いらっしゃいませ!
名前変更所
1.なに泣きそうな顔して笑ってんだ
神室町は、とある日を境に地獄へと変わった。
目の前に広がるのは崩れ落ちた建物。
人々の死体。
そして動いている、ゾンビの集団。
元々、血や残酷な光景に耐性があるわけじゃない。
もちろん、そういうことをするのに、抵抗があるわけじゃねぇが。
なんたったって、そういう世界の人間だ。ある程度は覚悟しているけれど。
「こんなのは、ある程度なんてもんじゃねぇだろ・・・」
ゾンビに埋もれてしまった街。
何がどうなって、こうなったのかは分からない。
分かることは、ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまうということだけ。
目の前の人間がそうやってゾンビになっていくのを、私は何度か見てきた。
気が狂いそうになるほど、この街が壊れてるってことだ。
こんなの、現実的にありえるわけがねぇんだから。
「ほんっと・・・最悪だぜ・・・」
桐生には連絡した。
そして桐生が来てるらしい、って話も聞いた。
だけど動けない。
もう疲れたんだ。
周りを見たくない。動きたくない。殺したくない。
銃を持つ手が小さく震える。
外からの声と音に反応を示す身体が、ものすごく気怠く感じた。
「っ・・・・はぁ」
外の騒音と、この建物の中の静けさと。
味わった事の無い恐怖感に、自然と目頭が熱くなるのを感じる。
いや、でも。
私は泣かないよう歯を食いしばり、自分の頬をぶん殴った。
泣きたくない。
こんなところで泣くほど、私は弱くない。
いつも通りの私は、そんな簡単に崩れたりはしない。
―――プライドが、許さない。
「っ・・・は。情けねぇな」
自分自身を奮い立たせるように目を閉じたその時。
外から衝撃音が聞こえ、建物がグラグラと大きく揺れた。
突然のことに立ち上がるのすら遅れ、座ったまま入口の方向に銃を構える。
「な、なんだ・・・っ!?」
建物の一部が崩れ落ち、砂煙が充満して周りの様子が良く見えない。
残りの弾数を確認しつつ後ろに下がり、なるべく壁に背を向けるようにした。
煙の中から、徐々に見え始める化け物の正体。
ああ、知ってるさ。この街に蔓延っているのがゾンビだけじゃねぇってことを。
まるでゲームに出るような化け物がいるってことも、自分の目で確かめたことだ。
だからもう、驚きはしない。
どう対処すればいいかと、絶望を感じるだけ。
「ガァ・・・・ァ・・・」
「うわ、まじかよ・・・」
「ガァァ・・・ァァァ・・・」
涎を垂らし、私を獲物として捕らえた化け物が1匹。
砂煙の中に浮かび上がった化け物は、赤い目を輝かせ、まるで虫のような動きで私に近づいてきた。
それからはもう条件反射で。
近づいてくる化け物に対して銃を放ち、捕まりそうになれば障害物を利用して逃げることを繰り替えした。
だけど私に勝ち目は無い。
いつも身の程知らずに襲ってくるヤクザとは、ワケが違うのだ。
そんな奴らだったら容赦なく向かい撃つぜ?でも今は違う。
「ガアアアアアア!!!」
「やべっ・・・!?うがっ!!!・・・かはっ・・・」
リロードしている最中に攻撃を食らい、思いっきり壁際へと吹き飛んだ。
上手く息が吸い込めない状態で、それでも尚、私はなんとか立ち上がろうとする。
でも、ダメだ。
身体がついてこない。
迫ってくる化け物が見えるのに、こんなところで意識を手放すのか?
いわゆるそれは、死を意味するんだぞ。
頼む。動いてくれ。動いて・・・。
「あけ!!」
「っ・・・」
「はぁっ・・・!!!」
聞きなれた声と、聞きなれない銃声。
突如響いた音に飛びかけた意識を戻せば、そこには大きな銃を抱えた桐生が居た。
私を襲おうとしていた化け物は、その銃に沈んだのか、ピクリとも動かなくなる。
つうかそれ・・・対物用じゃねぇの?そんなの扱えるのかよお前。
「助けてくれてありがとう」よりも先に浮かぶそんな言葉に、自分の意地っ張りさを自覚して笑う。
「おい、大丈夫か?」
「さんきゅ。平気に決まってんだろ?」
「怪我してるじゃねぇか・・・ほら、見せろ」
「ん?大丈夫だ・・・ってあだだだ!!分かった!分かった見せるっ!!」
見せることを拒んだ瞬間、桐生に頬を抓られ降参した。
生ぬるい血の感触。言われて初めて気づいた、左肩の傷。
背中を打ちつけた際に、左肩を怪我してしまったらしい。
とりあえず大人しく桐生に見せ、手当てをしてもらう。
手当と言っても、持っていた布を傷口近くに結び、血を止めるだけだが。
「これでいいな・・・」
「ありがとな、桐生」
「礼は良い。それよりお前、ずっとここに居たのか?」
「ん?あー・・・ずっとってわけじゃねぇぜ。賽の河原に逃げてたんだけど、食料が無くなってきてさ」
賽の河原に避難している人間で、戦える人間はごくわずか。
私と、秋山と、真島の兄さんぐらい。
人手が少ないのに、怖いからっていう理由で動かないわけにはいかねぇだろ?
避難してる人間の命が、私たちにかかっているようなもんなんだ。
だから食料を探しに、ゾンビが居る街中まで来たってわけ。
いつもなら「無茶するな!」と怒る桐生だが、さすがに今回は怒れないようで。
「・・・そうか。大丈夫だったか?」
「もちろん!この通りだぜ!」
「これからは俺と一緒に行動しろ。必要最低限のものを見つけて、一旦河原へ帰るぞ」
「ん?別に私一人でも大丈夫なのに」
大丈夫じゃない。
でも気づいたら、自然とそう口にしていた。
自分自身でも、可愛げが無いぐらい強がりだってこと、分かってる。
分かってるけど止められないのは、今まであまり「甘える」ということをしてこなかったから。
だからいつも通り、笑いながら立とうとして―――立てないことに気付く。
「(あ、やべぇ・・・)」
「・・・・お前、それで良く大丈夫だと言えたな」
「う、うるせぇな!平気だって言ってんだろー!?」
完全に足が震えてしまっているらしく、中途半端に立ち上がっては、壁にずるずるともたれ掛った。
それを見ていた桐生がワザとらしく大きなため息を吐き、ゆっくりと私の顔を覗き込む。
「大丈夫、か?」
「大丈夫」
「・・・はっ。相変わらずお前は・・・」
ぐしゃっと頭を撫でられ、そこからすぐに顎を持ち上げられた。
キス出来るほど近づけられた顔に、身体を引こうにも壁が邪魔で逃げられない。
やばい。
こうなったらもう、嘘はつけない。
情報屋として人を騙す仕事をしているというのに、私は桐生のこの表情に弱いんだ。
自然と言葉を促すような、そんな表情。
優しげな表情に最後の抵抗を見せれば、桐生が耳元に唇を近づける。
「そんな顔して、大丈夫なんて嘘吐くんじゃねぇ」
「・・・そんな顔って・・・なんだよ・・・」
「お前、笑えてるつもりか?泣きそうだぜ?・・・怖かったんだろうが。こういう時ぐらい、正直に甘えろ」
「・・・・っ」
・・・卑怯だ。
桐生に抱きしめられた私は、静かに腕を回した。
力強く持ち上げられる顎。
腕は腰に回ったまま、もう片方の腕で顎を固定され、そのまま優しくキスされる。
「んっ・・・」
触れるだけのキス。
それからゆっくりと唇を割って、口内に舌が侵入してきた。
恥ずかしくなって抵抗するも、桐生に壁へ押さえつけられていて動けない。
桐生に教え込まれている身体は嫌でも反応を示し、ふっと足から力が抜けた。
それを分かっていたかのように桐生が支え、更に深い口づけを繰り返す。
「ん、ぁ・・・き、りゅ・・・」
「お前らしくねぇ顔だな・・・そんな顔、出来ないようにしてやる」
「・・・・っあ、ちょっ、と・・・」
不器用な桐生なりの、慰めなのだろうか。
いつもより深く、甘いキス。
私の呼吸を気遣って、キスをしてはすぐに離れていく。
それでもやっぱりこういうキスは不慣れだから、腰が砕けて動けなくなってしまった。
「は、ぁ・・・っ」
「なんだ?こんなところで、そんなイヤラしい顔していいのか?」
「んのやろ!!調子にのんじゃねぇぞこのっ・・・・!」
「フッ・・・それだけ言えるようになれば十分だな。行くぞ」
「え、あ、・・・ちょ、ちょっと待てっての!」
いつもの調子で言い返そうとした私を、無理やり引っ張って外に出る。
外にはまだゾンビ達がウジャウジャいて、思わずうっと顔を顰めてしまった。
そんな私に気付いたのか、桐生が私の頭に手を乗せる。
いつもは子供扱いされているようで嫌なその行為も、今は嬉しく思ってしまう自分が居た。
ほんと、不思議だな。
銃を構える腕が震えなくなったのに気づき、桐生に微笑む。
「・・・・ありがと、桐生」
「いつもそのぐらい素直だったら良いんだがな」
「うっせ。調子乗ると撃つぞ」
「良いから来い。・・・俺がどうにかしてやる」
「・・・・おう」
ゾンビを撃ちながら、お互いに言い争いをしつつ走り抜けて。
私が撃ち逃したゾンビを、分かっていたかのように桐生が倒していく。
まだ血は怖い。この光景も。ゾンビも。
だけど桐生が居てくれるだけで、私の心はかなり救われていた。
震えが止まった腕で近づいてくるゾンビを撃てば、その光景を忘れさせてくれる桐生の優しい表情が目に入るから。
「・・・・ほんと、ありがと」
「全部が終わったら、礼をもらうぜ」
「・・・・っ。やっぱ調子のんな馬鹿!!!」
ゾンビの中、響く私たちの声。
滅多に言わない感謝の言葉を桐生に言った私は、照れ隠しでゾンビを撃ち殺した。
たった一人の存在が、私の全てを変えてくれる。
(だから生き抜こう。今この時を)
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