Erdbeere ~苺~ 2話 彼の本気の引き金 忍者ブログ
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2011年02月25日 (Fri)
連載2話目/リオン視点/少しシリアス/甘々

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戦いの音が響く。
兵士たちに回復唱術を掛けているあけの姿を見ながらも、僕は苛立ちを剣に込めた。


「無理しないで、マリー。ファーストエイド」
「あぁ・・・・ありがとう!」
「ふん。さっさと倒れた方が身のためだぞ」


敵を挑発しながら、完成させた唱術を敵の足元に浴びせる。
こいつがルーティ・・・・でも今の僕には、関係ない。
僕は少し相手から距離を取ると、静かにあけの方を振り返った。

心配そうにしながら、兵士を回復するあけの姿に、僕は笑う。
そうだ。今の僕にはあけがいる。マリアンだって。

だから僕は躊躇うことなく、切っ先をルーティに向けることが出来た。


「生意気な餓鬼・・・・むかつくわねー!」
「うるさい。ギャアギャア騒ぐな」
「なんですって!?」


挑発に食いかかってきたルーティの刃を、シャルで受け止める。
そして短剣で踏み込むと、一気に剣をルーティの手から弾き飛ばした。

しかし、相手も兵士数人を相手に勝ち残ったやつらだ。
しかもソーディアンマスターが二人もいる。
完全な素人なら3人でも余裕だっただろうが、さすがに“簡単”という戦いではなかった。

でも、負けることは絶対にない。
僕は口元に笑みを浮かべると、火の唱術を唱えていた男に切りかかった。
彼が持っていたソーディアンから声が響き、僕に気づいた男が剣を振りあげる。


「くっ・・・・!」
「甘いっ!」


詠唱していた事もあり、男の体勢はしっかりとしていなかった。
僕が剣に力を加えると簡単に男の膝が崩れ、そこを狙って僕は男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。


「がぁっ・・・・!」
「スタン!」


ルーティが心配そうにスタンの名前を呼ぶが、あれだけ強く蹴り飛ばしたんだ。気絶していないわけがない。
思わず勝ち誇った笑みを浮かべた僕に、無表情のまま赤髪の女が切りかかってくる。
ルーティは後ろで詠唱している。回復か攻撃か・・・・見定める前に、僕はルーティを邪魔するための唱術をぶつけた。


「ストーンブラスト!」
「うぐっ!もう!邪魔しないでよね!」


マリーを相手にしながら、ルーティの唱える唱術を邪魔する。
まるで作業のような戦いに飽きた僕は、一気に蹴りをつけるために1歩思いっきり前に踏み込んだ。
突然力が強くなった僕に驚いたのか、マリーも合わせるようにして剣に力を込める。

振り下ろされた剣を、僕は軽々と受け流した。
そのまま流れるように振り上げた剣が、マリーの左腕を軽く掠める。


「ッ・・・・」


息をのむ音と共に、ツーと流れ落ちる赤い血。
それを見つめていた僕は、いつの間にかルーティの姿がないことに気がついた。

マリーの後ろでは、回復された兵士がスタンを縛りあげている。
僕は一旦後ろにステップすると、視界から消えたルーティを探した。

後ろから攻撃を仕掛けてくるつもりか?
それとも、アイツだけ逃げたのか?

どちらにしろ、厄介なことに代わりは――――――


「動かないで!」
「ル、ルーティ・・・・」


マリーの戸惑ったような声に、僕はルーティの声がした方向を振り向いた。
そしてすぐに、言葉を失った。


「マリーから剣を引いて。あと、スタンを解放して」
「貴様・・・・っ」
「リオン・・・ごめ、ん・・・・」


回復唱術を唱えている時に捕まったのだろう。
強気な口調で僕に命令してきたルーティの腕には、左手から血を流すあけの姿があった。

詠唱中に捕まえようとして、気づいたあけが暴れたのだろう。
変な方向に切り傷がついているあけの腕を見て、僕は冷静にそう判断した。
しかしそんな僕の考えを遮るかのように、ルーティの剣があけの首元に突き付けられた。


「早くしなさいよ、餓鬼」
「ふん・・・・人質のつもりか?」
「何?あんた、自分の部下を切り捨てるつもり?」
「そうだったらどうする?」


声が震えないよう、気をつけて口を開いた。
流れ出る血が思ったより多いのか、あけの表情が段々と青くなっていく。
駄目だ。これ以上時間を掛けたら、僕の動揺が表に出てしまう。


「(くそっ・・・・あけ・・・・)」
『坊ちゃん・・・・』


あけのことになると、どうしても動揺してしまう僕がいる。
それだけ彼女の存在は、僕の中では大きいのだ。
決して言葉にはしないが―――――彼女もきっと、分かってくれている。


「早くって言ってるでしょ!」
「ルーティ!」


マリーの叫びが、何を意味したのか。
それは目の前のルーティを見れば、すぐに分かることだった。

ルーティ自身、人質を取るということはしたくなかったんだろう。
したくなかったというより、怖かったのかもしれない。
力加減を間違えてしまったらしいルーティの剣から、あけの血が薄らと流れ落ちる。


「あ・・・・」
「う、っ・・・・・」
「ごめ、あんた・・・・」


あけの首筋についた、赤い一筋のキズ。
ルーティの手が震えている。力加減を間違えてしまったらしい。
だけど僕にはそんなこと関係なかった――――――呆然としているマリーを蹴り飛ばした僕は、すぐに唱術を唱えた。


「なっ・・・・」
「そいつに手を出したことを後悔するんだな・・・・デモンズランス!」
「きゃぁあぁああっ!?」


いつもなら使わない上級唱術をルーティのみに浴びせ、すぐにあけの手を取って自分の方に引き寄せた。
上級といっても手加減はしてある。気絶したマリーとルーティを兵士に捕えるよう命令し、腕の中にあるあけの温もりにそっと息を吐いた。


「リ、リオン・・・・?」


あけの瞳は、泣きそうなほど潤んでいた。
僕が無理やりあけの顔を上に向かせると、あけは震えた声で「ごめんなさい」とつぶやいた。


「どうして謝る」
「だって、私が、私が捕まったから・・・・」
「それは唱術を使っている無防備なお前を、使おうとしたコイツが悪い」
「で、でも・・・・」


あけはこう見えても、相当な戦闘技術がある。
レンズがなくても使える巨大な唱術。短剣を駆使した前衛戦闘。僕のパートナーとして動いてきた中で、戦闘面で迷惑を掛けたことがなかった。

だからかも、しれない。
初めての失敗に、恐怖と同時に・・・・僕に迷惑を掛けたという思いが強いのだろう。
そんなあけを可愛いなどと思ってしまった僕は、ある意味重症なのだろうか。


「傷の手当てをするぞ」
「え?あ、わ、私が自分で・・・・・ふ、ぇっ!?」


傷を撫でるように、自分の唇を這わせて―――――それから、小さくヒールを唱えた。
ほんの一瞬の出来事だったが、あけにはもちろん、シャルもそれを見ていて声をあげた。


『ぎゃー!坊ちゃんがあけにセクハラして・・・・』
「うるさい!黙れシャル!」
『いだだだだだ!坊ちゃん!痛い!痛いですよー!』


うるさかったシャルのコアクリスタルをぐりぐりすると、シャルの悲鳴が大きくこだました。
兵士がルーティ達を捕えて連行したのを聞き、絶対逃がすなと命令を口にする。

僕の命令を聞いた兵士は緊張した面持ちで敬礼すると、逃げるようにしてその場を立ち去った。


「リオン・・・・ほんと、ごめんね・・・・」
あけ。違うだろう?」
「・・・・!」


僕が言いたいことに気づいたのか、あけは恥ずかしそうに目をそらしながら口を開いた。


「ありがと・・・」


その答えに満足し、ふとあけから目をそらすと、気まずそうに話しかけようとしてくる兵士の姿が見えた。
この場面を見られたのが少し恥ずかしくなり、八つ当たりするように兵士に強い口調で当たる。


「・・・・なんだ?報告ならさっさとしろ」
「はっ、す、すみません・・・こちらが、彼らが所持していたソーディアンです」
「そうか・・・・さがれ。これは僕達が運ぶ」
「はい!」


兵士の手から渡された剣は、ルーティとスタンが使っていたものだった。
しかも片方の・・・・スタンが使っていた方の剣は、僕達にも見覚えのあるものだった。


「これは・・・・」
「これってディムロスだよね?飛行竜で運んでた、ソーディアン・・・・」


あけの言葉に、ゆっくりと頷く。
シャルは二人と喋るのが気まずいのか、コアについてるシャッターのようなものを閉じてしまった。

シャルから話は聞いていたが、1000年前は仲間だったのだ。なおさら今の状態は辛いだろう。
僕は特にシャルのことに触れぬまま剣を取ると、アトワイトの方をあけに手渡した。

鈍く輝きを放つコアクリスタルから、女性の声が聴こえ出す。
その声は僕に向けられており、声の主がアトワイトだということにさほど時間は掛からなかった。


『リオン、といったわね』
「・・・・なんだ」
『あの女の子に伝えて頂戴・・・ルーティは、いつもはあんなことしないの。ごめんなさいって・・・・』
「そんなこと、直接本人に言え」
『え・・・・?』


アトワイトが驚きの声を上げる。
無理も無い。普通ソーディアンの声は、マスターとしての素質がある者にしか聞こえないのだから。

ディムロスとアトワイトが驚いてることも気に留めず、話を聞いていなかったあけはにっこりと微笑んだ。


「あ、呼んだ?」
「いや。ソーディアンがお前に言いたいことがあるらしい」
「ほえ?何~?」
『あ、えっと・・・・私はあのルーティって子が使っていたソーディアンよ。さっきはごめんなさい・・・貴方を傷つけてしまって』


アトワイトはまるで、ルーティの母親のような雰囲気を持っていた。
微かに傷跡の残る首筋を撫でたあけは、またにっこりと笑いながらアトワイトを優しく鞘に納めた。


「大丈夫!ルーティが優しい人だって私、分かってるよ!」
『・・・・ありがとう』
「それよりも、だ。ディムロスが何故アイツの剣になっていたのか、しっかり話をしてもらおうか」
『・・・・・アイツに素質があったからだ』


鋭く重たい声が、僕の質問を叩き斬るように響く。
少し苛立ちを覚えた僕は、ディムロスを睨みつけるようにして言った。


「では質問を変える。どうやってスタンと会い、どうやってスタンをマスターとすることになったのか、全てを話せ」


ぴりぴりと殺気を放ち、脅すように伝える。
ディムロスはそれが気に食わないように見えたが、僕はそれを無視して言葉を待った。

それからしばらくして、ディムロスはめんどくさそうに言葉を口にした。
飛行竜で何が起こったのか。ディムロスはどうしてスタンと契約したのか。


その話を聞きながら、僕はしっかりと、1歩後ろからついてくるあけの姿を瞳に捕えていた。

あけは僕が守るんだ。そう決めた。
だからあけに手を出すやつは、僕が許さない。

そのためなら僕は、実の姉だって傷つけられる。
僕は・・・・。


「リオン」
「?どうした、あけ
「きっとルーティさん、処刑にならないように・・・・私からも言って置くからね!」
「!」


ほら、あけはいつだってそうだ。

僕が悩んでること、困っていること、全てを見抜いて―――――それから、僕を包むような優しい言葉を掛けてくれる。
僕はあけに優しく微笑むと、ソーディアン達に聞こえないよう、小さく口元を動かした。


「気を遣わせたな・・・・・すま「違うでしょ、リオン?」」

「・・・・ふっ。ありがとう、あけ
「うんっ!」


きっと僕は、一生あけには勝てないだろう。
満足げに頷いたあけを見ながら、僕はどうヒューゴに報告するかを考えた。

ヒューゴが何を考えているか僕には分からない。でも僕より腕が立つ者はたくさんいたというのに、僕とあけに盗賊退治を任せたのも、必ず何かあるに違いない。
きっと、きっと何か企んでる。

僕は何をする時もまとわりついてきたヒューゴの存在をかき消すように、目の前に見えてきたダリルシェイドの街を睨みつけた。
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