いらっしゃいませ!
名前変更所
朝学校に行くと、遠くから聞こえてくる黄色い歓声。
ああ、アイツが来たんだなって思うには十分な合図。
あんなナルシストのどこがいいんだか。
あほらしいと舌打ちすれば、隣の男子が苦笑いを零した。
「そうピリピリすんなよ、りん」
「だってうるさくてしょうがないんだもん・・・。朝ぐらい、朝礼まで寝させてっての・・・」
「お前なぁ・・・」
あー、めんどくさいめんどくさい。
そろそろ跡部がこの教室の前を通るのだろうか?
一気に騒がしくなった教室を見渡しながら、私はもう一度深いため息を吐いた。
キャンディ
「きゃぁあああ!!跡部様ー!!!」
「跡部様、おはようございますー!!!」
「あぁ・・・おはよう」
「「「きゃあぁあぁあああー!!!」」」
何だよこの歓声は。
跡部がちょっとこっちを向いて、挨拶しただけじゃないか。
こっちを向いて・・・ん?
「お、おい。お前見られてねぇか?やべぇんじゃねぇの?」
「んぁ?いいんじゃない?私結構テニス部関係でアイツとは喧嘩してるし」
「跡部と喧嘩!?お前なんか凄い事してんなぁ・・・・」
「そうでもないでしょ。いちいち女子テニス部にケチつけてくんのがうるっさくてしょうがない」
「おい、てめぇ」
「お、おい、りん」
「ん?」
「絶対あれ、お前のこと呼んでるぜ?」
寝ぼけた目で跡部の方を見ると、取り巻きの人たちの目線も全て私に集まっていた。
さすがの私も居心地の悪さに寝るのを止め、机から頭を起こす。
超絶不機嫌な顔で跡部を睨み返せば、跡部が楽しそうにニヤリと笑った。
とびっきり嫌な予感がして、見なかったことにしようとするが既に遅く。
跡部は悲鳴を上げる女子達を押しのけて廊下の窓から教室に入ると、私の目の前に立って頬をつまんだ。
「っ!?いひなひにゃにする!!!」
「てめぇ、昨日俺様が直々に勝負してやるっつってたのにどこ行きやがったんだ?アーン??」
「昨日は用事があったって言ってんでしょ!!大体、1回負けたぐらいでムキになりす・・・いだだだだっ!!!」
最近跡部がうざい理由。
その理由が、まさにこれ。
今までも何度かテニス部の部長同士で戦うというのがあり、勝負はしてきたのだが、この前私が初めて跡部に勝ってしまい。
そう、勝ってしまった。
それが問題だったわけだ。
「お前が俺に勝つなんざ、100年早いって分からせてやらないと気が済まねぇ」
「意味わかんないよ。負けは負けじゃん?いだっ!!いちいち負けって言ったら踏むのやめてくれない!?」
「ハン。良いから俺ともう一度勝負しろ」
「嫌だって。次また先生に言われたら試合でいいじゃん?何度も何度もやってらんないっての」
理由は、めんどくさいだけ。
跡部のプレイスタイルはいつも身体をボロボロにさせられるから、あまりやりたくないのだ。
相手を追い詰めるテニス。
インサイトで弱点を見抜き、じわじわと甚振っていく。
正直、めんどくさい。
うん、めんどくさい。
「今日の16時、コートに来い」
「嫌です」
「アーン?お前、誰に向かって・・・」
「跡部景吾様に向かって言ってるんだけど?」
「・・・・」
「・・・・」
お、おい、そろそろやめろよ、と。
後ろから怯える男子の声が聞こえるが、私は一切怯むことなく跡部を睨みつけた。
別にそんなに怯える必要もないだろう。
跡部といえど、人間だ。
「ハッ・・・」
「・・・何よ」
「16時ジャストにきちんとコートへ来てたら、勝敗関係なくケーキを奢ってやるよ」
「ほんと!?行く!!!!」
「ええ!?」
ちくしょう。
無意識にケーキにつられ、結局16時・・・コートに来てしまった。
奴に甘いものが好きだとばれてから、何か良いようにつられてるような気がする。
渋々コートに歩いてくる私を見つけた跡部が、こらえきれない笑みを浮かべて私を手招いた。
ああ、ハラたつ。
ここで帰ってやろうかって思うけど、だけど私にはケーキが・・・!!!
「随分素直に来たじゃねぇの。ほら、さっさと向こうに入れ」
「ケーキのために来ました」
「・・・いいからさっさと入りやがれ」
「はいはいー!手加減してよねー」
「するわけねぇだろうが」
「いきなり打つなー!!!!」
コートに入った瞬間サーブを打たれ、私は慌ててボールを追いかけた。
何とか届いたラケットを横に滑らせ、勢いを殺してネット際に打つ。
もちろん、跡部もそれを分かっていて打ち返してくるのだが。
続くラリー。
切れていくスタミナ。
私が根を上げるまで、そう時間は掛からなかった。
「あのー、跡部さん」
「なんだ?」
「疲れた」
「は?」
「疲れた・・・休んでいい?」
「てめぇ・・・なめてんのか?」
「いだだっ!!いやだってさ!!アンタが持久戦に持ち込むせいで体力もたないんだもん!!」
「鍛えてやってるんだろうが。感謝しやがれ」
・・・これだから、跡部は恨めない。
普段はめんどくさいから嫌いだけど、こういう時になると真面目に人のことを考えてくれてるってのが分かるからむかつく。
絶対ありがとう、とは言ってやらないけど。
跡部のおかげで最近持久力がついてきたのは、目に見えて分かっていることだった。
「とりあえず、休ませて・・・!」
「しょうがねぇな・・・5分だ」
「ありがと!!」
笑顔でお礼を言い、そそくさと水分補給に向かう。
自分で作っておいたドリンクに口を付けながら、鞄の中をゴソゴソと漁った。
確か小さなポケットに、キャンディを入れておいたはず。
甘いもの好きな私にとって、甘いものはドリンク以上の癒し。
早速イチゴキャンディを見つけて封を開き、口の中に放り込む。
すると、それを見ていた跡部が、私の方に近づいてきて小さく笑った。
「ほんっとお前は甘いものが好きだな。飽きねぇのか?」
「んー?飽きないよ。はー!癒し!幸せー!」
「そんなにうまいのか?」
「・・・食べてみる?」
跡部ほどになると、イチゴキャンディなんて食べたことなさそうだよね。
そう思いながら鞄を開けるが、目当ての物が見つからず、アチャーと声を上げる。
「あー・・・ごめん。今切らしちゃったみたい。明日持ってくるね!」
「いや、いい」
「ん?何?やっぱこういうのは嫌「お前のをもらう」
「・・・へっ?」
気づいたら、もうそれは既に起きていた。
後頭部をがっしりと押さえつけられ、逃げられない状態で唇を貪られる。
入ってきた舌に、抵抗することすら出来ない。
跡部は器用に私の舌を絡め取ると、その中からキャンディ奪い取った。
イチゴの甘い香りが、跡部の温もりと共に私の口から消えていく。
「っ・・・は、ぁ・・・・な、なに、し・・・て・・・」
「アーン?なんだ?初めてだったのか?」
「・・・ふ」
「・・・ん?」
「・・・・ふ、ふざけんなっ!!初めてだよ!!悪いか!?何してくれてんのよアンタ!!!」
ブチ切れて睨み上げれば、跡部は余裕の表情で私を見下していた。
なんだこれは。
新手のいじめなのか?そうなのか?
ついに歯向い続ける私に痺れを切らしたのか?
いや、まて。嫌がらせのレベルは超えている。
訴えたら勝てるぞ!!
「なんでお前はそういう考えしか浮かばねぇんだよ」
「いや、だってそうでしょ?嫌がらせ以外の何が・・・!」
「お前に興味があるとは、前から言ってたはずだぜ?・・・そんな男の前で、隙だらけのてめぇが悪いんだろうが」
「いやいやいやいや!!良くわかんない!え、興味あるって、は?私に?殺意的な意味じゃなくて??」
「・・・もう一度分からせた方が良いみてぇだな」
「あ、いや、ちょ、もう遠慮しま―――」
初めてだったのに、ファーストだったのに、2回も。
咄嗟の判断で突き飛ばそうとするが、跡部が私を抱きしめていて引きはがすことが出来ない。
「っ・・・・も、やめ・・・」
「はっ・・・そんな顔も出来るのか。可愛いじゃねーの」
「・・・・!何言って・・・!!大体、な、なんで、こんなこと・・・!!」
「おら、戻るぞ。俺様に勝てたら、お前の疑問に全部答えてやる」
「言ったからね!?よっしゃ!試合に戻るよ!!試合!!!」
意味深な笑みを浮かべて歩く跡部の後を追いながら、私は必死に跡部に勝つことだけを考えてラケットを握った。
結局、跡部がわざと負けて、真実を伝えるまで後――――。
(「好きだ」「へ、や、いや、そん、え?」「・・・フッ。少しは落ち着けよ」)
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