いらっしゃいませ!
名前変更所
流れる砂時計。
辺りを支配するは、緊張。
緑色の砂が流れるのをじっと見つめる魔人ブゥと、それを緊張の眼差しで見守るピッコロ。
魔人ブゥが待っているのは自分と戦う最強の戦士だ。
だがその戦士はまだ戦いの準備をしている。
・・・小さな、小さな戦士。
トランクスと悟天。
戦わせるにはまだ幼く。
命をかけさせるには、まだ儚く。
それでも、これしか世界を救う方法が無いのだと、ピッコロは唇を噛み締めた。
「・・・・」
いつまで魔人ブゥが待ってくれるかも分からない。
あの砂時計が落ちきるまでは待てと言ったが、待つ保証もない。
緊張で心臓が痛む。
そんなピッこの様子に気づいたキウイが、顔を上げて心配そうに表情を歪めた。
「・・・大丈夫?」
「・・・あぁ、大丈夫だ」
「私、離れた方がいい?」
「何故だ」
「・・・私も、魔人、だから。ピッコロに負担になる?」
ブゥと自分を見比べて悲しそうにするキウイを、ピッコロはゆっくりと撫でる。
愛おしむように、優しく。
「ならん。むしろお前は・・・俺の傍にいてくれ」
「うん。私もいたい!」
「・・・・フッ」
ピッコロの笑みを見て安心したのか、キウイも笑みを浮かべた。
それを見たピッコロは、のしかかっていた緊張が安らぐのを感じて微笑む。
タイムパトロール。
重要な使命を持った彼女が、いつも笑って、全てを知っても自分の傍にいることを喜んでくれることが嬉しくて。
ピッコロの心はいつの間にか彼女に捕まっていた。
―――ただ、ちょっと純粋すぎるのが気になるところか。
「ピッコロ」
「ん?」
「何をそわそわしてるの?もしかして、ブゥ、約束破る?」
「・・・さぁな。ただ、いつ気が変わるかは分からん。気が変わられても止められるわけでもないからな・・・」
ピッコロの力ではブゥを押さえこむことは出来ない。
それどころか、殺されてしまうのがオチだろう。
分かっているからこそ、何も出来ないのが悔しくなるのが本能。
ウロウロと動く感情にピッコロは苦笑を浮かべた。
「ピッコロ、気になるなら私が時間稼ぎしてあげるよ?」
「・・・・あぁ、必要になったら頼むかもしれん。だが」
戦闘はピッコロよりも彼女の方が強い。
そのつもりで、暴れだしたら止めてもらおうという言葉だったのだが、振り返ればもう彼女の姿は無かった。
「・・・・!?」
慌てて前を見れば、ブゥに向かって普通に歩いていくキウイの姿。
止めようにも、ブゥに近すぎて騒げない。
頭が痛むのを覚え、ふらふらと膝を折る。
馬鹿者が、と小さく呟いたと同時に、キウイの声が響いた。
「ねぇ、ブゥ」
「・・・・・」
ブゥがゆっくりと顔を上げる。
そのブゥにさえ、彼女は笑みを浮かべた。
とはいっても、魔人としてのほんの僅かな笑みだが。
ピッコロにとってはそんな笑みが、幸せの一つだった。
「ブゥ、暇だよね」
「・・・あぁ、暇だ」
「じゃあお話しよ!」
他の皆も心配になったのか、ブゥに話しかけたキウイを見守る。
ただその中でピッコロだけは、心配と同時に苛立ちを覚えていた。
「・・・俺と、話?」
「うん。私も魔人。お話、楽しいよ?」
「ほんとか?なら、しよう」
「やった!ありがとう!」
あの笑みを向けられるのは。
――――俺だけで良い。
そんなことを思っている暇はないというのに、モヤモヤしてしまう。
しかもキウイにやたら友好的な所が、更にピッコロの苛立ちを増やした。
「何を話すんだ?」
「うーん。じゃあ、ブゥの好きなお菓子教えて?」
「お菓子?」
「だって、いっぱい食べてた。好きなんだよね?お菓子」
「・・・あ、あぁ」
戸惑いがちに笑うブゥ。
急に優しくなった空気に、見守っていたクリリンが騒ぎ出した。
カサカサとブゥにバレないようピッコロの傍に寄り、耳打ちをする。
「(おいおいピッコロ、あれいけんじゃねぇの?)」
「(なんだ、いけるとは)」
「(いやだってあのブゥの表情見ろよ!)」
ピッコロの目に入ったブゥの見たことのない表情。
ちょっと照れたように、目を泳がせてキウイと喋っている。
確かに時間稼ぎには最高だ。
だが、イライラは収まらない。
「(・・・・約束の時間までだ)」
「(え!?なにいってんだよ!?時間は伸ばせるだけ伸ばした方が・・・・)」
「(駄目だ)」
「(な、なにピッコロいらついて・・・あ)」
「(!!)」
ブゥがキウイの手を引き寄せ、何やら唱えていた。
キウイが暴れていないところを見ると、危険なものではないようだが。
「これ・・・やる」
「いいの?」
「話、面白かったからだ」
「ほんと?・・・・嬉しいな」
キウイの手に置かれた、1本のバラ。
魔人にそういう感性があることに驚くのと同時に、ピッコロが我慢の限界を迎えた。
殺気立ちながら二人に近づこうとするのを、気づいたクリリンが必死に止める。
「(ま、まてってピッコロ!)」
「(は・・・はなせっ!!!!)」
「(お前がそんなんでどうするんだよ!?せっかくキウイが時間稼いでくれてんのに!)」
後ろが大変なことになっているとも知らず、キウイとブゥは会話を続けていた。
どんどんブゥの表情が柔らかくなり、キウイも慣れてきたのか普通に話を続ける。
「お前はなんのお菓子が好きだ?」
「私?私は・・・うーん」
「・・・思いつかないのか?」
「全部好き。でも、一番ケーキが好き」
キウイがそう言うと、ブゥは突然立ち上がって拳を握りしめた。
拳が向けられているのは神殿の床。
キウイの発言からか、瓦礫をケーキに変化させようとでもしたのだろう。
だが、ココを壊されると困るのはキウイも知っていること。
すぐにその拳の矛先を理解したキウイが、両手を広げて止めに入る。
「だ、だめ!」
「っ・・・!」
「ここ、壊されたら困る・・・お願い」
さすがに止めるわけがない。
そう思っていたピッコロ達の心を、ブゥはあっさりと覆してその手を止めた。
そして神殿の端っこまで歩き、キウイの方を振り返ってにっこりと笑う。
「待ってろ、いま作ってきてやる」
「う?うん・・?」
戸惑うキウイを置いて、魔人ブゥは下に降りていった。
「・・・・行っちゃったぞ?すげぇな、キウイ!!」
「え?そうかな、普通に話しただけ・・・」
キウイにとっては、ただ友達になるように話しただけ。
ただそれだけでも。ブゥが心を動かされたのは間違いなかった。
同じ種族だからか、それとも。
キウイの何かに惹かれたのか。
どちらにせよピッコロにとっては居ても立ってもいられない状態だったらしく、一人になったキウイにすぐさま飛びついた。
「キウイッ!!」
「うわっ!?」
「何もされなかったか?あいつに触られただろう、手を出せ」
「え?ピッコロ、な、何もされてな・・・いよ?」
「いいから出せ。俺以外の奴に触らせたままにしておくつもりか?」
二人きりの時ぐらいにしか言わないような言葉を、キウイの耳元で囁く。
その声にぴくっと反応したキウイに、ピッコロの表情が意地悪く歪んだ。
「ククッ・・・どうした・・・?」
「くすぐっ・・・たい・・・」
「・・・そういう表情は、俺だけに見せるようにするんだ」
「ん、分かってる」
そう言ってピッコロのマントを掴んだキウイは、舞空術でふわりとピッコロの頭に届く位置まで飛んだ。
何をするんだ?と見守っていたピッコロの耳元に、顔を近づける。
「ピッコロも、同じ。・・・私以外に、そんなことしちゃ、やだよ?」
「・・・・っ」
まさか、だった。
不意打ちの囁きを貰ったピッコロは、顔を真っ赤に染めて背を向ける。
後ろから聞こえる、キウイの満足そうな笑い声。
全てが終わったら色々と仕置きしてやろうと牙を向く彼を、キウイは知らない。
そして歴史通りに始まる、二人の少年とブゥの戦い。
(ただ違うのは、ピッコロがやたら殺気立っていることだけだった)
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