Erdbeere ~苺~ 4話 複雑な出会い 忍者ブログ
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2011年08月26日 (Fri)
連載4話目/ヒロイン視点/シリアス/ギャグ

前半はヒューゴと出会った時の過去話になります。



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私があいつに拾われたのは、数年前のこと。
まだリオンも幼かったころ私は、一人で森をさまよう生活をしていた。

私の種族はエルフと良い、身体がレンズのような力で出来ている種族だった。
それ故に生まれてからすぐ唱術の力を覚え、人間とは違う年を過ごしてきた。
今の私はもう、何千年も生きている――――――でも、身体は朽ちてくれない。

だから街へ行けば、皆が私を嫌うことが分かっていた。


「ふぅ・・・・」


年を取っているのに、朽ちない身体なんて。
他の人間から見ればただの化け物に過ぎない。

ましてやエルフ族のことを知っている人なんて、ほとんどいない。

エルフ族のことは、本に少し書かれている程度だろう。
歴史から逃げるようにして過ごしてきたエルフ族は、歴史に残せるほど記録となるものを残してこなかった。

それだけ恐れていたのだ。
私たちの力が、表に出て、分かってしまうことが。
だから今の私も、こうやって隠れて一人で過ごすしかない。


「・・・・」


あと何百年生きればいいんだろう。
自分で命を絶つことも考えた・・・・でも、出来なかった。

私はエルフ族の最後。
簡単に命を絶つなんて、そんなこと出来ない。
母親と父親の顔を思い浮かべた私は、ぐっと涙を堪えて目の前の魔物を睨んだ。


「グルルルル・・・・」
「こいつね・・・・」


森で過ごして、お金は魔物を退治してレンズに変える。
それだけの日々。何一つ変わらない。
これからもずっと。そう思いながら私は魔物に手をかざした。

数十匹の狼に、降り注ぐ雷をイメージする。
そしてすぐさま手を振りかざすと、私のイメージした通りの唱術が出来上がった。

雷は一気に魔物たちを襲い、何十匹もの存在を無かったことにする。
後に残るのは、レンズだけ。


「よいしょっと」
「いやぁ・・・・驚いたな」
「なっ・・・・!」


久しぶりに聞いた、人間の声。
私は背後から聞こえたそれに驚き、すぐさま距離を取った。
振り向けば、怪しい雰囲気を纏った男が笑って立っている。


「君は・・・・エルフ族だね」
「何で知ってるの?私たちの種族は、ほとんど知られてないはず・・・・」
「私はこう見えても、ダリルシェイドの城に行き来してたりするのでね」


お城に行き来?お城なら、確かに重要な歴史書などがあるかもしれない。
でも、一目見ただけでエルフと気づくなんて、どう見ても怪しすぎる。

たとえ歴史書に書かれていても、エルフ族と人間を見分ける特徴なんて、書かれているわけがない。
更に警戒心を強めた私に、怪しい男が笑った。


「私の名はヒューゴ。君に近い男の子がいてね・・・・どうだね?屋敷でその子の手伝いをしてくれないか」
「いきなりそんなこと頼まれて、すると思う?」
「だがこのままだと、また君はずっと、この森の中で暮らすのではないかね?」
「っ・・・・!」


明らかに、この男がおかしいのは分かった。
今まで何度かストーカーされていたのかもしれないと思い、思わず身震いをする。

それと同時に、心を読むかのような発言に吐き気を覚えた。
エルフだって心は人間と同じ。孤独に勝てるわけがない。
それを分かりきったような言葉――――――明らかに、誘われている。

何か、危ない道へ。
私を利用するつもりなのだろうか?

そんなの、分かりきったことだった。
私を利用しようとしている。孤独に付け込んで誘い出そうとしている。

そしてそれに乗るかは、私次第。


「どうする?ついてくるなら、案内しよう」
「・・・・絶対、あんたの言いなりにはならないよ!」
「ふっ・・・・ついてきたまえ」


口だけの抵抗。
どうやらそれは、彼の前では通用しないらしい。
私が付いてくると、孤独に負けたというのを感じ取った彼は、何も聞かずに歩き始めた。

今覚えば、ついて行って良かったと思う。
でも怪しいのも事実―――――私が何に利用されるのか、分からないから。


「だから私は、あいつが嫌いなんだ・・・・」


リオンに会わせてくれた感謝と、利用されているという見えない恐怖。
いつの間にか座り込んでいた私は、リオンに見つかる前にとゆっくり立ち上がった。
ヒューゴと出会った時のことなんて、思い出すものじゃない。
でも思い出してしまうのだ・・・・この幸せな日々を作ってくれたあいつに、忘れてはいけない警戒心を抱くためにも。

私は確かに、ここに来て色んなことが出来た。
それと同時にいつか――――――いや、今までにも、利用されているかもしれない。


こわい。でも逃げられない。
一度誘いに乗ってしまったからには、私は・・・・。


あけ!」
「うげっ・・・!」


女の子とは思えない声が、自分の口から出てくる。
それもそうだ。怒り狂ったリオンが目の前に居たのだから。

今までのシリアスな空気はどこへやら。
私は引きつった笑みを浮かべると、すぐさまリオンを宥めにかかった。


「リ、リオン、落ち着こう・・・・!」
「これが落ち着けるか!お前はまた勝手に一人で・・・・!」
「だだだだ、だって・・・・」
「今も何か、一人で考え込んでいただろう?」
「う・・・!」


リオンには、何一つ隠すことが出来ない。
私は隠すことを諦め、ルーティの話題を思い出させないようにするためにも、今何を思っていたのか正直に話した。


「リオンと出会うきっかけになったのも、ヒューゴなんだなって考えてたんだ」
「確かに・・・・そうだな」
「でもどうしても、嫌いなんだよね・・・・」
「無理をするな、あけ


ぽんぽん、と。
優しく頭を撫でられる。
それだけで今まで身体を支配していた恐怖感が、すっと消えていくのが分かった。


『大丈夫ですよ、あけ!僕もぼっちゃんも、あけの味方ですから!』
「うん・・・・シャルも、ありがと!」
「ふん・・・手間を掛けさせるな、まったく・・・・」


プイっと顔を逸らしながら、不機嫌そうにつぶやくリオン。
そんなリオンに、シャルが地雷を投げつける。


『あ!坊ちゃんったら照れてます!?ですよね~!今のあけの顔、凄く可愛かったですもんね!思わず抱きしめたくな・・・・あれ、待ってください坊ちゃん、ここ結構高いですよ?そんなところから僕を落としたら、僕だってさすがに痛いと思いませんか?あれ、あれ・・・・ぎゃあああああああ!』


ガシャン!

無機質な落下音と共に響く、シャルの悲鳴。
リオンは真っ赤な顔で「フン」と鼻を鳴らすと、私の方を向かずに無言で手を引っ張ってきた。


「部屋に帰るぞ」
「・・・・うん」
『あれ、坊ちゃん?ちょっと!置いて行かないでー!助けて、あけー!』
「あ、あの、リオン・・・」
「行くぞ」


悲痛な叫びを置き去りにして、リオンは静かに歩き出す。
私はシャルに心の中で謝りながらも、手のぬくもりに小さく微笑んだ。


『ぼっちゃーーーーーーーん!』








夜、リオンは静かに目を閉じて思い出していた。
あけが思い出した過去を、リオンも同じように。

リオンもヒューゴのことがあまり好きではない。
でもあけの言うとおり、あけをリオンの場所まで連れてきてくれた人なのだ。

感謝はしなくちゃいけない。
でも、気に食わないことが多すぎる。
早く成長してマリアンとあけを守りたい・・・その思いだけが、膨らんでいく。


「あいつ、本当に昔と変わらないな」
『坊ちゃんが昔なんて口にするほど、まだ昔じゃないですよ?』
「確かに・・・・それも、そうだな・・・・」


あけと初めて会った、初めて言葉を交わした日。
今では甘酸っぱくて良い思い出としか言えないその記憶を、リオンは夢のように呼び覚ました。

どんな思い出より、鮮明な記憶。
まるで夢を見るかのように、リオンはそっと記憶の中に身を預けた。
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