いらっしゃいませ!
名前変更所
体が痛む、今日このごろ。
天気は良いが私の表情はよろしくない。
激重マントに沈められ、意味の分からない気弾を打ち込まれ、土埃を浴びさせられ。すっかり気分が落ち込んだ私は、軋む体を何とか起き上がらせて空に浮かぶ“誰か“を睨んだ。
「俺の修行の邪魔をしたな?」
「フン。ピッコロ大魔王とその眷属だな?」
「残念。俺はただのピッコロだ」
「・・・・・・・・眷属って私?」
誰一人として私の心配はせず、会話が進んでいく。
「どういうことだ・・・・?」
「色々複雑なんだ。それで?古臭いヒーローのようなお前は?」
ようやく開けた土埃の中から見上げたその正体は、確かに一昔前のヒーローのような姿をしていた。ベルトにはガンママークがついており、青いマント、それからいかにもな銃。
「せめてレトロと言ってほしいねぇ。・・・残念ながらボクの正体、は!」
きらーんとどこから聞こえているか分からない効果音を鳴らしながら、エフェクトで爆発と文字を出したレトロなヒーローは、グレートサイヤマンが好きそうなポーズで人差し指を口元に当てた。
「まだヒミツ、だ」
「・・・・・・」
うわー、こういう相手、ピッコロ嫌いそう。
呆れた表情を浮かべるピッコロの様子を伺いつつ、もう一度レトロなヒーローに目を向ける。
見た目はともかく、気を感じないところを見ると18号達と同じ部類だろうか。
こういった部類は戦ってみないと強さが分からないため、敵なのだとすれば厄介な存在だ。
そもそも、目的も分からない。下手に動くよりもピッコロに従った方がいいだろうと考えた私は、レトロなヒーローの腕に付いているマークを指さした。
「ピッコロ、あれ」
「・・・・あぁ。神だったころに見覚えがある。レッドリボン軍のマークだな」
「あちゃー。こいつはしくじったなぁ・・・・ところで、神だった時というのはぁ?」
「フン。リサーチ不足だな。教えてやるもんか」
「ケチだな―」
飄々とした言い方に、ピッコロは眉を潜める。
ピッコロが言いたいころは分かっていた。レッドリボン軍はとうに全滅している。その後の野望も、17号18号の時に全て消え去ったはず。
それでも目の前のレトロなヒーローが、腕にマークを着けているのは見間違いじゃなかった。
レッドリボン軍の関係者が何かしらいると思ったほうが良いだろう。
「今日はただの腕試しのつもりだったんだけど・・・・そうはいかなくなったらしい」
「気が感じられない。ロボットか人造人間だな?造ったのは誰だ」
「そんなことまで分かるのかぁ!・・・・でも、それもヒミツさ」
「ところでお前、まさかこの俺と戦うつもりか?」
「その通り!そして死んでもらうことに計画を変更したよ!・・・・悪く思わないでくれ」
「ッ、ピッコロ、来るよ」
戦闘体勢に入ったピッコロが、私を制するように手を伸ばした。
「お前は戦うな」
「な、なんで」
「あいつはお前のことを俺の眷属だと言っていた。つまり、あれを造ったのがレッドリボン軍の誰であれ、俺たちの情報は更新されていないことになる。そうなれば必然的に、お前の力はあいつらにとって一番の“不確定要素“になるだろう」
確かに、あの人造人間の戦いを生き残ったのは17号と18号だけであり、その情報は向こう側の知り得ぬ者となっていると考えるのが自然だ。
つまり私は、向こうからすれば常にピッコロの傍にいる謎の存在。
こっちからしても得体の知れないレトロヒーローと戦うのであれば、情報を最低限にするのが一番安全だろう。
「・・・・分かった。でも危なくなったら出るからね」
「あぁ。それでいい」
「お別れは済んだかい?まぁ安心してくれたまえ。眷属にもしっかり、後を追わせるさ!!!」
しっかり相手の動きを観察してろよ?と。耳元で囁かれた言葉を噛み締め、私は二人の戦いを岩山で見学することにした。
まず、レトロなヒーローの実力から。
その動きは予想の数十倍早かった。しかも攻撃も強い。一瞬で何発か食らって地面に落ちた師匠の気を観察しながら、無駄に表示される文字を苦笑しながら見つめる。――――本当にグレートサイヤマンが好きそうだ。
「何故、文字が出る・・・!?」
ターバンとマントを脱ぎ捨て、本気を出したピッコロにもまったくもって動じていない。気弾を避けるスピードも想定以上。しかも、この数回のやり取りでピッコロの癖を覚えたのか、ピッコロの近接攻撃がまったく入らなくなってしまっている。
「終わりだ」
「ッ、ピッコロ!!!」
構えられた銃から出る気を見た私は、咄嗟にピッコロの前に滑り込んだ。
そしてピッコロを庇うつもりが、すごい勢いで襟元を掴まれてその場から脱出させられる。今すぐ魔力を消せ!とテレパシーで叫ばれ、私は必死に気配と魔力を消した。
「あれぇ?眷属ごと木っ端微塵かぁ?・・・・死に顔を確認したかったなぁ」
あの状態で相手を死んだと判断するのは軽率だと、普段のピッコロなら注意するような判断だろう。それでも、敵がそうしてくれたのはありがたいとしか言いようがなく、あの後すぐに相手の後ろに回り込んでいた私達は、飛び去っていくレトロなヒーローの後ろ姿を見つめた。
「馬鹿が、不用意に飛び込んで来やがって」
「だ、だって・・・・」
「まぁいい。好都合な状態になったんだ。相手を探るぞ」
「イエッサー!」
ピッコロはいつだって冷静だ。
あのままでは勝てるかどうかも怪しかった、というのも本音だろうが、相手を知るためにわざと戦闘を切り上げたのだろう。
「戦った感想は?」
「見ての通りだ」
「・・・・思っていたより強かったよ。普通に悟空やベジータと対等に戦えそう」
「あぁ。しかも人造人間とくればエネルギー式。疲れ知らずだろう」
「永久式かどうかは怪しいけど・・・・そうじゃなくても、あの感じの強さをエネルギーが尽きるまで全力でってなると中々に厄介だね・・・・」
相手の分析をしながら少し後ろを追いかけ、敵の本拠地を探る。しばらく着いていくと、見覚えのあるレッドリボン軍のマークと共に、怪しい工場のような建物が岩肌に隠されている場所に辿り着いた。
「何だあれは・・・・」
「明らかに秘密基地って感じ・・・・」
バレないように距離を取りつつ、その基地の中に入っていく人造人間を見届ける。
その人造人間は「ガンマさん」と呼ばれ、レッドリボン軍と思われる人たちと楽しそうに挨拶を交わしていた。その飄々とした性格は、いわゆる“悪いやつ“には思えない。
「あいつはガンマ、って名前なのか」
「2ってついてるってことは1もいるのかも。潜入してみよう」
「あぁ」
基地に潜り込むために94と書かれた隊員の制服を剥ぎ取ったピッコロは、そそくさと魔術でそれに着替えた。私も誰かの服を剥ぎ取ろうか――――と考えたところで手を叩く。
そして自分に魔法をかけると、ホルスターに仕舞われた銃に変化して自分を仕舞い込んだ。
「お前・・・!?」
「この方が便利でしょ。人が多いと潜入ってのはやりづらいからね」
「便利なやつめ・・・・」
私は、こういった潜入には向かないし。
「それもそうだな」
納得されるのも癪だと思いながら、ガンマを追いかけて先へと進む。
「っ・・・・なんだ、これは」
「ほあー・・・でかい、街?すごいね。こんなの作ってたんだ」
ガンマを追いかけて入った先には、一つの大都市が広がっていた。明らかにブルマほどの技術を持っていないと出来ないことだ。その技術に驚きつつも、きちんとガンマの行方を追っていたピッコロは、ガンマが入り込んでいった部屋に小走りで潜入していった。
ピッコロの腰についているせいで見づらくはあるが、そこには見た目からして「金持ちです」という男と、科学者と思われる白衣の少年が座っていた。
そして先程ピッコロと戦ったガンマも。
「さすがだったなガンマ2号!お前の活躍は、お前の目を通してよーく見ていたよ」
白衣の男は嬉しそうにお菓子を頬張りながら、入ってきたガンマを褒め称えた。予想通り、ガンマは二人いるらしい。褒められた2号は嬉しそうに1号の方へと歩み寄ると、大げさなほど丁寧なお辞儀をしてみせた。
「ありがとうございます、ヘド博士!テストにしてはちょっとやりすぎだったかも・・・・」
「(お前の予想通りだな。もう一体いたか・・・・)」
話を聞いている感じ、白衣の男がヘドと呼ばれる科学者らしい。
そしてその隣にいる男がマゼンタ。分かりやすくマゼンタ色のスーツを身にまとい、偉そうに葉巻をふかしている。
どうやら彼らは私達を悪の組織、として攻撃しているようだった。
どうしてそうなったのかは不明だが、おそらくマゼンタが情報を捻じ曲げて伝えているのだろう。
少し聞いただけでも分かる。
ヘドはただの科学者。そしてヒーローに憧れを持つ無邪気な少年。
出資者はマゼンタで、おそらく危険な思想を持っているのはこちらの方。
そして作られたガンマ1号と2号は、性格が二分化されているらしい。
ピッコロと戦ったほうは2号。飄々とした、脳天気なヒーロー。
もう一人が1号。こちらは2号とは真逆のタイプでしっかりしているらしく、映像記録でピッコロがあの爆発から逃げ出した可能性があることも指摘していた。
「(お前はどう見る。あのヘドとかいうやつとガンマ達は、そこまで悪いようには思えんが)」
「(話の内容的にマゼンタが指揮をとって私達に何かをしようとしているのは確かだろうね。それに、話に出てきたセルマックスの話も気になる・・・・危ないことには、変わりない)」
「(あのときのセルの強化版だとすれば、かなり危険だ。起動するには時間がかかると言っていたが、される前にどうにかせねば・・・・)」
新たな人造人間。
そしてそれを造り出せる科学者が携わった、セルマックスと呼ばれる新たな存在。
無邪気な科学者を指揮しているように見えるマゼンタという男の狙い。
「(とりあえず、ブルマに連絡するか)」
状況を整理しつつ次の手を考えることにした私達は、一度その場から抜け出すことにした。
ブルマに連絡を取り、ウィスのところで修行しているらしい悟空たちを連れ戻すように依頼をした私達は、戦いに備えて仙豆を取りにカリン様のところに来ていた。
「久しぶり、カリン」
「久しぶりですな、ルシフェル様、神様。すみません、今は仙豆が2つしか・・・」
「もうルシフェルじゃないよ」
「俺もだ。もう神様ではない」
「・・・・・そうでした」
カリンから仙豆を受け取ったピッコロは、追いかけるように鳴り響いた電話を手に取った。そこに映し出された名前はブルマ。早速連絡を取ってくれたのかと応答をタップしたピッコロに、ブルマが苛立ちながら叫ぶ。
「もー!聞いてよ!何度連絡しても連絡が取れないのよぉ!」
「・・・・そうか」
「もう少し続けてみるけどさ」
「あぁ。すまない。よろしく頼む」
電話を切ったピッコロが、何か言いたげな視線を私に向けた。
「・・・・悟空とベジータ抜きではきついな。あのガンマとかいう人造人間、あいつらの実力は悟空たちにも匹敵しそうだったからな」
「なんで私の方見ながら言うの?」
「今の悟飯もあの状態だからな。17号と18号はレッドリボン軍繋がりで弱点を知られている可能性がある。魔神ブゥは休眠期だ。つまり・・・・」
「頼れるのはピッコロだけかぁ・・・・いだっ!!!」
「お前は相手に何も知られていない好都合な戦力の一人だ。逃さんぞ」
「うへぇ・・・・」
ピッコロの言う通り、今すぐに戦力となるのは私達なのだろう。
だが、気は向かない。当たり前だ。相手は人造人間。
つまりは、疲れ知らず。
エネルギーが尽きるまでフルパワーでいられる相手というのは、戦闘において厄介でしかない。しかも体力が弱点の私からすれば、最悪な敵とも言えるだろう。
とはいえ、天使化して戦うのも問題がある。
天使化には時間制限があり、しかもその状態で下界の存在の命を握ることは許されていない。修行や破壊神相手とは違い、相手を殺してしまうかもしれない状況で、殺さずに戦えというのも中々に難しい話だ。
「・・・・今のままでは俺も、お前もあいつらに勝つのは難しいだろう。何か方法は・・・・そうだ!」
「ん?どうし・・・いだだだだ!だから!首根っこ掴むなって!!!」
何かを思いついたらしいピッコロが、私の首根っこを掴んで急上昇を始めた。
向かう先は、神殿。
テレパシーでデンデと話をしているのか、ピッコロは私の文句に返事すらしない。
それでも叫び続けていると、神殿の床が見えた瞬間に放り投げられた。
重いマントに引きずられ、ほぼ土下座状態で着地した無様な私に、駆け寄る可愛い声が一つ。
「ピッコロさん!ゆえさん!」
「で、でんで・・・・」
「わ!?だ、大丈夫ですか!?今すぐ回復を・・・・!」
「いや、良い。放っておけ。それよりも頼みがある」
「頼み、ですか?」
出てきたデンデに説明もなく話を始めるのは、彼らだからこそできる技だ。
「状況は分かっているだろう?」
「はい!上から見ていました!」
「そこでだ、デンデ。以前ナメック星で、クリリンと悟飯が最長老様に潜在能力を引き出してもらっていたと聞いているんだが・・・・」
「え、えぇ。僕も見ていました」
「それを、この俺にやってくれ」
「えぇ!?僕がですか!?」
驚くデンデに、ピッコロが話を続ける。
「あぁ。お前は最長老様と同じタイプのナメック星人だ。・・・できるはずだ」
デンデは戸惑ったようにピッコロへと歩を進めると、そのまま通り過ぎて首を横に振った。
「残念ですが、あの能力はある程度の年齢にならないと出来ないんです」
「なんだと!?」
「・・・・・そうだ!ドラゴンボールの力を借りては?」
レッドリボン軍を消してくれと頼むんです!と元気に告げるデンデに、ピッコロはあからさまな表情を浮かべた。それに気づいたデンデは、ピッコロのことをよく分かっているらしい。プライドが許さない、という表情を読み取って、別な提案へと切り替える。
「そうだ!では、ドラゴンボールに潜在能力を引き出してもらうというのはどうでしょう?」
「できるのか・・・?」
「はい!アップグレードすれば!」
「す、すごいなぁ・・・・」
ようやく立ち上がることの出来た私は、会話に混ざりつつドラゴンボールのアップグレードを見守ることにした。
正直私には、この辺の知識はよく分からない。私が知っているのはスーパードラゴンボールぐらいだったから。謎の液体をかけて、アップグレードしたように見えない模型を見つめてデンデが喜ぶ様子を見守る。・・・・どうやら、これだけでアップグレード出来たらしい。
「デンデって天才なんじゃ・・・・」
「えへへ、ゆえさんに褒められるなんて、嬉しいです」
「・・・・・この純粋さをピッコロにも分けてほし」
言葉が途切れた理由は以下省略、としても分かるだろう。
真横を通り過ぎた気弾に震える私を無視して、ピッコロはもう一つの懸念点を口にする。
「・・・・アップグレード出来たのはいいが、これからドラゴンボールを集めて間に合うか?」
「それなら、ブルマさんがそろそろ集め終わると思いますよ」
なんて、ご都合主義展開。
早速もう一度ブルマに電話をかけ始めたピッコロを見ながら、私はしばらくぶりのデンデと会話を楽しむことにした。
「ねぇ、それって私もしてもらえるかな?」
「潜在能力の解放ですか?・・・・どうでしょう。前の神龍では難しかったと思いますが、悪魔状態の潜在能力の解放であれば出来るかもしれません」
神龍の力は、影響できる範囲が決まっている。
前に私の悪の力を取り除いて欲しいと願った時は、影響の範囲外だと断られてしまった。
「前の願いは、悪を取り除くことでした。それは天使の体にも影響してくる願いにもなってきます。だから不可能だったと思うんです。でも、その体の潜在能力を上げるだけであれば・・・・」
それなら、今の神龍の願いは三つ。
その二つで私とピッコロの潜在能力を上げてもらえば、何とかなるかもしれない。
「もう7個揃っているらしい。今すぐ来てくれるそうだ」
「良かった!これで何とかなりそうですね」
「・・・・まぁ、それならいいがな」
慎重で冷静なピッコロらしい反応だ。
「少しでも潜在能力をあげれるように、修行するか」
「ブルマのことだし、10分ぐらいで来ると思うよ?そんな10分ぐらいこれからの戦いに備えて休も」
―――――――言葉が途切れた理由は、以下省略。
頬をかすめる高速の気弾に再び体を震わせることになった私は、デンデの「相変わらず仲がよろしいんですね!」という言葉にがっくしと肩を落とした。
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