いらっしゃいませ!
名前変更所
桂馬の情報を探っていたのは、正直偶然だった。
黒川に色々と情報を聞いたときに、決まった人しか入れないようなお店は教えてもらっていたのだが・・・それが幸いしたようだ。
でも、入れないのには変わりない。
とりあえず私は、この少し治安が悪そうな場所で情報探しをすることにした。
こういうところにこそ情報は転がってる。だから二人には違う場所を探ってもらったのだ。
情報を聞き出すにはコツがいる。
揺さぶったり、お金をチラつかせたり、他の情報をチラつかせたり。
ただ殴ったり蹴ったりして脅せば手に入る、なんて世界じゃない。
久々に腕が鳴ると、私はニヤつきながら裏路地の方へ曲がった。
「おーおー・・・」
裏路地を曲がると見えてくる、治安の悪さ。
ガラの悪い連中が煙草を吸いながら私の方を見て、クスッと馬鹿にするような笑みを浮かべた。
こんなところに女が来やがって、なんて思ってるんだろう。
大体こんなところに来る女は、ロクな奴じゃねぇだろうからな。
誰かに頼まれて来てるか、誰かの女か。もしくは何も知らずに入り込んだ馬鹿か。
どちらにせよ、ここにたむろってる奴らからすれば、私は侵入者。
ナワバリへ土足で入ってきた、馬鹿な女なのだ。
「おいおいお嬢ちゃん。どうしたんや?こんなところに」
ほら、な。
思った通り、たむろってた男達は一斉に私の方を向いた。
だが、屈しない。
一切怯える様子など見せず、私もその男達の方を向く。
「な・・・・」
なぁ、と。いつも通りに話しかけようとしてふと止まった。
私の頭の中で、色んな考えが浮かび上がる。
ざっと見て、ここでたむろっていた人数は予想より多い。
なら、そのまま喧嘩腰になるよりも。
「ねぇ・・・困っていることがあるの。・・・たすけて、くれない?」
――――演技で、騙す。
「ん?どうしたんだ、お嬢ちゃん。困ったことって?」
「俺たちで良ければ、助けたるわ」
「本当?ありがとう・・・・」
大人しく目を潤ませ、いかにも弱い女の皮を被った私。
顔をあまり見せないようにしながら、行動で男達を惹きつける。
そこは、キャバ嬢を演じていた私ならお手の物。
無意識に、ふと目に付く程度に、いやらしく、誘うように。
髪をかき上げてみたり、話し方のトーンを大人っぽくしてみたり、自然に胸元のボタンを開けてみたり。
思惑通り、男達の殺気があっという間に引いていく。
ほんと、馬鹿な奴らだ。
「ねぇ、桂馬ってお店、貴方達なら分かるでしょ?」
「・・・あぁ。それがどうしたんだ?」
「あのお店にどうしても用があるの。あのお店に入るためのモノ・・・くれない?」
「なるほど・・・・。いいぜ。お嬢ちゃんがそれなりのものをくれるならな」
・・・無駄に時間が掛かりそうだな。
情報を出すことに関してあまり躊躇しなかった様子からして、きっと私が代価を払っても、こいつらは教える気が無い。
でも、知ってる可能性は捨てられない。
ここで騒ぎを起こしてしまえば、ここの近くの人間も警戒して情報を吐かなくなるだろう。
どうすれば、いい。
悩みながらポケットに手に入れた私は、ふと触れたものに笑顔が浮かぶのを感じた。
そうだ、薬だ。
今日は強力なものを持ってきてる―――これなら。
「”イイモノ”くれてやるよ」
皆がいい感じに私の周りに集まった瞬間、私は小さな瓶をポケットから落とし、足で割った。
ツンと鼻奥を刺激する匂いが辺りに漂う。
それに気づいても、最初はどうにもならない。
私を囲んだ男たちも馬鹿にするような目で私を見ている。
「・・・なんだ?今のがいいものか?」
「・・・・あぁ」
神経を蝕む、シンナーに似た香りのする薬。
ま、ただの刺激臭だ。
・・・ただ、嗅ぎ慣れない人間にとっては激痛を伴うけどな。
「うぐっ・・・けほっ!げほっ!!な、なんだ・・・!?」
十分に薬を嗅いだ連中が、次々と地面に膝をつき始めた。
強く咳き込む彼らの姿を見て、手前に転がっていた男の腹部を蹴りあげる。
「がふっ!!」
「さぁ・・・吐いてもらおうか?モノ、もってんのか?」
「て、てめぇ・・・」
「いいコトしたいなら、ちゃんとモノ持ってなきゃだめだろ?持ってるのか?・・・持ってれば約束は果たすが?」
畳み掛けるように質問すれば、案の定男たちは黙り込んだ。
ったく、無駄に時間使わせやがって。
苛立ち紛れにもう一度男の腹部を蹴り上げれば、薬の効果が薄かった奴らから悲鳴を上げて逃げていった。
なんだよ。本当に誰も知らなかったのか。
「ちぇっ・・・つまんねぇの」
これがビンゴだったら楽だったのに。
そう思いながら手帳を取り出した私の肩を、誰かが叩いた。
咄嗟に肘打ちを決めようとするが、それは軽々と受け止められ。
挙句、右手を捕まれ自由を奪われた。
こいつ、さっきの奴らの仲間じゃない。
直感的にそう思った私は咄嗟に振り返り―――目があった人物を見て、固まった。
「な・・・・!!!」
「こないなところで会うとはのぉ」
「りゅ、龍司・・・・!」
な、なんでこんなところに。
いや、彼からすれば、戦いの準備もせずこっちにいる私達のほうが不思議なのか。
手を離そうとしない龍司に、思わず息を呑む。
私じゃこいつには勝てない。
もしここで私が捕まったりしたら、桐生たちに迷惑が掛かる。
「・・何の、用だ」
冷静な判断が出来る内に、こいつの目的を聞いておかねば。
出来るだけ動揺を悟られないように聞いたが、龍司にはあまり通用していないらしい。
龍司は私の動揺を見透かしたように笑うと、やっと私の手を離した。
「別に何もないで。言うたやろうが、今は休戦や」
「・・・・」
「その顔は信じとらんな」
「信じれるわけねぇだろ、敵なのに」
「休戦の時ぐらい敵っちゅうのはやめろや」
「・・・・」
ほんと、何考えてるんだこいつは。
龍司の考えが読めなくて固まっていたら、龍司が優しく私の頭を叩いた。
「お、おいこら!!何するんだっ」
「なんや。落ち着きが無いから落ち着かせてやろうとやな・・・」
「~~~子供扱いかっ!」
頭に乗せられた手をぺしっと叩く。
龍司がからかいに来ただけだと判断した私は、そのまま龍司を無視して足を進めようとした。
が、しかし。
その行き先に、龍司が立ちはだかる。
さすがに殴りかかってやろうかと考えていると、龍司が私の耳元に顔を近づけ、囁いた。
「探しとんのは・・・これやろ」
龍司のポケットから取り出されたのは、私が探し求めていた龍馬の駒。
思わず手を伸ばしかけて、引っ込めた。
なんで私がこれを欲しがってるのを知ってるのかとか、色々聞きたいことはあるけど。
今聞きたいのは、一つ。
「・・・・くれんのか?何が、交換条件だ?」
「ワシに付き合え」
「ど、どこに行くつもりだ?」
「そない警戒すんなや。観光に連れてったるだけや」
「は?観光!?」
「少なくとも、今は敵同士やない。たまにはデートでもしてくれや」
何を、考えてるんだ?
でもそれに応じれば、駒は手に入る。
観光だけなら、別にこちらにマイナスはない。
あいつらとの待ち合わせまであと40分・・・30分ぐらいなら、大丈夫か。
「30分しかねぇけど、いい?」
「ええで。・・・ほな、どこから行こか?」
「ココらへん分かんねーし、龍司に任せる。お腹すいたから、食べにいこうぜ」
「なんや・・・乗り気やな」
相手の機嫌を損ねたら終わりだ。
私はなるべく龍司のテンションに合わせ、観光をお願いすることにした。
危ないのは、慣れすぎてボロを出すこと。
こちらの情報は一切出さないように気をつけながら、私は龍司の後をついていった。
話し始めると、龍司は本当に戦いを捨て、ただ私と観光するためだけに来たということが伝わってきた。
会話の内容も、私が警戒するまでもなく、東城会のことには触れてこない。
「さすがはあの男の女や。・・・・もうワシにはびびっとらんようやな」
「当たり前だろ。やられたって怖がりゃしねぇよ」
「よく言うわ。さっきはびびっとったやろうが」
「っ・・・ち、ちがう。警戒してただけだ。元は敵同士なんだから当たり前だろっ」
龍司と二人で歩き、話す。
とてつもない違和感を覚えつつも、漂ってきた美味しそうな香りに思わず足が止まった。
「・・・・せやったな。食うてくか」
「いいのか?」
「観光言うたやろが。お前の食いたいものやないと意味あらへん」
私が立ち止まったお店は、そう、たこ焼き屋さん。
大阪っていったら、たこ焼きだろ?
こんな良い匂いしてたら、食べたくなるに決まってる。
龍司の方を見ると、龍司がたこ焼き屋さんの方に向かっているところだった。
慣れたように買って戻ってきた龍司が、私の方にパックを一つ差し出す。
「おごりや」
「・・・あ、ありがと」
熱々のたこ焼きから、美味しそうな匂いが漂う。
美味しそうだな、ほんと。こういうのでも癒やされるぜ。
最近、ずっとピリピリしてたからな。
「あつっ・・・」
熱いけど、美味しい。
美味しいけど・・・私が食べるのを龍司がじっと見ていて、食べにくい。
見るな、という意味で睨んでも、龍司は笑ったまま。
ずっと私を見ている。
「・・・・た、たべに、くい・・・・・」
「なんや?別にええやろが」
「・・・・恥ずかしいだろうが」
「恥ずかしがっとんのもええもんやな」
「・・・・このやろう」
それでも、食べるのをやめない私の身体は正直だった。
龍司も、熱そうにしながらたこ焼きを頬張っている。
それを仕返しとばかりに見つめていた私を、龍司が笑う。
「・・・ふ、なんや。変な感じやな」
「お前から誘ったんじゃねぇか。変なのは当たり前だろ。私達はあと少しで殺しあう仲・・・なんだぜ」
戦争の中心にいる人物との、二人きり。
もし私達のことを知っている人間がいたら、不思議がるだろう。
いやそれ以上に、驚くのが先か。
私だって驚いてる。でも私達だってやることがあるんだ。
そのための物を持ってる奴との取引・・・応じるしかないだろ?
それから私は龍司の案内で、30分間みっちり近くのお店を歩いて回った。
たこ焼きから焼き鳥、おみやげ屋みたいなところまで。
30分経って時間がギリギリになってきた頃、龍司が私の手を掴み、龍馬の駒を私の手に置いた。
「え・・・・」
きっと案内だけじゃなく、何か要求されるはず。
そう思って警戒していた私は、大人しく帰ろうとしている龍司に思わず声を掛けた。
「ま、待てよ。ほんとに・・・いいのか?」
何を、考えてるんだ?
こいつは本当に、私と遊ぶためだけに私を捕まえたってのか?
なんて、物好きだ。
私が笑ったのを感じ取ったのか、龍司が少しだけ振り返って私に手を振った。
「遊べただけで楽しかったわ。やっぱりアンタは最高や。ますます欲しくなる」
「な、なにいってんだ・・・・」
「次会うときは・・・アンタをあの男から奪ったるわ。ほな」
読めない。
この感じ、どこか違うけど、やっぱり。
「・・・・桐生と、似てるな」
初めて会った時の桐生も、こんな感じだった。
読めなくて、なのに何故か怖い感じはしない不思議な。
「・・・ってやべ。時間過ぎてる!!!」
ふと時計を確認した私は、待ち合わせの時間より5分過ぎた時計を見て慌てて走りだした。
手に入れた、龍馬の駒をしっかりと握りしめて。
「遅かったじゃねぇか」
若干苛ついてる桐生と、完全に苛ついてる狭山に迎えられた私は、とりあえずその場に座り込んだ。
全力ダッシュしたせいか、謝るための言葉も上手く出ない。
「ま、これで勘弁・・・・してよ」
謝るより先に手に入れた駒を手渡すと、桐生達が顔を見合わせた。
「・・・すごいわね、さすがだわ。私達は何も手に入れられなかったのに・・・」
「ま、これで遅刻はちゃらにしてやるよ」
桐生の手が、褒めるように私の頭を撫でる。
子供扱いするな!!とその手を叩いた私は、さっさと桂馬に向かって足を進めた。
時間が無いんだ、私達には。
狭山の知りたいことも知って、私達がしなければならないこともする。
それが私の目的なのだから。
そして知らぬ内に、深みにはまっていくのだ。
(この、踏み入れてはいけない過去の世界に)
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