いらっしゃいませ!
名前変更所
2.隣にいてやってもいいぜ?
あれから私たちはすぐ賽の河原に戻り、持ち込めた食料や生活用品を花屋に渡した。
私の情報活動なんてほとんど役に立たない今、期待出来るのは花屋の映像情報のみ。
なんとしてでも、花屋には無事でいてもらわないといけない。
だから私は動く。たとえ怖くても戦い続ける。
ここに居る一般人の奴らの不安だって、取り除いてやりたいから。
「あれ?あけちゃん。また外に行くのかい?」
「あぁ・・・そうだけど?」
あんな食料や生活用品じゃ、すぐに底を尽きるのが目に見えている。
少しでも早く次の補給場所を探そうと歩いていた私に、秋山がひょこっと現れ声を掛けた。
賽の河原は本当に安全だ。
ゾンビじゃ気づきにくい、地下にあるしな。
でも、だからといってここに籠り続けるわけにはいかねぇ。
「あけちゃん・・・無理しすぎてるよ、君は。俺たちがまた探してくるから、そんな・・・・」
「うっせぇなー。無理してるわけねぇだろ?」
「嘘はダメだよ。毎回、つらそうな顔してる。そんなんじゃまた桐生さんに怒られるよ?」
秋山に痛いところを突かれ、ピクリと身体が跳ねた。
確かに辛いのは認めるけど、だからといって何かが解決するわけじゃない。
秋山や桐生達はゾンビ退治、そして遥の探索、この騒動の犯人捜しをしているわけだ。
少しでも私達待機組が動いて、何かしてやろうって思うのは当然のことだろ?
もし皆居なくなったら、本当に動ける人間は私だけになっちまう。
それまでにゾンビと戦えるように、まともに動けるようにならないと。
「安心しろよ秋山。私はいつまでもウジウジしてるようなやつじゃねぇぞ?」
右手に持っていた銃を器用に回し、かっこよく構えて見せた。
ついでに新しく調達した左手用の銃も取り出し、手慣れた感じで回してみる。
銃を構えた腕は、もう前のように震えてはいない。
秋山はそれを見て優しく笑うが、それでも納得いかないと私の腕を掴んだ。
「とにかく、あけちゃんは休むんだ」
「嫌だっての。こんな状況で休んでられるか!」
「へぇ・・・言うこと聞かないと、桐生さん呼び出しちゃうよ?」
「あー、もう分かった分かった。無理しないから、新しく調達した銃の調整だけさせてくれ。な?」
いつもは右手の銃だけで戦っていた私。
でもそれだけではゾンビに対抗しきれないことに気づき、新しくもう1丁調達したのだ。
この銃は、桐生が持っている対物銃をくれた、私の信頼における店の銃。
使いこなせるようになっておきたい。
もちろん、それを兼ねて食料の調達に行くつもりだったし。
別に嘘じゃない。うん、全然嘘じゃない。
「・・・分かった」
「さっすが!話分かるじゃん!んじゃ早速行ってく・・・」
「俺も着いていく、って条件でな」
ピタッと動きを止めた私に、ニヤリと秋山が笑う。
まるで私が無茶するっていうのが分かっていたかのように。
あーあ。なんで客は騙せるのにこいつらは騙せないんだか。
観念した私は静かに頷き、秋山と一緒に外へ出ることにした。
秋山も二丁拳銃使いだから、一緒に戦って動きを参考にさせてもらおう。
「よいっしょ・・・・っと!」
「外は相変わらずって感じだねぇ・・・」
手慣れた感じで銃を取り出す秋山を真似て、私も二丁の銃を構え直した。
外の空気はいつもと変わらない。
この地獄が夢だとは思わせない残酷な光景。
そして蠢く、大量のゾンビ。
大丈夫、手は震えていない。
後はこの、ゾンビを撃つ感覚に慣れることが出来れば。
「そんじゃ、ちゃちゃっとやっちゃうか」
「ん?どこ行くんだよ?」
「食料調達、するんだろ?近くに店があったはずだ。そこまであけちゃんの銃の調整も兼ねて行くよ」
「・・・りょーかい」
やっぱり、秋山にも隠し事は出来ねぇみたいだな。
ヤレヤレと頭をかく私を見ながら、いつもと変わらない表情で秋山はゾンビを撃ち始めた。
的確な射撃。
秋山はいつもの華麗な足技と同じように銃を放ち、邪魔する奴を消していく。
そう、いつも通りに。
私も秋山とは違う方向に銃を構え、ゾンビに対して引き金を引いた。
「っ・・・・」
銃声に煽られるゾンビ。
歩いていたゾンビがこちらへ走ってくるのを見て、私は一瞬目を閉じて銃を引いた。
もちろん、目を閉じて引けば当たるものも当たらない。
だから私は銃の扱いが下手なのだ。
それを分かってはいるのだが、身体が言うことを利いてくれないのも事実で。
「あけちゃん、目を瞑って撃っちゃ駄目だ」
「そ、そんなこと分かってんだよ・・・どうしても、上手くいかねぇんだ・・・・」
遠くにいるゾンビは撃てる。
中途半端な距離でも、感覚で撃てるようにはなってきた。
手も、震えてはいない。
なのに近づいてくるゾンビや、こっちに敵意を向け始めたゾンビには、どうしても手元が狂うのだ。
反射的に目を瞑ってしまうせいってのは分かってるんだけど、身体は恐怖を示してしまう。
「ウゥゥウ・・・・!」
「っ・・・くそ・・・!!!」
段々と減ってくるゾンビの数。
それでも定まる気配のない狙い。
背中を預けている秋山は、惚れ惚れするような動きでゾンビを倒していく。
桐生とはまったく違うスタイル。ほんっと、この街の奴らって人それぞれに強いよな。
「おーい、あけちゃん?」
「っ・・・あ、あぁ?」
「何ぼーっとしちゃってんの。もしかして俺に見惚れてた?」
「んなわけねぇだろ!そういうのはキャバ嬢に言えキャバ嬢に!!」
「あけちゃんじゃないと意味ないからね」
「・・・あー、そうかよ。もういい。さっさと行くぞ!」
秋山を適当にあしらって先に進もうとした瞬間、ぐいっと首根っこを掴まれた。
掴んだ犯人は秋山しかいないが、掴まれた理由が分からなくて暴れる。
「こーらー!!何掴んでんだお前ッ!!」
「いやほら、今がチャンスでしょ?あけちゃん」
「は?」
「ゾンビを撃つ練習。数が少なくなってきたからね・・・ほら、アイツ撃ってみて」
一時的に数が少なくなったこの場所で、運良く弾丸から逃れたゾンビ達。
それを指差した秋山は、私にそのゾンビを撃つよう促した。
確かに、集団戦の中でやるよりは、効率の良い練習かもしれない。
まだこちらに気付いていないゾンビに狙いを定め、ゆっくり引き金を引く。
―――パァンッ!
「おお、うまいねぇ。そのまま、もう一度撃つんだ」
「ッ・・・」
「大丈夫、怯えちゃいけない。足を撃ったんだ、そう簡単にこっちには来れないさ」
遠くの位置から、しっかりと私を捉えているゾンビの目。
私が撃った弾が足と腹に当たったせいか、秋山の言うとおり、他のゾンビ達より数倍動きが遅くなっていた。
それでも、身体は拒否反応を示す。
何度引き金を引こうとしても、自然と身体が後ろへ下がり、引き金を引く瞬間には目を閉じてしまう。
悔しいぐらいに思い通りにならない身体。
銃を構えながら苛立ちを露わにすると、急に背中から秋山に抱きしめられた。
「秋山・・・!?」
「言うとおりにするんだ。じゃないと、ずっとこのままだよ?」
「っ・・・!!み、耳元で喋るな馬鹿っ・・・!!!」
「可愛い反応だねぇ・・・ほら、構えて」
「・・・・くそっ・・・」
抱きしめられたまま、秋山の手に導かれて銃を構える。
耳元を擽る秋山の声がくすぐったくて、ゾンビとの距離感すら頭に入らない。
やめろと言っても、止めてくれそうにないし。
ここは集中して、さっさと終わらせてしまうのが得策みたいだ。
秋山の手に合わせて銃を持ち上げ、狙いの定め方を教えてもらいながら引き金に指を掛ける。
「そう・・・いつものあけちゃんなら出来るよ。手はこの位置だと撃ちやすい。それから・・・そう、落ち着いて・・・」
恥ずかしさはあれど、秋山の体温は私を少しずつ安心させてくれた。
目は閉じずに、近づいてくるゾンビをしっかりと見て、“どうか安らかに”と願いを込めて。
――――撃つ。
「っ・・・・!」
「ひゅ~・・・やるねぇ、あけちゃん」
「へ・・・?」
撃った後に目を逸らしてしまった私は、もう一度ゾンビの方を見て顔を顰めた。
見事に2発、頭と首元についている撃たれた痕。
それを見た秋山は私から離れた後、隣に並んでちゅっと頬にキスをした。
わざと音を立てたようなキスの仕方に、一瞬でカァッと熱が上がる。
「お、おい何してんだよ!?」
「何って・・・お代?」
「はぁ!?」
「やだなぁ。金貸しが、何の貸しも無しに教えると思った?今のはあけちゃんからの貸しを返してもらったってだけ」
「~~~っ!勝手に貸しつけんな!!」
怒る私を無視して、秋山は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でつけた。
掴み上げて叩こうかとも思ったけど、教えてもらえたことに変わりは無いので止めておく。
何だかんだで助けられたし、な。
飄々としながらも、ちゃんと人のことを分かってるから憎めねぇんだよ。
手に馴染み始めた銃を見ながら、隣に立つ秋山を見て笑う。
すると秋山も私の視線に気づいたのか、私の頬を撫で、再び銃を構えた。
「さ、じゃあ行こうか」
「ん?最後まで付き合ってくれんのかよ?」
「そりゃ、あけちゃんを一人には出来ないからね」
「・・・ありがとな。お前が居ると、その、落ち着くぜ」
突っかかってばかりも悪いと、素直に礼を述べる。
もちろん、照れ臭いので背を向けてだが。
「・・・あけちゃんがそういうなら、俺はいつでもあけちゃんの隣に居てやるよ」
後ろから聞こえてきた、そんな言葉。
もっと照れ臭くなって秋山の方が見れなくなった私は、秋山の方を見ないまま足を進めた。
追いかけてくる秋山の、嬉しそうな声を聞きながら。
いいねぇ・・・その恥ずかしがってる感じ、ゾクッとしちゃったよ。
(そんな言葉に、私の鉄拳が飛ぶまであと5秒)
PR
この記事にコメントする
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)