いらっしゃいませ!
名前変更所
悟飯達が住む場所より少し離れた池の畔。
そこに、俺たちの新しい家がある。
ひと目見て「ナメクジみたい」と言われたその家の見た目には満足しているが、正直、あってもなくても同じものだ。家で暮らすことなどほとんどなかったのだから、ある意味もさほど感じない。
では何故、そんなものを用意したのか。
それはゆえのためだった。
「ふぁー、おはよー」
「遅い。修行の時間だ」
「えぇ~?まだちょっと頭痛いから休憩を・・・・ッ!?あぶな!?ちょっと!無言で気弾打ち込むな!!!」
“せめてふかふかのベッドは欲しい“
その願いを聞いた結果がナメクジと言われた家だった。
「フン。大体お前が近づく気にも気づかず呑気に寝てるからこうなったんだろうが!」
「なんも言えない!!!心まで痛いよ!!!」
あの後無事に天使化を遂げたゆえは、すぐに我を取り戻してティアラをむしり取ることに成功した。とはいえ長く寄生されていた影響もあり、調子を取り戻せなかったゆえはここしばらく修行を休んでいた。
頭に残った痛々しい傷跡は、戒めとして残しているらしい。
それも後少しで完治というところで、頭痛の種となるであろう小言を挟んでやれば、ゆえはジタバタと駄々をこねるように暴れ出した。
「まさかお昼寝してたら宇宙に拉致られるなんて思わないじゃんー!!??」
「だから気を抜きすぎだと言っているのだ」
「寝てるのにどうしろってんだよ・・・・」
「寝てても気をはれ」
「無茶言わないで。アンタ元は寝る必要もないから言ってるだろ!」
「・・・・お前、俺が寝てる時に何か出来たことがあるか?」
「うぐ・・・・ない」
基本的にはゆえと同じ生活サイクルを送るようにしているため、最近では普通に眠ることも多い。確かに神殿という安全区域での睡眠が多かったが、それでもゆえに悪戯される時には基本的に目を覚ましている。
「修行しなおすぞ」
「ぶー」
「なるほど。最初から全力がお好みか」
「え、待っ・・・!」
文句ばかり垂れるゆえに拳を構えれば、分かりやすく動揺したゆえがすぐに戦闘態勢へと入った。
打ち付ける拳も、撃ち込む気弾も容赦はしない。
何度も言うが、ああなったのはこいつの油断だ。もちろん悪いことを考えたフリーザ軍も問題だが、全ては油断が引き起こした馬鹿な出来事に過ぎない。
寝てる時に連れ去られるだけでなく、相手の奴らに好き勝手にいじられ、洗脳されて。フリーザに様なんかつけやがって、気色悪い。
「ふ、不機嫌全力で来ないでよ、怖いって・・・・!」
「うるさい。さっさと集中しろ!」
「まだ本調子じゃ・・・くっ、このっ!!」
早速殴り合いに発展した俺たちは、家に被害がでない距離を保ちつつ拳を打ち合った。
「それで?フリーザ軍に居た時はどうだった?」
「わざとなの?なんで傷えぐるの!?」
「なんのことだ?」
「とぼけるなよぉ!」
「ハッ。一応気にしてるのか?」
「気にしてるに決まってるよ!だって皆に迷惑掛けたし、ピッコロにも色々・・・・」
そっと目を逸らした瞬間、軽い気弾を打ち出す。それでも油断はしていないらしく、打ち出した気弾は一瞬で彼方へと弾き飛ばされた。
「まぁ、俺は良いこともあったからな。もう気にしてはいない」
「・・・・?いいこと?」
「あぁ」
一瞬で距離を詰め、耳元で囁く。
「お前がどうやっても俺から離れられないというのが、よーーく分かったからなぁ?」
「なっ・・・・」
気弾によって言い返そうとする口を塞げば、ゆえの表情が怒りに染まった。ようやくスイッチが入ったのか、ゆえはサイヤ人にも負けない戦闘狂の顔で微笑む。
「調子のんなよクソピッコロ!」
「・・・・フン。散々お前の癖を見てきたんだ。お前のほうが力が上でも、しばらくは戦術で俺が有利だろうな」
「ずるいぞー!!」
「ずるい?違うな。お前が自分の弱点に気付くチャンスを与えてやってるんだ」
「くっそう・・・!分かった分かった!」
両手を上げ、距離を取りながら降参のポーズを取ったゆえは、次にピッコロと同じ構えを取った。
「一発ぶん殴るッ!!!!!!」
取った分の距離を一気に詰め、拳を突き出してくる一撃。それもよくゆえがやる戦法の一つだ。見慣れた戦法ではたとえスピードに体が追いついていなくとも、ある程度の予想を立てて防ぐ事ができる。
「ッ・・・ぐ・・・!」
「当たらんな?」
「がはっ!」
そして再び予測で一撃。
防御されれば裏に回って攻撃を仕掛けたがるゆえの癖を取って先置きした拳が、ゆえの顔面を見事に捉えた。
「いっ~~~!!顔!!乙女の!顔だよ!!!」
「そこに現れるお前が悪い」
「ぐうう・・・・!」
やはり戦闘というのは力だけでは埋めれないものがある。
師匠というのも名ばかりになり始めていた頃とは違い、半年間の修行はゆえとの差を確実に広げていた。
それは力の差ではない。
戦術の、差。
半年も毎日のようにゆえの魂と戦い続けたおかげで、普段のゆえの行動に加えてゆえが考えそうなことも全て手に取るように分かるようになった。
「顔面に一発入れる・・・・!」
「さっさと来い」
「うるせーやい!!!!」
一気に距離を詰めてくるゆえに、わざと行動しないことを選択する。
まさか反応しないとは思っていなかったのか、明らかに動揺したゆえが定まりのない拳を打ち付けた。そのたった一ミリの動揺と甘さが、格下に負ける原因を作る。
「ッ、あ!?」
「一瞬動揺したな?お前はこう動くはず、で予想しすぎだ。予想するのであれば色んなパターンを予想し、それが外れた場合の動きぐらい想定していろ!大体、何度も言ったはずだ。目で見るな、感じて動け」
「・・・・天使化してれば楽なことも、この体だとなんだかうまく出来ないんだよねぇ」
「言い訳するな」
「さーせんでしたぁ」
ふてくされた表情でも、秘めた殺気は隠せない。
「その切り替えは褒めてやる」
「チッ・・・・!」
話の最中に再度飛び込んできたゆえの拳を受け止め、首元を狙って手刀を撃ち込む。
「その手には乗らないッ・・・!」
「ほう。防げなければ今頃地面の仲間入りだったな」
「殺す気じゃん!?」
半年会えなかった時間は、これ以上にないほど長く感じた。
俺以外のやつに好き勝手されたことも。
半年も会えない空間に連れ去られたことも。
魔族である俺にこんな感情を植え付けておきながら、へらへらしやがって。
その全ての苛立ちを拳に込め、ゆえの反撃に余裕の笑みを返す。
「この修行はお前のためだ」
「・・・・分かってるよう・・・・」
「反省しているならさっさと俺を越えて見せろ」
「ご褒美あるなら頑張れます、ししょー」
「・・・・・はぁ?」
「たとえば一時間で顔面に一発入れたら一時間私に付き合ってくれる、とかさー」
「ほう。そんなことでいいのか?」
俺の返しにゆえの瞳が分かりやすく輝いた。
果たして、気づいているのだろうか。
その条件は「顔面に入れる」というのが条件になっているが故に、普通に一撃を入れるよりも難しい条件となっていることに。
「それならいいぞ、付き合ってやる。顔面に一発、だからな」
「ほんと!?よっしゃ。やる気出た!!」
「それなら、逆もありとさせてもらうぞ。俺がお前の顔面に一発入れたら、入れた分だけの時間お前を好きなようにさせてもらう」
「・・・・・それってあんまりいつもと変わらなくない?いつも私のこと好き勝手してると思うんですけ・・・・どぉ!?」
「チッ」
会話の最中にねじ込んだ一撃は、ゆえの足蹴りによって遮られた。
わざとらしく舌打ちすれば、すごい表情を浮かべたゆえがぱくぱくと口を開く。
「ちょ、ちょっと、今、本気で顔面に・・・・」
「そういう勝負なのだろう?」
「い、いや、ほら、私一応乙女・・・・」
「行くぞ?」
「いや、だから私一応・・・・」
「行くぞ?」
「あ、躊躇無いやつ・・・・!この、鬼~~~!!!!!」
隠しようのない鼻血を拭って、ゆえが荒い息を吐きながら膝を折った。
今日はこのぐらいにするか、と。沈み始めた日を見ながら足を止め、修行の終わりを告げたところでゆえの視線が鋭いものへと変わる。
「よし、今日はこの辺でいいだろう」
「もう少し・・・・言うこと無い?」
「ん?・・・・あぁ。合計ゆえが一発、俺が五発。相殺して俺が四時間お前を好きにできるってことでいいな?」
「ほんっと魔族だよねぇ!?」
「何を今更」
顔は大丈夫か?なんて言ってやる必要もない。
五発分入れられた顔は傷だらけだったが、そんなもので泣いたり喚いたりするようなやつじゃないことは俺がよく知っている。
「なんで全部鼻狙うわけ?鼻血止まらないんだけど?てか鼻無くなってそうなんだけど!」
「無くなったらデンデに戻してもらえ」
「もうデンデ前提なのが怖すぎるんだってば・・・」
魔法で少しずつ鼻を回復したゆえは、近づいてきた俺に手を差し出した。
「疲れたー」
「知らん」
「えー、厳しい」
「お前も基本的には悟飯と同じだ。力があるのにも関わらず戦いの勘を忘れて活かしきれなくなるタイプだな。だからブランクをあけぬよう毎日修行してやっていたというのに」
「・・・・・絶対アンタが修行したいだけ・・・・んぶっ!?」
「もう一発いるか?」
「入れてから・・・言うな・・・ッ!」
治ったばかりの鼻にもう一撃入れた瞬間、ゆえはその場に倒れ込んだ。
「家連れてってー」
「・・・・・ったく」
寝転がったゆえの腰を蹴り上げ、悲鳴と共に浮き上がった体をキャッチする。
「ぐふ、ぇ、運び方・・・ッ」
「運んでもらっておいてその言い草はなんだ?」
「ありがとーございますぅ」
家の中に投げ捨てると、綺麗に受け身を取ったゆえが人形専用になりつつある椅子に腰掛けた。もう一度鏡を召喚し、最後に殴られた鼻を治してからこちらを見上げる。
「ん」
「ん?」
「・・・・す、好きにするんじゃなかったの?」
今までの言い合いとは違い、甘えた声と瞳を向けるゆえは、俺の“好きにする“という意味を完全にそういう解釈として取っているようだ。間違っちゃいないが、こうも潔く降参されるといじめたくなるのは魔族の血か。
「ほう?俺は別にそういうことをするとは言ってないが?」
「ッ・・・・・」
「お前が望むならしょうがないな」
「う、いや、たんま!ち、違うならしない!わ、ちょっ、バカ・・・・!」
抱えて二階に上がり、もう一度ゆえを放り投げる。
自らが望んだふかふかのベッドに着地したゆえは、真っ赤になって布団に潜った。
「さ、最近毎日してるからいい」
「好きにされたいんだろ?」
「違います。ピッコロがそういうこと言うからてっきり望んでるのかと思っただけで・・・!」
「フッ・・・・諦めろ」
ベッドに腰掛け、布団を魔術で消し飛ばす。
中に入っていたゆえは真っ赤な顔でこちらを睨みつけると、精一杯の抵抗か俺の腰を足蹴りしはじめた。
「大体ベッド1個しかないから毎日襲われるしかないじゃん!」
「それはそうだろ。俺には本来ベッドは必要ない」
「いやもう今は必要じゃない・・・?」
「だからここに用意してある」
「通じないこいつ!!」
「ハッ。本当に嫌なのか?嫌なら外で夜明けを待つまでだが・・・・どうする?」
答えなんて、いらない。
心の中を覗けば、それは寂しいだのとワガママな声が聞こえる。
「・・・・・っ」
「どうする?」
「・・・・一人は、寂しいから・・・・」
「ほう?」
「い、一緒に、寝てあげても・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・一緒に、寝よ?」
圧に負けたのか、言い直したゆえが素直に服を引っ張った。
あぁ、本当に。こいつは煽ってくれる。煽られるがままベッドへ押し倒し、ゆえの服に手を掛けた。顔を真っ赤に染めながらも、抵抗の見えないその様子に更に煽られる。
「煽ったのはお前だぞ」
「・・・・ん」
「覚悟は、いいな?」
「き、気絶したらさすがに寝かせてね・・・?」
「仙豆で起こしてやるから安心しろ」
「っ!?うわ!だめ!やっぱり待っ―――――!」
この叫びこそ、平和への入り口。
――――――と思う俺も、中々にもうこの甘い日々を手放せそうにない。
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