いらっしゃいませ!
名前変更所
彼女と会ったのは、僕が客員剣士になったばかりのころだった。
見た目は幼く、戸惑った表情のまま、ヒューゴに連れられてきたのを覚えている。
「・・・・そちらの方は?」
僕の家に、僕と同じぐらいの年の子がくるのは初めてだ。
別に嬉しかったわけではないが、気になった僕はそいつの正体をヒューゴに尋ねた。
それを聞いたヒューゴが、楽しそうに少女を僕の方へ突き出す。
そして当たり前だとばかりに、そいつの紹介を始めた。
今から、お前の、“部下だ”と言って。
「僕の、部下・・・?」
「はじめまして!あけと申します!よろしくお願いします!」
「・・・・・」
あけと名乗った彼女は、僕と同い年に見えるのに、雰囲気はまるで違った。
やけに大人びた何かを感じる――――――それが気のせいだろう、と思うには、そう時間はかからなかったが。
あけは無言だった僕に、さっと手を差し出した。
何だこれは?と冷たく返す僕に、にっこりと笑って答える。
「何って、これから一緒に任務こなすんだから!握手しないと!」
「僕はお前のような部下はいらない」
「えー!そりゃあ、役に立てる自身はあんまりないけどさ・・・!」
「なら帰れ。邪魔だ」
気づいたら、ヒューゴはいなくなっていた。
こいつを放置して行ったのはむかつくが、好き勝手言えるようになったのは好都合だ。
僕は彼女から離れるために、思いっきり冷たい目を彼女に向けた。
僕にはシャルしか必要ない。あとは、マリアンだけでいい。
「邪魔だ。消えろ」
「いやだ!」
「・・・・僕はお前を部下にするつもりはない」
「それもいや!私は勝手に君のお手伝いするもん!」
くそ。なんて迷惑な奴なんだ。
離れて欲しいのに、離れてくれない。
大抵の奴らは、これで怯えて逃げていくというのに。
「僕はお前のように、慣れ慣れしいやつは嫌いだ」
「私は君みたいな強くて賢そうな子、好きだよ!」
「知るか!お前に聞いてない!」
「えー!」
軽くあけのペースに流されそうになりながらも、僕はあけを無視することにした。
屋敷に連れて来られ、ほぼ投げ捨てられた状態のあけは、放置しようとする僕を見てさすがに動揺を見せる。
それに気づいたシャルが、「す、少しはお話を・・・」と言っていたが、僕はそれすらも無視した。 ・・・・いや、無視するつもりだった。彼女が口を開くまでは。
「ねぇ!」
「・・・・」
「ねー!その剣の人は、名前なんて言うの?ついでに君も教えてよ!」
「!?お前、シャルの声が・・・」
こいつ、聞こえている?
ソーディアンの資格があるのか?
ヒューゴが連れてきたからには普通の人間ではないと思っていたが。まさか。
『僕の声が聞こえてるんだね!やぁ、僕はシャルティエ!』
「おい!シャル・・・!」
「シャルティエ?シャル、でいいのかな!で、君は?」
「・・・・・」
何故だろう。
このマイペースさというか、自由さというか・・・・迷惑なものに振り回されているのは事実なはずなのに。
僕はそれを、“嫌だ”と感じてはいなかった。
何故かはわからない。いつもなら吐き気がするぐらいに嫌なはずだ。
馴れ合いなんて、僕には必要ない。
仲間も、味方も、マリアンとシャルだけで十分なんだ。
そう心に言い聞かせる僕に、あけはにっこりと笑ってまた手を差し伸べた。
「私はあけ!君も名前を教えてよ!」
「・・・・」
「むー!」
「リオン」
「リオン・マグナスだ」
あの日、自己紹介してからあけはべったり僕をついてくるようになった。
理由は「それしかやることないから」らしい。
仕事でもしろ。この馬鹿。
そんなことを心の中で思いつつ、僕は任務の紙を開いた。
「・・・・!」
そこに書かれていたのは、あけとのペア任務。
しかも今まで担当したことのない、大規模な任務だった。
僕としての名をあげるチャンスでもあるが―――――失敗の恐怖も大きい。
しかも、だ。
こいつまで一緒なんて。
王が自ら下したとされる任務には、あけも客員剣士だと書かれていた。
こいつ、いつの間にそんなものに?
見た目はただの子供にしか見えないが、それだけ強いのだろうか?
「今日の任務は、私とリオンでペアだよね!」
「誰がお前を連れて行くといった?」
「でも、王様からだよー?逆らえないでしょ!」
「くっ・・・・!」
やっぱりコイツは、ただの邪魔にしか見えない。
僕はさっさと身支度を済ませると、任務の内容を見ながら無言で屋敷を出た。
あけも無言で、僕の後をついてくる。
任務の内容は、最近ダリルシェイドを騒がせている盗賊の情報収集だった。
殲滅任務ではなく情報収集任務ということは、まだこの盗賊がどれだけの規模なのか、どういった集団なのかが分かっていないとみえる。
それだけ、任務の難易度も上がる。
失敗は許されない・・・・絶対、これだけは。
「シャル」
『僕が坊ちゃんを、お守りします!』
「ああ・・・」
マリアンを守りたい。認められたい。
そのためには、僕自身で認められるしかない。
親の・・・・ヒューゴの名前に、縛られないように。
この任務は、その道への第一歩以上のものとなるだろう。
それぐらい大きな、重要な任務だ。
僕は後ろからついてくるあけを睨むと、脅すように低い声を出した。
「おい」
「ほえ!」
「僕の邪魔になってみろ。僕はお前を消す・・・・任務に失敗したら、今度こそお前を屋敷から追い出す!」
「っ・・・・!」
さすがのあけも、僕の気迫に押されたのだろう。
いつもは真っ直ぐ先を見ている瞳が揺らぎ、僕の姿をゆがませた。
「任務任務って・・・・リオンが倒れちゃったりしたら、どうするのさ!」
「そんなの知らない。任務が優先だ。無駄なことを考えるな」
「・・・分かったよ!君の言うとおりにする・・・」
「・・・」
言うとおりにする。
その言葉が、他の奴なら「部下からおります」という意味と同じだろう。
だがあけは、僕の考えをすり抜けていく。
揺らいでいた瞳はどこへやら、にっこりとほほ笑んだあけがそこにはいた。
きらめく短剣を、構えながら。
自信たっぷりに笑う彼女は、どこか優しく感じられた。
「だいじょーぶ!リオンの背中は私が守ってあげるよ!」
「誰がお前なんかに任せるか」
「えー!」
何故だ?
何故こいつは、僕から離れてくれない?
今までの奴は全員、僕から離れていった。
僕がどれだけ貶しても、冷たくしても。
あけは楽しそうに笑い続け、僕のそばを歩く。
どうしてだろう。
安心し始めている?この会話に流され始めている?
僕は必死にその考えを跳ね除け、紙に書かれていた盗賊のアジトへと向かった。
イライラする。
なぜ、だろう。
初めて会うはずなのに、まだほとんど会話も交わしてないのに。
何故か心を・・・・見られているようで。
盗賊のアジトと思われる情報が書かれた場所についたころは、少し薄暗くなっていた。
アジト・・・と思わしきものはあるが、確かに規模は分からない。
どうやって情報を集めるか悩んでいると、少し表情を変えたあけが口を開いた。
「んー!ダリルシェイドに被害が出てるみたいだし、ただの物盗みって考えもいいけど・・・もしかすると、テロ的な手段の可能性もあるね・・・!」
「・・・・そうだな」
珍しくまともな事を言う。
そう思ってた矢先、僕が返事したことが嬉しかったのか、ニヤニヤしながら僕の方を見てくるあけの顔が目に入った。
やっぱり、ただの馬鹿だ。
「やっとまともに話聞いてくれた!」
「お前が珍しくまともな事を言ったからな」
「珍しくないよ!失礼なっ!」
「ふん、どうだか・・・・」
言い放つ言葉と共に、またあけの表情が険しくなる。
本当にこいつ、表情だけは見てて飽きないな。
そう思いながらもう一度紙に目を移した瞬間、あけの瞳が恐怖に揺らいでいるのを見た。
始めて見る、表情。
僕は自分自身の意識が遠のいていることに、その後で気づくことが出来た。
「あんた!なにすんのよ・・・!くっ・・・!」
『坊ちゃん!ぼっちゃーーーん!』
ほら、やっぱりロクなことにならない。
目が覚めたら、必ずこいつを部下から外してやろうと、僕は後頭部の痛みに耐えながら意識を飛ばした。
最後に見たのは、僕を殴ったであろう盗賊の下品な笑み。
そしてあけの、怒り狂った表情だった。
なぜ、あいつは、怒っていた?
やられたのは、僕の油断。
僕はあいつを仲間と思ってやってすらいないというのに。
見た目は幼く、戸惑った表情のまま、ヒューゴに連れられてきたのを覚えている。
「・・・・そちらの方は?」
僕の家に、僕と同じぐらいの年の子がくるのは初めてだ。
別に嬉しかったわけではないが、気になった僕はそいつの正体をヒューゴに尋ねた。
それを聞いたヒューゴが、楽しそうに少女を僕の方へ突き出す。
そして当たり前だとばかりに、そいつの紹介を始めた。
今から、お前の、“部下だ”と言って。
「僕の、部下・・・?」
「はじめまして!あけと申します!よろしくお願いします!」
「・・・・・」
あけと名乗った彼女は、僕と同い年に見えるのに、雰囲気はまるで違った。
やけに大人びた何かを感じる――――――それが気のせいだろう、と思うには、そう時間はかからなかったが。
あけは無言だった僕に、さっと手を差し出した。
何だこれは?と冷たく返す僕に、にっこりと笑って答える。
「何って、これから一緒に任務こなすんだから!握手しないと!」
「僕はお前のような部下はいらない」
「えー!そりゃあ、役に立てる自身はあんまりないけどさ・・・!」
「なら帰れ。邪魔だ」
気づいたら、ヒューゴはいなくなっていた。
こいつを放置して行ったのはむかつくが、好き勝手言えるようになったのは好都合だ。
僕は彼女から離れるために、思いっきり冷たい目を彼女に向けた。
僕にはシャルしか必要ない。あとは、マリアンだけでいい。
「邪魔だ。消えろ」
「いやだ!」
「・・・・僕はお前を部下にするつもりはない」
「それもいや!私は勝手に君のお手伝いするもん!」
くそ。なんて迷惑な奴なんだ。
離れて欲しいのに、離れてくれない。
大抵の奴らは、これで怯えて逃げていくというのに。
「僕はお前のように、慣れ慣れしいやつは嫌いだ」
「私は君みたいな強くて賢そうな子、好きだよ!」
「知るか!お前に聞いてない!」
「えー!」
軽くあけのペースに流されそうになりながらも、僕はあけを無視することにした。
屋敷に連れて来られ、ほぼ投げ捨てられた状態のあけは、放置しようとする僕を見てさすがに動揺を見せる。
それに気づいたシャルが、「す、少しはお話を・・・」と言っていたが、僕はそれすらも無視した。 ・・・・いや、無視するつもりだった。彼女が口を開くまでは。
「ねぇ!」
「・・・・」
「ねー!その剣の人は、名前なんて言うの?ついでに君も教えてよ!」
「!?お前、シャルの声が・・・」
こいつ、聞こえている?
ソーディアンの資格があるのか?
ヒューゴが連れてきたからには普通の人間ではないと思っていたが。まさか。
『僕の声が聞こえてるんだね!やぁ、僕はシャルティエ!』
「おい!シャル・・・!」
「シャルティエ?シャル、でいいのかな!で、君は?」
「・・・・・」
何故だろう。
このマイペースさというか、自由さというか・・・・迷惑なものに振り回されているのは事実なはずなのに。
僕はそれを、“嫌だ”と感じてはいなかった。
何故かはわからない。いつもなら吐き気がするぐらいに嫌なはずだ。
馴れ合いなんて、僕には必要ない。
仲間も、味方も、マリアンとシャルだけで十分なんだ。
そう心に言い聞かせる僕に、あけはにっこりと笑ってまた手を差し伸べた。
「私はあけ!君も名前を教えてよ!」
「・・・・」
「むー!」
「リオン」
「リオン・マグナスだ」
あの日、自己紹介してからあけはべったり僕をついてくるようになった。
理由は「それしかやることないから」らしい。
仕事でもしろ。この馬鹿。
そんなことを心の中で思いつつ、僕は任務の紙を開いた。
「・・・・!」
そこに書かれていたのは、あけとのペア任務。
しかも今まで担当したことのない、大規模な任務だった。
僕としての名をあげるチャンスでもあるが―――――失敗の恐怖も大きい。
しかも、だ。
こいつまで一緒なんて。
王が自ら下したとされる任務には、あけも客員剣士だと書かれていた。
こいつ、いつの間にそんなものに?
見た目はただの子供にしか見えないが、それだけ強いのだろうか?
「今日の任務は、私とリオンでペアだよね!」
「誰がお前を連れて行くといった?」
「でも、王様からだよー?逆らえないでしょ!」
「くっ・・・・!」
やっぱりコイツは、ただの邪魔にしか見えない。
僕はさっさと身支度を済ませると、任務の内容を見ながら無言で屋敷を出た。
あけも無言で、僕の後をついてくる。
任務の内容は、最近ダリルシェイドを騒がせている盗賊の情報収集だった。
殲滅任務ではなく情報収集任務ということは、まだこの盗賊がどれだけの規模なのか、どういった集団なのかが分かっていないとみえる。
それだけ、任務の難易度も上がる。
失敗は許されない・・・・絶対、これだけは。
「シャル」
『僕が坊ちゃんを、お守りします!』
「ああ・・・」
マリアンを守りたい。認められたい。
そのためには、僕自身で認められるしかない。
親の・・・・ヒューゴの名前に、縛られないように。
この任務は、その道への第一歩以上のものとなるだろう。
それぐらい大きな、重要な任務だ。
僕は後ろからついてくるあけを睨むと、脅すように低い声を出した。
「おい」
「ほえ!」
「僕の邪魔になってみろ。僕はお前を消す・・・・任務に失敗したら、今度こそお前を屋敷から追い出す!」
「っ・・・・!」
さすがのあけも、僕の気迫に押されたのだろう。
いつもは真っ直ぐ先を見ている瞳が揺らぎ、僕の姿をゆがませた。
「任務任務って・・・・リオンが倒れちゃったりしたら、どうするのさ!」
「そんなの知らない。任務が優先だ。無駄なことを考えるな」
「・・・分かったよ!君の言うとおりにする・・・」
「・・・」
言うとおりにする。
その言葉が、他の奴なら「部下からおります」という意味と同じだろう。
だがあけは、僕の考えをすり抜けていく。
揺らいでいた瞳はどこへやら、にっこりとほほ笑んだあけがそこにはいた。
きらめく短剣を、構えながら。
自信たっぷりに笑う彼女は、どこか優しく感じられた。
「だいじょーぶ!リオンの背中は私が守ってあげるよ!」
「誰がお前なんかに任せるか」
「えー!」
何故だ?
何故こいつは、僕から離れてくれない?
今までの奴は全員、僕から離れていった。
僕がどれだけ貶しても、冷たくしても。
あけは楽しそうに笑い続け、僕のそばを歩く。
どうしてだろう。
安心し始めている?この会話に流され始めている?
僕は必死にその考えを跳ね除け、紙に書かれていた盗賊のアジトへと向かった。
イライラする。
なぜ、だろう。
初めて会うはずなのに、まだほとんど会話も交わしてないのに。
何故か心を・・・・見られているようで。
盗賊のアジトと思われる情報が書かれた場所についたころは、少し薄暗くなっていた。
アジト・・・と思わしきものはあるが、確かに規模は分からない。
どうやって情報を集めるか悩んでいると、少し表情を変えたあけが口を開いた。
「んー!ダリルシェイドに被害が出てるみたいだし、ただの物盗みって考えもいいけど・・・もしかすると、テロ的な手段の可能性もあるね・・・!」
「・・・・そうだな」
珍しくまともな事を言う。
そう思ってた矢先、僕が返事したことが嬉しかったのか、ニヤニヤしながら僕の方を見てくるあけの顔が目に入った。
やっぱり、ただの馬鹿だ。
「やっとまともに話聞いてくれた!」
「お前が珍しくまともな事を言ったからな」
「珍しくないよ!失礼なっ!」
「ふん、どうだか・・・・」
言い放つ言葉と共に、またあけの表情が険しくなる。
本当にこいつ、表情だけは見てて飽きないな。
そう思いながらもう一度紙に目を移した瞬間、あけの瞳が恐怖に揺らいでいるのを見た。
始めて見る、表情。
僕は自分自身の意識が遠のいていることに、その後で気づくことが出来た。
「あんた!なにすんのよ・・・!くっ・・・!」
『坊ちゃん!ぼっちゃーーーん!』
ほら、やっぱりロクなことにならない。
目が覚めたら、必ずこいつを部下から外してやろうと、僕は後頭部の痛みに耐えながら意識を飛ばした。
最後に見たのは、僕を殴ったであろう盗賊の下品な笑み。
そしてあけの、怒り狂った表情だった。
なぜ、あいつは、怒っていた?
やられたのは、僕の油断。
僕はあいつを仲間と思ってやってすらいないというのに。
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★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)