いらっしゃいませ!
名前変更所
あの任務の後から、僕は少しずつあけと仕事をこなすようになった。
別にアイツを認めたわけじゃない。腕では役に立つからだ。
なんて、自分に言い訳する日々が続く。
その間もあけは、どれだけ僕が冷たくあたろうとも僕から離れなかった。
罵倒に怒り、ちょっとした冗談にすぐ騙され、冷たい言葉に笑顔を向ける。
「はいこれ!」
「・・・・なんだ、これは?」
「イヤリング!リオンへの、誕生日プレゼントだよ!」
僕でさえ忘れていた誕生日の日に、彼女はプレゼントをくれた。
別に嬉しくなんかないが、着けてやらないこともない。
「リオン!がーんばれっ!がーんばれっ!」
「あ、あいつ、馬鹿かっ!あんな大声で・・・!」
『でも坊ちゃん・・・・約束通り、あけは見に来てくれましたよ!かっこいいところ見せないといけませんね!』
「ふん・・・言われなくとも」
誰も応援に来いなんて、頼んでないぞ?
「りーおーんー!」
「っ!?うるさい!急に抱き着いてくるな!」
「うへへ・・・!ヒール!」
「・・・・!」
「私に怪我を隠すなんて、1000年早いわい!」
「チッ・・・」
すぐに、辛い表情も、嫌な事もばれた。
そしてそれを僕の罵倒など関係なしに、彼女は癒してくれた。
僕は、日に日に彼女を
「あけ」
「どうしたのー?」
「・・・・なんでもない」
求め始めて、しまっていたのだろう。
それが僕の心の中で、はっきりとわかったのは
1年に1度恒例行事のように行われる、城での舞踏会に参加したときだった。
毎年僕は、パートナーを連れて行かない。
そのせいで何人もの貴族の女性に絡まれたが、得体の知れない人をパートナーにして連れて行くよりはマシだった。
今年も、そのパーティーの招待状が僕のもとへ届いた。
こういう行事は嫌いなだけに、大きなため息が自然と出る。
「はぁ・・・」
『坊ちゃん、どうしたんです?』
「舞踏会の招待状だ」
『なるほど・・・・』
招待状なんて破いてやりたいが、王様の招待とあってはそうもいかない。
護衛もしなければならないだろう。これも一つの仕事だ。
そう、思うしかない。
「はぁ・・・」
「どーしたの!ため息なんかついちゃって~!」
「あけ・・・」
「あ、リオンも貰ったの?それ!」
「・・・お前も貰ったのか」
確かに、あけも客員剣士だ。
招待状が来るのも頷ける・・・だが。
「お前、踊れるのか?」
「うえっ・・・!踊れなきゃ、だめ?」
「・・・当たり前だろう」
たとえ嫌でも、付き合いで踊らなければならないこともあるだろう。
無理だと駄々をこねているあけを尻目に、僕はもう一度招待状の中身を確認する。
そしてある1文に目を止めると、僕はすぐにあけの方へ歩み寄った。
“ぜひ、パートナーとご一緒に”
いつもは無視するその1文を、何故か僕は無視することが出来なかった。
「おい」
「うん?」
「僕のパートナーとして、舞踏会へ出ろ」
「へっ?」
『さすが坊ちゃん!大胆な行動に・・・ぎゃああ!』
無駄口を叩いたシャルを、すかさず地面へ叩きつける。
一方あけは、叩きつけられたシャルを心配する余裕も無さそうだった。
顔を真っ赤にしたまま、招待状をぎゅっと握りしめている。
なんて、顔をするんだこいつは。
逆に意味もなく、ただ貴族の女たちに囲まれるのを防止できると思って誘った僕が、恥ずかしくなってきた。
「い、言っておくが、意味はないぞ!貴族の女たちに囲まれるのが面倒だから、お前を選んだだけだ!」
「で・・・でも、私なんかがリオンの、パートナーなんて・・・」
「・・・・お前の方が、そこらの奴らよりは数十倍ましだ」
その言葉に、不安そうだったあけの顔が一瞬で明るくなる。
だが僕は容赦なく、言葉をつづけた。
「言っておくが、僕の足を踏んでみろ。倍返しにしてやるからな」
「うええー!踊れないってば!」
「舞踏会まであと3日ある。それまでに覚えろ」
「む、むりー!」
ころころと変わる、あけの表情。
涙目になって狼狽えるあけを見ながら、僕は自然と笑っていた。
僕自身も、気づかないほど、自然に。
「おい、さっさと準備をしろ!」
「ま、まって・・・今着替えてるのー!」
「お待ちくださいリオン様。今すぐ、終わりますから」
舞踏会が始まる、ぎりぎりの時間。
いつもなら会場についている僕は、まだ屋敷の中にいた。
原因は、この扉の奥にいる一人・・・・いや、二人。
「ああもう、どれもこれも似合うから、やりがいがあるわね」
「マ、マリアンさん、あの、派手すぎます・・・!」
いや、やっぱり一人かもしれない。
この屋敷にあけほどの若い少女が来るのは珍しく、マリアンが興奮して着せ替え人形状態にしているのだ。
あんなマリアン、僕だって見るのは初めてだ。
楽しいのなら、別の文句は無いのだが。
少しだけ、着せ替え人形にされているあけを哀れむ。
「マリアン、もうそろそろ時間だ」
「もう少し着させたかったけど・・・・うん!これが1番似合うわ!」
「あ、ありが・・・と、マリアン・・・」
扉から聞こえてくる、元気なマリアンの声と、疲れ果てたあけの声。
それと同時に扉が勢いよく開けられ、中から満面の笑みを浮かべたマリアンが出てきた。
マリアンの後ろに、少しだけ黒色の布が見える。
どうやら、黒のドレスを着ているらしい。
だが、当の本人が恥ずかしがって出てこない。
「おい、行くぞ・・・あけ」
「わ・・・わ、笑わないっ?」
「たぶんな」
『僕は笑わないよ!』
「あ、ありがと、シャル・・・!」
シャルの言葉に元気づけられたのか、あけが恐る恐るマリアンの後ろから顔を出す。
綺麗なショートヘアの黒髪につけられた、紫色のティアラ。
そして動きやすさを考慮したのか、ミニスカートタイプの黒いドレス。
本人もミニスカなのが気になるらしく、足を一生懸命隠そうとしていた。
だが化粧などもしてあるせいか、いつもより大人らしく見え、その仕草さえも僕の心を波打たせる。
「っ・・・・」
「リ、リオン?やっぱり、似合ってなかったかな・・・?」
「いや・・・」
『違いますよ!むしろ似合いすぎて言葉が・・・ぐふっ!』
すかさず、シャルのコアクリスタルに爪を立てる。
そして僕はこれ以上動揺がばれぬよう、あけに背を向けた。
だがあけは、僕の小さな抵抗すら崩していく。
「リオン・・・なんか、いつもより大人っぽいね!」
「・・・・お前に言われても嬉しくない」
「がーん!」
いつも通りの会話をしつつ、正装に身を包んだあけの手を取った。
楽しそうに笑うマリアンに見送られ、僕はさっさと城へと向かう。
無言のまま引っ張られるあけは、不思議そうに首をかしげた。
「ど、どうしたの?そんなに急がなくても・・・!」
「うるさい。お前のせいで遅刻ぎりぎりなんだぞ」
嘘だ。
本当は、歩いていても間に合う。
でも、今の僕にはその余裕が無かった。
時間ではなく、心の余裕が。
今まで自分自身のことを褒められて、ここまで動揺したことはなかった。
気づきたくない。認めたくない。
でも認めるしかない・・・・たった1年弱で、ここまであけの影響を強く受けるようになってしまったのだから。
「どうしたの?リオン」
「今日は僕のパートナーなんだ。下手するなよ」
「うるさいなー!分かってますよーっだ!」
僕の冷たい言葉にも、あけは笑顔のままだ。
それがどこか嬉しくもあり、めんどくさくもある。
城の入り口まで来ると、すぐに兵士が迎えに来た。
敬礼をし、僕たちの名前を呼ぶ。
周りの視線が、少しだけ集まったような気がした。
「お待ちしておりました、リオン様。あけ様」
僕はその兵士の隣を、走り去るように通り過ぎた。
後ろであけが、「すみません」と言いながら会釈するのが見える。
「あんまり、目立つなよ」
「どーだか。リオンが入ったら一瞬で目立っちゃうんじゃないの?」
ガチャリ。
扉が開かれ、彼女の言うとおり、僕は一瞬にして注目を集めた。
この視線が嫌いだ――――――でも今日は去年と違い、あけがいる。
視線を集めることになっても、あれやこれやと話しかけられることはなくなるだろう。
「あけ、僕のそばを離れるな」
「えへへ!なんかその台詞照れる~!」
「ここで潰されたいのか?」
キンッとわざとらしく音を立ててシャルを抜けば、冗談で笑っていたあけが真っ青になって首を振った。
「ままままま、まぁ、お、落ち着いて!ね!せっかくなんだし、何か飲も!」
怒らせたのは誰だ、と。
思わず声を上げそうになったが、周りの視線を感じて飲み込む。
本当に、この視線は嫌だ。
突き刺さるような、僕の地位と立場だけを見る目線。
今まで言い寄ってきた貴族の奴らも、踊りに誘ってきた女も皆そうだった。
どうせみんな、僕につけ込もうとするだけなんだ。
僕は気を紛らわすために、飲み物を取りに行ったあけの背中を探した。
「・・・・」
あけは僕が見ていることに気付くと、にこっと笑ってジュースを静かに持ってきた。
こぼさないようにそーっと歩く姿を、はらはらしながら見守る。
「はい!リオンの!」
「あぁ・・・・」
「どうしたの?顔色、悪いよ?」
大丈夫?と首を傾げるあけから、飲み物を受け取る。
それを一口だけ含んだところで王の所へ向かっていないことを思い出し、慌ただしく飲み物を突き返した。
「はれ、美味しくなかった?」
「違う。僕は少し挨拶へ行ってくる」
「あ・・・そだよね!じゃあ私は・・・・」
「大人しく、ここで待っていろ」
「はいはいー!」
ぶすーっとした表情のあけに、僕はシャルを投げ渡した。
「預かっておけ。邪魔だからな」
『がーん!』
僕があけにシャルを預けたのには、理由があった。
一つ目の理由は言った通りだ。正装に剣を刺して歩くのは邪魔すぎる。
もう一つは、あけの監視。
アイツは馬鹿だ。放っておけば歩いて遊びに行くのは目に見えていた。
だから実質上、シャルを監視役につけたのだ。
「まったく、世話が焼ける」
挨拶を済ませた僕は、ダンスの誘いを断りながらあけの元へと戻った。
あけが居なくなったのをチャンスだとばかりに、たくさんの人が僕に声をかけてくる。
視線以上に、気持ちが悪くなる。
「あけ?」
あけが座っていた場所に戻ってくると、そこにはあけの姿は無かった。
シャルが居ながらいなくなるとは・・・・後でシャルも説教だな。
そんなことを考えながら椅子の下を見ると、先ほど僕に持ってきてくれた飲み物が無造作に落ちていた。
僕はそれをそっと拾い上げ、ただ落としただけとは思いにくいガラスの状態に目を細めた。
「あけ・・・?」
鼓動が、早くなる。
嫌な予感だけが僕の頭を巡り、僕は即座に外へと出た。
コップが落ちたから、タオルを取りに行ってた・・・などという、馬鹿な理由だと願いたい。
だがコップはただ落ちただけとは思いにくいほど、ヒビが入って割れかけていた。
おかしい。何かが、おかしい。
「シャル!」
『坊ちゃん!』
外に出てしばらく歩くと、叢の中に見覚えのある剣が落ちていた。
声をかければ、コアクリスタルを光らせながら反応する。
僕はすぐさまシャルを拾い上げ、状況の説明を求めた。
「どうしてこんなところにいる?」
『あけが、貴族の女性達に引っ張られて連れていかれたんです!』
「何っ・・・?」
『僕は途中で、あけが抵抗した際にここに落ちちゃって・・・』
連れて行かれた。抵抗。
その単語一つ一つに、僕は焦りを感じていた。
静かに叢をかき分け、奥へと進む。
すると風の吹く音と共に、どこからか女性の声が聞こえてきた。
『あ、あいつらです!あいつらがあけを!』
「・・・」
そこは、城の裏側だった。
誰もいかないような、目立たない場所に、綺麗なドレスを着た貴族と思われる女性が何人か居た。
3・・・・4人ほどだろうか。そしてそいつらは、誰か一人を囲むようにして立っていた。
「あのドレス・・・囲まれているのは、あけか・・・?」
女性たちの隙間から見えた黒いドレスに、囲まれているのがあけだと確信した。
だが、まだ僕は飛び出すことが出来なかった。
ふいに、強く殺気を含んだ声が響き始めたからだ。
「あなた、リオン様の何なの!」
「そうよ・・・貴方みたいな得体の知れないやつが、傍にいていいお方じゃないのよ!」
「どうせ、リオン様のお金や地位が目当てなのでしょう?」
貴族の女性達から吐き捨てられる、普段聞かないような汚い言葉。
思わず僕は、顔をしかめる。
するとしばらくしてから、小さく澄んだ声で、あけが言い返し始めるのが聞こえた。
「ふざけないでくれる?」
「はぁ?」
「私はリオンのお金も地位も興味ない。リオンという存在に対して付き添ってるの・・・・貴方たちこそ、そんな目で私を見てるってことは、リオンに対してお金と地位しか見てないんでしょ?」
「あなたねぇ・・・!」
あけは更に続ける。
怒り狂った女性の顔など、気にも留めない様子で。
「貴方たちこそ、そういう目でリオンを見るの、やめてくれる?」
彼女の言葉が、さらに僕を狂わせていく。
まるで心を読まれているのではないかと、不安になるぐらいに。
「お金だのなんだのって、結局貴方たちがそういう目で見てるから、私のこともそうだって思ってるんでしょ?」
「なんですって!?」
「そうじゃない・・・!そういう目で彼を見るのを、止・・・」
あけの言葉は、乾いた音によって止められた。
どうやら、女性の一人が手を挙げたらしい。
それでもやり返そうとしないあけに、女性はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「いいわ。あんたなんか、リオン様の前に出られないようにしてやる!」
「ッ・・・・!」
そう言って振り上げられた手に握られていたのは、小さな護身用ナイフ。
あけは目を見開くと、覚悟したかのように顔をかばった。
すかさず僕はシャルを構え、グレイヴを唱えてナイフを吹き飛ばす。
「何をしている」
「リ、リオン様・・・・」
「そ・・・その、これは、あの・・・」
次々にどもり始める彼女たちを尻目に、僕はあけを庇うようにシャルを抜いた。
ひっ!と悲鳴を上げる女性もいれば、僕を説得しようと口を開く女性もいる。
「リオン様、なぜそんな薄汚い女と居る必要があるのです?」
「・・・・」
「そんな女・・・薄汚いうえに地位もお金もないじゃないですか。そんな彼女より、私と・・・・」
「黙れ」
低く、唸るような声。
僕はあけの隣に膝を落とすと、貴族の女を睨みあげた。
そのまま構えていた剣を、スッと女の首元へ突きつける。
『ぼ、坊ちゃん!?』
「次にコイツに手を出したら、僕はお前を容赦なく斬る」
「なっ・・・!」
「コイツは僕のパートナーだ。僕が選んだパートナーに、文句を言われる筋合いはない」
冷たく言い放つと、女たちは恐怖に震えた目で僕から逃げて行った。
あけはまだ、地面に座ったまま俯いている。
大丈夫か?と声を掛けようとした時、触れた肩が震えていることに気付いた。
あれだけ強い言葉を言っていたあけでも、怖かったのだろう。
相手は貴族で手を出せば問題になる相手。問題を起こしたくないという気持ち。
そして僕は、あけが言ってくれた言葉が、何よりも嬉しかった。
震えるあけをそっと抱きしめ、耳元でささやく。
「無茶をするな、馬鹿が・・・」
「リオ、ン・・・」
「お前は僕のパートナーだ。お前は薄汚くなんてない。僕が、選んだんだ」
「・・・うん!」
嬉しそうに笑うあけを見て、僕はあけを守ることを心の中で決めていた。
最初はマリアンとシャルしか認めていなかった僕を、ここまで狂わせてくれた。
だから最後まで狂わされてやろうと、挑戦的な笑顔を浮かべる。
「あけ」
「なーに?」
「・・・・今日から、ずっと僕のパートナーでいることを誓え。守れるなら、僕の本当の名前をお前にも預けてやる」
上目線での、言葉。
マリアンに預けた名前を、僕はあけにも預けようとしていた。
マリアンに抱く感情とは違う、愛しい感情。
それが僕を、突き動かしていく。
「リオンの、本当の名前?」
「あぁ」
「・・・・知りたい!約束するよ!私、ずっとリオンの傍にいる!」
疑うことを知らない、純粋な笑顔。
だからこそ、僕が守らないといけないと思った。
僕がこうやってだまして、利用するかもしれないのに。まったく、本当にこいつは。
「お前は、馬鹿だ・・・」
「ええー!」
「教えてやる代わりに、僕とマリアンの前では必ず僕の本当の名前で呼んでくれ」
「うん!良いよ!」
好きだとか、そういう告白ではない誓い。
でもこの日から僕たちは、言葉を交わさないながらもそういう関係になっていた。
僕にはあけが必要だ。きっと、あけもそう思ってくれている。
名前を呼ぶ声が聞こえるたび僕はそれを実感し、あけに背中を預けるようになっていた。
「エミリオ」
すごく、暖かい。
彼女の澄んだ声が。
すごく。
「エミリオ」
もっと。
「エミリオ」
呼んでくれ。
「エミリオ!」
意識が浮上する。
身体の上に妙な重みを感じて目を開けると、僕の身体の上に嬉しそうな表情を浮かべたあけの姿が映った。
・・・・寝起きの男の身体に、無防備な姿のまま跨るなんて、コイツ正気か?
「おい」
「やっと起きたー!エミリオ、おはよ!」
「おはよ!じゃない!さっさとそこを退け!」
「えー?この前してきた、お返しだよ?」
変に理性が壊れそうになる。
コイツとあった時のことを、夢に見たばかりなんだ。
求めそうになる。この言葉の関係を壊しそうになる。
僕は一瞬壊れた理性に動かされ、あけの腕を強く引っ張った。
そのまま組み敷き、上下を逆転させる。
「は、わ・・・!?」
『うわー!また坊ちゃんがー!』
「・・・っ!だ、黙れシャル!」
一瞬の崩壊から目を覚ました僕は、目を覚まさせてくれたシャルに感謝しつつ、組み敷いたあけの顔を見つめた。
あの時から、こいつは本当に変わってない。
ずっと僕の後ろを守り、ついてきてくれる。
僕はそれだけで――――――十分なんだ。
「エミリオ?」
「あまり僕を挑発するな。我慢できなくなっても知らないぞ」
「へ・・・?」
「・・・・」
分かっていない様子のあけに、ハァ・・・とため息を吐く。
「それで?どうしてお前が起こしにきたんだ?」
「だって!任務が休みの日しか、こういうことって出来ないでしょ?」
そうか。そういえばルーティ達の処刑が決まるまで休みだった気がする。
僕はあけの横に置かれていた剣を確認すると、久しぶりに悪くないと笑いながら立ち上がった。
「久しぶりの手合せ、だね!」
「・・・・負けないぞ」
「あれれー?私だって、まだまだ連勝しちゃうよ!」
何百年という経験には勝てないのか、僕はあけに一度も勝てたことがない。
今日こそ勝ってやるとあけの横顔を見つつ、シャルと共に部屋を出た。
何だか今日は、目覚めがいつもより、良い。
何故だろうな?
「ほら!さっさと構えてー!」
あけの声に僕はフン、と鼻を鳴らし、シャルを構えた。
別にアイツを認めたわけじゃない。腕では役に立つからだ。
なんて、自分に言い訳する日々が続く。
その間もあけは、どれだけ僕が冷たくあたろうとも僕から離れなかった。
罵倒に怒り、ちょっとした冗談にすぐ騙され、冷たい言葉に笑顔を向ける。
「はいこれ!」
「・・・・なんだ、これは?」
「イヤリング!リオンへの、誕生日プレゼントだよ!」
僕でさえ忘れていた誕生日の日に、彼女はプレゼントをくれた。
別に嬉しくなんかないが、着けてやらないこともない。
「リオン!がーんばれっ!がーんばれっ!」
「あ、あいつ、馬鹿かっ!あんな大声で・・・!」
『でも坊ちゃん・・・・約束通り、あけは見に来てくれましたよ!かっこいいところ見せないといけませんね!』
「ふん・・・言われなくとも」
誰も応援に来いなんて、頼んでないぞ?
「りーおーんー!」
「っ!?うるさい!急に抱き着いてくるな!」
「うへへ・・・!ヒール!」
「・・・・!」
「私に怪我を隠すなんて、1000年早いわい!」
「チッ・・・」
すぐに、辛い表情も、嫌な事もばれた。
そしてそれを僕の罵倒など関係なしに、彼女は癒してくれた。
僕は、日に日に彼女を
「あけ」
「どうしたのー?」
「・・・・なんでもない」
求め始めて、しまっていたのだろう。
それが僕の心の中で、はっきりとわかったのは
1年に1度恒例行事のように行われる、城での舞踏会に参加したときだった。
毎年僕は、パートナーを連れて行かない。
そのせいで何人もの貴族の女性に絡まれたが、得体の知れない人をパートナーにして連れて行くよりはマシだった。
今年も、そのパーティーの招待状が僕のもとへ届いた。
こういう行事は嫌いなだけに、大きなため息が自然と出る。
「はぁ・・・」
『坊ちゃん、どうしたんです?』
「舞踏会の招待状だ」
『なるほど・・・・』
招待状なんて破いてやりたいが、王様の招待とあってはそうもいかない。
護衛もしなければならないだろう。これも一つの仕事だ。
そう、思うしかない。
「はぁ・・・」
「どーしたの!ため息なんかついちゃって~!」
「あけ・・・」
「あ、リオンも貰ったの?それ!」
「・・・お前も貰ったのか」
確かに、あけも客員剣士だ。
招待状が来るのも頷ける・・・だが。
「お前、踊れるのか?」
「うえっ・・・!踊れなきゃ、だめ?」
「・・・当たり前だろう」
たとえ嫌でも、付き合いで踊らなければならないこともあるだろう。
無理だと駄々をこねているあけを尻目に、僕はもう一度招待状の中身を確認する。
そしてある1文に目を止めると、僕はすぐにあけの方へ歩み寄った。
“ぜひ、パートナーとご一緒に”
いつもは無視するその1文を、何故か僕は無視することが出来なかった。
「おい」
「うん?」
「僕のパートナーとして、舞踏会へ出ろ」
「へっ?」
『さすが坊ちゃん!大胆な行動に・・・ぎゃああ!』
無駄口を叩いたシャルを、すかさず地面へ叩きつける。
一方あけは、叩きつけられたシャルを心配する余裕も無さそうだった。
顔を真っ赤にしたまま、招待状をぎゅっと握りしめている。
なんて、顔をするんだこいつは。
逆に意味もなく、ただ貴族の女たちに囲まれるのを防止できると思って誘った僕が、恥ずかしくなってきた。
「い、言っておくが、意味はないぞ!貴族の女たちに囲まれるのが面倒だから、お前を選んだだけだ!」
「で・・・でも、私なんかがリオンの、パートナーなんて・・・」
「・・・・お前の方が、そこらの奴らよりは数十倍ましだ」
その言葉に、不安そうだったあけの顔が一瞬で明るくなる。
だが僕は容赦なく、言葉をつづけた。
「言っておくが、僕の足を踏んでみろ。倍返しにしてやるからな」
「うええー!踊れないってば!」
「舞踏会まであと3日ある。それまでに覚えろ」
「む、むりー!」
ころころと変わる、あけの表情。
涙目になって狼狽えるあけを見ながら、僕は自然と笑っていた。
僕自身も、気づかないほど、自然に。
「おい、さっさと準備をしろ!」
「ま、まって・・・今着替えてるのー!」
「お待ちくださいリオン様。今すぐ、終わりますから」
舞踏会が始まる、ぎりぎりの時間。
いつもなら会場についている僕は、まだ屋敷の中にいた。
原因は、この扉の奥にいる一人・・・・いや、二人。
「ああもう、どれもこれも似合うから、やりがいがあるわね」
「マ、マリアンさん、あの、派手すぎます・・・!」
いや、やっぱり一人かもしれない。
この屋敷にあけほどの若い少女が来るのは珍しく、マリアンが興奮して着せ替え人形状態にしているのだ。
あんなマリアン、僕だって見るのは初めてだ。
楽しいのなら、別の文句は無いのだが。
少しだけ、着せ替え人形にされているあけを哀れむ。
「マリアン、もうそろそろ時間だ」
「もう少し着させたかったけど・・・・うん!これが1番似合うわ!」
「あ、ありが・・・と、マリアン・・・」
扉から聞こえてくる、元気なマリアンの声と、疲れ果てたあけの声。
それと同時に扉が勢いよく開けられ、中から満面の笑みを浮かべたマリアンが出てきた。
マリアンの後ろに、少しだけ黒色の布が見える。
どうやら、黒のドレスを着ているらしい。
だが、当の本人が恥ずかしがって出てこない。
「おい、行くぞ・・・あけ」
「わ・・・わ、笑わないっ?」
「たぶんな」
『僕は笑わないよ!』
「あ、ありがと、シャル・・・!」
シャルの言葉に元気づけられたのか、あけが恐る恐るマリアンの後ろから顔を出す。
綺麗なショートヘアの黒髪につけられた、紫色のティアラ。
そして動きやすさを考慮したのか、ミニスカートタイプの黒いドレス。
本人もミニスカなのが気になるらしく、足を一生懸命隠そうとしていた。
だが化粧などもしてあるせいか、いつもより大人らしく見え、その仕草さえも僕の心を波打たせる。
「っ・・・・」
「リ、リオン?やっぱり、似合ってなかったかな・・・?」
「いや・・・」
『違いますよ!むしろ似合いすぎて言葉が・・・ぐふっ!』
すかさず、シャルのコアクリスタルに爪を立てる。
そして僕はこれ以上動揺がばれぬよう、あけに背を向けた。
だがあけは、僕の小さな抵抗すら崩していく。
「リオン・・・なんか、いつもより大人っぽいね!」
「・・・・お前に言われても嬉しくない」
「がーん!」
いつも通りの会話をしつつ、正装に身を包んだあけの手を取った。
楽しそうに笑うマリアンに見送られ、僕はさっさと城へと向かう。
無言のまま引っ張られるあけは、不思議そうに首をかしげた。
「ど、どうしたの?そんなに急がなくても・・・!」
「うるさい。お前のせいで遅刻ぎりぎりなんだぞ」
嘘だ。
本当は、歩いていても間に合う。
でも、今の僕にはその余裕が無かった。
時間ではなく、心の余裕が。
今まで自分自身のことを褒められて、ここまで動揺したことはなかった。
気づきたくない。認めたくない。
でも認めるしかない・・・・たった1年弱で、ここまであけの影響を強く受けるようになってしまったのだから。
「どうしたの?リオン」
「今日は僕のパートナーなんだ。下手するなよ」
「うるさいなー!分かってますよーっだ!」
僕の冷たい言葉にも、あけは笑顔のままだ。
それがどこか嬉しくもあり、めんどくさくもある。
城の入り口まで来ると、すぐに兵士が迎えに来た。
敬礼をし、僕たちの名前を呼ぶ。
周りの視線が、少しだけ集まったような気がした。
「お待ちしておりました、リオン様。あけ様」
僕はその兵士の隣を、走り去るように通り過ぎた。
後ろであけが、「すみません」と言いながら会釈するのが見える。
「あんまり、目立つなよ」
「どーだか。リオンが入ったら一瞬で目立っちゃうんじゃないの?」
ガチャリ。
扉が開かれ、彼女の言うとおり、僕は一瞬にして注目を集めた。
この視線が嫌いだ――――――でも今日は去年と違い、あけがいる。
視線を集めることになっても、あれやこれやと話しかけられることはなくなるだろう。
「あけ、僕のそばを離れるな」
「えへへ!なんかその台詞照れる~!」
「ここで潰されたいのか?」
キンッとわざとらしく音を立ててシャルを抜けば、冗談で笑っていたあけが真っ青になって首を振った。
「ままままま、まぁ、お、落ち着いて!ね!せっかくなんだし、何か飲も!」
怒らせたのは誰だ、と。
思わず声を上げそうになったが、周りの視線を感じて飲み込む。
本当に、この視線は嫌だ。
突き刺さるような、僕の地位と立場だけを見る目線。
今まで言い寄ってきた貴族の奴らも、踊りに誘ってきた女も皆そうだった。
どうせみんな、僕につけ込もうとするだけなんだ。
僕は気を紛らわすために、飲み物を取りに行ったあけの背中を探した。
「・・・・」
あけは僕が見ていることに気付くと、にこっと笑ってジュースを静かに持ってきた。
こぼさないようにそーっと歩く姿を、はらはらしながら見守る。
「はい!リオンの!」
「あぁ・・・・」
「どうしたの?顔色、悪いよ?」
大丈夫?と首を傾げるあけから、飲み物を受け取る。
それを一口だけ含んだところで王の所へ向かっていないことを思い出し、慌ただしく飲み物を突き返した。
「はれ、美味しくなかった?」
「違う。僕は少し挨拶へ行ってくる」
「あ・・・そだよね!じゃあ私は・・・・」
「大人しく、ここで待っていろ」
「はいはいー!」
ぶすーっとした表情のあけに、僕はシャルを投げ渡した。
「預かっておけ。邪魔だからな」
『がーん!』
僕があけにシャルを預けたのには、理由があった。
一つ目の理由は言った通りだ。正装に剣を刺して歩くのは邪魔すぎる。
もう一つは、あけの監視。
アイツは馬鹿だ。放っておけば歩いて遊びに行くのは目に見えていた。
だから実質上、シャルを監視役につけたのだ。
「まったく、世話が焼ける」
挨拶を済ませた僕は、ダンスの誘いを断りながらあけの元へと戻った。
あけが居なくなったのをチャンスだとばかりに、たくさんの人が僕に声をかけてくる。
視線以上に、気持ちが悪くなる。
「あけ?」
あけが座っていた場所に戻ってくると、そこにはあけの姿は無かった。
シャルが居ながらいなくなるとは・・・・後でシャルも説教だな。
そんなことを考えながら椅子の下を見ると、先ほど僕に持ってきてくれた飲み物が無造作に落ちていた。
僕はそれをそっと拾い上げ、ただ落としただけとは思いにくいガラスの状態に目を細めた。
「あけ・・・?」
鼓動が、早くなる。
嫌な予感だけが僕の頭を巡り、僕は即座に外へと出た。
コップが落ちたから、タオルを取りに行ってた・・・などという、馬鹿な理由だと願いたい。
だがコップはただ落ちただけとは思いにくいほど、ヒビが入って割れかけていた。
おかしい。何かが、おかしい。
「シャル!」
『坊ちゃん!』
外に出てしばらく歩くと、叢の中に見覚えのある剣が落ちていた。
声をかければ、コアクリスタルを光らせながら反応する。
僕はすぐさまシャルを拾い上げ、状況の説明を求めた。
「どうしてこんなところにいる?」
『あけが、貴族の女性達に引っ張られて連れていかれたんです!』
「何っ・・・?」
『僕は途中で、あけが抵抗した際にここに落ちちゃって・・・』
連れて行かれた。抵抗。
その単語一つ一つに、僕は焦りを感じていた。
静かに叢をかき分け、奥へと進む。
すると風の吹く音と共に、どこからか女性の声が聞こえてきた。
『あ、あいつらです!あいつらがあけを!』
「・・・」
そこは、城の裏側だった。
誰もいかないような、目立たない場所に、綺麗なドレスを着た貴族と思われる女性が何人か居た。
3・・・・4人ほどだろうか。そしてそいつらは、誰か一人を囲むようにして立っていた。
「あのドレス・・・囲まれているのは、あけか・・・?」
女性たちの隙間から見えた黒いドレスに、囲まれているのがあけだと確信した。
だが、まだ僕は飛び出すことが出来なかった。
ふいに、強く殺気を含んだ声が響き始めたからだ。
「あなた、リオン様の何なの!」
「そうよ・・・貴方みたいな得体の知れないやつが、傍にいていいお方じゃないのよ!」
「どうせ、リオン様のお金や地位が目当てなのでしょう?」
貴族の女性達から吐き捨てられる、普段聞かないような汚い言葉。
思わず僕は、顔をしかめる。
するとしばらくしてから、小さく澄んだ声で、あけが言い返し始めるのが聞こえた。
「ふざけないでくれる?」
「はぁ?」
「私はリオンのお金も地位も興味ない。リオンという存在に対して付き添ってるの・・・・貴方たちこそ、そんな目で私を見てるってことは、リオンに対してお金と地位しか見てないんでしょ?」
「あなたねぇ・・・!」
あけは更に続ける。
怒り狂った女性の顔など、気にも留めない様子で。
「貴方たちこそ、そういう目でリオンを見るの、やめてくれる?」
彼女の言葉が、さらに僕を狂わせていく。
まるで心を読まれているのではないかと、不安になるぐらいに。
「お金だのなんだのって、結局貴方たちがそういう目で見てるから、私のこともそうだって思ってるんでしょ?」
「なんですって!?」
「そうじゃない・・・!そういう目で彼を見るのを、止・・・」
あけの言葉は、乾いた音によって止められた。
どうやら、女性の一人が手を挙げたらしい。
それでもやり返そうとしないあけに、女性はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「いいわ。あんたなんか、リオン様の前に出られないようにしてやる!」
「ッ・・・・!」
そう言って振り上げられた手に握られていたのは、小さな護身用ナイフ。
あけは目を見開くと、覚悟したかのように顔をかばった。
すかさず僕はシャルを構え、グレイヴを唱えてナイフを吹き飛ばす。
「何をしている」
「リ、リオン様・・・・」
「そ・・・その、これは、あの・・・」
次々にどもり始める彼女たちを尻目に、僕はあけを庇うようにシャルを抜いた。
ひっ!と悲鳴を上げる女性もいれば、僕を説得しようと口を開く女性もいる。
「リオン様、なぜそんな薄汚い女と居る必要があるのです?」
「・・・・」
「そんな女・・・薄汚いうえに地位もお金もないじゃないですか。そんな彼女より、私と・・・・」
「黙れ」
低く、唸るような声。
僕はあけの隣に膝を落とすと、貴族の女を睨みあげた。
そのまま構えていた剣を、スッと女の首元へ突きつける。
『ぼ、坊ちゃん!?』
「次にコイツに手を出したら、僕はお前を容赦なく斬る」
「なっ・・・!」
「コイツは僕のパートナーだ。僕が選んだパートナーに、文句を言われる筋合いはない」
冷たく言い放つと、女たちは恐怖に震えた目で僕から逃げて行った。
あけはまだ、地面に座ったまま俯いている。
大丈夫か?と声を掛けようとした時、触れた肩が震えていることに気付いた。
あれだけ強い言葉を言っていたあけでも、怖かったのだろう。
相手は貴族で手を出せば問題になる相手。問題を起こしたくないという気持ち。
そして僕は、あけが言ってくれた言葉が、何よりも嬉しかった。
震えるあけをそっと抱きしめ、耳元でささやく。
「無茶をするな、馬鹿が・・・」
「リオ、ン・・・」
「お前は僕のパートナーだ。お前は薄汚くなんてない。僕が、選んだんだ」
「・・・うん!」
嬉しそうに笑うあけを見て、僕はあけを守ることを心の中で決めていた。
最初はマリアンとシャルしか認めていなかった僕を、ここまで狂わせてくれた。
だから最後まで狂わされてやろうと、挑戦的な笑顔を浮かべる。
「あけ」
「なーに?」
「・・・・今日から、ずっと僕のパートナーでいることを誓え。守れるなら、僕の本当の名前をお前にも預けてやる」
上目線での、言葉。
マリアンに預けた名前を、僕はあけにも預けようとしていた。
マリアンに抱く感情とは違う、愛しい感情。
それが僕を、突き動かしていく。
「リオンの、本当の名前?」
「あぁ」
「・・・・知りたい!約束するよ!私、ずっとリオンの傍にいる!」
疑うことを知らない、純粋な笑顔。
だからこそ、僕が守らないといけないと思った。
僕がこうやってだまして、利用するかもしれないのに。まったく、本当にこいつは。
「お前は、馬鹿だ・・・」
「ええー!」
「教えてやる代わりに、僕とマリアンの前では必ず僕の本当の名前で呼んでくれ」
「うん!良いよ!」
好きだとか、そういう告白ではない誓い。
でもこの日から僕たちは、言葉を交わさないながらもそういう関係になっていた。
僕にはあけが必要だ。きっと、あけもそう思ってくれている。
名前を呼ぶ声が聞こえるたび僕はそれを実感し、あけに背中を預けるようになっていた。
「エミリオ」
すごく、暖かい。
彼女の澄んだ声が。
すごく。
「エミリオ」
もっと。
「エミリオ」
呼んでくれ。
「エミリオ!」
意識が浮上する。
身体の上に妙な重みを感じて目を開けると、僕の身体の上に嬉しそうな表情を浮かべたあけの姿が映った。
・・・・寝起きの男の身体に、無防備な姿のまま跨るなんて、コイツ正気か?
「おい」
「やっと起きたー!エミリオ、おはよ!」
「おはよ!じゃない!さっさとそこを退け!」
「えー?この前してきた、お返しだよ?」
変に理性が壊れそうになる。
コイツとあった時のことを、夢に見たばかりなんだ。
求めそうになる。この言葉の関係を壊しそうになる。
僕は一瞬壊れた理性に動かされ、あけの腕を強く引っ張った。
そのまま組み敷き、上下を逆転させる。
「は、わ・・・!?」
『うわー!また坊ちゃんがー!』
「・・・っ!だ、黙れシャル!」
一瞬の崩壊から目を覚ました僕は、目を覚まさせてくれたシャルに感謝しつつ、組み敷いたあけの顔を見つめた。
あの時から、こいつは本当に変わってない。
ずっと僕の後ろを守り、ついてきてくれる。
僕はそれだけで――――――十分なんだ。
「エミリオ?」
「あまり僕を挑発するな。我慢できなくなっても知らないぞ」
「へ・・・?」
「・・・・」
分かっていない様子のあけに、ハァ・・・とため息を吐く。
「それで?どうしてお前が起こしにきたんだ?」
「だって!任務が休みの日しか、こういうことって出来ないでしょ?」
そうか。そういえばルーティ達の処刑が決まるまで休みだった気がする。
僕はあけの横に置かれていた剣を確認すると、久しぶりに悪くないと笑いながら立ち上がった。
「久しぶりの手合せ、だね!」
「・・・・負けないぞ」
「あれれー?私だって、まだまだ連勝しちゃうよ!」
何百年という経験には勝てないのか、僕はあけに一度も勝てたことがない。
今日こそ勝ってやるとあけの横顔を見つつ、シャルと共に部屋を出た。
何だか今日は、目覚めがいつもより、良い。
何故だろうな?
「ほら!さっさと構えてー!」
あけの声に僕はフン、と鼻を鳴らし、シャルを構えた。
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