いらっしゃいませ!
名前変更所
私があいつに拾われたのは、数年前のこと。
まだリオンも幼かったころ私は、一人で森をさまよう生活をしていた。
私の種族はエルフと良い、身体がレンズのような力で出来ている種族だった。
それ故に生まれてからすぐ唱術の力を覚え、人間とは違う年を過ごしてきた。
今の私はもう、何千年も生きている――――――でも、身体は朽ちてくれない。
だから街へ行けば、皆が私を嫌うことが分かっていた。
「ふぅ・・・・」
年を取っているのに、朽ちない身体なんて。
他の人間から見ればただの化け物に過ぎない。
ましてやエルフ族のことを知っている人なんて、ほとんどいない。
エルフ族のことは、本に少し書かれている程度だろう。
歴史から逃げるようにして過ごしてきたエルフ族は、歴史に残せるほど記録となるものを残してこなかった。
それだけ恐れていたのだ。
私たちの力が、表に出て、分かってしまうことが。
だから今の私も、こうやって隠れて一人で過ごすしかない。
「・・・・」
あと何百年生きればいいんだろう。
自分で命を絶つことも考えた・・・・でも、出来なかった。
私はエルフ族の最後。
簡単に命を絶つなんて、そんなこと出来ない。
母親と父親の顔を思い浮かべた私は、ぐっと涙を堪えて目の前の魔物を睨んだ。
「グルルルル・・・・」
「こいつね・・・・」
森で過ごして、お金は魔物を退治してレンズに変える。
それだけの日々。何一つ変わらない。
これからもずっと。そう思いながら私は魔物に手をかざした。
数十匹の狼に、降り注ぐ雷をイメージする。
そしてすぐさま手を振りかざすと、私のイメージした通りの唱術が出来上がった。
雷は一気に魔物たちを襲い、何十匹もの存在を無かったことにする。
後に残るのは、レンズだけ。
「よいしょっと」
「いやぁ・・・・驚いたな」
「なっ・・・・!」
久しぶりに聞いた、人間の声。
私は背後から聞こえたそれに驚き、すぐさま距離を取った。
振り向けば、怪しい雰囲気を纏った男が笑って立っている。
「君は・・・・エルフ族だね」
「何で知ってるの?私たちの種族は、ほとんど知られてないはず・・・・」
「私はこう見えても、ダリルシェイドの城に行き来してたりするのでね」
お城に行き来?お城なら、確かに重要な歴史書などがあるかもしれない。
でも、一目見ただけでエルフと気づくなんて、どう見ても怪しすぎる。
たとえ歴史書に書かれていても、エルフ族と人間を見分ける特徴なんて、書かれているわけがない。
更に警戒心を強めた私に、怪しい男が笑った。
「私の名はヒューゴ。君に近い男の子がいてね・・・・どうだね?屋敷でその子の手伝いをしてくれないか」
「いきなりそんなこと頼まれて、すると思う?」
「だがこのままだと、また君はずっと、この森の中で暮らすのではないかね?」
「っ・・・・!」
明らかに、この男がおかしいのは分かった。
今まで何度かストーカーされていたのかもしれないと思い、思わず身震いをする。
それと同時に、心を読むかのような発言に吐き気を覚えた。
エルフだって心は人間と同じ。孤独に勝てるわけがない。
それを分かりきったような言葉――――――明らかに、誘われている。
何か、危ない道へ。
私を利用するつもりなのだろうか?
そんなの、分かりきったことだった。
私を利用しようとしている。孤独に付け込んで誘い出そうとしている。
そしてそれに乗るかは、私次第。
「どうする?ついてくるなら、案内しよう」
「・・・・絶対、あんたの言いなりにはならないよ!」
「ふっ・・・・ついてきたまえ」
口だけの抵抗。
どうやらそれは、彼の前では通用しないらしい。
私が付いてくると、孤独に負けたというのを感じ取った彼は、何も聞かずに歩き始めた。
今覚えば、ついて行って良かったと思う。
でも怪しいのも事実―――――私が何に利用されるのか、分からないから。
「だから私は、あいつが嫌いなんだ・・・・」
リオンに会わせてくれた感謝と、利用されているという見えない恐怖。
いつの間にか座り込んでいた私は、リオンに見つかる前にとゆっくり立ち上がった。
ヒューゴと出会った時のことなんて、思い出すものじゃない。
でも思い出してしまうのだ・・・・この幸せな日々を作ってくれたあいつに、忘れてはいけない警戒心を抱くためにも。
私は確かに、ここに来て色んなことが出来た。
それと同時にいつか――――――いや、今までにも、利用されているかもしれない。
こわい。でも逃げられない。
一度誘いに乗ってしまったからには、私は・・・・。
「あけ!」
「うげっ・・・!」
女の子とは思えない声が、自分の口から出てくる。
それもそうだ。怒り狂ったリオンが目の前に居たのだから。
今までのシリアスな空気はどこへやら。
私は引きつった笑みを浮かべると、すぐさまリオンを宥めにかかった。
「リ、リオン、落ち着こう・・・・!」
「これが落ち着けるか!お前はまた勝手に一人で・・・・!」
「だだだだ、だって・・・・」
「今も何か、一人で考え込んでいただろう?」
「う・・・!」
リオンには、何一つ隠すことが出来ない。
私は隠すことを諦め、ルーティの話題を思い出させないようにするためにも、今何を思っていたのか正直に話した。
「リオンと出会うきっかけになったのも、ヒューゴなんだなって考えてたんだ」
「確かに・・・・そうだな」
「でもどうしても、嫌いなんだよね・・・・」
「無理をするな、あけ」
ぽんぽん、と。
優しく頭を撫でられる。
それだけで今まで身体を支配していた恐怖感が、すっと消えていくのが分かった。
『大丈夫ですよ、あけ!僕もぼっちゃんも、あけの味方ですから!』
「うん・・・・シャルも、ありがと!」
「ふん・・・手間を掛けさせるな、まったく・・・・」
プイっと顔を逸らしながら、不機嫌そうにつぶやくリオン。
そんなリオンに、シャルが地雷を投げつける。
『あ!坊ちゃんったら照れてます!?ですよね~!今のあけの顔、凄く可愛かったですもんね!思わず抱きしめたくな・・・・あれ、待ってください坊ちゃん、ここ結構高いですよ?そんなところから僕を落としたら、僕だってさすがに痛いと思いませんか?あれ、あれ・・・・ぎゃあああああああ!』
ガシャン!
無機質な落下音と共に響く、シャルの悲鳴。
リオンは真っ赤な顔で「フン」と鼻を鳴らすと、私の方を向かずに無言で手を引っ張ってきた。
「部屋に帰るぞ」
「・・・・うん」
『あれ、坊ちゃん?ちょっと!置いて行かないでー!助けて、あけー!』
「あ、あの、リオン・・・」
「行くぞ」
悲痛な叫びを置き去りにして、リオンは静かに歩き出す。
私はシャルに心の中で謝りながらも、手のぬくもりに小さく微笑んだ。
『ぼっちゃーーーーーーーん!』
夜、リオンは静かに目を閉じて思い出していた。
あけが思い出した過去を、リオンも同じように。
リオンもヒューゴのことがあまり好きではない。
でもあけの言うとおり、あけをリオンの場所まで連れてきてくれた人なのだ。
感謝はしなくちゃいけない。
でも、気に食わないことが多すぎる。
早く成長してマリアンとあけを守りたい・・・その思いだけが、膨らんでいく。
「あいつ、本当に昔と変わらないな」
『坊ちゃんが昔なんて口にするほど、まだ昔じゃないですよ?』
「確かに・・・・それも、そうだな・・・・」
あけと初めて会った、初めて言葉を交わした日。
今では甘酸っぱくて良い思い出としか言えないその記憶を、リオンは夢のように呼び覚ました。
どんな思い出より、鮮明な記憶。
まるで夢を見るかのように、リオンはそっと記憶の中に身を預けた。
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