いらっしゃいませ!
名前変更所
ここはトキトキ都。
タイムパトロールの使命を受けた私達が暮らす、小さな町のような場所。
タイムパトロールで疲れた時は、いつもここで疲れを癒やす。
そしてここが唯一、過去の時間軸で出会った人間とも、同じ時間で過ごせる場所。
「ピッコロ」
「・・・なんだ。またお前か」
「私以外に誰がいる?ここは、トキトキ都だぞ?」
ピッコロたちと出会ってから、時々彼らはこの町に来てくれるようになった。
彼らの目的は私達に会うこともあるけど、どちらかといえばこの首都の設備や物がメインかもしれない。
分かってるけど嬉しかった。
基本、彼らとは同じ時間軸を歩めないから。
ここでこうやって過ごす時間が、私の一番大事な時間だった。
「今日はまた、何か本でも見に来た?」
「いや、違う。今日は修行だ」
「・・・そう。私としてくれる・・・のか?」
ちらりと上を見上げれば、ピッコロが意外そうな表情で私を見ている。
・・・なんだ。私じゃなくてトランクスと修行だったのかな?
不安になって目を伏せると、頭の上にぽんっと暖かい手が乗せられた。
「しょげるな」
「しょ、しょげてない!」
「ほう?そうか。じゃあ修行はいらんな?」
「・・・やだ。修行する!」
どこかへ行こうとしたピッコロのマントを思いっきり掴む。
それが思った以上の力だったせいか、ピッコロはその場に思いっきり尻もちをついた。
あ、なんか、やばそう。
ぴくぴくと震えるピッコロの肩を見て、あははと苦笑いを浮かべる。
「ご、ごめん」
「貴様・・・!!少しは加減しろと言ってるだろ!!」
「分からないんだもん」
「ったく・・・来い。加減の仕方を教えてやる」
「うん」
私の修行は力をつける修行じゃない。
魔人としての力の制御を行うための、精神統一や気の操作術の修行。
ピッコロは本当に教えるのが上手だ。
最初の頃は自分自身の力で周りを巻き込むほどだったのに、今ではある程度までは制御出来るようになった。
でも、もっと修行したい。
強くなりたいとか、うまくなりたいとかじゃなくて。
そう。
ピッコロが好きだから。
魔人が恋をするなんてありえるんだろうか。
言っても信じてもらえないだろう、きっと。
「・・・・あたっ!?」
「集中しろ」
「うう」
瞑想中に考え込んでいたのかばれたのか、頭を叩かれた。
その痛みですら、貴重な思い出に変わる。
・・・いつだろう。
このタイムパトロールが終わってしまうのは。
終わったらどうなるんだろう?
彼らの記憶から、私は消えるのかな。
消されたらきっと、この想いは叶わないんだ。
私は魔人。歴史の中で凶悪な敵として戦ったブゥと同じ。
「・・・・」
また気が乱れる。
それに気付かれないよう慌てて気を調節すれば、ピッコロの視線が逸れるのを感じた。
「(・・・・駄目だなぁ)」
この時間ぐらい楽しみたいのに。
集中が逸れて、ピッコロに悟られそうになる。
ああもう。
そんなことしてたら、修行止めさせられちゃうかもしれないのに。
無になるんだ。
何も考えず、気だけを集中させて・・・。
「キウイ」
「・・・・」
「やめるか?修行。ここのところ、お前の気の乱れはおかしい」
「・・・・いやだ」
むすっとしてピッコロを睨む。
原因が分かっているからこそ、八つ当たりしてしまいそうになった。
駄目だ、違う。
悪いのはピッコロじゃなく、私。
「・・・ごめん。集中する」
自分で自分を叱り、もう一度目を閉じた。
気を一定に保ち、座禅を組んでその場に浮く。
すると急にピッコロの気が目の前から消えた。
気になって目を開けるが、集中しないといけないという思いもあって薄目になる。
そんな中途半端な変顔を、目の前からピッコロが覗いていたことに気づいて目を見開いた。
「!!」
「・・・・なにしてるんだお前は」
「い、いや、集中しないといけないと思って、でも、お前の気が動いたから気になって、その」
「ククッ・・・それであの顔か?」
「む・・・・」
むかついて目を逸らす。
それでも笑い続けていたピッコロは、やがて笑うのを止めると、何故か私の頭を撫でた。
「・・・な、何、する」
次は別の意味で、顔を合わせられなくなる。
恥ずかしくて顔が暑くなっていくのが、わかるから。
「疲れてるんじゃないのか?」
「そん、なことない」
「・・・無理をするな。お前は俺達の未来のために、戦ってくれているんだろう?それは巻き込んだ俺達のせいでもある」
「・・・別に、巻き込まれたとは思ってない」
私は彼らの未来を知っている。
その未来からズレた未来が作られようとしているなら、戦うのは当然だ。
彼らからすれば、私は突然呼び出されて戦うことを使命された奴に見えるかもしれない。
でもそれでも良かった。私はピッコロと会えたから、幸せだった。
だから、迷惑だなんて思われるのは困る。
「私は、その」
「ん?」
「・・・・ピッコロの、未来が、救いたい。だから迷惑だなんて、思ってない」
精一杯の気持ちだった。
これ以上伝えたら、どうなるか分からない。
私は魔人だ。
そして同じ時間軸には歩めない存在。
いつか記憶が消されたりするなら、彼にとって私はただの魔人になる。
彼もまた、恋愛を必要としないナメック星人の一人。
希望なんて、ほぼ無いのだから。
気持ちを殺せば、この関係だけは崩さずにいられる。
「キウイ・・・」
「修行、するぞっ」
この曖昧な関係なら、私は幸せになれるんだ。
・・・悲しいけど、これしかない。
私は気合を入れ、もう一度目を閉じた。
なのにピッコロの手は、私の頭の上から退かない。
「・・・・ピ、ピッコロ?」
修行するとは言ったものの、この状態じゃ集中出来ない。
何度目かの瞑想を中止して目を開けた先には、何やら考えこんでいるピッコロの顔。
「どうした?」
心配になって顔を覗きこむ。
すると急に首元を掴まれ、抱き寄せられた。
――――え。
抱き寄せ、られた?
状況が理解しきれてない私は、緑色の肌に触れる自分のピンク色の手を見て冷静さを失う。
「ピ、ピッコロ、あの、なん、これは」
「フッ・・・お前もそのような慌て方をするのだな」
「か・・・からかうつもりか。私だって、女・・・だ。仕方ないっ」
今にも蒸気が吹き出してしまいそうで、自分の腕を必死に押さえた。
押さえてどうにかなるものじゃ、ないんだけど。
「・・・・怖かったんだ」
突然、ピッコロが呟いた。
「俺の、この中途半端な、自分でも理解できてない気持ちを伝えれば・・・・お前の邪魔をするだけだと」
どういう意味か、まだ私には分かっていなかった。
ピッコロは私を抱きしめたまま、膝を折って私に顔を近づける。
「時間軸の違うお前に、こんなことを思う俺は・・・自分勝手だと。いずれお前を苦しめることになると」
恥ずかしくて目をそらせば、ピッコロの指が私の顎をなぞった。
その指の感覚がくすぐったくて、思わずピッコロの方を向いてしまう。
「だが、俺はやはり”大魔王”なんでな。・・・自分のものに出来るものはしなければ気がすまんのだ」
「・・・ピッコロ」
「好きだ」
「・・・・え?あ・・・・え・・・・?」
理解が追いつかない。
分からなくて、思わず身を引こうとする。
だが身体は強くピッコロの長い腕に包まれており、逃げ出すことは出来なかった。
「お前がそんなことで悩んでいるなら、早く言うべきだった」
「なや・・・ピッコロ!心覗いたなっ!?」
「・・・すまん、だが、お前の様子が気になってな・・・・」
ついに抱きしめられ、ピッコロとの距離がゼロになる。
「俺は恋愛は分からん。だが、神の知識が、俺の気持ちは”恋愛”だと・・・言っている」
「・・・・ほん、とか?嘘じゃない?」
「嘘じゃない」
「でも、私は・・・他の人のように、可愛くない。それに、魔人だ。私は・・・」
「なら、俺も同じではないのか?俺も他の地球人やサイヤ人のような容姿はしておらん。この通りナメック星人だ。男女の区別もない」
それでも、私は、好きだ。
「俺も同じというだけだ」
「・・・・また心読んだ」
「お前が素直にハイと言わないからだ」
「む・・・・」
「返事を聞かせてもらおうか?」
返事。
もちろん、ハイと言いたかった。
でも・・・怖いのは、この後。
もしパトロールの全てが終わって、記憶が消されることになったりしたら。
「・・・・・」
私と、ピッコロはどうなる?
「心配するな」
「・・・・む」
また読まれた。
そう思って不満気に突き放そうとすれば、離すものかと力を強められる。
「俺はたとえ記憶を消されてもお前を見つける。同じ時間軸の、お前を」
「・・・う、ん」
「不満か?」
「いや、信じられないだけだ」
「・・・・ほう?」
「そ、そういう意味じゃない。ピッコロが、私を好きなんて・・・夢みたいだと、思ってしまっただけだ」
夢なのかと思ったりもした。
だけど、この温もりは本物で。
どうなるか分からない私の未来。
どうなるか決まっている、彼らの未来。
怖い。すごく。
でも私は、彼が。
「わ、私も」
「・・・ん?」
「好き」
「・・・あぁ」
ピッコロの表情は見えない。
ただ柔らかい声だけが、私の耳をくすぐる。
「・・・ずっと、一緒にいる」
「言われなくとも、もうこの時点でお前を離すつもりはない。逃げれると思うなよ?」
「む・・・それなら私も同じ」
やっと腕の力が弱まって、私はピッコロの顔を覗き込みながら笑った。
「私も、逃さないぞ?」
「・・・・お前がいうとシャレにならんな」
「む・・・・」
クスリ、と。
意地悪い顔でからかわれ、私はピッコロに背を向けて3度目の瞑想に入った。
知るもんか!と、しょげたフリをしてみせたのだが。
ピッコロは何を思ったか、座禅を組んだ私をそのまま後ろから抱きしめた。
「・・・・っ」
「どうした?瞑想するんだろう?」
「う・・・」
「気が乱れているぞ。集中しろ」
「・・・・うう」
耳元で囁かれる声。
知らない感覚が身体を襲い、思わず吐息が洩れる。
クツクツと、笑う声が聞こえて。
なんて意地悪いやつなんだって心の中で毒づく。
「でもそんな俺が好きなんだろう?」
「・・・急に調子にのるな」
「ほら、さっさと集中しろ」
集中出来ないのを知っていてそう言う彼を、私はぺしっと頭の髪の毛部分で殴った。
なんて厄介で心地の良い感情なんだろうか。
いつまで続くか分からない、それでも私は彼を。
「んっ」
「隙だらけだ」
「・・・無茶言う。瞑想中なのに・・・」
「瞑想中でも気を研ぎ澄ませていれば分かるだろう?」
「・・・・分かんない」
「なら、鍛えさせてやろう」
落ちてきた口づけと、降ってくる意地悪。
その心地よさに溺れながら、私はまた未来を歩む決意をした。
いつなくなるか分からない。
いつ消えるか分からない、この時間軸、この未来に震えながら。
それでもピッコロの存在を感じたくて。
私はもう一度、目をつむった。
「隙だらけだぞ」
(またそうやって彼は、私の瞑想を邪魔するのだ)
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