いらっしゃいませ!
名前変更所
バレンタインデー。
2月14日になると、ここ氷帝テニス部は大変なことになる。
特に女子でありながら男子テニス部にお邪魔することの多い私は、この日が一番危険わけで。
特にイベントに興味も無いから、お世話になってるレギュラーメンバーにだけチョコをあげてここにいるってわけだ。
そしてそんな私の目の前には、テニスラケットを持った樺地。
ま、私にはお似合いの、テニス漬けバレンタインデーって感じかな?
「じゃあ、もう1球お願い!」
「ウス」
「よーし。次こそ取ってやるからねー!」
甘さゼロバレンタイン
校舎裏の古いテニスコートに、打ち合いをする音が響く。
バレンタインデーまで真面目に練習かよって馬鹿にされそうだけど、私にはこれが一番合っているのだ。
料理をするより、こうやって動いている方が好き。
樺地が放ったスマッシュを目で捉え、瞬時に勢いを殺して弾き返す。
やっぱり楽しい。
こうやってテニスを練習していることが、何よりも。
「そぉら!」
「・・・!」
「ほ!!」
樺地のスマッシュは、本当に強い。
というか、全部が強い。力も、そしてあのコピー能力も。
だからいつも私は樺地を誘い、この静かな場所で練習しているのだ。
跡部に内緒で練習するには最高の場所。そして最高の相手。
宙返りしながら樺地のボールを返した私は、上がりかけた息を整える。
「はぁっ・・・はぁっ・・・まだまだ!」
「ウス!」
「っは!!」
樺地との戦いは、自分との戦いとほぼ変わらない。
自分自身の力に樺地の力が追加された状態のこの勝負。
最高の練習だけど、体力の無い私にとってはバテやすい練習の一つ。
何度かラリーを続けた後、樺地のスマッシュを取り逃がした私は、その場に蹲って息を吐いた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ひー、少し休憩させてー!」
「ウス。・・・お水・・・どうぞ・・・」
「ごめんね、樺地。いっつも練習付き合わせちゃって・・・」
「いえ・・・俺も、練習に・・・なります・・・・」
「ほんと?そういってもらえると、すごく嬉しいな」
ラリーを続けていた手が、ぷるぷると震えている。
やっぱり樺地の打球は強力だ。
これに長く耐えられるようにならないと、まだまだミクスドとしては使えない。
私はあの跡部に選ばれた、ミクスドのパートナー。
俺様ナルシストぶりに反抗はするけど、あの部長さんに選ばれたんだ。それなりに努力はしたい。
「あ、樺地」
「ウス」
「いっつもお世話になってるから、樺地にも用意したんだ!」
「??」
休憩中にチョコレートのことを思い出した私は、急いで鞄を取りに戻った。
中から小さな包装箱を取り出し、それを樺地に投げ渡す。
これで跡部以外のメンバーには渡したかな?
一応跡部分も準備してはいるけど、いらなさそうっていう理由でまだ渡していない。
あれだけモテるんだもん。もらったら増えるだけ邪魔なんじゃないかなって。
「ハッピーバレンタイン、樺地!いっつもありがとね!」
「ありがとう・・・・ございます」
「あんまり美味しくないかもしれないけど、お茶菓子にでもなれば!」
「・・・手作り、なんですか・・・?」
「うん!・・・あ、さ、さすがに毒みたいなのは混じってないから、うん」
「・・・嬉しいです」
「よかったー!」
樺地は表情じゃ何考えてるか分からないから、言葉にされるだけで安心できた。
今回のチョコレートは英二と一緒に作った、特製のビターチョコレート。
私一人だけで作ったものなら不安だけど、料理得意な英二がついててくれたから大丈夫。
私も作った後、味見にしたしね。
さてと、休憩も終わったし・・・もう1ラリーぐらい付き合ってもらおうかなって思って立ち上がったその時。
「こんな日までここでテニスの練習ってのは、お前らしいじゃねーの」
後ろから聞きなれた声が聞こえ、思わず振り返る。
「っ!?あ、跡部?」
「ほんっと、色気も何もねぇやつだな。アーン?」
「・・・うっさいな。アンタはモテモテでさぞかし気分が良い1日でしょーねー!」
取り巻きに雌猫発言しちゃう男より、私の方が断然まともだっての。
そう心の中で暴言を吐きつつ、再びラケットを握りしめた。
先ほどまで震えていた手は、グリップを握れるまで回復している。
これならもう1ラリー、続けられそうだ。
早速樺地に練習相手を頼もうと立ち上がれば、跡部が意地悪い笑みを浮かべて樺地からラケットを奪い取っている光景が目に入った。
そして今まで樺地が立っていた場所に、跡部が立つ。
「・・・へ?」
「俺様が相手してやるよ!」
「うわ、いつもは頼んだって勝負してくれないのに?何企んでるのかねー?」
「簡単だ。俺が勝ったらその鞄の中にあるチョコ・・・もらうぜ?」
「・・・・っ!アンタもういらないでしょー!?いっぱい貰ってるの見たんだから!」
「あぁ?俺が欲しいって言ってんだ。大人しくよこせよ」
「なーにその俺様思考!んにゃろー!絶対勝ってやる!!」
挑発に乗せられてる感はあったが、悔しいから受けて立つことにした。
勝負は1セット。サーブ権は私。
上手くいけば勝てると、そう思って居た私の心を、跡部は一瞬で粉々に打ち砕いた。
おかしい。明らかに、おかしい。
いつもなら持久戦に持ち込まれて甚振られるから、それに対処できるように色々と練習してきたのに。
今の跡部のプレイは―――本気だ。
「え、ちょ、ちょっと!何本気だしてんの!!」
「うるせぇ・・・・おらよ!!」
「そぉーいっ!!」
「甘いな!!」
「っ・・・・!!」
いつも10分以上は持つのに、今回は5分も経たずに決着をつけられてしまった。
やたら跡部の機嫌が悪いように見えるし、私何かしたっけな?
そう思いながらチョコを取りに行った私の背後を、跡部がぴったりとつけてくる。
「なーに?そんなに近づかなくても、逃げたりはしないよ?」
「・・・そうじゃねぇよ。お前、どうして今日俺に渡そうとしなかった」
「え?だってさ・・・他の子からいっぱい貰ってる・・・じゃん?」
「俺の言った言葉・・・忘れたか?」
鞄に伸ばしかけていた手が、グイッと強い力で跡部に引っ張られた。
そのまま跡部の腕の中に抱きしめられ、耳元で囁かれる。
「俺は他の女には興味ねぇ・・・興味があるのは、お前だけだって言っただろ?忘れたとは言わせねぇぞ。アーン?」
「・・・・雌猫呼ばわりするような男の人なんて信じられませーんっだ」
「ハッ・・・嫉妬か?」
「・・・・っ、んなわけないでしょ!!あーもう!!ほらあげる!!ハッピーバレンタイン!」
スカした態度が気に食わなくて、私は跡部を振り払うと、勢いよく持っていたチョコレートを投げつけた。
跡部はそれを余裕の表情で受け取り、少し優しい表情で微笑む。
――――それはもう、むかつくぐらい綺麗な笑顔で。
あまり見たことの無かった跡部のその表情に、何故か顔が熱くなるのを感じた。
いやいや、待つんだ。意識したら負け・・・意識したら負け・・・。
大体私はコイツの女になった覚えはないし。
気に入られたなんて、どうせ口先だけかもしれないし。
「おい、顔が真っ赤だぜ?」
「!?そ、そんなことない!!」
「・・・アーン?」
「っ・・・あ、ちょっと、近づくなって・・・・!!」
見透かしたような青い目が、私の表情を映し出す。
なんで私、こんな奴に気に入られたんだろうか。
最初は「こんな俺様ナルシスト!!」って思ってたのに、今では若干、雰囲気に呑まれてきちゃってるしさ。
一緒にテニスするようになって、知ってしまったからかもしれない。
彼は彼なりに、威厳を保つための努力をしているってことを。
そして知ってしまった私は、もう、逃げられないのかもしれない。
「帰るぞ、りん」
「は?どこに?」
「俺様の家だ」
「・・・・え、なんで私が?」
「あぁ?最近練習ばっかりでまともな時間に帰ってねぇだろお前。良いから来い。ディナーぐらい食わせてやるよ」
「はい!?ま、待って!また英二に心配されちゃ・・・!!」
「おい樺地。こいつを担げ」
「ウス」
「待ってぇえぇええ!!!」
いつまでもそうやって俺様でいてよ、なんて。死んでも言ってあげないけど。
(この微妙な関係が心地良く感じるなんて、やっぱり私・・・・)
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