崩さず言った。
「代価はアンタのその”気”でどう?」
「気?・・・・気を与えるだけでいいのか?」
「私って気とか魔力がご飯なの。だから少し食べさせてくれれば、元気になれるってわけ。食料に困らないなら魂が貰えなくてもWin-Winだからさ」
「へー、アンタ、気を食べるの?」
少女の発言に、ブルマが興味津々とばかりに少女を見つめる。
ブルマと並んでも少女のほうが小さく、少女のあどけなさが目立った。
「そうだよ。悪魔はエネルギーみたいなのを食べて生きるの。魔力とか、気とか、色々」
「じゃあ、水とかもいらないのね?」
「いらないよー。でもつまんないから、食べたりはする!」
パンッ!となった手を叩く音。
合図とばかりに、少女の周りに浮かぶキャンディ。
少女は魔法のようにそれを操ると、ここにいた皆にそのキャンディを配った。
「ほう、お前、ピッコロのようなことが出来るのか」
「ふふーん、魔法だよ」
名前も知らないのにすっかり馴染み始めている少女に、俺はため息を吐く。
こんなんじゃ、たとえ強くても役に立ちそうにない。
痛む頭を押さえながら、俺は静かに聞いた。
「それで、お前はどうするんだ」
「どうするって?」
「俺に仕える気があるのか?」
「気をくれるって条件、守ってくれるならねー」
別に気をくれるぐらいはどうということはない。
だが、それ以上に気になるのは。
こいつが本当に、俺との約束を守るのか、だ。
「お前、本当に俺との契約を守るのか?」
俺の言葉に騒ぎかけていた周りがシンと静まった。
少女も笑顔を消し、少し苛立った表情を向ける。
「なにそれ、私が信用ならないってこと?」
「当たり前だ。貴様は悪魔だろう?」
「ふーん・・・なら、こうしよ?」
ニンマリと笑った少女から溢れる、気ではない何か。
ゾクリと寒気をさせるその力が俺を抑えこみ、強い息苦しさに襲われる。
違う。
こんなのに、恐れる必要はない。
得体のしれない力だから、ただ恐れているだけだ。
静かに、意識を集中させて落ち着けば。
「・・・・」
「・・・・魔族なら魔族らしく、私に勝って私に支配してよ。もし私が勝てば今の話はナシでアンタの魂をもらう」
「ほう?」
「戦い好きそうだし、こういうのはいいんじゃない?・・・それに戦士として私を加えたいなら、力を見る必要もあるでしょ?」
確かに、そうだ。
俺は恐れていたはずの身体が、戦いを求めて疼くのを感じた。
孫やベジータも、俺達の方を見てウズウズしているのは気で分かる。
だが譲らない。これは俺の獲物だ。
悪い感情が久しぶりに疼く。
魔族の、血が。
本気でやっていいと、楽しませてくれると、血が言っている。
「では・・・行くぞ。覚悟はいいな?」
「そっちこそ!・・・あ、まって」
「ッ・・・な、なんだ」
拳を構えた瞬間、マヌケな声でストップを掛けた。
苛立ちながら少女を見つめれば、苦笑いで他の奴らの方を向く。
「私の名前はゆえ、よろしくね!皆のことは解き放たれた時にピッコロの記憶から見たから知ってるよ」
「何!?どういうことだ!?」
「知りたいならさっさとかかってきなよ!」
「貴様!!!待ちやがれ!!!!」
「・・・なんか。ピッコロ楽しそうじゃない?」
「フン・・・・あのナメック星人もまだまだだな」
こいつ、俺のことを馬鹿にしやがって!!
怒りのまま少女―――ゆえを追って、空高く飛び上がった。
勝負は既に見えていた。
ゆえの圧倒的な魔力。そして術。早さ。
―――戦闘経験の、無さ。
「がはっ!」
「どうした?この程度か?」
「っく、言わせておけば・・・っ!」
感じる力は、この地球を一瞬で吹き飛ばしてしまいそうなものだと分かる。
だがゆえはその力をぶつけて俺を消そうとはしなかった。
純粋に、ゆえが戦いを、勝負を望んでいることが分かる。
そして俺はその気持に心地よさを覚えていた。
悪魔だというのに、なんという純粋さだろうか。
歪みなど何も感じない。ただ今彼女から感じるのは。
”勝ちたい”
”楽しい”
それだけ。
本当にそれしか、見えない。
「・・・馬鹿なやつだ」
戦っている最中、心を読んで分かった。
ただ主従関係でしかいられない存在。対等に見られない関係。
へらへらとしている悪魔だが、その心は深く孤独だったことが。
だからこのような、結果の見えている戦いでも。
俺は全力で、ゆえを叩き潰しに掛かった。
「悪魔というくせに、手の内は甘いな!!」
「うっさいな!!魔法で殺すことしかしないから、正直戦いには・・・慣れてないんだよっ!」
「フン・・・ならなぜ勝負を挑んだ?」
「アンタの記憶の中の戦いが、楽しかったからだ!!!」
こいつ、サイヤ人と同じで戦闘狂なのではないか?
そう思えるほど、ゆえはいくら攻撃を食らっても苦しむ表情を見せなかった。
近接勝負になれば更に勝負は明確なもので。
反応はしているものの、目で追いきれてないのかギリギリのところで攻撃を食らってしまっている。
センスはありそうだ、なんて思ってしまうのは悟飯のせいだろうか。
殴り合いに疲れて離れたゆえを見て、思わず笑ってしまう。
「はぁっ・・・はぁっ・・・そろそろ、私の得意分野で勝負しない?」
「ほう?」
「近接は苦手だけど・・・砲撃でのぶつけあいなら・・・・」
流れ始める冷たい空気。
危険を感じて身構えた俺を、見えない早さで何十もの刃が襲った。
「ハァッ!!」
なんとか力の流れを読み、それらを気弾で撃ち落とす。
ゆえの力は気ではない。
だがそれに似たようなもので出来ているのも確かだ。
読めるようになれば、どうということはない。
「うへー。もう読めちゃうの?怖いなぁ」
「フン。どうした?得意分野なんだろう?」
「・・・・むかついた。遠慮無く行くよ!!」
その瞬間、ゆえの背後から現れた数百の銃。
全ての銃口が俺に向けられ、魔力の篭った弾を放つ。
「っぐ!?」
先ほどのように弾こうとしたが、相手の弾のほうが強かった。
あっという間に俺の放った気弾はかき消され、弾の波に飲み込まれる。
なんて、威力だ。
なんとか気を前に押し出してダメージを軽減するも、先ほどの殴り合いとは比べ物にならないほど体力を持って行かれた。
「っ、ぐ、ぅ・・・」
「あれ?どうしちゃったの?さっきの余裕はー?」
調子に乗ってくるくると鎌を回すゆえに、俺は一瞬で距離を詰める。
「っ!!」
「隙だらけだぞ・・・!」
「くっ、そんな近づいたって・・・!!!」
彼女が得意なのは砲撃。いわば魔法だ。
いくら戦闘慣れしてないといえど、俺より数倍も強い力を持ってしてならいつか俺が負ける。
つまり勝つためには、これしかない。
「ッ・・・・つ、ついてくるつもり・・・!?」
めいっぱい速度を上げ、ゆえの速度に着いて行く。
ゆえは俺を振り払おうとスピードを上げたり起動を変えたりするが、俺は意地でもそれについていった。
「は、離れろこの変態ッ!!!」
「な・・・っ!?貴様、よほど死にたいようだな・・・!!」
「本当のこといっただけでしょ!!こっちはスカートなんだから、中見るつもり!?」
「!?」
言われて怯んだ一瞬の隙をついて
「ばーか!!!!」
「っ!しまっ・・・ぐあぁっ!?」
俺の意識は、沈んだ。
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