いらっしゃいませ!
名前変更所
あの時。
ドミグラと撃ちあったあの時、彼らが私を助けてくれた。
時の界王神様が言うには、色んな時間軸と隣り合わせの場所だから起きた現象だという。
皆の力が私の力になった。
でもその時感じた、一人の――――ピッコロの声が、特に私の力になった。
「ピッコロ」
「・・・英雄のおでましか。いいのか?主人公がこんなところにいて」
トキトキ都が崩壊から救われたこの日、界王神様が壮大なパーティを開いた。
都市に居た他のパトローラー達も集まってお祭り騒ぎしてる中、どうせ賑やかなのは苦手で来ないだろうとピッコロを探しに来た私を、彼は意地悪い言葉で迎える。
パラレル世界を救うためのマシンが集まるここは、私達以外に誰もいない。
不思議な空の輝きが、パーティの賑やかさを忘れさせる。
「ピッコロとお話したかった」
「フン。俺と話をして何が楽しい」
「えー?楽しいから探しに来たのに」
「物好きな馬鹿だな」
「あ、そこまで言う?」
ピッコロの弟子になって、どのぐらい経っただろう。
こんな会話も、毎度おなじみになってきた。
「はい、これ」
「・・・・あぁ」
水の入ったワイングラスを手渡し、ふわりと浮いてピッコロと顔の高さを合わせる。
「ね、ピッコロ」
「なんだ?」
「・・・・ありがとう」
たとえあの軸で起きたことが、幻や奇跡でも。
私は彼にお礼を言わないといけないと思っていた。
「なんだ、急に」
「私があいつを倒せたのは、皆のおかげもあるけど・・・一番は、ピッコロだよ」
色んな人に技を教わって。
強くなることだけを考えて、パトロールに打ち込んできた。
でも最後は結局ピッコロに戻ってきたのは、私が彼を好きだったから。
平和になった今、それに改めて気づいて顔が熱くなる。
「助けてくれたんだ、ピッコロの声と力が」
でもそれと同時に、不安が押し寄せた。
もう私には教えることがないと彼は良く言っていたから、もしかするとこれでお別れなんじゃないかって。
「だから、その、私」
言いたい言葉が上手くまとまらない。
気持ちを伝えたいのか。
ただ、お礼を言いたいだけなのか。
悩んで口を閉ざした私の頭に、大きなピッコロの手が乗った。
重たくて暖かいその手が、私をゆっくりと撫でる。
「それは、お前の力だ」
「でも」
「俺はあの時何もしていない。たとえ違う時間軸の俺が助けていたとしても、最終的に倒したのはお前だ。それはお前の力だ。自信を持っていい」
ほんと、ピッコロは師匠として凄くいい人だ。
ピッコロ自体は悪ぶってるけど、子どもたちに好かれる理由がよく分かる。
でも今の私にはその優しさも、胸に刺さった。
遠ざかっていくようで、遠ざけられているようで。
「・・・やだ」
「ん?」
気づけばそう呟いて、ピッコロの手を握っていた。
そしてそのまま、戸惑うピッコロを気にすること無く顔を近づける。
「私、まだピッコロの・・・」
弟子で居たい。
いや、違う。もっと近づきたいだけ。
弟子という関係じゃなく、もっと深いものになりたい。
彼の過去を巻物を通して見てきた。
そのたびに誰よりも気持ちが深まっていくのを感じていた。
悟飯が羨ましかった。
同じ時間軸で成長を遂げてきた彼が。
「ピッコロの・・・傍に、いたい」
全てが終わった今。
私の修行が必要なくなった今。
戻ってしまうの?
いなくなってしまうの?
「・・・お前らしくもないな」
泣きそうになっていた私の頬に、ピッコロの手が降りてくる。
「お前は馬鹿みたいに俺の言うことを聞かず、勝手にするやつだろう」
「・・・まだベジータとか悟飯の弟子になったの怒ってるの?」
「お、怒っとらんといっただろうが。そんなことで怒るか」
ちょっと動揺を見せたピッコロに思わず笑うと、ピッコロもつられて笑った。
その笑みがあまりにも優しくて、またドキリとする。
「・・・・っ」
「どうした?」
「私・・・・」
勝手にするやつ、か。
そうだよ。私は魔人だよ?
欲しいものは手に入れちゃう。
「じゃあ、勝手にしちゃおう」
「あぁ」
「私ピッコロの傍にずーっといる」
「物好きだな」
「どこにいってもついていく」
「・・・馬鹿だな」
「だって好きだもん」
「そうか・・・何?」
「ピッコロが好き。大好き」
この時ほど、自分が魔人だったことに感謝したことはなかった。
さらっと言ってしまった重要な告白に、顔が赤面するのを感じたが、ガラスに映った私の顔はいつも通りピンク色。
ただ、隣に映るピッコロの表情は――――真っ赤だった。
「き、貴様何言ってやがる」
「え・・・だって勝手にしろっていったじゃん。だから勝手にしたの」
「貴様今自分が何を言っているのか理解してるのか?」
「私はナメック星人と違って性別もあるし、恋愛も理解してますっ」
「・・・・ッ」
「ピッコロが恋愛を理解出来なくてもいいから、傍にいたいなって思ってくれるなら、それだけでもいいから・・・居たいな、傍に。ずっと。ずーーーっと!」
ピッコロを私のものにしたい。
近づいたままそう囁やけば、また動揺の色が深まる。
いつも意地悪されてるからだろうか。
こういう時に動揺されると、少し楽しくなってしまって、私は更に顔を近づけた。
触れてしまうんじゃないかってほど、ギリギリの距離。
お互いの顔色なんて、もう分からない。
きっと、私の顔も分かるぐらいに赤くなってるだろう。
こんなにも、好きな人と近づいているんだから。
「・・・っお前の、そういうところが、馬鹿だというのだ」
「えー」
「そこまで真っ直ぐ気持ちを言えるお前は・・・・凄いな」
「もっと言ってあげてもいいぞ?」
自分の平常心を保つため、少しからかい気味に言う。
すると突然視界が真っ暗になり、なに!?と声をあげようとした唇が開かないことに気づいた。
ふさがれて、る?
この距離で、今のタイミングで、塞がれた?
・・・まさか。
「ッ・・・・・・!!!!!!!!」
キス、されてる。
そのことに気づいた今までの平常心を全てふっ飛ばしてピッコロから離れようとした。
だがそれは叶わず、ピッコロの手が私の後頭部を押さえつける。
必然的に深まる口づけが、私の全てを崩していった。
ちょっと、待ってよ。
恋愛は私の方が上でしょ?さすがに。だってナメック星人って恋愛感情ないんでしょ?
それ分かってて告白して、私のものにしてやるために翻弄してやろうって。
悪いこと、考えてたのに。
「っは・・・!!」
「ククッ・・・この俺を”翻弄”するなど、100万年早い」
「なっ・・・・こ、心読むな!!だ・・・大体こんなことどこで・・・っ」
「これか?これは神の知識だ」
「よ、余計なこと・・・!!」
「余計なことか?この知識がなければ、俺が抱いた感情が・・・お前の言う恋愛だというものだと分かることも無かった」
ピッコロの言葉に、段々と頭が痛くなっていく。
「・・・・つ、つまり?」
「お前が言わなくても、俺はお前を離すつもりなどなかった。・・・お前が真っ直ぐに言ってくれなければ、俺もこの気持ちに決着をつけれなかっただろうがな」
「な、なんか・・・嬉しいんだけど、悔しい」
つまりは、気持ちは伝わったというわけだ。
・・・・でもちょっとだけ彼に勝てそうな部分を見つけたのに、また翻弄されているのが悔しい気もする。
そんなことを考え込んでいた私に、またピッコロの手が伸びた。
暖かい手が私を抱き寄せ、優しくも強い力で顔を近くに固定させる。
「言っただろうが。・・・俺に勝ろうなんざ、100万年早いとな」
「ば、ばーか」
「いいのか?そんな調子で。覚悟はできてるんだろうな?」
覚悟?
なんの覚悟?と聞こうとした私の唇が、また塞がれる。
「この俺に、魔族の俺に男としての”欲”を教えたんだ。容赦するつもりはないからな」
な、なんだろう。
恋愛がわからないなら自分の好きに教えてしまえと。
魔人の考えを持っていた自分が馬鹿らしくなるほど、彼の笑みは私よりも意地悪く歪んでいた。
嫌な笑顔では、無いけど。
ようやくキスから解放され、息を吸い込む。
「は、ちょっと、まって・・・」
「どうした?俺に恋愛を教えるんじゃなかったのか?この俺を翻弄するんだろう?ん?」
「・・・・意地悪」
「元大魔王になに言ってるんだ?お前は」
「元神でもあるじゃんか」
「残念だが魔族の方が強いんでね?」
完全に火がついた目をしている彼を、止めることも出来ず。
私はされるがまま、彼に翻弄されることになった。
平和になった、この世界で。
また新たな悪が来るまで。・・・いいや、来たとしても。
「・・・・ずっと傍にいるよ、ピッコロ」
「フン」
言葉の代わりに口づけを返すピッコロに、私はにっこりと笑った。
「言葉には弱いんだねー?」
「・・・うるさい口は塞いでやるだけだ」
「あ、ちょ、ずる・・・・」
パーティはまだ続く。
その賑やかさに包まれながら、私達は二人だけの世界で空を見上げた。
色々なことがあったけど、私は幸せだ。
パトローラーになってよかった。
次はトランクスにお礼言わなくちゃ、ね。
「ねぇ、トランクス」
(あなたにお礼が言いたいの。そう言おうとした私に、意味深な笑みを浮かべた彼を見て、私は顔をひきつらせた)
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