Erdbeere ~苺~ 5話 本物の馬鹿 忍者ブログ
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2011年09月19日 (Mon)
連載5話目/リオン視点/少しシリアス/ほのぼの?

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彼女と会ったのは、僕が客員剣士になったばかりのころだった。
見た目は幼く、戸惑った表情のまま、ヒューゴに連れられてきたのを覚えている。


「・・・・そちらの方は?」


僕の家に、僕と同じぐらいの年の子がくるのは初めてだ。
別に嬉しかったわけではないが、気になった僕はそいつの正体をヒューゴに尋ねた。

それを聞いたヒューゴが、楽しそうに少女を僕の方へ突き出す。
そして当たり前だとばかりに、そいつの紹介を始めた。
今から、お前の、“部下だ”と言って。


「僕の、部下・・・?」
「はじめまして!あけと申します!よろしくお願いします!」
「・・・・・」


あけと名乗った彼女は、僕と同い年に見えるのに、雰囲気はまるで違った。
やけに大人びた何かを感じる――――――それが気のせいだろう、と思うには、そう時間はかからなかったが。

あけは無言だった僕に、さっと手を差し出した。
何だこれは?と冷たく返す僕に、にっこりと笑って答える。


「何って、これから一緒に任務こなすんだから!握手しないと!」
「僕はお前のような部下はいらない」
「えー!そりゃあ、役に立てる自身はあんまりないけどさ・・・!」
「なら帰れ。邪魔だ」


気づいたら、ヒューゴはいなくなっていた。
こいつを放置して行ったのはむかつくが、好き勝手言えるようになったのは好都合だ。

僕は彼女から離れるために、思いっきり冷たい目を彼女に向けた。
僕にはシャルしか必要ない。あとは、マリアンだけでいい。


「邪魔だ。消えろ」
「いやだ!」
「・・・・僕はお前を部下にするつもりはない」
「それもいや!私は勝手に君のお手伝いするもん!」


くそ。なんて迷惑な奴なんだ。
離れて欲しいのに、離れてくれない。
大抵の奴らは、これで怯えて逃げていくというのに。


「僕はお前のように、慣れ慣れしいやつは嫌いだ」
「私は君みたいな強くて賢そうな子、好きだよ!」
「知るか!お前に聞いてない!」
「えー!」


軽くあけのペースに流されそうになりながらも、僕はあけを無視することにした。
屋敷に連れて来られ、ほぼ投げ捨てられた状態のあけは、放置しようとする僕を見てさすがに動揺を見せる。

それに気づいたシャルが、「す、少しはお話を・・・」と言っていたが、僕はそれすらも無視した。 ・・・・いや、無視するつもりだった。彼女が口を開くまでは。


「ねぇ!」
「・・・・」
「ねー!その剣の人は、名前なんて言うの?ついでに君も教えてよ!」
「!?お前、シャルの声が・・・」


こいつ、聞こえている?
ソーディアンの資格があるのか?
ヒューゴが連れてきたからには普通の人間ではないと思っていたが。まさか。


『僕の声が聞こえてるんだね!やぁ、僕はシャルティエ!』
「おい!シャル・・・!」
「シャルティエ?シャル、でいいのかな!で、君は?」
「・・・・・」


何故だろう。
このマイペースさというか、自由さというか・・・・迷惑なものに振り回されているのは事実なはずなのに。

僕はそれを、“嫌だ”と感じてはいなかった。
何故かはわからない。いつもなら吐き気がするぐらいに嫌なはずだ。

馴れ合いなんて、僕には必要ない。
仲間も、味方も、マリアンとシャルだけで十分なんだ。
そう心に言い聞かせる僕に、あけはにっこりと笑ってまた手を差し伸べた。


「私はあけ!君も名前を教えてよ!」
「・・・・」
「むー!」
「リオン」


「リオン・マグナスだ」











あの日、自己紹介してからあけはべったり僕をついてくるようになった。
理由は「それしかやることないから」らしい。

仕事でもしろ。この馬鹿。
そんなことを心の中で思いつつ、僕は任務の紙を開いた。


「・・・・!」


そこに書かれていたのは、あけとのペア任務。
しかも今まで担当したことのない、大規模な任務だった。
僕としての名をあげるチャンスでもあるが―――――失敗の恐怖も大きい。

しかも、だ。
こいつまで一緒なんて。
王が自ら下したとされる任務には、あけも客員剣士だと書かれていた。

こいつ、いつの間にそんなものに?
見た目はただの子供にしか見えないが、それだけ強いのだろうか?


「今日の任務は、私とリオンでペアだよね!」
「誰がお前を連れて行くといった?」
「でも、王様からだよー?逆らえないでしょ!」
「くっ・・・・!」


やっぱりコイツは、ただの邪魔にしか見えない。
僕はさっさと身支度を済ませると、任務の内容を見ながら無言で屋敷を出た。
あけも無言で、僕の後をついてくる。

任務の内容は、最近ダリルシェイドを騒がせている盗賊の情報収集だった。
殲滅任務ではなく情報収集任務ということは、まだこの盗賊がどれだけの規模なのか、どういった集団なのかが分かっていないとみえる。

それだけ、任務の難易度も上がる。
失敗は許されない・・・・絶対、これだけは。


「シャル」
『僕が坊ちゃんを、お守りします!』
「ああ・・・」


マリアンを守りたい。認められたい。
そのためには、僕自身で認められるしかない。
親の・・・・ヒューゴの名前に、縛られないように。

この任務は、その道への第一歩以上のものとなるだろう。
それぐらい大きな、重要な任務だ。
僕は後ろからついてくるあけを睨むと、脅すように低い声を出した。


「おい」
「ほえ!」
「僕の邪魔になってみろ。僕はお前を消す・・・・任務に失敗したら、今度こそお前を屋敷から追い出す!」
「っ・・・・!」


さすがのあけも、僕の気迫に押されたのだろう。
いつもは真っ直ぐ先を見ている瞳が揺らぎ、僕の姿をゆがませた。


「任務任務って・・・・リオンが倒れちゃったりしたら、どうするのさ!」
「そんなの知らない。任務が優先だ。無駄なことを考えるな」
「・・・分かったよ!君の言うとおりにする・・・」
「・・・」


言うとおりにする。

その言葉が、他の奴なら「部下からおります」という意味と同じだろう。
だがあけは、僕の考えをすり抜けていく。
揺らいでいた瞳はどこへやら、にっこりとほほ笑んだあけがそこにはいた。

きらめく短剣を、構えながら。
自信たっぷりに笑う彼女は、どこか優しく感じられた。


「だいじょーぶ!リオンの背中は私が守ってあげるよ!」
「誰がお前なんかに任せるか」
「えー!」


何故だ?
何故こいつは、僕から離れてくれない?
今までの奴は全員、僕から離れていった。

僕がどれだけ貶しても、冷たくしても。
あけは楽しそうに笑い続け、僕のそばを歩く。

どうしてだろう。
安心し始めている?この会話に流され始めている?
僕は必死にその考えを跳ね除け、紙に書かれていた盗賊のアジトへと向かった。





イライラする。


なぜ、だろう。



初めて会うはずなのに、まだほとんど会話も交わしてないのに。
何故か心を・・・・見られているようで。






盗賊のアジトと思われる情報が書かれた場所についたころは、少し薄暗くなっていた。
アジト・・・と思わしきものはあるが、確かに規模は分からない。
どうやって情報を集めるか悩んでいると、少し表情を変えたあけが口を開いた。


「んー!ダリルシェイドに被害が出てるみたいだし、ただの物盗みって考えもいいけど・・・もしかすると、テロ的な手段の可能性もあるね・・・!」
「・・・・そうだな」


珍しくまともな事を言う。
そう思ってた矢先、僕が返事したことが嬉しかったのか、ニヤニヤしながら僕の方を見てくるあけの顔が目に入った。

やっぱり、ただの馬鹿だ。


「やっとまともに話聞いてくれた!」
「お前が珍しくまともな事を言ったからな」
「珍しくないよ!失礼なっ!」
「ふん、どうだか・・・・」


言い放つ言葉と共に、またあけの表情が険しくなる。
本当にこいつ、表情だけは見てて飽きないな。
そう思いながらもう一度紙に目を移した瞬間、あけの瞳が恐怖に揺らいでいるのを見た。

始めて見る、表情。
僕は自分自身の意識が遠のいていることに、その後で気づくことが出来た。


「あんた!なにすんのよ・・・!くっ・・・!」
『坊ちゃん!ぼっちゃーーーん!』


ほら、やっぱりロクなことにならない。
目が覚めたら、必ずこいつを部下から外してやろうと、僕は後頭部の痛みに耐えながら意識を飛ばした。

最後に見たのは、僕を殴ったであろう盗賊の下品な笑み。
そしてあけの、怒り狂った表情だった。






なぜ、あいつは、怒っていた?




やられたのは、僕の油断。



僕はあいつを仲間と思ってやってすらいないというのに。
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