いらっしゃいませ!
名前変更所
身体中に走る痛みと、ぼやけていく視界。
その中で皮肉にも浮かんできたのは笑顔だった。
後ろでガラスが割れるような音が響き、同時に私の身体が地に落ちる。
17号と18号がどこかに飛び去ってしまうのを遠目に見ながら、私は拳に力を込めた。
・・・駄目だ。
力を使いすぎて、回復すら出来ない。
さっきの割れる音は、私が彼らを守っていた壁が崩れた音だろう。
「ゆえ!!!!」
生きてるだけ、マシか。
後ろからピッコロの声が聞こえるのを感じながら、私は闇の中に意識を沈めた。
「起きろ」
夢の中か、それとも現実か。
落ち着く声が私を揺さぶり起こそうとしている。
力の入らない手を上げれば、大きな手がそれを包んだ。
うっすらと目を開け、さっきよりも明るくて綺麗な視界に、生きていることを認識する。
「・・・あ・・・・」
「・・・・ゆえ」
「・・・・・っ」
空気が凄く澄んでいて美味しい。
ピッコロに呼ばれて返事をしようと開けた口から、その空気を目一杯吸い込んだ。
目に入る、白い白い世界。
ああ、天界だ。・・・悪魔になってから、こんなところに来るなんて。
天界は天使が住んでいる場所にすごく似ている。
それに心地よさを感じてもう一度眠ってしまいそうになった私を、ピッコロの手が撫でた。
「気持ちいー・・・・」
「・・・・大丈夫なら、さっさと起きろ」
「ちょっと魔力の消費がでかすぎたみたい・・・でも、大丈夫だよ、ありがとうピッコ・・・・」
言葉が途中で途切れる。
やっとしっかり目を開いて周りを見回した私が、どんな状況か理解したからだ。
私達の目の前で、下界を見ているのは地球の神様。
それを心配そうに見守るポポ。
そしてその奇妙な空間に、元大魔王のピッコロと元天使とはいえ悪魔の私。
・・・いや、最悪そこは問題じゃないとしよう。
私の中では今のこの”体勢”が一番の問題だ。
目を開けた先に広がるのはピッコロの上半身と顔。
私の頭の下に感じる、ぬくもり。
これって、その、つまり。
膝枕・・・だよね?
「・・・・ッ!!!!」
咄嗟に起き上がろうとするが、身体中が痛んで叶わなかった。
それと、もう一つ。
ピッコロの手が、明らかに怒りを含んだ力で私の頭を押さえつけているのも原因だ。
「あ、あの、ピッコロ?」
「なんだ?」
「お・・・・こってらっしゃいますね・・・・」
聞かなくても分かるだろうといいたげな目を見て、私は動くのを止める。
すると私を押さえつけていたピッコロの手が、ゆっくりと私の頬を撫でた。
見上げれば、怒りの表情ではなく、とても苦しそうな表情を浮かべたピッコロが目に入った。
でも言葉は何も発さない。
その無言の空気が苦しくて、恐る恐る口を開いた。
「あ、あの、ピッコロは・・・だいじょあぐっ!?」
大丈夫?と聞こうとした瞬間、思いっきり頭を叩かれて言葉が止まる。
何か文句があるのかと思えばピッコロは無言のまま。
な、なにこれ。新手のいじめ?
「え、えっと・・・皆は、だいじょへぶっ!?」
なにさ。なんなのさ。
私が口を開くたび、途中で殴られて言葉を消される。
・・・もしかして。
長年の付き合いの勘から見出した答えを、私はそっと口にした。
「あの・・・・ごめんなさい」
その一言に、ピッコロの表情がようやく動く。
私を叩いていた手を離し、もう一度頬に添える。
「・・・・馬鹿者が」
「・・・・でも」
「ん?」
「いだあぁぁああ!!黙っとく!!すみませんでした!!!」
余計なことを言うと頭を捻り潰されそうだ。
必死に謝って頭を離してもらい、口にチャックをする。
こうやってピッコロを怒らせるのは初めてのことじゃない。
私が悪戯したり、無茶したり。
毎回こうやって怒られた。
でも今日のピッコロは、いつもと違う。
「・・・・トランクスにお前の未来を聞いた」
「え?」
私の、未来?
そういえばトランクスが来た時、私だけ話に出なかったんだっけ。
それをなんで、いまさら?
「未来のお前はあの時の様に無茶して自分の力を使い、魂に宿した悪に耐え切れなくなり・・・・本物の悪魔になったらしい」
「・・・・そ、そうなんだ?でもほら、未来と今はだいぶ違」
「そういう問題じゃないだろう!!」
突然の怒鳴り声に、びくっと身体が震える。
「先ほどの戦いは、未来と同じ結末を作る可能性があったのだぞ!!!」
「ッ・・・ピ、ピッコロ」
ここまで怒ったピッコロ、初めて見た。
優しいのは、私に触れる手だけ。
残りの部分は大魔王を感じさせるが如く、殺気に満ちている。
「俺は、お前を失うかもしれないと考えた時・・・怖くなった」
「・・・・・」
「この俺が、怯えたんだ。前までは人の命を奪う立場だったこの俺がだ・・・!!!」
混乱を抑えきれない表情。
やはり怒りではなく、苦しみに近いそれは、確かにピッコロの表情らしくはなかった。
らしくないけど、とても優しくて。
怒られてるのに嬉しくなり、笑ってしまう。
「えへへ・・・・」
「・・・何を笑っていやがるんだ?」
「いだだ・・・!だ、だって、嬉しいんだもん。心配されてるんだなーって」
「ッ・・・誰が貴様を!!」
「えー?」
痛む身体を無視して起き上がり、そのままピッコロに寄りかかった。
やっぱり、落ち着くなぁ。
怒られても何言われても、ピッコロの傍が。
「・・・・私も同じだったんだもん」
この温もりが、消えてなくなるというのを考えたくなかった。
17号にやられていく皆を見て。
皆を失うことも怖かったけど、なによりも。
ピッコロを失うことが怖くて。
――――気づいたら暴走していた。
「ピッコロがやられちゃうと思うと、いなくなると思うと」
身体が、震える。
「怖い。怖かったよ・・・だって、私、その・・・えっと」
その先を言いかけて、止まった。
私、今、何を言おうとした?
心の中にあった、ピッコロへの気持ち。
思わず溢れ出しそうになったそれを言いかけた私は、恥ずかしくなってピッコロを突き飛ばした。
「ごふっ!?き、貴様何をする・・・!!」
「あ、い、いや、つい!」
「つい!?貴様ついで人を突き飛ばすのか!!」
「だ、だって・・・」
「何がだってだ?言い訳ならたっぷり聞いてやろう。殴った後でな!!!」
「暴力反対ー!!!っあ!」
ガクンと力が抜け落ちる身体。
怒るピッコロから逃げようとした私は、そのまま神殿の床に倒れ込んだ。
・・・どうやらまだ力が回復しきってないらしい。
ふらつく足でどうにか立ち上がろうとすると、急にふわりと身体が浮いた。
「お前はおとなしくしていろ」
「あ・・・・」
そう言って私を抱き上げたピッコロが、また膝の上に私を寝かせる。
「んー・・・落ち着く」
「・・・今日だけだからな」
「ピッコロからしてくれたくせにー!」
「・・・・さっさと寝ろ」
ツンケンしながら、私のことを撫でる手は止まらない。
気持ちいい。すごく、落ち着く。
「そういえばピッコロ、なんでここに?」
「・・・・お前なら、聞かなくても分かるのではないか?」
「もしかして、一人に戻るの?」
「そうでもなければこんな所来るか」
「こんな所って・・・・いい場所なのに」
「・・・フン」
ピッコロは私を寝かしたまま目を閉じ、その場で瞑想を始めた。
器用だなーなんて思いつつ周りを見回せば、神様とその付き人であるポポが目に入る。
ポポのことはよく知ってる。
先代の神様とは、天使だったころによく会ってたし。
ポポが知ってるから、今の神様も知ってるのかもしれないけど。
「身体、大丈夫か?ゆえ様」
ポポの言葉に、ピクッとピッコロが動くのを感じた。
「あ、ポ、ポポ。様じゃなくていいよ、うん。私もう悪魔だしね?」
「駄目だ。ゆえ様、元天使様。ポポ、そんな失礼な事できない」
「うぐ・・・・」
こういうのには、本当に慣れない。
天使は神に並ぶほど世界での立場は上。だからこその窮屈さが苦手で、よく天界でヤンチャしたのを覚えている。
悪を背負うために堕ちたなんて偉そうなこと言われてるけど、結局のところ私はそれが嫌でワザと悪魔になったに近い。
そんな私に、様なんて。
「似合わないよ、ね?お願い」
「・・・で、でも」
「分かった。じゃあ命令だよポポ!私に様付禁止!」
「・・・・しょうがない。命令なら、聞く」
ポポが納得したのに胸を撫で下ろしていると、次の強敵が口を開いた。
「おい、ポポ」
「・・・・」
「天使とはどんな存在なのだ?」
「わー!ピッコロ!なんでそういうこと聞くの!!」
「何度も言わせるな。お前だけがこの俺のことを知っているのが気に食わんのだ」
「やだやだーーー!!聞かなくていいーーーー!!!」
自分が真面目だった頃の話を聞かれてたまるか!!
阻止するために起き上がろうとした私に、ピッコロの重さが思いっきり掛かる。
あ、これやばい。
「つぶ、つぶれ、潰れます・・・・!!!」
「おいコイツを押さえてる間に早く話せ」
「・・・・・」
「・・・・おい!」
「仕方あるまい。私が話そう」
ポポが嫌がって話をしなかったのを見て、神様が口を開いた。
ああ、余計なことを!!と言いかけたのがバレたのか、掛かっていた体重がもっと強くなる。
「あだだだだ・・・・っ!」
「天使とは我ら神と共に存在する天界の守り人だ」
「守り人?」
「あぁ、そしてゆえ様はその中でもダントツの力を持った天使だったからな。私達にもよく知られておる」
「・・・・相当偉かったんだな、お前・・・全然想像つかんな」
「う、うるさいな・・・顔笑ってるぞこのやろう!!!!」
「ククッ・・・・」
「・・・・だから嫌だったんだよ・・・」
お前が?本当に?と言いたげな目が私に向けられていて。
余計なことを喋った神様を睨めば、神様はまた下界を静かに見下ろしていた。
その目に何が映ってるのかは分からない。
ただ情報として入ってくるのは、時々神様が呟いている「バケモノが・・・」などといった不穏な空気のする言葉だけ。
神様だけが下界の状況を知るこの状況。
ピッコロの苛立ちが深まっていることに気付き、そっと手を伸ばす。
「ピッコロ、落ち着いて?」
「・・・・あいつだけが下界の様子を楽しんでいやがるんだぞ」
「見守るのも神様の仕事なんだからそう言わないの!それに、合体したら神様が見たものは全部分かるんじゃないの?」
伸ばした手をピッコロの頬に触れさせる。
噛み付かれるんじゃないかな?って思ったけど、ピッコロは何も言わず静かに目を閉じた。
こんな状況だってのに、なんだか凄く幸せな気分。
だってほら、まるで恋人みたいじゃない?
自分でそう考えておいて恥ずかしくなって妄想の世界に飛び込みかけた私を、神様の声が目覚めさせた。
「・・・その、とおりだ」
ゆっくりと歩んでくる神様の目は、先ほどと違い悲しげに揺れている。
「この私と融合すれば、見たものは・・・すべてわかる」
覚悟を、決めたんだ。
下界で何かあったんだろうか。
ま、それもピッコロが融合してしまえば分かること。
私は止めることも邪魔することもせず、二人を見守ることにした。
なんて言っていいのか分からない。
私の隣を飛んでいるピッコロは、ピッコロでありながら違うものへと進化していた。
神殿を降りて私達が向かっているのはジンジャータウン。
神と融合したピッコロが、そこに”とんでもないバケモノ”がいると教えてくれた。
・・・・それにしても。
なんて力だろう。一人の人間に戻るのがこんなにも凄いことになるなんて。
私と一緒に飛んでいるピッコロの方をちらりと見れば、鋭い瞳が町を見下ろしている。
「・・・・ここだな」
「うん」
彼が見下ろしている先には、何もない。
建物は壊れ、車は火を上げて・・・何より、人がいない。
逃げた、という表現では難しいだろう。
消えたという方が、この状況にはふさわしい気がした。
「・・・・なに、これ」
町に降り、慎重に歩き出す。
私達の視界に広がる光景は、ただの寂れた町。
今の今まで人が住んでいたなんて、信じられない。
「・・・・」
「・・・・っ」
「気づいたか?」
「うん」
建物の間から感じる、微かな気配。
それに気づいた私達が歩みを止めると、その正体は意外にもすんなり姿を現した。
「・・・・う・・・!?」
「姿を現したな」
姿を現したそいつは、大きな虫のような姿をしていた。
うにょうにょと動く気持ち悪い尻尾。
クチバシのような口。
そしてソイツが持っているのは、生きた男の人。
「おい、そいつを離してやれ」
ピッコロの言葉に、変な奴は手に持っていた男を投げ捨てた。
意外にも素直じゃん?と思って男を助けようとした瞬間、その男に尻尾が突き刺さる。
ぐちゃり、と。
嫌な音が響いた後、まるで何かを飲むような音が聞こえ始める。
あまりにも気持ち悪い光景に1歩下がれば、男の身体が見る見るうちに干からびていった。
慌てて手を伸ばしても遅い。男の身体はただの砂のように風に流されて消える。
「うええ・・・・」
「次は貴様がこうなる番だ・・・ピッコロ大魔王」
「何!?・・・な、なんだ、この気は・・・・!!」
変な奴が気を上げた瞬間、ゾクリと身体が震えるのを感じた。
この気、感じた覚えがある。
ベジータや悟空だけじゃなく、ピッコロの記憶で見たフリーザとかいう奴のまで入ってる。
「貴様、一体何者だ!!」
ピッコロの質問に、変な奴は答えた。
「私は貴様の兄弟だ」
「・・・意味が分からんな。さっさと貴様の正体を教えろ」
「その必要はない。お前はすぐ俺の養分になってしまうんだからなぁ・・・ピッコロ大魔王」
こいつ、やるつもりだ。
咄嗟に魔法で鎌を出し、変な奴に向かって構える。
ピッコロも静かに拳を構え、それから彼らしい悪い笑みを浮かべた。
「ククッ・・・そうか、だが、人違いだ」
「人違いだとぅ!?」
解放される気。
昨日までとは違うその気に、私は思わず微笑んでしまう。
これが神と融合した、ある意味本当の彼の気。
私さえ震えてしまうほどの気を解放しながら、ピッコロが足を踏み込む。
「貴様がこの町の住民を消してしまったのは、ある意味好都合だった」
「・・・なんだと?それはどういうことだ?」
「思いっきりやれるからさ」
そう笑う彼の表情に、神らしさを感じる部分は無い。
いや、住民のことを気にしてただけでも、元大魔王からすれば十分な神らしさなのかもしれないけれど。
ま、そんなこと言えば私ごと消されるのは目に見えている。
ただ黙って、ピッコロが衝撃波を撃つのを見守った。
「ッわ・・・・!?」
ピッコロから放たれた衝撃波が、思った以上の威力で全てを吹き飛ばす。
衝撃波を受け止めるつもりで構えていたあのバケモノさえも。
「すごい・・・な」
すぐに始まった勝負に、思わずそう呟く。
今までのピッコロとは比べ物にならないスピード、攻撃の重さ。
それに押されていく変なバケモノ。
私の出る幕は無さそうだと、手に出していた武器を魔法でしまう。
「・・・・中々、やるではないか・・・・」
「フン。そんなものか?貴様がとてつもないバケモノだと感じたのは、勘違いとは思えんのだがな」
「いくらこの私が完全体ではないとはいえ・・・驚いたぞ・・・・」
「完全体?・・・まさかアンタ、そのために人間食べてたの?」
「ククッ・・・そうだが?」
逃げたというより消えたにふさわしいと思ったのは、これのせいだったのか。
改めて周りを見れば、人々の”服”だけが地面に残されている。
さっきのあの男も、アイツに食べられて砂になった。
この町の人達も皆・・・・。
「・・・答えろ!貴様をタイムマシンでこの時代に送り込んだのは、誰だ!!!!」
「ん・・・・?」
「貴様の仲間か?」
タイムマシン?
えーっと、なんかここの町の付近で、タイムマシンが見つかったんだったっけ。
かなり適当にピッコロに話をされたから、若干覚えていない。
「送り込んだのは私自身だ・・・・あのタイムマシンはこの体には小さくてね。卵まで戻る必要があったのだ・・・・」
そこまでして、どうしてここに来たかったのか?
一番聞きたいのはそこだけど、ピッコロはまだ聞こうとしない。
「・・・それにしても、タイムマシンのことまで知っているとはなぁ。だが」
黙りこむピッコロをよそに、そのバケモノは静かに手を伸ばした。
両手を前に付きだし、気をその中心に集める。
――――あの構え、どこかで。
「こういうことまでは知らんだろう?」
膨れ上がる気。見覚えのある構え。
それは確かに、寝ているはずの悟空のモノだ。
「か・・・め・・・は・・・め・・・」
「なん、だと・・・こんなことが・・・!!」
「波ァーーーーっ!!!!!」
目の前で撃たれたカメハメ波に、咄嗟に壁を張る。
一応ピッコロも入れてたけど、その必要は無かったようだ。
あの一瞬で姿を消したピッコロの気が、空高い場所に浮かんでいる。
土埃のせいで何も見えないことが不安に感じた私は、魔法で風を起こして土埃を吹き飛ばした。
「・・・・ん?」
土埃が無くなると同時に上を見上げると、変なバケモノに抱きつかれているピッコロの姿が目に入った。
「ピッコロ!?」
その手にはあの尻尾が突き刺さっており、段々と萎れていくのが分かる。
あの何かを飲むような嫌な音も同時に聞こえた。
まさか・・・!!!
「ピッコロ!!!!!」
勢い良く距離を詰め、一瞬で鎌を出してバケモノの額を突く。
ガッ!と鈍い音と共にバケモノが怯み、その隙をついてピッコロを奪い返した。
「ッぐ!!食事の邪魔をしおって・・・・!!!」
片腕が萎れてしまったピッコロを、静かに地面に下ろす。
ピッコロの気が段々落ちていくのを気にしつつ、私はピッコロを守るように構えた。
だがそれを、ピッコロ自身の手によって止められる。
「ピッコロ?」
「(・・・いいから俺に話を合わせろ)」
言葉ではなく、心に。
何か作戦があるんだろうと気づいた私は、魔力を解放するのを止めて下がった。
「くくっ・・・どうした?片腕が使えないのでは形勢逆転のようだな?それとも、そこのお嬢ちゃんが戦うのかな?」
「・・・・」
「こいつは俺よりも弱い。そしてこの俺も腕がこのざまだ・・・確かに、負けを認めるしかないようだな」
作戦だろうという予想が確信に変わる。
ピッコロはどんな時も諦めず戦う人だった。だから、こんなにあっさり負けは認めない。
とりあえずボロを出さないよう、黙っておく。
弱々しいピッコロの言葉を聞いたバケモノは、凄く嬉しそうに近づいてきた。
「さすがに諦めたか・・・・感謝しろ!お前と、その女の生体エキスがあれば、私はより完全体に近づく・・・・」
「・・・完全体だと?」
「くっ・・・貴様に吸収される前にぜひ聞かせてくれ。貴様は何者なのだ!何故孫悟空、フリーザ達の気を持ち、技まで使えるのだ!!」
ああ、なるほど。
情報を聞き出そうってわけか。
思わずニヤけそうになる顔を、なんとか見られないように隠す。
「・・・いいだろう。どうせ死ぬんだ、教えてやる」
「・・・・っ」
「私の名はセル。人造人間だ」
人造、人間?
この変な虫みたいなのが、人造人間?
また、トランクスが言ってたのとは違う奴だ。
トランクスは、人造人間は二人としか言ってないから、間違いなく未来には存在しない。
「私はドクターゲロのコンピューターによって作られた・・・・」
「チッ・・・またドクターゲロか」
「その昔、ドクターゲロは戦闘の達人達の細胞を集め、それを合成させた人造人間を作ろうとしたが・・・・時間がかかりすぎて断念したのだ。だが、コンピューターはその作業を続けていた・・・・」
だからこんなにも、色んな人の気が。
過去の達人だから私の魔力はないのか。
ここのドクターゲロは魔力の扱い方を知らなかったし、もしかしたら扱えなかったのかもしれないけど。
「どうやって細胞を採取した?今までの戦いの中で怪しいヤツなど、いなかったはずだ!」
「ドクターゲロから聞かなかったのか?お前たちの行動はスパイボットが監視していたと。そいつが細胞をいただいていたんだ・・・・ほら、そこに」
セルが指さした先は、私のすぐ近くだった。
慌てて飛び退いて周りを確認すると、ハエのような小さな物体が浮いているのが見える。
こ、これが、ロボット?
まるで虫――――って。
「くそったれが!!」
「のわぁあああ危ない!!!」
苛立ちを含んだピッコロの気弾が、私の目の前を掠めてロボットを破壊した。
「くくっ・・・今頃破壊しても遅い。もう研究は進んでいるのだ。まぁ、私が作られるのは23年後のことだがね・・・・」
「馬鹿な!!ドクターゲロの研究所は破壊したはず!!」
「コンピューターがあるのは更に地下だからな」
「・・・・なるほど」
不快な足音が近づいてくる。
そろそろ痺れを切らしたのだろうが、ピッコロは諦めずに口を開いた。
もっと、情報を引き出すつもりなんだ。限界まで。
まだまだ、謎が多すぎるから。
「貴様が!!・・・・卵からそうなるまで3年掛かったのは」
「一度卵に戻ってしまうと、熟成するまで地中で3年。それだけ時間が必要なのだ」
「・・・・虫じゃん」
「最後の質問だ!!貴様がわざわざ未来から来た理由はなんだ!」
近づいてくるセルにピッコロは逃げようとしない。
セルもまた、それを見て慌てる必要もないとばかりに足を止めた。
「私が完全体になるには、人間の生体エキスだけでは足りないからだ。ある二つの特殊な生命体を合体させる必要がある」
「二つ・・・?」
「あぁ・・・ドクターゲロが作った17号と18号だ」
あの、二人が?
人造人間が人造人間を吸収するなんて、あり得るのだろうか。
でもこのセルとかいうやつが、ウソを付くようには見えない。
嘘の情報を流して錯乱させようだとかそういうのは、感じない。
「私のいた未来には17号と18号はトランクスに倒されてしまっていなかった。だから私はトランクスのタイムマシンで・・・ここに、17号と18号を求めてきたのだ」
「何故だ・・・何故そこまでして力を求める!!」
「さぁな?ただコンピューターには強いものを作るようインプットされているのだ。私はそれを聞いただけだ・・・・」
情報が集まっていく。
こいつは人造人間セル。
24年後に完成される存在。
そいつが完全体になるためには、17号と18号が必要で。
それが未来には無かったから、トランクスのタイムマシンでわざわざここに来たと。
「・・・さぁ、もういいだろう?」
「あぁ、すまなかったな・・・これで謎がとけた」
ピッコロが萎れた方の腕を掴み、引き千切った。
そしてそのまま一気に気を解放させ、千切った腕の方を再生させる。
何度見ても慣れない光景に、思わず「うへえ」と声を漏らせば、ピッコロの鋭い視線が私を突き刺した。
「お、お前・・・話をさせるために・・・!!」
「お前を完全体にさせるわけにはいかんぞ。・・・俺の血を引いておきながら、腕の再生に気が付かなかったのはドジだったな?」
余裕の笑み。
これでこそピッコロって感じてしまうのは、ちょっとした病気なのかもしれない。
「形勢逆転、かな?」
「き、貴様・・・ッ!!」
「よく黙っていられたな、偉いぞ」
「・・・・・・・・・馬鹿にしてんでしょ」
「おっと・・・・それは目の前の敵にするんだな?」
「チッ・・・!!!」
戦うために構えた私をからかう言葉。
完全な子供扱いなそれに、思わずピッコロに肘打ちを決める。
もちろん、そんなの受け止められて終わるわけだが。
セルは自分がはめられたことに怒りを感じ、拳を震わせていた。
「二人相手は分が悪いけど、私だけが相手でも分が悪いんじゃない?ピッコロに勝てないんじゃ私には勝てないよ?」
挑発するように言えば、セルは少し落ち着きを取り戻して私を睨む。
「お嬢さん・・・いや、ゆえ、か?」
「・・・・そうだけど?」
「ほう。お前が名前しかデータの残っていない、私の中の唯一の謎の存在・・・・」
名前だけ、か。
人間の力で、元天界人のことをデータとして集めるのは無理があったんだろう。
「想像以上に・・・美しい存在だ」
「・・・ん?え??」
セルに警戒だけ示していた私は、その言葉に唖然としてしまった。
後ろのピッコロも、口をぽかんと開けて「何だコイツは」といった表情を浮かべている。
いやだって。
美しいとか言ったよ、この人。
今この状況が分かってるの?
というよりこいつの目は大丈夫なのか?
「・・・アンタ、未来に戻って作りなおしてもらってくれば?」
「くくっ・・・まぁ良かろう。私の言葉の意味も、またそのうち分かる・・・・ん?」
言葉の途中でセルが空を見上げる。
気になってその方向を見れば、感じ慣れた気が二つここに向かって来ているのを感じた。
その気は段々大きくなって、私達の後ろに降り立つ。
「こ、こいつがジンジャータウンの人たちを?」
クリリンと、トランクス。
ピッコロから色々話を聞き出そうとしているのを確認して、私はセルを睨んだ。
話はピッコロに任せよう。
今はまず、こいつを片付けるのが先だ。
「悪いけど、倒させてもらうよセル。・・・アンタを片付けるのが私の仕事だ」
「片付けるだと?そう簡単に・・・いくかな?」
「この状況では、お前に勝ち目があるとは思えんが?」
後ろから投げかけられたピッコロの挑発に、セルは微笑を浮かべる。
「確かに・・・この状況では退散しかないだろうな」
1歩下がるセルを追いかけ、1歩踏み出した。
一気に魔力を解放し、一瞬で勝負をつける準備を始める。
「逃すなよ、ゆえ」
「もちろん?って・・・ピッコロも逃さないでよ?」
「当たり前だろう」
私達二人が睨みを利かせる中、何故かセルは余裕そうにクリリン達の方を見た。
セルならクリリン達のことも知ってるんだろう。
そしてもちろん、トランクスのことも。
「私は必ず17号と18号をいただくぞ・・・阻止することは出来んだろう?まともに戦えるのがピッコロと、ゆえだけではなぁ・・・・」
そう言いながらゆっくりと上昇していくセルを、私も同じように飛び上がって追いかける。
何か行動を起こしてもすぐ殺せる位置へ。
そんな私の行動虚しく、私とセルの位置が重なった瞬間に私は気づいてしまった。
セルが何をしようとしているか、そしてこの位置がもっとも危ないことに。
「太陽拳!!」
まばゆく光る目の前。
悔し紛れに伸ばした手は何も掴まず、ただ、虚しく空を掴んだ。
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