Erdbeere ~苺~ 6話 孤独な少女と、少年 忍者ブログ
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2011年09月19日 (Mon)
連載6話目/リオン視点/少しシリアス/※流血表現多め

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頭が、いたい。
ゆっくり目を開けると、身体が痺れたように動かなくなっているのが分かった。

いや・・・痺れているんじゃない。
木のようなものに、僕が縛り付けられているんだ。
状況を確認するために首を動かすと、痛みと共にぶら下げられたシャルティエの姿が目に入った。


「シャル」
『坊ちゃん!目が覚めたんですね!心配したんですよっ!?』


頭に直接響く、シャルの声。
その声は微かに震えており、シャルが僕のことを心配してくれていたことをすぐに感じ取ることが出来た。

見張りの盗賊が居るため、まずはシャルから状況を聞き出す。
むやみにあたりを見渡して、目が覚めたことが分かるのも厄介だ。

僕は静かに息を吐くと、見張りが遠ざかるのを見計らってシャルに尋ねた。


「ここは一体なんだ?あの後、どうなった?」


シャルの緊張した声が、響く。


『とりあえずここは、あの情報に書かれていたアジトの奥みたいです。坊ちゃんはコイツらに不意打ちで殴られて・・・・どうやら盗賊の目的は、元からこれだったみたいです』
「僕が目的、だと?」


なるほど。
僕を目的にする理由があるとすれば、まずはオベロン社に対するお金の要求が1番可能性として高い。

僕の父親はオベロン社の社長―――――――僕を人質にとれば、可愛い息子のためにお金を出してくれるとでも思っているんだろう。

愚かだな、本当に。
アイツが僕なんかのために、出すと思っているのか?
前はずっと信じていた。だけど今となれば・・・あいつが僕のことを一切見ていないことぐらい、分かっていた。


「僕を人質か・・・」
『坊ちゃん・・・・』
「それで?アイツはどうした?」


僕を殴った相手に、怒りの形相を向けていたあの馬鹿。
シャルはそれがすぐにあけのことだと分かったのか、困ったように口を開いた。


『そ、それが、あのあと殴った盗賊が坊ちゃんのことを人質にして、あけに手を出させなくしてしまって・・・・』
「逃げたのか?」
『いえ。盗賊が僕たちを連れて帰るまで、ずっとこちらを見ていましたよ』
「そうか・・・」


ガタン。

小さく音が鳴り、僕は咄嗟に顔を伏せた。
しまった。話に夢中になりすぎて、巡回がいることを忘れていた。

後悔したのもつかの間、僕が起きていることに気付いた巡回が、盗賊のボスらしき男に僕が目覚めたことを知らせに行った。
そしてすぐに大きな足音が聞こえ始め、殺気のようなものがピリピリを肌をかすめた。


「やぁ、起きたかい?」


いかにも、盗賊のボスといった感じの男が出てきた。
僕に向けられている殺気のようなものが、痛いほど伝わってくる。

こういうことする奴は、お金目当てじゃないことだけは知っていた。
大体、僕のような身分の奴に恨みがあるからやるのだ。
それを証拠に、その男はすぐに僕の顔をつかみあげ、思いっきり頬を叩いた。


パチン―――――ッ


『坊ちゃん!くそっ!こいつ・・・!』
「ふん。少しは怯えて見せろ、お前は人質なんだからな」
「誰がお前の、ようなやつに・・・」
「あぁ?」


もう1回。
冷たい音とともに、じんわり広がる熱。
口の中が切れたのか、鉄の味が広がっていく。不味い。


「・・・・」
「チッ・・・ほんと、気にくわねぇやつだぜ」
「お前に言われたくないな」
「・・・・そーかよ。好き勝手言ってられるのも今のうちだぜ?お前さんの仲間も来ないみたいだし、さっさと人質として役目を果たして貰うつもりだからなぁ!」


仲間?
僕はその言葉を聞いて、不思議と笑ってしまった。

当たり前だ。アイツが来るわけない。
アイツには任務の失敗を絶対に許さないと伝えてある。
たとえアイツが兵を要請して助けに来ても、その要請自体が恥であり、イコール任務失敗と同じだ。

アイツもそれは、分かっているだろう。
どうしようも出来なくて、逃げたに違いない。

それでいいんだ。


「僕に、仲間なんていないんだからな・・・」
『坊ちゃん・・・!』
「なら、もっと好都合だ!人質として使う前に痛めつけてやる!」
『・・・!やめろ!坊ちゃんに手を出すな!』


僕にしか聞こえないシャルの悲鳴が、凄く痛々しい。

乾いた音。血の味。
頭に響く痛み。息苦しさ。

どれも、初めて味わうもの。
それでも僕は、何故か恐怖感を覚えなかった。

どうだっていい。こんなことで消えてしまう僕なら。
マリアンも守れない・・・・きっと、対等にはなれない。


それなら、僕は。


「ガハッ・・・!」
「つまんねぇなぁ・・・・少しは悲鳴をあげろよ!」
「ッ・・・・!」


反応を示さない僕にしびれを切らしたのか、男は持っていた剣を振り上げた。
急所を狙うつもりはないだろうが、明らかに振り下ろそうとしている。

僕は覚悟して目を瞑ると、痛みに備えて身体をこわばらせた。


・・・・。

・・・・。


・・・・・?


振り下ろされるはずの感覚が、痛みが、来ない。
不思議に思って顔を上げると、そこには呆然と明後日の方向を向く男の姿があった。
その視線の先には、アジトの入り口と思われる場所。
そして響き始めた――――――轟音。
赤い閃光と共に、悲鳴と叫びが耳に届く。


「くそっ!助けが来たのか・・・・!」
「チッ・・・余計な、ことを・・・」


僕が閉じ込められているのは、アジトの倉庫のような場所らしい。
そこから見える外の景色はわずかだが、外がどれだけ酷いことになっているのかなんて、予想する必要もなかった。

明らかに、集団戦が行われている。
あいつが・・・・あけが、兵でも要請したのだろう。
任務失敗の苛立ちと共に湧き上がる、ちょっとした安心感に僕は唇を噛んだ。


「(失敗は失敗だ・・・僕は、またヒューゴに・・・!)」


何をするときでもついてきた、ヒューゴの名前。
今回の任務は、それから独立するための重要な1歩だったというのに。

悔しさと、苛立ちが、大きく募る。
鳴り響いていた轟音は段々と僕たちの方へ接近し、ついには炎で倉庫の扉が吹き飛ばされた。


「くそっ・・・!お前、何者だ!」
「名乗る必要なんてある?とりあえず、リオンを返してもらうよ!」


焼かれた扉の先にいたのは、血だらけのあけだった。
任務服の代わりにマリアンから貰っていたメイド服は、メイド服と言われなければ分からないほどにボロボロになっていた。

そしてあけの周りを渦巻く、唱術の炎と雷。
何故彼女が、それを操れるんだ?
ソーディアンの素質はあったが、彼女自身は剣を持ってはいなかったはずだ。

なのに、何故?

疑問に対する答えの代わりに返ってきたのは、轟音と焼けるような熱さ。


あけ・・・!』
「お待たせシャル、リオン!」
「僕は別に、お前を待ってなどいない」
「もー!そんなこと言わないの!」


彼女自身元気に振る舞っているが、見た目は全然大丈夫に見えなかった。
むしろ僕より彼女の方が危険だろう。
そんなボロボロの姿を見てか、余裕だと感じたボスがニヤリと笑う。


「お前、そんな体で俺と戦うつもりか?」
「こんな身体だけど、君なんて一瞬で潰せちゃうよ!」
「ほう・・・・言ったな?」


挑発に乗ったボスが、僕に振り下ろそうとしていた剣をあけに向ける。
そして勢いよく振り上げると、そのままあけへと突進していった。
あけの後ろに倒れていた盗賊の一人が、叫ぶ声など間に合いはしなかった。


「待ってくださいボス!そいつは危・・・!」
「さよならっ!」


再び、轟音。

突き出された剣を素早くかわしたあけは、持っていた短剣でボスの腕を切り裂いた。
それだけでなく、隠し持っていたらしい爆弾を顔面へ投げつける。


「うがぁあぁああああっ!」


2回目の、轟音。

痛々しい悲鳴と共に、男はその場に倒れ込んだ。
小さな爆弾には見えたが、顔面に食らえばダメージは大きいだろう。


「あ、今すぐ助けるね!」


僕の視線に気づいたあけが、縛られていた僕の縄を剣で切った。
そのまま、シャルティエを吊るしていた紐も焼き切る。
久しぶりの自由――――――というほどではないが、若干足取りがおぼつかない。


「だいじょぶ?」
「僕の心配より、自分の心配をしろ・・・・救護班でも呼んだらどうだ?」
「救護班?なにそれ?」


純粋に、?を浮かべるあけ
それを見た僕は、まさか、と外に飛び出した。

その後ろで、咳き込みながらあけが倒れる。
外の様子とあけをしばらく交互に見ていた僕は、ある結果へとたどり着いた。


僕はあけに、任務の失敗を許さないと伝えた。
兵を要請することは、失敗に直結する。

だけど今見た外には、誰一人として気配を感じない。
見て取れたのは、数百人はいたであろう盗賊達の傷ついた姿。

それ以外に、誰もいない。
こいつ、まさか・・・・。


「まさか・・・一人で、こいつら全員片づけたのか・・・!?」
『坊ちゃん!あけ!』
「くっ・・・・」


無茶をしすぎたのだろう。出血があけの身体を蝕んでいるのが見て取れる。
見る見るうちに顔色が青くなっていき、黒かったメイド服はほとんどが赤色へと染まりかけていた。


「なぜだ・・・・なぜ、ここまでする!僕はこんなことをされても、お前を部下だとは認めないぞ!」
『坊ちゃん・・・!』


苛立ちと、どこか嬉しく思う焦りと。
それらを打ち消すために張り上げた声も、彼女には通用しなかった。

向けられたのは、悲しみの表情でも怒りでもなく。

嬉しそうな、笑顔。


「リオンが無事なら、別にどっちでもいいよ!」
「お前、馬鹿か!これだけの多人数を一人で・・・・1歩間違えば死ぬぞ!」
「でもいいじゃん!これで、任務も成功どころか大成功だし、リオンも助かったよ?」


情報収集どころか、壊滅させてボスを生け捕ることが出来た。
確かに大成功だ。だが、今の僕には喜べなかった。

見返りを求めず、酷いことをしてきた僕に、どうしてここまで?
疑問に自分自身で答えを出すことが出来ず、僕はそっとあけを抱き上げた。
ゆっくりと剣を掲げ、不得意ながら回復唱術を唱える。


「ヒール」
「あ・・・ありがと・・・」
「ふん・・・・お前には、先ほどの質問に答えてもらわなければならないからな」
「質問って・・・・どうして助けたってやつ?」
「そうだ」


ヒールの音と、あけの荒い呼吸音だけが響く。


「どうしてお前は、僕を助けた。僕はお前を、認めたりしないというのに」


その言葉に、あけは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた。
それから何を思ったのか、急に起き上がって横髪をまとめ始めた。


「おい、お前・・・・」
「私ね・・・・ここに来るまで、何百年も人間と話をしてなかったんだ」
「は・・・?」


何、百年?
僕は呆然と、彼女の話を聞くことしかできなかった。
更にかき分けた横髪から見えた耳を見て、目を見開いた。

明らかに、人間ではない耳をしていた。
とがった・・・まるで、妖精のような耳。


「さっきの術も見たでしょ?シャルみたいな剣を持ってなくても術が使えて、そしてこの耳・・・。私ね、人間じゃないんだ」
「な、ん・・・」
「エルフ族って知ってる?」
『・・・!!』


僕は聞いたことなかったが、シャルは微かに反応を示した。
シャルはヒールを発動させながら、コアクリスタルを輝かせる。


「知っているのか?」
『はい。千年前の天地戦争で滅んだといわれている一族です・・・・かなり特殊で、人間の数倍もの遅さで年を取っていくんです。見た通り、人間離れの力も持っています』
「そ、正解。きもちわるいでしょ?」

「・・・・」
「だからね、私、君とお話しできただけで幸せだったんだ!これはちょっとしたお礼・・・別に、君からは何もいらないの!」


まるでおとぎ話の中を生きているような種族だ。
目の前にいるのは、ただの少女。なのに中身は天地戦争時代から生きているヒト。

恐ろしい力を持っていて、時の流れさえ違って。

だけど、どうしてこんなに、優しく感じるんだろう。


「ご、ごめんね・・・かえろっか・・・・」


何も言わない僕に、嫌われたと思ったらしいあけが立ち上がった。
しかし、まだ傷はほとんど残っている。
すぐにふらついて倒れかけたあけを、咄嗟に手を差し伸べて支えた。

この時から僕は、彼女に心を許していたんだろう。

お互い孤独だから?同情?

いや、そうじゃない。
彼女の馬鹿さが、僕の心を開いて行ったのは間違いなかった。

認めたく、なかったけれど。


「リ、オン・・・?」
「次はしてやらないぞ。自分で歩け」
「うん・・・・!」


嬉しそうな彼女の笑顔を、僕は見ることが出来なかった。
見たらきっと、今以上に壊れてしまいそうな気がしたから。
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