いらっしゃいませ!
名前変更所
人造人間17号と18号を吸収したセル。
その最強の力を示すため、そして楽しむため、開かれたセルゲーム。
一応この時代のことも知ってるけど、実際にこのゲームを見るのは初めてだ。
どんな改変が行われてしまうのか注意しつつ、ピッコロ達と共にセルゲームへと参加する。
・・・といっても、歴史のとおりに進めば彼らは参加しないんだっけか。
ここで戦うのは悟空と悟飯。もし凶悪化が起きたりすれば私も参加かな。
段々と厳しくなっていく歴史改変の渦に、ちょっとだけ冷や汗が流れる。
それを心配してか、隣に立っていたピッコロが私の頭を撫でてくれた。
「ん・・・」
「あまり力を入れすぎるなよ」
「・・・ありがと」
「・・・あぁ」
向けられる優しげな笑み。
私がこうやって彼と深い関係になってしまった時点で、歴史は変わってしまってるのかもしれないけど。
――――たとえ罪だとしても、私は、彼を。
なんて、そんなこと考えてたら次は頭を叩かれた。
ピンク色の髪に見立てた部分が、柔らかく揺れる。
「考えすぎるなと言っただろう。ベジータや悟空と違って、俺は別に将来誰かと共にしてるわけじゃない。・・・むしろ、お前と出会えたことは良い改変だ」
「・・・ったく、心読むの禁止だってば」
「お前はこうでもせんと、俺よりも深く考え始めるからな」
うわ、なんか馬鹿にされてる気分。
むかついてペシッと手を払えば、ピッコロが肩を揺らして笑った。
セルゲーム開催まで、ほんのあと僅か。
緊張で火照る身体を冷ます風が、心地いい。
「ふぁー、涼しいー」
「・・・緊張感ないやつめ」
「っさいなベジータ」
その風に乗って、セルの歩く音が聞こえてくる。
一目完全体とやらを見てやろうと崖から顔を出すと、歩いていたセルと目が合った。
機械とは思えないほど強い眼差し。
捉えられたように動けなくなる私を、セルもじっと見つめている。
怖いわけじゃないけど、機械とは思えないほどの人間味を感じてゾクリとした。
「やっぱ生で見ると違うねー」
「・・・・お前ほんと緊張感ねぇな」
「っさいなクリリン」
何度目だよこのツッコミ。
はいはい真面目にすればいいんでしょ?と言わんばかりに戻ろうとした私を、崖の下から大きな声が呼び止めた。
「待て!!」
誰だ、なんて聞かなくても分かる。
重く響く声。
セルの声。
無視する必要もないと感じ、私はもう一度しゃがみ込んで崖の下を覗いた。
「呼んだー?」
「あぁ、呼んだとも。降りてこい」
「ええ!?」
ちょっと、やだな。
なんか変なことになっちゃったら、また歴史を戻しにこないといけなくなるよ?
ここで私と戦えば、色々変わってしまう可能性がある。
戦うと決まったわけじゃないけど嫌な予感が消えなくて、私はその場で固まってしまった。
「どうした!早く来い。別に何かしようというわけじゃない」
「・・・・む」
「どうした?さっさと行って来い」
「ほわぁっ!?」
ガシッ!と首元を掴まれ、そのまま放り投げられる。
空中で何とか体勢を立て直すと、意地悪い笑みを浮かべたピッコロが崖傍に立っていた。
・・・・あいつだな、私を投げやがったの。
あとでぶん殴ってやると文句を込めながらセルの目の前に降りる。
「・・・なに?私は戦わないけど?」
「・・・・・い」
「え?」
聞き取れなくて、首を傾げた。
そんな私の肩にセルの大きな手が添えられ、ゆっくりとセルの顔が近づいてくる。
「・・・・美しい」
低い声が、そう囁く。
「・・・・はっ?????」
「私と共に来ないか、お嬢さん」
「え、いや」
「君のような美しい女性ほど、私の傍にふさわしい」
後ろでピッコロの気が膨れ上がったのを感じて、聞いた言葉が幻聴じゃないことを知った。
目の前で異常に目を輝かせてるこいつも、どうやら嘘を言ってるわけじゃないらしい。
なんでよりにもよって私なんだ。
セルゲームの舞台として作られた地面に映る私の顔は、どんな女性よりも醜い。
「・・・どうやら機械の目ってのはおかしいらしいね・・・・」
「そんなことはない。私の目に狂いはない」
「良いから離して?」
「まだセルゲーム開始までには時間がある。私と話でもいかがかな?」
私が人間味のある機械だと恐れていたのは、どうやら間違っていたようだ。
訂正しよう。こいつは強さを求める変態な紳士だ。
いつの間にかセルの手が私の腰に回されているのに気づき、その手を思いっきり叩く。
「セクハラしてんな!」
「ふふ、恥ずかしがっているのかね?またそんなところも可愛いではないか。ますます気に入ったぞ。お嬢さん、名前は?」
「・・・・答える必要ある?」
うざったくなって適当に答えた。
それなのにセルの表情は一切変わらない。
むしろ更に身体が密着してきて動きづらくなる。
むかついて思わず足蹴りするが、それでもセルは怒ること無く私に手を回したまま。
「~~~~っ!!分かった分かった!!キウイだ。キウイ!これでいいな?」
「キウイ・・・いい名前だ。さて、お前は私が一切見たことのない存在なのだが・・・一体何者だ?」
「ッ・・・!」
その質問に私は思わず気を強めた。
こいつ、私を油断させて情報を抜くつもりだったのか。
私はセルの細胞にも取り込まれてない、知らない未来の存在。
私が警戒したことに気づいたのか、セルの表情が少し変わる。
「何故そんな顔をするんだ」
「アンタやるね・・・私が知らない存在だから、データにないから、こうやって探るつもりだったの?」
「・・・・何の話だ?」
「・・・え?」
「そんなことなどどうでもいい。私はお前のことが知りたいだけなんだ。だが嫌なら聞くわけにもいかん・・・お前に嫌われたくはないからな」
調子が狂うのを感じた。
あと、強烈な目眩も。
「あ、あの・・・セル?」
「なんだ?」
名前を呼んだだけなのに、何故かものすごく輝いた目で見つめられる。
「離して欲しいんだけど・・・・?」
「そうはいかん。ピッコロの元へ戻ってしまうのだろう」
「解ってるならなおさら・・・」
「あんな緑のどこがいいのだ!!私のこの究極完全体が・・・・」
その言葉は最後まで続くこと無く、気づけばセルは吹き飛んでいた。
私の後ろに、ふわりと白いマントをはためかせてピッコロが降り立つ。
ああ、後ろを見なくても、ものすごく不機嫌なのが分かる。
殺気立った気をバシバシ浴びている私は、ヒクつきながら後ろを振り返った。
「あ、ありがと、ピッコロ」
「あんな野郎に触らせるな」
「いやでもあれは・・・・」
見上げた先にある不機嫌なピッコロの表情。
何か言えば皆の目の前でも関係なく何かされそうな気がして、私は言い訳を止めた。
なんで、こう、こいつらは私に執着するんだ。
いやピッコロは嬉しいけど。
考えてみれば私はただの魔人。異型の存在だ。
ここまで執着されるのが不思議でしょうがない。
「だから言っただろう。お前にはそれなりに魅力があると」
「うわ、ピッコロがそういうこと言うとなんか・・・・」
「・・・・」
「いだだだだだだっ!!!!!」
「おいピッコロ。可愛らしいキウイにそんなことをするな」
頭に乗せられたピッコロの手が、私にぐりぐりと力を加えてきた。
痛みに耐え切れず叫べば、それを助けるように起き上がったセルが私を引き寄せる。
―――――そして。
「なっ・・・・」
「ッ・・・・!?」
「おわー・・・何してんだセル」
「変なのにモテるなーキウイも」
凍った空気。
崖上で私達のことなど関係なく騒ぐ悟空たち。
いや、そんなのはもはやどうでもいい。
今この状態を、説明して欲しい。
なんで、私の目の前にセルの顔がある?
というより私の唇に今、何が触れた?
「・・・・・え?」
やっと私の身体が動いた時には、ピッコロの気が異常に膨れ上がった状態だった。
いまだ自分が何をされたか理解しきれてない状態で、ただセルがピッコロにボコられるのを見つめる。
「おおー、すげぇぞピッコロ!気が完全にセルを上回ってやがっぞ!」
「な、なんだと・・・あいつ、あんな力をどこに・・・!?」
「いやたぶん、キウイさんに手を出されたことで怒り狂ってるだけだと・・・・」
冷静な崖上メンバーの判断に、ようやく私の頭が追い付き始めた。
ああ、私、セルに口づけされたのか。
ピッコロを止めようかと思ったけど、頭が追いついてからはその必要も感じなくなって止めた。
「・・・ピッコロ」
「おお、止めてくれるのかキウイよ・・・がはっ!?」
「止める必要すら感じないんだけどね・・・?」
歴史がぐちゃぐちゃだよ、ある意味で。
ぐったりとうなだれる私に、戻ってきたピッコロの凶悪な笑みが映った。
「次は貴様の仕置きの番だ」
「・・・・え?」
今日何度、え?って言ったら気が済むんだろうってぐらい言ってるような気がする。
そんな呑気なことを考えていたら、私の視界はいつの間にか青色一色に染まっていた。
周りを見れば、すごい勢いで空を飛んでいるのが分かる。
ちょっと待った。セルゲームはどうなった!?
「待った!!セルゲームの方が先だ!!!」
「うるさいぞ。開催時間までまだ20分もあるだろう」
「いや先に行って様子を見るべきだって言ったのはピッコロだぞ!!」
「そんなの孫達がいれば十分だ」
「ええ!!??」
「それよりもお前を消毒するのが先だ」
「いや、待って・・・!!!!」
「さぁ、セルゲーム開催だ!!私が勝ったらキウイをもらうぞ!!」
(歴史の改変は起きなかったのか、それとも、改変する気も起きないぐらいにめちゃくちゃになってしまったのか・・・・もしくは、これが改変された世界なのか)
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