いらっしゃいませ!
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5.俺が忘れさせてやる
「はっ・・・ぁ、はっ・・・・」
息が苦しい。
脳裏に焼き付いた悪夢が、頭から離れようとしない。
ふらふらと移動を繰り返し、私は静かになった夜の街を歩いていた。
この辺も段々とゾンビが減ってきた。後は消滅を待つぐらいだろう。
「・・・・っけほっ、けほっ・・・・」
遥を連れ去った、二階堂という男。
ソイツとの決着はヤケに呆気なく、遥も無事に戻ってきた。
ただ、私の脳裏に、最悪の悪夢を残して。
二階堂がやられる寸前、D.Dという黒幕のゾンビ開発者によって二階堂が化け物に変えられた。
その光景は予想以上にグロテスクで、私の記憶に人生最大の恐怖を刻み込んだ。
ミレニアムタワーの天井を突き破るぐらい大きくなった身体。
傷つけても傷つけてもビクともしない表情。
むき出しの骨。肉体。叫び声。
「・・・・っ」
でも、二階堂とD.Dが倒れてくれたおかげで、この街にも徐々に平和が訪れ始めていた。
ゾンビの数も減り始め、後は自衛隊がこの周りを一層してくれれば、私達も街の外に逃げられる。
それまでは普通に、今までと同じ避難生活を続ければいい。
そう思っていたのだが、私の身体はそうもいかなかった。
あの地獄図の影響をもろに受け、眠ることが出来ないのだ。
眠ろうとすればあの光景がよみがえり、寝付けなくなってしまう。
「なっさけねぇ・・・・」
ゾンビが少なくなった町の中で、自分自身のアジトを見つけて扉を開けた。
扉が扉としてでなく、隠し扉のような作りになっている私のアジトは、どうやらゾンビに見つからなかったらしい。
中はいつも通り閑散とした部屋のままで、その光景に私はほっと胸を撫で下ろした。
何事もなかったかのような、以前と同じこの部屋。
すぐさま自分のベッドに向かった私は、久しぶりに味わう睡魔にすっと目を閉じた。
(しまった・・・・)
意識が目覚める感覚。
久しぶりに感じた安心感に、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆっくりと目を開け、時間を確認する。
桐生や秋山達に何も言わずに出てきてしまったんだ。あまり長く寝ては・・・・。
「目が覚めたか?」
「んあっ!?」
突然聞こえた、聞き慣れた声。
反射的に拳を構えた私は、後ろの声の主に腰を抱かれてバランスを崩した。
そのまま、勢いよくベッドに倒れ込む。
何でこいつがいるんだ?いや、何で私がここに居るって分かったんだ?
私がパニックになっているのが分かっているのか、声の主―――桐生が、私を見て笑う。
「なんだ?そんなに驚くことじゃねぇだろ」
「お、驚、驚くだろ!?なんでお前がここにいるんだよ!?」
「お前が何も言わずに外に出ていくからだろ。外はまだ真っ暗だ・・・もう少しここにいろ」
「っぐあ!!分かった!分かったから引きずり込むなっつうの!!」
腰に巻きついてくる桐生の手を叩き、自分からベッドに潜りこんだ。
それでも桐生は再度私の腰に手を回し、ぎゅっと力強く抱きしめてくる。
背中から、抱き枕のように抱きかかえられてる感じ。
耳元を擽る桐生の吐息に、思わず身体が跳ねかけた。
逃げようともしたが、桐生の力から逃れられるはずもない。
「ちょ、ちょっと、待てっ・・・離せ・・・!」
「・・・ダメだ」
「なんでだよ!苦しい!」
「お前は・・・秋山には甘えられて、俺には甘えられねぇっていうのか?」
「・・・・うあっ!!」
ちょっと待て。どうしてその話をこいつが知ってるんだ。
さては秋山、本当に桐生に言いつけやがったんだな!?
“次に無茶したら桐生さんに言いつけるからね?”と。
私があの時、秋山の前で泣いてる最中に、秋山が言っていたような気がする。
いやでも、本当に言わなくたっていいじゃねぇか。
後ろを振り返らなくても分かる不機嫌オーラに、私はヒクッと顔を引き攣らせた。
「い、いや、それは・・・だな、桐生・・・」
「あけ」
「・・・は、ぁっ・・・ば、か、何やっ・・・んん!!」
「素直にさせてやるよ。お前には一番、“これ”が効くだろ?」
「ん、違う、んだ・・・っく・・・」
腰の周辺を、わざと焦らすように動く指。
くすぐったくて逃げたいのに、桐生の手によって逃げることが出来ない。
だけど凄く、この温もりが心地よかった。
回される腕の温もりが。耳元に掛かる息が、声が。
意地悪く囁かれる、言葉が。
「・・・ふ、可愛い声だな」
「桐生・・・」
「どうした?恥ずかしいならこのままでいてやるから、きちんと俺にも甘えろ」
後ろ側から聞こえてくる声。
桐生が私の首元に顔を埋めるのを感じて、私はまた自然と声を上げていた。
でもこれなら、桐生に顔を見られることはない。
桐生も私が顔を見られたら恥ずかしいってことを分かっているのだろう。
どうせ言わなきゃ、離してくれない。
・・・なら秋山の言うとおり、思いっきり甘えてみるのも良いかもな、なんて。
「桐生」
「・・・ん?」
「怖かった」
「・・・・」
「・・・・怖かったんだ、あの戦い。全てが。あんな化け物の存在も、あれを作り出したD.Dの野郎も、お前がそれに挑んでいくのも・・・全部・・・・」
もしかしたら、もう二度とこの温もりを味わえなかったかもしれない。
それを恐怖と感じない人は、大切な者がいる限り、居ないだろう。
微かに震える手を握りしめ、私は腰に回されている桐生の手に触れた。
優しく、熱いぐらいの温もりが、私の心を落ち着かせてくれる。
ゆっくりと絡ませてくる指が愛おしくて、少し強めに桐生の手を握りかえした。
「桐生・・・・」
「俺が・・・何も恐れずに、あんな化け物に立ち向かったと思ってんのか?」
「・・・え?」
「俺にだって怖いものはある。痛みだって感じる。でもそれをなくしてくれてるのは・・・・お前だ、あけ」
首筋に生暖かい感触が走り、同時にちゅっといやらしい音が響く。
思わず漏れかけた甘い声を抑えれば、後ろで桐生がクスクスと笑った。
「だからお前の恐怖も、痛みも、代わりに俺が忘れさせてやるよ」
「・・・・桐生」
「こうやって・・・ゆっくりと、な」
「っ・・・あ・・・!」
耳に這う、甘い痺れ。
腰から服の中に忍び込んでくる、桐生の暖かい手。
逃げようとしても、桐生の足が私の足を絡め取っていて動けない。
「ちょ、っと・・・!?待て!こんなことをしていいとは誰も言ってな・・・あ、ぁっ・・・!」
「良いから黙って抱かれてろ。俺が忘れさせてやる」
「おいこら!!そういうのはいらなっ・・・ん~~~・・・!!!」
好き勝手に触れられる感覚に身を委ねながら、私は諦めて抵抗するのを止めた。
下手すると明日は立てないな・・・なんて、ヤケに冷静に考えながら。
桐生が私のことを考えてくれてる、という真実が嬉しかった。
甘えさせてくれた優しさも、言葉も、全部。
――――なのに。
「ふざけんな」
「そう怒るんじゃねぇよ。忘れられただろ?」
「ほんっと雰囲気台無しだよお前。ふざけんな馬鹿。近づくな馬鹿!!」
ゾンビ騒動から数週間。
“そういう事”をしていなかった桐生は、容赦なく私の身体を貪った。
それはもう、私を気遣う余裕すらないぐらいに。
痛む腰を引きずりながら花屋に戻った私を、ニヤけた表情の秋山が出迎える。
「あれ?おかえり、あけちゃん。・・・・遅かったねぇ?」
「・・・・おい秋山。ちょっとこっち来いよ」
元はといえば、秋山が桐生に余計なことを言ったからだ。
怒りをぶつける為に伸ばした手は、ひょいっと舞うように避けられる。
・・・・・こいつ!!!!
「秋山~~~~~~!!!!」
「おわっ!?ちょっと!危ないって!疲れて帰ってきたんじゃないの?そんなに動いちゃ腰が・・・うわ!?」
「うるせぇ!!一発蹴り入れてやる!!!」
「照れるあけちゃんも可愛・・・って待った待った!!ストップ!!」
「死ね!!!!」
こんな人たちに支えられて、私はまた一つ強くなる。
(そして次は返してやるんだ。彼らが困ったりした時に、な)
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