いらっしゃいませ!
名前変更所
あさがおの前の海岸。
良い天気だから外に洗濯物を干していた私は、あるものを見つけて足を止めた。
それは桐生と、遥と、知らない男の子が海岸に居る様子。
でも何だか、男の子の様子がおかしい。
妙にオドオドしてるっていうか、落ち着きがないっていうか・・・。
「なんだ、あいつ」
ちょうど洗濯物も終わったし、と。
私は興味本位で、三人の会話が聞こえる位置まで近づくことにした。
神室町とはまったく違う、この風景。
この風景の中暮らし始めてから、もう何年も経ったように思えるのは私だけじゃないだろう。
それだけ、平和な日々が続いているという証拠。
後ろに子供たちのはしゃぐ声を聞きながら、私はようやく目立たない場所を見つけて、三人の会話を盗み聞きした。
「えっと、あの、僕・・・」
「何?私、忙しいんだけど」
遥のツンとした態度に、また男の子が下を向く。
あぁ、まさかとは思ってたけど・・・そういうことか。
告白ってやつだろ?これ。
遥はかわいいもんな。モテて当たり前だ。
・・・でも。
「あの、その、ぼ、僕と・・・・僕と・・・・」
私にはもう、この告白の結末が見えていた。
だって私は桐生と同じだけ、遥とも一緒にいたのだから。
遥が何を考えて、どういう答えを選択するか、分かる。
だからこそ私は立ち聞きをやめ、遠くから三人を見守ることにした。
「もしかして、お付き合いとかそういうの?」
「え?あ、うん・・・」
「ごめんね、私そういうのできないの。子供たちの世話もしないといけないし」
「え、こ・・・・子供・・・・?」
「うん。皆いっぱい食べるし、大変なの」
「え・・・」
私たちから見れば、遥だって子供なんだけどな。
見た目が子供なだけで、考えは下手すると私よりも上を行くときがある遥。
っていっても、もう中学生・・・か。
わが子を見届けるかのような気分でその様子を見ていた私の耳に、男の子の悲鳴が響いた。
「子供って、そんな、じゃあ、遥ちゃんって僕より全然年上・・・!?」
「??」
「じゃあ、先生と、遥ちゃんって・・・・うわぁあぁぁああん!先生の馬鹿ー!!!!!」
完全に遥の言った「子供」の意味を勘違いした男の子が、前を見ずにまっすぐ走ってくる。
突然のことに反応できなかった私は、避けることなくその男の子とぶつかってしまった。
だけど、反射的に体は男の子を庇おうとして、受身を取る。
目を開けたら男の子が私に跨っている状態で―――男の子もポカーンとその状態を見ていた。
「あのー、君?」
1分ほど。
声をかけても、男の子は私を見つめたまま。
騒ぎを聞きつけて走ってきた二人が、私たちを見て顔を見合わせる。
そりゃそうだ。こんな状況、戸惑わないほうがおかしい。
っつうか、こいつ大丈夫か?
さっきから反応ねぇし、どことなくぼーっとしてやがる。
「おい?大丈夫か?」
「・・・・」
「おーい??君ー????」
「っ・・・!!先生ッ!!!」
は?先生?誰だそれ。
そんなことを思っていると、急に立ち上がった男の子がそそくさと桐生の方に走っていった。
男の子が私と桐生を交互に見て、なにやら目を輝かせている。
一瞬怪我させてしまったのかと心配になったが、違ったようだ。
真面目な遥は、何も言わずにあさがおの方へ戻っていってしまっている。
・・・で?
取り残された私と、桐生と、男の子のこの微妙な空気は・・・なんだ?
とりあえず・・・。
「先生って、なんだ?」
「桐生さんは僕の先生なんです!」
「お、おい・・・」
「何の??」
「人生の・・・いや、その、大人の恋愛の先生です!!」
「はぁ?????」
人生の?大人の恋愛の?
よく分からないけど、なんかものすごくくだらないことっていうのは分かった。
大体、大人の恋愛って、こんな子供にナニ教える気だよ。
犯罪にでも手を染めるつもりか!と睨みつければ、桐生が呆れ顔で首を振る。
ま、桐生のことだし、お節介焼いて付きまとわれたとかそんなところだろ。
「先生・・・今度こそ、見ててください!」
「・・・は?」
男の子が、大きなガッツポーズを桐生に見せる。
それから私のほうを振り返り、突然私の手を握り締めた。
「あ、あの!お姉さん!」
「んあ?はいはい?」
「お名前・・・なんていうんですか?」
「名前?私の名前はあけだけど・・・それがどうした?」
「・・・・えっと・・・・」
何か言いたげにしてるため、無言で男の子の様子を見守る。
男の子は何度か口ごもった後、ガバッと顔を上げて私の表情を見た。
そして、叫ぶように言う。
「あけさん・・・僕、あけさんのことが好きです!付き合ってください!!」
はっ?と。
思わず声が出そうになったのを押さえ込み、私はゴホゴホと咳き込んだ。
いや、今、こいつなんて言った?
好きです?付き合ってください?
今はじめて会ってから、5分も経ってないんだぞ!?
「悪い。無理だ」
「そ、そんな・・・・」
「大体、私と会ってまだ5分も経ってねぇだろうが。何も知らないやつに、ほいほい好きとか言うもんじゃねぇよ」
「・・・・だったら、もっと知ってからならいいんですね!?」
「はっ?いや、え?」
どうしてそうなる。
いや、確かに意味は間違っていないかもしれないが・・・なんて考えていると、男の子はもう私の傍から消えていた。
慌てて探せば、琉球街の方へと走っていく男の子の姿が目に入る。
その男の子はギリギリ見えなくなるあたりで一旦足を止め、もう一度私のほうを向いた。
そしてまた、近所迷惑レベルの大声で叫ぶ。
「明日から毎日、会いにきますから!!!!」
「はぁっ!?そんなこと、許可した覚えは・・・!」
もう、いない。
ほとんど言い逃げに近い告白をおいていった男の子は、私にどっしりと思い疲労感を残していった。
疲れ果ててため息を吐けば、いかにも不機嫌ですという表情を浮かべた桐生が私のほうを見る。
私も負けじと桐生を睨みつけ、不機嫌を露わにした。
「なんだよあれ」
「お前こそ、なんではっきり断らなかった」
「いや、ムリだって言っただろ?はっきりじゃん」
「・・・その後に余計なことを付け足したから、ああなったんだろうが」
「何?まさかお前、あんな餓鬼に嫉妬してるわけじゃないだろ?」
その言葉に表情が歪んだのを見て、私はハァとため息を吐いた。
誰もいないことを確認してから桐生の手を握り、甘えるように体を寄せる。
「・・・一馬、以外に・・・興味ない・・・から、大丈夫・・・なんてな?」
恥ずかしさに負け、最後のところはほとんど呟くような音量だった。
それでもばっちり聞こえていたらしく、桐生の腕がそっと私の腰に回る。
ぴったりとくっつく身体。
たくましい身体が私にぬくもりを分けているのを感じて、私はそっと目を閉じた。
・・・暖かい。
そう、私がここまで許すのは、桐生だけだ。
桐生、だけ。
「お姉さん!」
「・・・・まぁたお前か・・・・」
私の心は揺るがない。
でも、彼の心も揺るがない。
毎日でも会いにくると宣言した餓鬼は、本当に私に毎日会いに来ていた。
どれだけ暴言を吐かれても、謎のポジティブさでかわされる。
それにある一定の子供ということもあり、強く言い過ぎることが出来ないのもあった。
兄さんや秋山あたりなら、とび蹴りしてでも帰ってもらうんだが。
「今日はお姉さん、何してるんですか?」
「ん?見たら分かるだろ。体ほぐしてんだよ」
「お姉さん、強いですよね。僕、そんなところも、すごく・・・」
どこでもかんでも着いてくるものだから、当然こいつも私と色んなことに巻き込まれていた。
その際に、絡まれたヤクザから助けたのだが・・・それから、この調子だ。
お前みたいな餓鬼は、強い女なんて好きになったら、一生尻にしかれるぞ。
ま、裏の世界で生きてる人間からすれば、私は弱いから良いのだが。
「よっと・・・」
餓鬼がいることも気にしないで、集中して運動を続ける。
運動といっても、ただの喧嘩練習なわけだけども。
こうやってたまには動かしておかないと、反応が遅れることがあるからな。
これを桐生の前でやると、大体怒られる。
だからこうやって、集中も出来る、静かな海の岩陰でやっているのだが・・・。
最近は、この餓鬼んちょのせいで何も集中できないでいる。
どこに居ようと、見つけ出して話しかけてくるのだ。
・・・まったく、しつこいやつだ。
「そろそろ暗くなるぞ。帰ったらどうだ?」
傾きかけた日を見て、私は餓鬼を追い払うために言った。
実際、沖縄は神室町と違って、人通りが少ない。
暗くなった後は、それだけキケンでもあるのだ。
そんな私の心配を気にしてないのか、餓鬼は「いいえ!」と首を横に振る。
「まだ大丈夫です!」
「大丈夫じゃねぇ、さっさと帰れ」
「いやです。あまり喋れてないじゃないですか・・・」
あぁもうなんなんだ。
大体こいつ、女を見る目がないんじゃないか?
遥に惚れるのは認めてやる。
私が男なら私だって惚れるぐらいの良い女だから。
でも、私はどうだ。
・・・やめておけって止められるレベルの女だと思うのだが。
「もう諦めろ。つうか大体、私にはもう婚約者がいるんだって」
そんなの関係ないですって目が、私を見つめ続けている。
段々本気で苛立ってきた私は、深いため息をついて苛立ちを露わにした。
「おい。いい加減にしろ!!」
「ッ・・・」
「言ってんだろ?私には・・・・」
「・・・・お姉さん」
「ん?・・・・なっ!?」
私の声に黙り込んだと思ったら、餓鬼が私の方に飛び込んできた。
飛びこんだ私の胸の中で、小さく「師匠から教わったことを・・・」なんてぶつぶつつぶやいている。
引っぺがすことなんて簡単だが、あまりにも不気味すぎて止まっていたのが駄目だったのかもしれない。
私が引っぺがそうとした瞬間、胸の中にいた餓鬼が私を強く抱きしめた。
「お、おいこら、調子にのるなっ!!!」
「(師匠に教わったのは、強く押すこと・・・・次こそ!)お姉さん!!」
「あぁ?」
「僕の・・・・僕の女に・・・・な、なって、なれよ!!」
師匠ってあれだよな。桐生のことだよな。
どうせくっだらないことでも吹き込んだんだろ。この調子だと。
男の子への怒りも増すが、同時に桐生への怒りが増すのも感じた。
お前がくだらないことを吹き込むせいで、こんなことに。
引っぺがそうとしても離れないし。
ああもう・・・しょうがない。
私は餓鬼への罪悪感を感じながら、ぎゅっと拳に力を込めた。
そして静かに―――手刀を落とす。
「ハッ」
「うぐっ!?いただぁあぁああぁあい!!!」
気絶させないように、そして出来るだけ痛みを感じるように打った手刀。
それを食らった餓鬼は悲鳴を上げて私から離れ、泣きながら走り去っていった。
だから離れろっていったのに。
まぁあの餓鬼じゃ、あんぐらいのことは平気だろ。
何となく微笑ましくなった私はクスッと微笑み・・・・後ろからの気配を感じて、勢いよく振り返った。
「ッ!!い、いたのかよ!!」
「・・・ったく、お前いつまであんなガキに付き合ってるんだ?」
「お前の弟子だろ?あん?なんで私のせいになってるんだ???私が迷惑してるんだぞ!」
イライラが爆発し、後ろで悠々と見ていたであろう声の主、桐生に怒鳴る。
桐生はめんどくさそうに頭をかくと、俺も迷惑してるんだとばかりにため息を吐いた。
「俺のせいじゃねぇ」
「でも師匠師匠ってよんでたぜ?」
「・・・勝手に呼ばれてるんだ」
「あっそー、ならいいよったく。どうせ諦めるだろ、いつか」
歳も、世界も。
考えも。
全てが違うあの餓鬼とは、どんな運命になっても無理だろう。
餓鬼が逃げて行った方向を見ながらもう一度微笑んだ私に、少し不機嫌そうな声がかかる。
「・・・・おい」
「ん?」
「お前まさか、楽しんでるんじゃねぇだろうな」
「はぁ?・・・ふっ、だからさ、お前、まさか、あんな餓鬼に嫉妬か?」
微笑みをニヤリとした意地悪い笑みに変えて。
組んでいた腕を桐生の腕に添えて。
小馬鹿にするような私の表情に、桐生の表情がガラリと変わった。
・・・あれ?
予想では、ここで冷静に「んなわけねぇだろ」と、返されるはずだったのに。
私の瞳に映っているのは、だいぶ苛立った様子の桐生。
そして感じる、身の危険。
「・・・た、タンマっ!」
「逃がすと思うか?」
「ちょ、こらっ!!まて!!落ち着けっ!!!!」
「何度も俺に嫉妬だと聞くんだ。答えてほしいんだろ?」
「い、いや、そういう意味じゃっ・・・・」
からかいたかっただけ。
それなのに。それなのに!!
いつの間にか上手を取られてることに気付くが、もう遅く。
唇を奪われ、全てが壊れていくのを感じる。
身体が痺れて、動けなくなって。
長い長い、甘い痺れを味わった先に、桐生の勝ち誇った笑みが映る。
「嫉妬してたら・・・悪いのか?」
餓鬼、ちゃんと見とけよ。男らしく押すってのはこういうことなんだぜ・・・たぶん
(呆れた表情を浮かべた私に、また桐生の怒りが爆発するまで・・・・)
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