いらっしゃいませ!
名前変更所
俺達の過去を修正する、と。
まったく俺達が理解できないことを話しだした彼女は、その見た目からは考えられないほど純粋で、人間らしかった。
ピンク色の肌。
女性と分かる胸と髪。
だがそれ以外は”魔人”そのもの。
少ししかない知識の中でも、赤い瞳に凶悪な笑みは彼女を異型のものだと認識させる。
・・・だが、それだけだ。
見た目しか彼女に異型を感じさせるものはない。
「ピッコロー!!」
「・・・なんだ、またか」
「なにそれ!遊びに来てやったのに!」
「誰も頼んでないだろう」
「むー。いつも暇そうに瞑想してるじゃないか」
「暇ではない!!瞑想は修行だ!!」
どれだけ声を荒らげても、悲しむ様子を見せない。
悟飯よりも脳天気で、簡単なことじゃ凹むことすらない。
たとえば、だ。
もしここで俺が本気で殴って追い返したとしても。
彼女は戻ってくるだろう。
何事も無かったかのように。それぐらい彼女は”押しかけてくる”
何が楽しいのか分からない。なのにずっと俺の傍に付きまとう。
「・・・・帰れ、邪魔だ」
「やだー。じゃあここで静かにピッコロ見とくね」
「何でそうなる。大体、見てて楽しいか?」
「楽しいよ、カッコイイし」
「・・・っ貴様、からかうのもいい加減にしろ」
そして平気で吐く。
嘘とも取れる言葉を。
だが俺は、それが嘘ではないことを知っていた。
彼女の心。
それは一切嘘をつかず、彼女が表に出した言葉と同じことを秘めているのだ。
「からかってないってば!かっこいいよー?」
「チッ・・・・」
「あー、めんどくさいって思った。酷いな」
「あぁ、めんどくさい」
「はいはい!」
俺の言葉を流し、彼女は笑って俺の隣に座る。
ふわりと香った甘い香りに、俺は片目だけを開けて彼女を見た。
彼女は押しかけてくるが邪魔はしない。
俺の瞑想が終わるまで同じように瞑想して、時々俺を見て、飽きたら術の模索を始める。
「・・・・」
「・・・・・」
ただの無言の時間。
悲しくも集中力の限界を感じた俺は、キウイに話しかけた。
「お前が菓子以外の匂いをつけてくるのは珍しいな」
「へっ?あ・・・匂い、する?苦手?」
「何の匂いか気になっただけだ」
甘酸っぱい、さわやかな香り。
笑った彼女が俺の目の前に移動して、ふわりと手を動かす。
また、強く香った。
同時にポン!と音がひびき、俺の目の前に見慣れない果実が落ちる。
「クレッシュっていう、地球でいうところの・・・グレープフルーツみたいなやつだよ」
「ほう?」
「食べてみる?」
「いや、俺は・・・」
「味だけでも!ほら」
彼女が手を叩くと、俺の手元にあった果実がコップに変わった。
そこにオレンジ色の液体が注がれ、俺の目の前に突き出される。
――――彼女と同じ香りがした。
「美味しいよ?」
例えばここで、いらないとこれを割れば彼女はどんな反応をするんだろうか。
さすがに泣くだろうか。・・・そんなイケナイ感情が俺をくすぐる。
悟飯よりもうるさくて、馬鹿で、なのに自分がしっかりしている女。
放置していても一人で騒いで楽しそうにして。
見てるのは飽きない。
「・・・はぁ、仕方ない」
「お」
期待された目で見られるのがうっとおしくて、俺はそのコップに口をつけた。
流れこんでくる甘い香り。
さっぱりとした味で、水と同じように飲み干すことが出来た。
「どう?」
「・・・あぁ、飲みやすいな」
「水以外ほとんど飲まないんだっけ。なら、貴重な光景見ちゃったのかな?ラッキー!」
「騒ぐな!さっさと帰れ!」
「やーだよーっだ」
また笑って、俺の隣に座る。
赤い目を閉ざして浮き上がり、瞑想を始めたのか静かになった。
・・・仕方ない。
どうせ帰らないんだ。
俺も瞑想に集中しようと目を閉じるが、何故か今日は集中し直すことが出来なかった。
「・・・・・」
隣の奴も静かにしてるというのに。
そもそもこいつがいる時点で集中できないのか?
いや、そんなことだけで俺が集中を欠くわけがない。
悟飯に騒がれていても瞑想ぐらい出来たのだ。
「・・・・・っ」
鼻をくすぐる香り。
甘い香りが、いつになく彼女の存在を大きくする。
「・・・・おい」
「んぅ?」
「邪魔だ、帰れ」
「えー!?やだよーっ」
「お前が居ると集中できん」
「いつもは無視するレベルでしてるくせにー」
その通りだった。
今日の俺は、少しおかしい。自分でも分かる。
そのことにイライラして、俺は見上げるキウイに八つ当たりした。
「うるさいぞ!!」
殺気立った声。
いつもとは違う俺の声に気づいたのか、キウイの瞳が揺らぐ。
「・・・いいから今日は帰れ」
分からない感情に苛立ちが膨らむのは、今日だけのことじゃなかった。
本当にうざったく感じていたのはほんの数週間だけ。
時間が過ぎていくたび、あの煩さが、俺に何を言われても笑顔を浮かべる彼女が、強く心に残るようになっていって。
――――感じたことのない感情。
それを理解しようとしない自分の心が、苛立ちを生んだ。
「・・・・」
怒鳴られたキウイは、俺の目の前で固まっている。
そして寂しそうに目を細めると、座禅を止めて神殿の端に向かっていった。
「ご、ごめーん。なんか今日は本当にイヤみたいだね。帰るよっ」
無理して笑う表情が痛々しく、何故か俺の心も痛む。
だが、俺の心には”何故こんなやつを気にしなければならない”という気持ちの方が強くあり、そんな彼女を止めようとしなかった。
静かに神殿を飛び降り、消えていく姿を見ながら。
この時止めなかったことを後悔するなんて、今の俺には考えられなかった。
「・・・・っ!!」
イライラする。
あの時より、ずっとずっと。
瞑想なんてまともに出来ない。
気が乱れていくのが自分でも分かる。
どうしてこんなに集中出来ないのかも、認めたくないが想像が付いていた。
「ピッコロ、最近イライラしてる。大丈夫か?」
「・・・そういえば最近、キウイさんを見ませんね」
「っ」
デンデに痛いところを突かれ、また気が揺らぐ。
そうだ。俺が苛立ってる理由。
それはあの日から、キウイが俺の所に来なくなったからだった。
あいつにはタイムパトロールがある。
だから居なくなることなんて当たり前だ。
だが、今までは居なくなる時もうるさいぐらいに連絡をしてきた。
・・・今回は、それすらもない。
いつ現れるかも分からない存在。
なんだ、今まで俺にどんなことを言われても泣かなかった奴が。
どうして。
どうして俺は、こんなことで苛立ってるんだ。
まるで、そう。
神の知識が俺に告げる。
これは、恋愛をしている者と、同じ感情だと。
「チッ・・・・」
そんなはずないと、何度自分自身に言い聞かせてきただろう。
ただそれは逃げだったのかもしれないと気付き始めた。
もし彼女の好意がその時だけのものだったら。
気持ちを告げてしまったら、俺は狂ってしまうかもしれないと、そう思ってしまったからだ。
「くそっ・・・・」
苛立ちの限界を越えた俺は、その場から立ち上がった。
そのまま神殿の端までゆっくりと歩き、下界の様子を探る。
もしかしたらこの時間軸にはもういないかもしれない。
そんな俺の不安を打ち砕くように、キウイは簡単に見つかった。
誰もいない山奥の川で、一人、つまらなさそうに浮かんでいるのが見える。
彼女のあんな表情を見るのも、また、初めてだった。
「・・・・チッ。本当にむかつく野郎だ」
悪態を吐き、すぐにキウイの場所に向かって飛ぶ。
あの声を聞かなくなって何週間だろうか。
いや、時間にしてなら長いが、1週間も経っていないかもしれない。
緑茂る、空気の綺麗な山奥。
見慣れたピンク色の肌が、川に反射して煌めく。
「はぁー」
俺に気づいていないらしいキウイが、川で水浴びをしながら大きなため息を吐いた。
「好きなのになぁ・・・やっぱああいうやり方はダメなのかなぁ」
好き?
その単語に、ドクリと心臓が脈打つ。
「ブルマは引いてみるのもいいとか言ってたけど・・・ピッコロは恋愛知らないだろうし、伝えるしか手が無いと思ったのが間違いだったかな・・・・」
パシャパシャと立つ水の音が、俺の耳をうるさいほどくすぐった。
異型でも綺麗だと思えるその身体。
水をゆったりと見つめる赤く毒々しい瞳が、淋しげに細められる。
嗚呼、本当に、お前は――――。
「ククッ・・・・」
見ていて、飽きない奴だ。
そう言えば、どういう意味だと怒るお前が安易に想像出来る。
でもその表情すら今は見たいと思う。
俺はおかしくなってしまったのだろうか。
・・・そんなの、とっくに気づいていたことか。
「キウイ」
「・・・へっ!?」
後ろから声を掛ければ、俺に驚いたキウイが1歩下がった。
「な、なんで・・・?」
「お前は俺のところに押しかけてくるくせに、俺が来るのはダメなのか?」
「そういうわけじゃないけどね!?き・・・嫌われてると、思っ・・・」
魔術で濡れた身体を一瞬で乾かし、服を着ようとするキウイを待ちきれず抱きしめる。
言葉の途中で抱きしめたせいか、更にキウイの動揺が強まったのを感じた。
腕の中にいるキウイが、強張っている。
どうすればいいか分からず、とりあえず俺はキウイの頭を撫でた。
「勝手にいなくなることを許した覚えはない」
行動も、言葉も分からなかった俺は、そう呟いて抱きしめる力を強めた。
傍から見ればなんて酷い奴だろうと思うだろう。
だが俺には、器用に言葉を選ぶことは出来ない。
しかも今まで経験することのなかった、必要とすら感じていなかった”恋愛”となれば、もっと。
「・・・あ、会いに行っていいの?」
不器用な俺の言葉に、キウイが目を輝かせて俺を見上げる。
一番近くに感じる彼女の瞳が、俺を狂わせていく。
「・・・・邪魔さえしなければな」
「ほんと?やった!!ピッコロ大好き!!!」
「ッ・・・・あぁ、俺もだ」
「やだなー、照れちゃ・・・・・」
――――しま、った。
「え、いま、な・・・・」
無意識だった。
普通に彼女から得られた甘い言葉に喜んだ自分がいて。
気づけば俺の口から返事が出ていた。
それを聞いたキウイの表情は、ピンク色の肌でも分かるほど赤く染まっていた。
「ほん、と?今の、本当・・・・?」
「・・・・・っ」
「どうしよ、すっごく嬉しい!死んじゃいそう・・・」
キウイの腕が俺の腰に回る。
別に否定するつもりはないが、全体的に負けた気がした俺は、キウイを一度離して目線が合うようにしゃがんだ。
急に近づいた俺の顔に、キウイが思わず身を引こうとする。
もちろん逃がすわけがないだろう?と。
ニヤリと笑って腕を引っ張り、俺の目の前にキウイの顔を固定させた。
「あ・・・・っ」
「どうした?顔が赤いぞ」
「~~~~っ・・・あ、当たり前でしょっ」
「喜んでいるようだから言っておくが・・・」
素直に「俺も嬉しい」と言えない俺を許してくれ。
なんて言わなくても、きっとこいつは分かっているだろう。
それにまた、口元がニヤけるのを感じる。
「魔族に愛されるということがどういうことか、分かっているのか?もう遅いぞ。泣いて逃げようが俺はお前を逃がさん。たとえお前を殺してでも・・・・俺はお前と共にいることを選ぶ」
狂気に満ちた言葉。
それでもキウイの表情は変わらず俺をうっとりとしたように見つめていた。
「いいよ、ずっとついていく。むしろピッコロが覚悟してよね?」
”魔人は、欲しいものは絶対に手に入れるんだから”
そう挑発的に笑う彼女に、俺もまた笑った。
なんて奇妙な話だろうか。
魔族が、魔人に、愛を教わるなど。
それがたとえ、歪んだ愛になったとしても
(闇に落ちるはずだった俺達が愛しあうそれは、きっと)
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