いらっしゃいませ!
名前変更所
戦いの音が響く。
兵士たちに回復唱術を掛けているあけの姿を見ながらも、僕は苛立ちを剣に込めた。
「無理しないで、マリー。ファーストエイド」
「あぁ・・・・ありがとう!」
「ふん。さっさと倒れた方が身のためだぞ」
敵を挑発しながら、完成させた唱術を敵の足元に浴びせる。
こいつがルーティ・・・・でも今の僕には、関係ない。
僕は少し相手から距離を取ると、静かにあけの方を振り返った。
心配そうにしながら、兵士を回復するあけの姿に、僕は笑う。
そうだ。今の僕にはあけがいる。マリアンだって。
だから僕は躊躇うことなく、切っ先をルーティに向けることが出来た。
「生意気な餓鬼・・・・むかつくわねー!」
「うるさい。ギャアギャア騒ぐな」
「なんですって!?」
挑発に食いかかってきたルーティの刃を、シャルで受け止める。
そして短剣で踏み込むと、一気に剣をルーティの手から弾き飛ばした。
しかし、相手も兵士数人を相手に勝ち残ったやつらだ。
しかもソーディアンマスターが二人もいる。
完全な素人なら3人でも余裕だっただろうが、さすがに“簡単”という戦いではなかった。
でも、負けることは絶対にない。
僕は口元に笑みを浮かべると、火の唱術を唱えていた男に切りかかった。
彼が持っていたソーディアンから声が響き、僕に気づいた男が剣を振りあげる。
「くっ・・・・!」
「甘いっ!」
詠唱していた事もあり、男の体勢はしっかりとしていなかった。
僕が剣に力を加えると簡単に男の膝が崩れ、そこを狙って僕は男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。
「がぁっ・・・・!」
「スタン!」
ルーティが心配そうにスタンの名前を呼ぶが、あれだけ強く蹴り飛ばしたんだ。気絶していないわけがない。
思わず勝ち誇った笑みを浮かべた僕に、無表情のまま赤髪の女が切りかかってくる。
ルーティは後ろで詠唱している。回復か攻撃か・・・・見定める前に、僕はルーティを邪魔するための唱術をぶつけた。
「ストーンブラスト!」
「うぐっ!もう!邪魔しないでよね!」
マリーを相手にしながら、ルーティの唱える唱術を邪魔する。
まるで作業のような戦いに飽きた僕は、一気に蹴りをつけるために1歩思いっきり前に踏み込んだ。
突然力が強くなった僕に驚いたのか、マリーも合わせるようにして剣に力を込める。
振り下ろされた剣を、僕は軽々と受け流した。
そのまま流れるように振り上げた剣が、マリーの左腕を軽く掠める。
「ッ・・・・」
息をのむ音と共に、ツーと流れ落ちる赤い血。
それを見つめていた僕は、いつの間にかルーティの姿がないことに気がついた。
マリーの後ろでは、回復された兵士がスタンを縛りあげている。
僕は一旦後ろにステップすると、視界から消えたルーティを探した。
後ろから攻撃を仕掛けてくるつもりか?
それとも、アイツだけ逃げたのか?
どちらにしろ、厄介なことに代わりは――――――
「動かないで!」
「ル、ルーティ・・・・」
マリーの戸惑ったような声に、僕はルーティの声がした方向を振り向いた。
そしてすぐに、言葉を失った。
「マリーから剣を引いて。あと、スタンを解放して」
「貴様・・・・っ」
「リオン・・・ごめ、ん・・・・」
回復唱術を唱えている時に捕まったのだろう。
強気な口調で僕に命令してきたルーティの腕には、左手から血を流すあけの姿があった。
詠唱中に捕まえようとして、気づいたあけが暴れたのだろう。
変な方向に切り傷がついているあけの腕を見て、僕は冷静にそう判断した。
しかしそんな僕の考えを遮るかのように、ルーティの剣があけの首元に突き付けられた。
「早くしなさいよ、餓鬼」
「ふん・・・・人質のつもりか?」
「何?あんた、自分の部下を切り捨てるつもり?」
「そうだったらどうする?」
声が震えないよう、気をつけて口を開いた。
流れ出る血が思ったより多いのか、あけの表情が段々と青くなっていく。
駄目だ。これ以上時間を掛けたら、僕の動揺が表に出てしまう。
「(くそっ・・・・あけ・・・・)」
『坊ちゃん・・・・』
あけのことになると、どうしても動揺してしまう僕がいる。
それだけ彼女の存在は、僕の中では大きいのだ。
決して言葉にはしないが―――――彼女もきっと、分かってくれている。
「早くって言ってるでしょ!」
「ルーティ!」
マリーの叫びが、何を意味したのか。
それは目の前のルーティを見れば、すぐに分かることだった。
ルーティ自身、人質を取るということはしたくなかったんだろう。
したくなかったというより、怖かったのかもしれない。
力加減を間違えてしまったらしいルーティの剣から、あけの血が薄らと流れ落ちる。
「あ・・・・」
「う、っ・・・・・」
「ごめ、あんた・・・・」
あけの首筋についた、赤い一筋のキズ。
ルーティの手が震えている。力加減を間違えてしまったらしい。
だけど僕にはそんなこと関係なかった――――――呆然としているマリーを蹴り飛ばした僕は、すぐに唱術を唱えた。
「なっ・・・・」
「そいつに手を出したことを後悔するんだな・・・・デモンズランス!」
「きゃぁあぁああっ!?」
いつもなら使わない上級唱術をルーティのみに浴びせ、すぐにあけの手を取って自分の方に引き寄せた。
上級といっても手加減はしてある。気絶したマリーとルーティを兵士に捕えるよう命令し、腕の中にあるあけの温もりにそっと息を吐いた。
「リ、リオン・・・・?」
あけの瞳は、泣きそうなほど潤んでいた。
僕が無理やりあけの顔を上に向かせると、あけは震えた声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
「どうして謝る」
「だって、私が、私が捕まったから・・・・」
「それは唱術を使っている無防備なお前を、使おうとしたコイツが悪い」
「で、でも・・・・」
あけはこう見えても、相当な戦闘技術がある。
レンズがなくても使える巨大な唱術。短剣を駆使した前衛戦闘。僕のパートナーとして動いてきた中で、戦闘面で迷惑を掛けたことがなかった。
だからかも、しれない。
初めての失敗に、恐怖と同時に・・・・僕に迷惑を掛けたという思いが強いのだろう。
そんなあけを可愛いなどと思ってしまった僕は、ある意味重症なのだろうか。
「傷の手当てをするぞ」
「え?あ、わ、私が自分で・・・・・ふ、ぇっ!?」
傷を撫でるように、自分の唇を這わせて―――――それから、小さくヒールを唱えた。
ほんの一瞬の出来事だったが、あけにはもちろん、シャルもそれを見ていて声をあげた。
『ぎゃー!坊ちゃんがあけにセクハラして・・・・』
「うるさい!黙れシャル!」
『いだだだだだ!坊ちゃん!痛い!痛いですよー!』
うるさかったシャルのコアクリスタルをぐりぐりすると、シャルの悲鳴が大きくこだました。
兵士がルーティ達を捕えて連行したのを聞き、絶対逃がすなと命令を口にする。
僕の命令を聞いた兵士は緊張した面持ちで敬礼すると、逃げるようにしてその場を立ち去った。
「リオン・・・・ほんと、ごめんね・・・・」
「あけ。違うだろう?」
「・・・・!」
僕が言いたいことに気づいたのか、あけは恥ずかしそうに目をそらしながら口を開いた。
「ありがと・・・」
その答えに満足し、ふとあけから目をそらすと、気まずそうに話しかけようとしてくる兵士の姿が見えた。
この場面を見られたのが少し恥ずかしくなり、八つ当たりするように兵士に強い口調で当たる。
「・・・・なんだ?報告ならさっさとしろ」
「はっ、す、すみません・・・こちらが、彼らが所持していたソーディアンです」
「そうか・・・・さがれ。これは僕達が運ぶ」
「はい!」
兵士の手から渡された剣は、ルーティとスタンが使っていたものだった。
しかも片方の・・・・スタンが使っていた方の剣は、僕達にも見覚えのあるものだった。
「これは・・・・」
「これってディムロスだよね?飛行竜で運んでた、ソーディアン・・・・」
あけの言葉に、ゆっくりと頷く。
シャルは二人と喋るのが気まずいのか、コアについてるシャッターのようなものを閉じてしまった。
シャルから話は聞いていたが、1000年前は仲間だったのだ。なおさら今の状態は辛いだろう。
僕は特にシャルのことに触れぬまま剣を取ると、アトワイトの方をあけに手渡した。
鈍く輝きを放つコアクリスタルから、女性の声が聴こえ出す。
その声は僕に向けられており、声の主がアトワイトだということにさほど時間は掛からなかった。
『リオン、といったわね』
「・・・・なんだ」
『あの女の子に伝えて頂戴・・・ルーティは、いつもはあんなことしないの。ごめんなさいって・・・・』
「そんなこと、直接本人に言え」
『え・・・・?』
アトワイトが驚きの声を上げる。
無理も無い。普通ソーディアンの声は、マスターとしての素質がある者にしか聞こえないのだから。
ディムロスとアトワイトが驚いてることも気に留めず、話を聞いていなかったあけはにっこりと微笑んだ。
「あ、呼んだ?」
「いや。ソーディアンがお前に言いたいことがあるらしい」
「ほえ?何~?」
『あ、えっと・・・・私はあのルーティって子が使っていたソーディアンよ。さっきはごめんなさい・・・貴方を傷つけてしまって』
アトワイトはまるで、ルーティの母親のような雰囲気を持っていた。
微かに傷跡の残る首筋を撫でたあけは、またにっこりと笑いながらアトワイトを優しく鞘に納めた。
「大丈夫!ルーティが優しい人だって私、分かってるよ!」
『・・・・ありがとう』
「それよりも、だ。ディムロスが何故アイツの剣になっていたのか、しっかり話をしてもらおうか」
『・・・・・アイツに素質があったからだ』
鋭く重たい声が、僕の質問を叩き斬るように響く。
少し苛立ちを覚えた僕は、ディムロスを睨みつけるようにして言った。
「では質問を変える。どうやってスタンと会い、どうやってスタンをマスターとすることになったのか、全てを話せ」
ぴりぴりと殺気を放ち、脅すように伝える。
ディムロスはそれが気に食わないように見えたが、僕はそれを無視して言葉を待った。
それからしばらくして、ディムロスはめんどくさそうに言葉を口にした。
飛行竜で何が起こったのか。ディムロスはどうしてスタンと契約したのか。
その話を聞きながら、僕はしっかりと、1歩後ろからついてくるあけの姿を瞳に捕えていた。
あけは僕が守るんだ。そう決めた。
だからあけに手を出すやつは、僕が許さない。
そのためなら僕は、実の姉だって傷つけられる。
僕は・・・・。
「リオン」
「?どうした、あけ」
「きっとルーティさん、処刑にならないように・・・・私からも言って置くからね!」
「!」
ほら、あけはいつだってそうだ。
僕が悩んでること、困っていること、全てを見抜いて―――――それから、僕を包むような優しい言葉を掛けてくれる。
僕はあけに優しく微笑むと、ソーディアン達に聞こえないよう、小さく口元を動かした。
「気を遣わせたな・・・・・すま「違うでしょ、リオン?」」
「・・・・ふっ。ありがとう、あけ」
「うんっ!」
きっと僕は、一生あけには勝てないだろう。
満足げに頷いたあけを見ながら、僕はどうヒューゴに報告するかを考えた。
ヒューゴが何を考えているか僕には分からない。でも僕より腕が立つ者はたくさんいたというのに、僕とあけに盗賊退治を任せたのも、必ず何かあるに違いない。
きっと、きっと何か企んでる。
僕は何をする時もまとわりついてきたヒューゴの存在をかき消すように、目の前に見えてきたダリルシェイドの街を睨みつけた。
兵士たちに回復唱術を掛けているあけの姿を見ながらも、僕は苛立ちを剣に込めた。
「無理しないで、マリー。ファーストエイド」
「あぁ・・・・ありがとう!」
「ふん。さっさと倒れた方が身のためだぞ」
敵を挑発しながら、完成させた唱術を敵の足元に浴びせる。
こいつがルーティ・・・・でも今の僕には、関係ない。
僕は少し相手から距離を取ると、静かにあけの方を振り返った。
心配そうにしながら、兵士を回復するあけの姿に、僕は笑う。
そうだ。今の僕にはあけがいる。マリアンだって。
だから僕は躊躇うことなく、切っ先をルーティに向けることが出来た。
「生意気な餓鬼・・・・むかつくわねー!」
「うるさい。ギャアギャア騒ぐな」
「なんですって!?」
挑発に食いかかってきたルーティの刃を、シャルで受け止める。
そして短剣で踏み込むと、一気に剣をルーティの手から弾き飛ばした。
しかし、相手も兵士数人を相手に勝ち残ったやつらだ。
しかもソーディアンマスターが二人もいる。
完全な素人なら3人でも余裕だっただろうが、さすがに“簡単”という戦いではなかった。
でも、負けることは絶対にない。
僕は口元に笑みを浮かべると、火の唱術を唱えていた男に切りかかった。
彼が持っていたソーディアンから声が響き、僕に気づいた男が剣を振りあげる。
「くっ・・・・!」
「甘いっ!」
詠唱していた事もあり、男の体勢はしっかりとしていなかった。
僕が剣に力を加えると簡単に男の膝が崩れ、そこを狙って僕は男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。
「がぁっ・・・・!」
「スタン!」
ルーティが心配そうにスタンの名前を呼ぶが、あれだけ強く蹴り飛ばしたんだ。気絶していないわけがない。
思わず勝ち誇った笑みを浮かべた僕に、無表情のまま赤髪の女が切りかかってくる。
ルーティは後ろで詠唱している。回復か攻撃か・・・・見定める前に、僕はルーティを邪魔するための唱術をぶつけた。
「ストーンブラスト!」
「うぐっ!もう!邪魔しないでよね!」
マリーを相手にしながら、ルーティの唱える唱術を邪魔する。
まるで作業のような戦いに飽きた僕は、一気に蹴りをつけるために1歩思いっきり前に踏み込んだ。
突然力が強くなった僕に驚いたのか、マリーも合わせるようにして剣に力を込める。
振り下ろされた剣を、僕は軽々と受け流した。
そのまま流れるように振り上げた剣が、マリーの左腕を軽く掠める。
「ッ・・・・」
息をのむ音と共に、ツーと流れ落ちる赤い血。
それを見つめていた僕は、いつの間にかルーティの姿がないことに気がついた。
マリーの後ろでは、回復された兵士がスタンを縛りあげている。
僕は一旦後ろにステップすると、視界から消えたルーティを探した。
後ろから攻撃を仕掛けてくるつもりか?
それとも、アイツだけ逃げたのか?
どちらにしろ、厄介なことに代わりは――――――
「動かないで!」
「ル、ルーティ・・・・」
マリーの戸惑ったような声に、僕はルーティの声がした方向を振り向いた。
そしてすぐに、言葉を失った。
「マリーから剣を引いて。あと、スタンを解放して」
「貴様・・・・っ」
「リオン・・・ごめ、ん・・・・」
回復唱術を唱えている時に捕まったのだろう。
強気な口調で僕に命令してきたルーティの腕には、左手から血を流すあけの姿があった。
詠唱中に捕まえようとして、気づいたあけが暴れたのだろう。
変な方向に切り傷がついているあけの腕を見て、僕は冷静にそう判断した。
しかしそんな僕の考えを遮るかのように、ルーティの剣があけの首元に突き付けられた。
「早くしなさいよ、餓鬼」
「ふん・・・・人質のつもりか?」
「何?あんた、自分の部下を切り捨てるつもり?」
「そうだったらどうする?」
声が震えないよう、気をつけて口を開いた。
流れ出る血が思ったより多いのか、あけの表情が段々と青くなっていく。
駄目だ。これ以上時間を掛けたら、僕の動揺が表に出てしまう。
「(くそっ・・・・あけ・・・・)」
『坊ちゃん・・・・』
あけのことになると、どうしても動揺してしまう僕がいる。
それだけ彼女の存在は、僕の中では大きいのだ。
決して言葉にはしないが―――――彼女もきっと、分かってくれている。
「早くって言ってるでしょ!」
「ルーティ!」
マリーの叫びが、何を意味したのか。
それは目の前のルーティを見れば、すぐに分かることだった。
ルーティ自身、人質を取るということはしたくなかったんだろう。
したくなかったというより、怖かったのかもしれない。
力加減を間違えてしまったらしいルーティの剣から、あけの血が薄らと流れ落ちる。
「あ・・・・」
「う、っ・・・・・」
「ごめ、あんた・・・・」
あけの首筋についた、赤い一筋のキズ。
ルーティの手が震えている。力加減を間違えてしまったらしい。
だけど僕にはそんなこと関係なかった――――――呆然としているマリーを蹴り飛ばした僕は、すぐに唱術を唱えた。
「なっ・・・・」
「そいつに手を出したことを後悔するんだな・・・・デモンズランス!」
「きゃぁあぁああっ!?」
いつもなら使わない上級唱術をルーティのみに浴びせ、すぐにあけの手を取って自分の方に引き寄せた。
上級といっても手加減はしてある。気絶したマリーとルーティを兵士に捕えるよう命令し、腕の中にあるあけの温もりにそっと息を吐いた。
「リ、リオン・・・・?」
あけの瞳は、泣きそうなほど潤んでいた。
僕が無理やりあけの顔を上に向かせると、あけは震えた声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
「どうして謝る」
「だって、私が、私が捕まったから・・・・」
「それは唱術を使っている無防備なお前を、使おうとしたコイツが悪い」
「で、でも・・・・」
あけはこう見えても、相当な戦闘技術がある。
レンズがなくても使える巨大な唱術。短剣を駆使した前衛戦闘。僕のパートナーとして動いてきた中で、戦闘面で迷惑を掛けたことがなかった。
だからかも、しれない。
初めての失敗に、恐怖と同時に・・・・僕に迷惑を掛けたという思いが強いのだろう。
そんなあけを可愛いなどと思ってしまった僕は、ある意味重症なのだろうか。
「傷の手当てをするぞ」
「え?あ、わ、私が自分で・・・・・ふ、ぇっ!?」
傷を撫でるように、自分の唇を這わせて―――――それから、小さくヒールを唱えた。
ほんの一瞬の出来事だったが、あけにはもちろん、シャルもそれを見ていて声をあげた。
『ぎゃー!坊ちゃんがあけにセクハラして・・・・』
「うるさい!黙れシャル!」
『いだだだだだ!坊ちゃん!痛い!痛いですよー!』
うるさかったシャルのコアクリスタルをぐりぐりすると、シャルの悲鳴が大きくこだました。
兵士がルーティ達を捕えて連行したのを聞き、絶対逃がすなと命令を口にする。
僕の命令を聞いた兵士は緊張した面持ちで敬礼すると、逃げるようにしてその場を立ち去った。
「リオン・・・・ほんと、ごめんね・・・・」
「あけ。違うだろう?」
「・・・・!」
僕が言いたいことに気づいたのか、あけは恥ずかしそうに目をそらしながら口を開いた。
「ありがと・・・」
その答えに満足し、ふとあけから目をそらすと、気まずそうに話しかけようとしてくる兵士の姿が見えた。
この場面を見られたのが少し恥ずかしくなり、八つ当たりするように兵士に強い口調で当たる。
「・・・・なんだ?報告ならさっさとしろ」
「はっ、す、すみません・・・こちらが、彼らが所持していたソーディアンです」
「そうか・・・・さがれ。これは僕達が運ぶ」
「はい!」
兵士の手から渡された剣は、ルーティとスタンが使っていたものだった。
しかも片方の・・・・スタンが使っていた方の剣は、僕達にも見覚えのあるものだった。
「これは・・・・」
「これってディムロスだよね?飛行竜で運んでた、ソーディアン・・・・」
あけの言葉に、ゆっくりと頷く。
シャルは二人と喋るのが気まずいのか、コアについてるシャッターのようなものを閉じてしまった。
シャルから話は聞いていたが、1000年前は仲間だったのだ。なおさら今の状態は辛いだろう。
僕は特にシャルのことに触れぬまま剣を取ると、アトワイトの方をあけに手渡した。
鈍く輝きを放つコアクリスタルから、女性の声が聴こえ出す。
その声は僕に向けられており、声の主がアトワイトだということにさほど時間は掛からなかった。
『リオン、といったわね』
「・・・・なんだ」
『あの女の子に伝えて頂戴・・・ルーティは、いつもはあんなことしないの。ごめんなさいって・・・・』
「そんなこと、直接本人に言え」
『え・・・・?』
アトワイトが驚きの声を上げる。
無理も無い。普通ソーディアンの声は、マスターとしての素質がある者にしか聞こえないのだから。
ディムロスとアトワイトが驚いてることも気に留めず、話を聞いていなかったあけはにっこりと微笑んだ。
「あ、呼んだ?」
「いや。ソーディアンがお前に言いたいことがあるらしい」
「ほえ?何~?」
『あ、えっと・・・・私はあのルーティって子が使っていたソーディアンよ。さっきはごめんなさい・・・貴方を傷つけてしまって』
アトワイトはまるで、ルーティの母親のような雰囲気を持っていた。
微かに傷跡の残る首筋を撫でたあけは、またにっこりと笑いながらアトワイトを優しく鞘に納めた。
「大丈夫!ルーティが優しい人だって私、分かってるよ!」
『・・・・ありがとう』
「それよりも、だ。ディムロスが何故アイツの剣になっていたのか、しっかり話をしてもらおうか」
『・・・・・アイツに素質があったからだ』
鋭く重たい声が、僕の質問を叩き斬るように響く。
少し苛立ちを覚えた僕は、ディムロスを睨みつけるようにして言った。
「では質問を変える。どうやってスタンと会い、どうやってスタンをマスターとすることになったのか、全てを話せ」
ぴりぴりと殺気を放ち、脅すように伝える。
ディムロスはそれが気に食わないように見えたが、僕はそれを無視して言葉を待った。
それからしばらくして、ディムロスはめんどくさそうに言葉を口にした。
飛行竜で何が起こったのか。ディムロスはどうしてスタンと契約したのか。
その話を聞きながら、僕はしっかりと、1歩後ろからついてくるあけの姿を瞳に捕えていた。
あけは僕が守るんだ。そう決めた。
だからあけに手を出すやつは、僕が許さない。
そのためなら僕は、実の姉だって傷つけられる。
僕は・・・・。
「リオン」
「?どうした、あけ」
「きっとルーティさん、処刑にならないように・・・・私からも言って置くからね!」
「!」
ほら、あけはいつだってそうだ。
僕が悩んでること、困っていること、全てを見抜いて―――――それから、僕を包むような優しい言葉を掛けてくれる。
僕はあけに優しく微笑むと、ソーディアン達に聞こえないよう、小さく口元を動かした。
「気を遣わせたな・・・・・すま「違うでしょ、リオン?」」
「・・・・ふっ。ありがとう、あけ」
「うんっ!」
きっと僕は、一生あけには勝てないだろう。
満足げに頷いたあけを見ながら、僕はどうヒューゴに報告するかを考えた。
ヒューゴが何を考えているか僕には分からない。でも僕より腕が立つ者はたくさんいたというのに、僕とあけに盗賊退治を任せたのも、必ず何かあるに違いない。
きっと、きっと何か企んでる。
僕は何をする時もまとわりついてきたヒューゴの存在をかき消すように、目の前に見えてきたダリルシェイドの街を睨みつけた。
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◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
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【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)