いらっしゃいませ!
名前変更所
「何してんの・・・・?」
私がゲッソリとした様子で声を掛ければ、声をかけられた主はびくっと肩を震わせた。
ゾンビが徘徊するビルの中。
一時避難を強いられた私達は、中に紛れ込んでしまったゾンビの退治が任務。
彼もそのために銃を持って出かけたはずなのだが。
私の目の前には信じられない光景が広がっており、思わずもう一度同じ言葉を掛ける。
「何してんの?」
目の前の巨体が、ビクビクしながら私の方を振り向いた。
目があっても、そいつは何も言わない。
・・・いや、言えないのか。
「・・・・」
「・・・・」
目の前の巨体こそ秋山は、ウィッグをつけているのか、後ろ姿は女性ソノモノだった。
だが、私の目は誤魔化せない。
歩き方。銃の持ち方。戦い方。
遠くで見かけた時に可笑しいと思って見てみれば、この有り様だ。
「なんでお前・・・・女装してんの?」
私の言葉に、再び秋山の身体が揺れた。
一瞬でそれが”逃げようとしている動き”だと理解した私は、銃を構えて脅す。
「動けばそのスカート撃つぞ」
揺れる長い茶色の髪。
顔もよく見れば化粧しているらしく、私よりも綺麗な赤い唇が目立つ。
服は誰かから借りたのだろうか。
プリーツスカートをメインとしたコーディネイトでさっぱりまとまっている。
・・・って、しょうがない。
服装を褒めてる場合じゃない。
化粧綺麗だなーとかも違う。
そもそも、なんでこんなことをしてるかが、問題なのだ。
「いい加減観念して喋りやがれ、秋山」
「あ・・・・ばれてた?」
「当たり前だろうが!」
へらっと笑う秋山に、容赦なく銃口を突きつける。
「うわ、危ないからさ!!向けないで!」
「だったらなんでそんな格好してるかを話せ」
「ったくあけちゃんは乱暴だな~」
私の脅しに観念したのか、秋山は事の経緯を話し始めた。
こうなったのは、全て大吾や馬島のせいだと。
大吾と真島が前に避難した場所でも同じような状況が起き、その時にカップルのマネをしたらゾンビが出てきたと。
だから女性役で、秋山がやれと大吾と真島に押され、やったらしい。
「んで、相方役は?」
「それが真島さん、ゾンビがいっぱいいるところ見つけて一人でいっちゃったんだよね」
兄さんらしいっていえば、らしいが。
こんな格好したやつ置いていくなよ、と。心の中でゲッソリとしながら呟いた。
一瞬分からなかった。後ろ姿だけだとガタイの良い女性に見えるからタチが悪い。
正面に回って改めて見れば、夜の大人のお姉さんって感じが伝わってきた。
メイク、誰がしたんだろう。
正直言ってまぁまぁマシなレベルだ。
「どうしたの、あけちゃん。あんまり見られると・・・傷つくんだけど」
「いや、なんていうか・・・うん。なんでもない」
なんでもないというか。
何も言えない、が正しいというか。
秋山を見ながらもう一度ため息を吐けば、秋山の表情が更に引きつった。
いくら作戦だからとはいえ、こんな作戦にのる秋山も秋山だろう。
「・・・・ま、とりあえず頑張って」
「ちょ、ちょっと待ってよあけちゃん!俺を置いてくつもり?早く終わらせて俺を解放するのが普通でしょ?」
「そんな格好の彼氏さんなんて私もった覚えないんでね」
冷たい目を向けた後、私は背後から気配を感じて銃を構えた。
銃口の先には私達の騒ぎを聞き取ってきたのか、紛れ込んだと思われる数人のゾンビの姿。
ちっと舌打ちし、秋山も銃を構える。
横目でその姿をチラッと見ると、いつものかっこいい表情で銃を構える秋山の姿が目に入った。
でもその姿は女装のままで、やる気を失ってげんなりする。
「・・・・ま、秋山。ちゃっちゃとやろうぜ」
「あけちゃん、無茶しちゃだめだよ?」
「うっせ。今は秋山のほうが女だろ?・・・黙って守られときな!」
皮肉を言いながら、私達は慣れた手つきでゾンビを蜂の巣にしていく。
慣れたくて慣れたわけじゃないが、ここまでゾンビの相手をしていたら感覚が麻痺してくるのも当たり前だ。
撃ちぬかれていくゾンビ。
だんだん静になるこの空間。
最後の一人を撃ちぬいた私は、安堵のため息をついて銃を整備した。
秋山も慣れた手つきで使い終わった銃の補充を始める。
「・・・・」
真剣な表情。
格好はふざけたものなのに、その手つきは鮮やかでかっこいい。
思わず見惚れかけた私は、いいことを思いついてポケットに手を入れた。
それからバレないようにポケットから携帯を引き抜き、静かに秋山の様子を撮る。
カシャリとシャッターを切る音が響き、秋山が勢い良く顔を上げた。
いつもの秋山に睨まれるのは怖いが、今の秋山は化粧まみれで怖くない。
「あけちゃん?今、何したのかなぁ?」
「さーな?」
「へぇ?俺には言えないことをしたの?」
「どうだろうな?」
「・・・あけちゃん?」
周りにあったゾンビの気配は無くなった。
人が集まり始めた音が聞こえるということは、残りは兄さんあたりが片付けたのだろう。
と、なると。
「もうコレもいいわけだ」
そう言って秋山は、苛立ち露わにした表情でウィッグを投げ捨てた。
パサリと落ちる長い髪の毛に、ゾクリとした寒気を感じる。
からかってやるつもりだったんだけど。
秋山の目が思った以上に殺気立っていて、思わず一歩下がってしまう。
「おっと、にがさないよ?」
そのたった一歩の隙を突かれ、私は秋山に右手を取られていた。
強く引き寄せられ、そのまま近くにあった壁へと押し付けられる。
目の前に迫る、秋山の顔。
でもそれは化粧が塗られている乙女の顔で。
いつもなら嫌な予感を感じる彼のニヤリ顔も、ギャグ顔に見えてしまって吹き出す。
「ぶふっ」
「・・・・・」
あ、やばい。
「ちょ、たんま!!!」
「何が?もう退治も終わったみたいだし、ちょっと俺につきあってよ」
「ま、まて。私はまだちょっと手伝いが・・・」
「手伝いならいいから、俺の化粧落とし手伝ってよ」
怒気のこもった声。
逃さないとばかりに抱きかかえられ、じたばたと暴れる。
でも、秋山の腕の力は弱まる気配がない。
まさか本当にこのまま。
「待てって!」
「ん?なんでそんな慌ててるの、あけちゃん」
「いやほら、だって明らかにお前怒ってるし・・・」
「怒ってないよ、別に。ただこれからちょっと俺に付き合ってもらうだけだよ?」
「こ、声が怒ってるじゃん・・・た、たんま、たんま!」
怒ってる秋山が何をするかなんて、大体分かる。
何年秋山と付き合ってきたと思ってるんだ。
身の危険しか感じないのに、逃げることを許されないこの状況。
切羽詰まった私は、引きつった笑顔で親指を立てた。
「似合ってるよ、秋山!」
「・・・・・・・・・・・・・」
火に油を注ぐとは、こういうことなのだろうか。
私はぴたりと笑顔すら消した秋山に抱えられ、大人しく避難所まで連れて行かれた。
さぁて、お仕置きだね?
(恐ろしい笑顔も化粧を落とすまでは笑いにしかならず、さらに火を炎に進化させたのは言うまでもなかった)
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