いらっしゃいませ!
名前変更所
月日は流れ、あれから数ヶ月。
赤ん坊だったパンが修行できるようになり、俺は早速パンの相手をするようになっていた。
戦闘が好きなタイプなのか、悟飯の時よりも前向きで覚えも早い。
それでもまだパンは子供だ。
気の調整が上手くなく、舞空術も使えない。
それでも前向きな第三弟子を鍛え続けていると、予想していなかった攻撃を繰り出したパンを無意識に叩き落していた。
「ッ、大丈夫か!」
「へーきへーき!」
「よし、今日はここまでだ」
こうしていると今までの修行を思い出す。
かなり優しめの修行ではあるが、しっかり真面目に取り組む分、癖が強かった先輩弟子達よりはだいぶマシに感じていた。
休憩に入ったパンが、嬉しそうに水を俺に手渡してくる。
礼を言いながらそれを受け取った俺は、パンの後ろに見える木陰に目を向けた。
「・・・・・」
「?ピッコロさん、どうしたの?」
「いや・・・・」
木陰で眠る、一人の悪魔。
呑気な眠りを見せつけるように力なく垂れた尻尾は、風を受けて幸せそうに揺れる。
普段なら微笑ましく近づき、その頬を撫でるぐらいはしただろう。
―――――だが。
今は修行中だ。
パンとの手合わせをしていたが、サボって良いわけではない。
命じていた瞑想を居眠りに変えたゆえを指差し、パンに内緒話をする。
「おい、パン」
「うん?」
「おまけの修行だ。気をなるべく抑えて、あいつに一発入れてこい」
「え、い、いいの?」
「あぁ。できる限り思いっきりだ。言っただろう?あいつは昔、お前が赤ん坊の頃、外で昼寝をして敵に捕まったことがあると」
「これもお姉ちゃんへの修行ってこと?分かった!」
素直なパンは、まだ慣れていないであろう気の制御をしつつそーっとゆえに近づいていった。気は完全に抑えきれていないが、気配は上手く隠せている。足音も。
「にひひ」
楽しそうに笑うパンは、完全にいたずらっ子だ。
パンが目の前に立っても、木にもたれ掛かった悪魔は一切目を覚まさない。
俺と目を合わせたパンが、ぐっと拳を構える。それを見た俺は、もう一度頷いて合図をした。
「てーいッ!」
「がはっ!!!??」
ここで反応できれば百点。
出来なければ、マイナス百点。
「あぐっ、ふ、パンちゃん中々に良いパンチ撃つように、なったね・・・・・」
「へへーん!」
「ゆえ、貴様な・・・・」
「じゃあ私、幼稚園行ってくる!」
「あぁ。気をつけてな」
「あ、あはは、いや、その、えっと、いや・・・・・行ってらっしゃい・・・・」
見事マイナス百点を叩き出した馬鹿弟子は、走り去っていったパンの土煙の中で目をきょろきょろと泳がせている。
「ゆえ」
「は、はい」
「俺は瞑想してろ、といったよな?」
「そ、そうですね・・・・」
「寝てただろ。しかもまた警戒も、防御策も何もしてなかったな!?」
「だってピッコロもパンもいたし・・・・」
「そういう油断がよくないと言っているんだ!!貴様はもう一度鍛え直してやるッ!立て。今すぐ構えろッ!!!」
「ッ~~~!!!!!」
一瞬で打ち込んだ気弾を何とか右腕で弾いたゆえは、慌ててその場から飛び退いた。そんな生ぬるい回避で俺から逃げられると思うなと、一瞬で距離を詰めて打ち合いを始める。
あれから経った年月は、すっかり師弟の関係を逆転させた。
当たり前と言えば当たり前だ。
元から戦術以外は俺の上を言っていた存在が、ブランクと俺との修行差で一時的に差が開いただけに過ぎない。
それでもまだ、ゆえは俺を師匠として慕う。
「よっと・・・!」
「フン。段々と目で見なくとも動けるようになっているようだな」
「そりゃ元々は出来てたわけですからっ、ね!」
「ならさっさと食らわせに来いッ!!!」
ゆえの表情が、一瞬で引き締まった。
本気を出せば俺なんてすぐに越えていく。分かっているからこそ、この立場を辞めるつもりはない。こいつがいれば、俺はいつまでも成長できる。常に極限状態の勝負を行うことが出来、高め合うことができる。
「ッ、く!」
追いきれないスピードで打ち込まれた蹴りを肘で受け止め、体勢を整える。距離を取るために気弾をゆえの周りに浮かべれば、見覚えがあると言わんばかりの表情で笑われた。
「出た出た、お得意の魔空包囲弾」
「逃げ場はないぞ!」
「でもこんな力じゃ私に通用しないけど?」
「まぁ、そうだろうなッ・・・!」
「っ・・・!?」
すっかり包囲弾を防御するつもりだったゆえに飛びかかり、打ち合いの第二ラウンドを始める。気弾によって動きを制限され、気を追いづらくなったゆえの動きが明らかに鈍っていく。
「ぶっ、ぐ」
「どうした?動きが鈍っているぞ!」
「ちょっと、これ、邪魔くさいんだけどぉ!?」
「戦術がまだまだだな。・・・そらっ!!」
「あぐっ!?」
戦っている最中に不規則に襲う気弾を食らい、ゆえの体勢が大きく崩れた。そこを狙って魔貫光殺砲を撃ち出せば、防御するしかなくなったゆえが苦しそうな声を上げる。
「ッ・・・・!」
力の差はあれど、貫通能力に特化した気弾は並大抵のことでは防げない。
「しまっ、た・・・・!」
体勢が甘く、上手く防御出来なかったゆえの肩を貫く魔貫光殺砲を見届け、落ちていくゆえを見下ろす。あんなことで、やられるように鍛えてはいない。おそらく“やられたふり“だろう。
「・・・・のってやるか」
ゆえの作戦にのったふりをし、トドメをさす構えで落ちていくゆえを追いかける。
(本当に、この分かりやすい魔力と顔がなければ上出来なんだがな・・・・)
追いかけてくるピッコロを見て、ゆえの魔力が上昇した。明らかに次の作戦への移行を告げる動きだ。しかも、その顔は「引っかかったなこいつ」というニヤケ顔に染まっている。
「・・・・・食らえッ!!爆力魔波!!!!」
地面ぎりぎりで体勢を整えて撃ち出した技は、予想通り。
俺はすぐに溜めておいた気でそれを弾き飛ばし、得意げになっているゆえの腹部に強烈な一撃を入れた。
「がっ・・・・ふ!え、えぇ・・・、なんで、少しは、動揺とか・・・うぐ・・・・」
「お前はその分かりやすい顔と魔力をどうにかしろ」
「うう・・・・・」
「・・・・ん?」
ゆえのうめき声に重なって響く、間抜けな呼び出し音。
家から聞こえるそれに俺はゆえを放置し、家に向かった。
「どうした?ビーデル」
「あ!ピッコロさん!こんにちは!」
耳が良いナメック星人にとって、“携帯“を携帯する意味はない。机の上に放置しておいたそれをつまみ上げて電話に出ると、ビーデルが大きな声で挨拶をしてきた。そして流れるように聞かれる、午後の予定。―――――嫌な予感はするが、嘘を吐くほどの用事もない。
「午後の予定か?いつも通り、ゆえと修行だが・・・・」
「実は今日、教えている格闘技教室の試合があって、パンのお迎えに間に合いそうにないの。それでもしよかったらピッコロさんに迎えにいってもらえないかなって・・・」
先程別れたばかりの第三弟子を思い出しつつ、俺は疑問を口にする。
「悟飯はどうした?」
「それが今度発表する研究レポート作りで忙しいって、何日も部屋にこもってるのよ」
「・・・・あの馬鹿。分かった」
「ありがとうー!!今度美味しいお土産買っていくわね!」
「俺は水しか飲まんと言っているだろう!」
「あ、そうだったわね。それじゃあまた今度ぬいぐるみでも!」
こちらの返事を待たずして切られた電話に、椅子を支配する人形軍団を睨みつける。悟飯達のお願いとやらを聞けば聞くほど、何故か送られてくる人形は、2階だけでなく1階にまで侵食し始めていた。
ゆえは「可愛いからいいじゃん」と褒めていたが、人形の何が良いのかは俺には分からないままだ。
「何故、ぬいぐるみなんだ・・・・」
「ピッコロ、何だった?ビーデル?」
「あぁ。パンの迎えに行ってほしいんだと」
「?悟飯じゃだめなの?」
「それを説教しにいくところだ。お前も来るか?」
「うん!」
辿り着いた悟飯の家で、チャイムを鳴らす意味がないことは俺がよく知っている。
玄関などには目もくれず、奥の部屋が見える場所へ進むと、予想通り部屋にこもった悟飯の背中が見えた。すぐに気付くように窓をひっかき、人間には不快と言われている音で悟飯に合図をする。
「いいぃい・・・・その音やめて・・・・」
隣の二次被害を見下ろしながら待てば、すぐに内側から悟飯が顔を出した。
「ピッコロさん!ゆえさん!すみません・・・パンのこと、頼んじゃって」
「ふざけるな!貴様何をやっているんだ!!」
「虫のレポートを・・・・」
それから嬉々としてパソコンを取りに行き、虫のことについて語りだした悟飯に苛立ちが加速していくのを感じた。珍しい虫だの、危険を察知すると金色に輝くなど、どうでもいい。
「ほえー、ほんとだ。サイヤ人みたい」
「でしょでしょ!?」
「ゆえ、お前は何納得してるんだ!」
「えー?」
「そういう問題じゃないだろう!俺が聞きたいのは!子供の迎えに行けないほど、研究が!大事かと聞いているんだッ!!!」
怒声にぴくりと肩を震わせた悟飯が、パソコンを閉じながら苦笑いを浮かべる。
「あ、い、いえ・・・・でも。ピッコロさんが行ってくれるんでしょ?」
「チッ・・・・大体、お前少しはトレーニングしたらどうなんだ?いつ危険が迫ってくるかも分からないんだぞ!」
「そうだそうだー。アンタのせいで私のトレーニング倍になってんだぞー」
ゆえの野次をひと睨みして黙らせると、悟飯は更に苛立つ答えを返してきた。
「えぇー?そんなことありますかね?それにそんなことあっても、お父さんやベジータさんが・・・・」
―――――一瞬。
窓から踏み込んだ俺は、悟飯の右を狙って肘を突き出した。
さすがの悟飯でもそのぐらいは察知出来たのか、空いていたほうの手で俺の攻撃を受け止めて笑う。
あぁ、やはり。
こいつはゆえに似ている。
「へへッ。まだまだ鈍っちゃいませ・・・・んっ!?」
「うわ、いた、そー・・・・」
油断した隙にもう一発。腹に入れた後、蹲る悟飯の服を懐かしい魔族服に変えてやった。もちろん、トレーニング用のマントも添えて。
「どうだ?懐かしい格好だろう?」
「お、重ッ・・・・!これじゃあ、仕事しづらいですよ・・・!」
「うるさい。文句を言うな。パンの迎えには行ってやる・・・それまでは修行に戻るぞ、ゆえ」
「えー!?」
「・・・・・ふむ」
唇を尖らせるゆえに手を翳し、悟飯とまったく同じ格好にしてやると、ゆえの体が面白いほどに前のめりになっていった。
「ちょ、え、おも、重い・・・・!」
「懐かしいだろう?お前もお揃いだ」
「まさかこれで動けっていってる・・・・?」
「こいつがトレーニングをサボっている分、危険が迫った時はお前が必要になるんだ。怠けれると思うなよ?」
「とばっちりーーー!!!!」
「す、すみませんゆえさん・・・・また今度お人形送るので・・・・」
「「そんなもんはいらん!!!!」」
意見が合致したゆえと同じ叫びを上げ、俺たちは一度修行場に戻ることにした。
戻る最中も重い重いとうるさかったが、完全無視を決め込んで飛び続ける。先ほどの言葉の通り、地球の戦力として数えるべき存在としてゆえは鍛え続けなければいけない。悟飯よりは戦闘好きであり、天使化もできるゆえは貴重な存在だ。
そして何よりも、悪魔としての状態で力を最大限に扱うには、まだまだ修行が必要になる。ゆえの力の源は強大な“悪“。それを抑え込めるだけの精神力と力はいつになっても必要だろう。
「つ、疲れた・・・・」
「おい、ここから修行の続きだぞ」
「ま、まって、1分休憩したい・・・・」
「お前な・・・・たったそれだけの重さと舞空術で根を上げるなんざ、体力が無さすぎる!」
「だってぇ・・・」
いつも通り、家が見える岩山で修行を再開しようとぐずるゆえを突き落とす。
「ぎゃーー!!!!」
「行くぞ!!!」
「え、ちょっとまって、立て直せなっ、いっ!」
まさかそのまま沈むとは思っていなかった俺は、岩山に墜落したゆえに呆れた視線を向けた。
「お前な・・・・」
「だってこれ、昔より、重いでしょ・・・!?」
「当たり前だろ。昔より成長してるんだ。俺のも、今の限界に合わせた重さにカスタマイズされている」
「これ限界オーバーしてると思います!あ、ちょ、踏まないで!更に起き上がれなくなる!」
「さっさと起き上がれ」
「頭踏みながら言うなーーー!!!!」
頭を踏みつけ、ジタバタと暴れるゆえを見下ろす。
そこまで重くしたつもりはないが、元々の体の力が弱いゆえにはそれなりに堪えるらしい。
「起き上がれたら残りの修行をつけてやる」
「え、じゃあ起きれないが良いんじゃ・・・?」
「ほう」
「あだだだだ沈む!!!分かった!分かったからッ!!!」
「・・・・ん?」
ゆえをいじめていると、遠くから謎の気弾が向かってくるのが見えた。
簡単に弾き飛ばせそうなものではあったが、それを撃ち出した正体は見えない。得体の知れないものに触るもんじゃないとさっさと避けることにした俺の下で、それに気づいたゆえが叫ぶ。
「ぎゃーーーーー!!!!!!」
上がった土埃と、姿を表した正体と。
それからボロボロになったゆえが立ち上がったところで、新しい物語の始まる音が響いた。
PR
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)